第1章 音韻

1.1 概観

高原語には子音が20、母音が6つあります。母音にはそれぞれ長短の区別があり、ほかに二重母音が6つあります。強勢は語ごとに位置の決まった自由強勢で、強勢の位置だけで意味の変わる語の対があります。

響きの上では、次のような音が多く使われます。

全体として「息の流れる」やわらかな響きになります。高原の人々は息を軽いもの、上へ昇るものと考えており、この響きはその考えとも合っています。

1.2 転写の約束

この本では、高原語をラテン文字で転写して示します。高原の文字での綴りは〈 〉に入れて区別します(→ 第2章)。

項目 書き方 例
歯摩擦音 /θ/ þ þrén「段」、sénþar「百」
後部歯茎摩擦音 /ʃ/ š šául「ふくろう」、šéna「しるし」
硬口蓋鼻音 /ɲ/ ñ añél「蜜蜂」、viríña「小句」
硬口蓋接近音 /j/ y yéda「雪」
前舌円唇狭母音 /y/ ü dǘn「丘々」
長母音 同じ母音字を二つ重ねる slúun「千」
強勢 強勢のある母音に ´ áura「昇る」、aurá「縁鷲」

1.3 子音

1.3.1 子音の表

子音は次の20です。

両唇 唇歯 歯 歯茎 後部歯茎 硬口蓋 軟口蓋 声門
破裂音(無声) p t k
破裂音(有声) b d g
鼻音 m n ñ
摩擦音(無声) f þ s š h
摩擦音(有声) v z
流音 l, r
半母音 w y

[ŋ] は k・g の前に立つ n の発音で、独立した音素ではありません(→ 1.7)。

1.3.2 子音ごとの説明

右の欄には、日本語話者の耳にどう聞こえやすいかを添えました。

音素 転写 説明 日本語話者の聞こえ方
/p/ p 無声両唇破裂音。息の弱い無気音 パ行。日本語よりも息が弱いので、柔らかいパに聞こえる。語頭では「バ」に寄って聞こえることもある
/b/ b 有声両唇破裂音 バ行。聞き取りやすいが、v と区別しにくく、どちらもバ行に聞こえる
/t/ t 無声歯茎破裂音。無気音 タ行。ti は「ティ」だが「チ」と聞きやすく、tu は「トゥ」だが「ツ」と聞きやすい。tr は「トゥル」と母音を挟んで聞こえる
/d/ d 有声歯茎破裂音 ダ行。di は「ディ」だが「ジ」と、du は「ドゥ」だが「ズ」と聞きやすい(dúlo「下りる」が「ズーロ」)
/k/ k 無声軟口蓋破裂音。無気音 カ行。聞き取りやすい。kr・kl は「クル」と聞こえる
/g/ g 有声軟口蓋破裂音。崖道の言葉では母音のあいだで摩擦音 [ɣ] にゆるむ ガ行。ng[ŋg]は「ンガ」に聞こえる。崖道の言葉の弱い [ɣ] は「ハ」や「ア」に聞こえ、ほとんど消えて聞こえることもある
/m/ m 両唇鼻音 マ行。語末の m は「ン」に聞こえ、n と区別しにくい(lísim が「リシン」)
/n/ n 歯茎鼻音。k・g の前では [ŋ] ナ行。語末では「ン」に聞こえる。nd・ng は「ンダ」「ンガ」で、日本語の撥音と同じ感覚で聞き取れる
/ɲ/ ñ 硬口蓋鼻音 ニャ行(ニャ・ニュ・ニョ)。日本語のニャとほぼ同じ。ただし ñ と「n+i+母音」(ニア・ニオ)は聞き分けにくい
/f/ f 無声唇歯摩擦音。上の歯を下唇に当てる 「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」。fu と hu はどちらも「フ」に聞こえて区別しにくい
/v/ v 有声唇歯摩擦音 「ヴァ」行だが、ふつうはバ行に聞こえる(virá「言葉」が「ビラー」)
/θ/ þ 無声歯摩擦音。舌先を歯に当てて息を出す(英語 think の th) 「ス」か「ツ」、または「ト」に聞こえる。þrén「段」が「スレン」や「トレン」に、sénþar「百」が「センサル」に聞こえる。s と区別しにくい
/s/ s 無声歯茎摩擦音。i の前でもシにならない サ行。si は「スィ」だが「シ」と聞きやすく、š とまぎれる。sl・sn は「スル」「スヌ」と聞こえる(slúun が「スルーン」)
/z/ z 有声歯茎摩擦音。数の少ない音素 ザ行。zi は「ジ」と聞こえ、zu は「ズ」と聞こえて du とまぎれる
/ʃ/ š 無声後部歯茎摩擦音 シャ行(シャ・シ・シュ・シェ・ショ)。日本語とほぼ同じ。si とまぎれやすい
/h/ h 無声声門摩擦音。i・y の前では [ç]、母音のあいだでは弱く有声化する。音節の頭にだけ立つ ハ行。hi は「ヒ」。hu は「フ」に聞こえて f と区別しにくい。母音のあいだの h は弱いので、聞き落としやすい
/l/ l 歯茎側面接近音。いつも明るい l ラ行。r と区別しにくい。語末の l は「ル」と母音を足して聞こえる
/r/ r 歯茎弾き音 [ɾ]。宮廷語では語頭と子音のつながりの中でふるえ音 [r] になる ラ行。弾き音は日本語のラにそっくり。宮廷の巻き舌の r は「ルルッ」と聞こえ、改まった、芝居がかった響きに感じられる。l とは区別しにくい
/j/ y 硬口蓋接近音。i の前には立たない ヤ行。聞き取りやすい
/w/ w 両唇軟口蓋接近音。u・o・ü の前には立たない ワ行。wi・we は「ウィ」「ウェ」と聞こえる。v と取り違えることがある

