小説
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高原語の名詞は、性・数・格の三つの範疇をもちます。この三つは、一つの語尾にまとめて表されます。たとえば virés「言葉の」の -és は、「軽性・単数・属格」を一度に表しており、性の部分と格の部分を切り分けることはできません。
| 範疇 | 区別 |
|---|---|
| 性 | 軽性(LT)・重性(HV) |
| 数 | 単数・双数・複数 |
| 格 | 主格・対格・属格・与格(古い詩と系譜の唱えには呼格も残る) |
すべての名詞は、**軽性(LT)か重性(HV)**のどちらかに属します。軽性は「上へ行くもの」、重性は「下へ行くもの」です。息や煙は昇り、石や水は下る、という高原の人々の世界の見方が、そのまま文法の性になっています。
| 軽性(上へ行くもの) | 重性(下へ行くもの) |
|---|---|
| 人、鳥、獣 | 石、金属 |
| 息、魂、火、煙 | 泥、塩 |
| 音、言葉 | 地を流れる水(地上の水) |
| 星、月 | 肉体・体の部分 |
| 雲、雨、雪、霜 | 霧 |
| 生えている木 | 硬木(生えていても重性)、魚 |
| 紙、版の木 | 土地、石段、瀬、源 |
| 座(aldár) | 荷、干潟から借りた語 |
性は二つの場所に表れます。
áura selvá an ilánais.
読み:アウラ セルヴァー アン イラーナイス。
| áur-a | selvá | an | ilán-ais. |
| 昇る-<(軽いものが)> | 息<主格> | 上手 | 灯-<〜たちを> |
「息は星々のもとへ昇る。」
dúlo gandér du dálor
読み:ドゥーロ ガンデール ドゥ ダーロル
| dúl-o | gandér | du | dálor |
| 下る-<(重いものが)> | 硬木<主格> | 下手 | 下の国<対格> |
「硬木が下の国へ下りていく。」
na éso nébro fléura.
読み:ナ エーソ ネーブロ フレウラ。
| na | és-o | nébro | fléura. |
| <〜ない> | いる-<(重いものが)> | 霧<主格> | 雲 |
「霧は雲ではない。」
名詞の語尾の性は、語ごとに決まっていて変わりません。いっぽう、その名詞を受ける語の性は、名詞が指すものの「いまの状態」で決まります。
pélsa「脂の木」は、名詞としては軽性a語幹の語形です。ところが伐られて材木や荷札になると、それを受ける分詞・動詞は重性の形になります。根を断たれた木は、もう昇らないものだからです。名詞の語尾は軽性のまま、まわりの語だけが重性に変わるので、語尾が「ちぐはぐ」に見える文になります。
lísa lisár virán pélsei kélenoi
読み:リーサ リサール ヴィラーン ペルセイ ケーレノイ
| lís-a | lis-ár | vir-án | péls-ei | kél-en-oi |
| 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> | 言葉-<対格> | 脂の木-<与格> | 伐る-<〜した・〜された>-<重性・与格> |
「書記は伐った脂の木(の札)に字を書く。」
éso pélsa kélen némei.
読み:エーソ ペルサ ケーレン ネーメイ。
| és-o | pélsa | kél-en | ném-ei. |
| いる-<(重いものが)> | 脂の木の材・荷札<主格> | 伐る-<〜した・〜された> | <私>-<与格> |
「私には荷札(伐った脂の木の札)がある。」
一つめの例では、名詞 péls-ei は軽性の与格 -ei のままですが、分詞 kél-en-oi は重性の与格 -oi で一致しています。二つめの例では、動詞 és-o が重性の -o をとっています。
伐っている最中の木は、話し手による。 名詞の形は伐っても軽性のままなので、目的語にはいつも軽性の対格 -an がつきます(kéla kelár pélsan「樵が脂の木を伐る」)。どの時点で一致を重性に切り替えるかは、話し手が決めます。
| 話し手 | 重性に切り替える時 | 見方 |
|---|---|---|
| 樵・森の司 | 斧を入れた時 | 木が「下へ行く務め」を始めた |
| 都の人・詩人 | 倒れて根が断たれた時 | それまでは生きた木 |
| 森の巫 | 伐り出しの詞を唱え終えた時 | 詞が木を送り出す |
どこで切り替えるかで、その人が森をどう見ているかがわかります。
枯れた木も、伐った木と同じく重性で受ける話し手が多いです(þróumo árnel「木が枯れた」)。
名詞の語形の性は変わりませんが、まわりの語(形容詞・分詞・指示詞・動詞・代名詞)が、名詞の指すもののいまの状態や場面に合わせて、もう一方の性で一致することがあります。これを性の転用と呼びます。名詞そのものの語尾は、どの場合も元の性のままです。伐った脂の木を指しても対格は pélsan、祀りの茶を指しても対格は þovríl(重性なので主格と同形)です。
| 種類 | 例 | 転用の向き |
|---|---|---|
| 状態による | 伐った木・枯れた木(脂の木 pélsa、柱の木 lóna) | 軽 → 重 |
| 場面による | 祀りで祖先に供える