1.3.3 子音の分布

1.4 母音

1.4.1 母音の表

母音は次の6つです。

前・非円唇 前・円唇 後・円唇
狭 i ü u
中 e o
広 a

1.4.2 長母音

6つの母音それぞれに長短の区別があります(短い a/長い aa など)。長母音は短母音のおよそ二倍の長さです。

短母音 a e i o u ü
長母音 aa ee ii oo uu üü

長母音の例:slúun「千」、brúum-「落ちる」、lúum-「ご覧になる」。完了相では、語根の e が長くなって ee、o が oo になります(kél- → kéel-「伐り終えた」、þór- → þóor-。→ 第5章)。

1.4.3 二重母音

二重母音は次の6つです。

ai au ei oi ou eu

1.4.4 母音ごとの説明

音素 転写 説明 日本語話者の聞こえ方
/a/ a 非円唇広母音。長母音 aa もある 「ア」。長い aa は「アー」。強勢のある短い á も、長く「アー」と聞こえがち
/e/ e 非円唇前舌中母音。子音で終わる音節では [ɛ] 「エ」。二重母音 ei は「エー」と聞こえ、長母音 ee と区別しにくい
/i/ i 非円唇前舌狭母音。長母音 ii もある 「イ」。ü とまぎれることがある
/o/ o 円唇後舌中母音。子音で終わる音節では [ɔ] 「オ」。二重母音 ou は「オー」と聞こえ、長母音 oo と区別しにくい
/u/ u 円唇後舌狭母音。日本語のウより唇をはっきり丸める 「ウ」だが、唇がとがって「ウォ」に近く聞こえることもある。du・tu・su では子音のほうがズ・ツ・スに聞こえる
/y/ ü 円唇前舌狭母音。イの舌の位置で唇を丸める 日本語にない音。「ユ」か「イ」か「ウ」のどれかに聞こえる。dǘn「丘々」は「デュン」か「ディン」に、mǘn「石々」は「ミュン」に聞こえる。dún「丘」と dǘn「丘々」は最初は区別しにくい

1.4.5 ü の由来

ü は古高原語にはなかった母音です。古高原語の *u が、後ろの i に引かれて ü になりました(ウムラウト)。同じころ *o も ö になり、のちに ü に合流しました。この変化は約九百〜七百年前に起こりました(→ 1.9.1)。

その名残で、語根の母音を変えて複数を作る名詞が少数あります(→ 1.8.7、第3章)。

単数 複数
dún「丘」 dǘn「丘々」
món「石」 mǘn「石々」
kúr「谷」 kǘr「谷々」
búl「根」 bǘl「根々」

1.5 音節構造

1.5.1 基本の形

音節の基本の形は (C)(C)V(V)(C) です。

1.5.2 音節頭

音節頭には、子音が一つ立つか、何も立ちません。子音が二つ並ぶのは次の組み合わせだけです。

種類 組み合わせ
子音+流音 pl pr bl br tr dr kl kr gl gr fl fr vr þr
s+鳴音 sl sn

tl・dl・vl・þl・šr などの組み合わせはありません。

1.5.3 音節核

音節核は、短母音・長母音・二重母音のどれかです。

1.5.4 音節末

1.5.5 語中の子音のつながり

語の中の子音のつながりは、「音節末の子音+次の音節頭の子音」でできます。とくに好まれるのが mb・nd・ng[ŋg]です(tam-bór, gan-dér, dáum-bar)。

1.5.6 音節の要素の一覧

位置 立つもの
音節頭 ∅, p, b, t, d, k, g, m, n, ñ, f, v, þ, s, z, š, h, l, r, y, w, pl, pr, bl, br, tr, dr, kl, kr, gl, gr, fl, fr, vr, þr, sl, sn
音節核 a, e, i, o, u, ü, aa, ee, ii, oo, uu, üü, ai, au, ei, oi, ou, eu
音節末 ∅, n, m, l, r, s(語末ではほかに ls, rs, ns)

1.6 強勢

1.6.1 自由強勢

強勢は自由強勢です。強勢の位置は語ごとに決まっていて、位置だけで意味の変わる対があります。

語 意味 語 意味
áura 昇る(3人称単数・軽性) aurá 縁鷲
lísau 二人が書く(直説法・双数) lisáu 二人で書け(命令法・双数)
lísim 私が書く lisím 書法

aurá「縁鷲」はもともと「昇るもの」という意味で、áur-「昇る」に強勢をもつ派生接辞 -á がついた語です(→ 第9章)。

1.6.2 強勢の実現と副強勢

1.6.3 強勢をもたない語

次の語と接頭辞は強勢をもたず、弱く発音されて次の語に寄りかかります。

種類 語
前置詞 an・du・or・vel・es
小辞 na(否定)、te(関係節)、si(「と」)
接頭辞 au-(尊敬)・du-(謙譲)・na-(分詞の否定)

1.6.4 接辞と強勢

一語に主強勢は一つだけです。次の強勢をもつ接辞がつくと、語根の強勢は消えます。

種類 接辞 例
法 -él-・-énd-・-és-・-ír-、命令法双数 -áu lísa → liséla「書くだろう」、lisénde、lisáu
派生 -ár・-á・-ó・-ím・-íña/-íño・-ándo・-ér- lisár「書記」、virá、duló「滝」、lisím、viríña、senándo、monér-

活用と派生のくわしい形は第5章と第9章で扱います。

1.6.5 音節の重さと詩の韻律

詩の韻律については第10章でも扱います。

1.7 異音

音素 異音と条件
p t k 息をほとんど伴わない無気音。日本語よりもさらに息が弱く、澄んで聞こえる
b d g はっきり有声。崖道の言葉では、母音にはさまれた g が摩擦音 [ɣ] にゆるむことがある
n k・g の前では [ŋ](ng = [ŋg]、nk = [ŋk])。p・b・f・v の前では [m](→ 1.8.3)
r ふつうは日本語のラ行に近い弾き音 [ɾ]。宮廷語では、語頭と tr・þr・dr のような子音のつながりの中で、舌を震わせるふるえ音 [r] になる
l いつも明るい [l]。英語の語末の暗い l にはならない
h i・y の前では [ç](日本語のヒの子音)。母音のあいだでは軽く有声化して [ɦ]
s・z 歯茎の音。i の前でもシ[ʃi]にはならない
e・o 子音で終わる音節では、やや口の開いた [ɛ]・[ɔ]
強勢のない短母音 くだけた話し方では少しあいまいに緩むが、はっきりしたあいまい母音にはならない

1.8 形態音韻規則

語が活用・派生するときに起こる音の規則をまとめます。それぞれの語形の全体は、名詞は第3章、動詞は第5章、語形成は第9章で扱います。強勢の規則は 1.6.4 で述べました。

1.8.1 重性の o → u

重性名詞と、重性に一致する形容詞・分詞の複数語尾で、語末の流音の前の強勢のない o は u になります(-o-l → -ul、-o-r → -ur、*-o-ls → -uls)。

古い形 今の形
複数・主格と対格 *gandér-o-l gandérul
複数・属格 *gandér-o-r gandérur
複数・与格 *gandér-o-ls gandéruls

この変化でできた -ul・-ur・-uls は、重性の複数の語尾として固まりました。そのため、語尾に強勢のある o語幹の語でも、類推で u になります(duló「滝」→ 複数 dulúl・dulúr・dulúls。→ 3.4.5)。

流音の前でなければ o は残ります(双数 gandérou、属格 gandéros、与格 gandéroi)。この変化は綴りに表れていません(→ 2.6.8)。

1.8.2 語末の -s

子音で終わる形に s を加えて語末の子音のつながりを作れるのは、l・r・n の後ろだけです(lísers, gandéruls, óuls)。1.5.4 で述べた -ls・-rs・-ns がこれにあたります。母音で終わる形に s がつく語尾(gandéros、dáloros の -os)は、この制限にかかりません。

1.8.3 唇音の前の n

1.8.4 むき出しの語幹の単純化

命令法2人称単数では、語幹がそのまま語末に来ます。動詞の語根は子音で終わり、その子音には語末に置けないもの(1.5.4)もあります。語末に置けない子音や子音のつながりは、脱落や置き換えによって調整されます。

  1. þ は s に置き換えます(dulíþ- → dulís、élþ- → éls、kánþ- → káns)。
  2. 閉鎖音(p・b・t・d・k・g)と v は落とします(vánd- → ván、rímb- → rím、snúmp- → snúm、pák- → pá、vót- → vó、kóid- → kói、kráv- → krá)。
  3. それでも許されない子音のつながりが残るときは、最初の子音だけを残します(súrn- → súr、vélm- → vél)。
語根の終わり 命令形 例
n・m・l・r・s のどれか一つ そのまま lís-、sén-、vír- → lís、sén、vír
-nd・-mb・-mp n・m vánd- → ván!「量れ」、rímb- → rím!「数えよ」、snúmp- → snúm
-þ・-lþ・-nþ s・ls・ns dulíþ- → dulís!「下ろせ」、élþ- → éls、kánþ- → káns
閉鎖音・v 一つ 落とす pák- → pá、þrak- → þra、vót- → vó、kóid- → kói、wáp- → wá、kráv- → krá、slév- → slé
-rn・-lm・-rv・-lv 最初の子音 súrn- → súr、vélm- → vél、dérv- → dér、šelv- → šel

この調整は、2人称単数の命令形のように語幹が語尾なしで語末に来るときだけ起こります。語尾のつく形では、語根はもとのまま現れます(vándir「皆で量れ」、pákim「私は立てかける」)。

1.8.5 推量法の l の脱落

推量法の接辞 -él- は、人称語尾 -im・-imor の前で -é- になります(lis-é-im → liséim「私は書くだろう」)。

1.8.6 接頭辞の融合

尊敬の au- と謙譲の du- は、後ろの語根の頭の音によって不規則な形になります。歴史上の音の変化の名残です。

語根の頭 au- du-
母音 aur-(「昇る」aur- の古い形が顔を出す) dul-(「下る」dul- の古い形が顔を出す)
v-・w- aub-(au-vánd- → aubánd-「お量りになる」) dumb-(du-vánd- → dumbánd-「量らせていただく」)
h- h が落ちる(au-hél- → auél-) そのまま
それ以外 そのまま そのまま

敬語の形については第8章で扱います。

1.8.7 母音交替の複数

一音節の重性名詞のうち少数の古い語は、複数の主格・対格を、語根の u・o を ü に変えて作ります(dún → dǘn、món → mǘn)。ほかの複数の格は、母音を変えた語幹に規則どおりの語尾をつけます(dǘnur「丘々の」、dǘnuls「丘々に」)。1.4.5 で述べたウムラウトの名残です。

1.8.8 縮約

よく使う数詞の組み合わせでは、母音の続くところが縮まった形が固まっています。dáu「二」+ombár「十」→ dáumbar「二十」では、u と o が続き、o が落ちました。

1.9 音の歴史

1.9.1 ウムラウト

約九百〜七百年前、*u と *o が後ろの i に引かれて ü になりました(*o はいったん ö になり、のちに ü に合流しました)。母音交替の複数(1.8.7)はこの変化の名残です。複数を作っていた語末の i は、そのあと古い語末母音の脱落(1.9.2)で落ちたので、今は母音の交替だけが複数の印になっています。綴りでは、この i が今も書かれています(→ 2.6.9)。

1.9.2 古い語末母音の脱落

約九百〜五百年前、統一よりずっと前に、語末の母音が落ちる変化が起こりました。

条件:強勢のある音節のすぐ後ろで、r・l・n・m のどれか一つに続く、強勢のない短い語末母音が落ちました。

s・d などの後ろの母音は、はじめから落ちていません(lísa、lisénde、lisésa の -sa・-de はこの条件に当たりません)。

類推による復元:条件どおりなら、áura・dúlo・lisélo のような動詞の語尾の母音も落ちたはずです。しかし語尾の母音は人称・性・法を見分ける手がかりだったので、同じ活用表のほかの形(lísa, líso など)にならって、すぐに復元されました。名詞でも、同じ母音が活用表のほかの形にも出てくるかどうかで、結果が分かれました。

型 古い形 ほかの格での母音 結果
軽性a語幹 *ilána ilán-a-n、ilán-a-i、ilán-a-u、ilán-a-r …… と、ほぼすべての形に a がある 主格の -a も同じ語幹の母音として類推ですぐ復元された → ilána, plána, lóna
重性子音語幹 *gandéra 主格・対格にしか -a がなく、ほかの格は *-o-(*gandér-o-s) 支えがなく、消えた → gandér
軽性子音語幹 *aldár もともと母音の語尾がない 脱落とは関係がない → aldár
派生語 -ár・-ím *lisára、*lisíma 古くは主格・対格だけに -a をもち、ほかの格では語尾を直接つけた(*lisár-es)。重性と同じ型 消えた → lisár, lisím
数詞 *lími、*ombára 数詞は格変化しないので、支えがない 消えた → lím「五」、ombár「十」

例外

森の言葉:保守的な森の言葉では、この変化がすべての語には及ばず、母音の残った古い形がまじっています(gandéra, tambóro, slúuna, lími)。

綴り:綴りはこの変化より前に固まったので、脱落の前の形を残しています(〈gandera〉〈tamboro〉。→ 2.6.3)。

1.9.3 流音の前の o → u

重性名詞の複数語尾で、語末の流音の前の強勢のない o が u に上がりました(*gandér-o-l → gandérul)。今の言葉では 1.8.1 の規則として働きます。この変化も綴りに表れていません。

1.9.4 接頭辞の融合

尊敬の au- と謙譲の du- の不規則な形(1.8.6)は、歴史上の音の変化の名残です。母音の前の aur-・dul- には、「昇る」aur-・「下る」dul- の古い形が残っています。

1.10 今の語末母音の脱落

古い脱落とは別に、今の話し言葉でも語末の母音が落ちます。時代も条件も違う、別々の変化です。

条件:くだけた話し方と崖道の言葉では、強勢のない語末の母音が、子音の種類に関係なく落ちます。屈折語尾の母音でも落ちます。

完全な形 落ちた形
áura「昇る」 áur
lísa「書く」 lís
dúlo「下る」 dúl
lisénde「お書きになりますように」 lisénd
aldána「おわす」 aldán
ilána「灯」 ilán
ende「どうぞ」 énd

1.11 借用と音の置き換え

1.11.1 干潟語から借りた語

干潟語から語を借りるときは、次のように音を置き換えます。

干潟語 高原語
ł l
q k
声門閉鎖 落とす
ë e
高く発音される音節 強勢を置く

1.11.2 干潟語へ貸した語

干潟語へ貸した語は、借りられた時期によって形が違います。

時期 形の特徴 例
古い借用(約千二百年前、古い脱落より前) 語末の母音が残り、鼻音が落ちた *tambóro → taboro、*gandéra → gadera
新しい借用(統一期以後) 語末の母音が落ちた後の形が入り、子音のつながりのあいだにあいまい母音が挟まった slúun → sëlu、ende → enëde

taboro・gadera が語末の母音を保っているのは、古い脱落の前に借りられたからです。一方 sëlu は、母音の落ちた slúun をもとにしています。

1.12 日本語話者が聞き分けにくい音

日本語話者が高原語を学ぶときに、とくに聞き分けにくい区別を挙げます。多くは字では書き分けられるので、綴りを手がかりにできます(→ 2.6.11)。

1.13 響きのまとめ

高原語らしい響きを作っているのは、次のような特徴です。

高原語辞典

高原語辞典

左の一覧から語を選ぶか、上の検索欄に日本語またはローマ字を入れてください。

高原語入門

左の目次から課を選んでください。

高原語の文法書

左の一覧から選んでください。

資料集

高原語で書かれた読み物です。左の一覧から選んでください。

小説

左の目次から話を選んでください。

語彙の候補

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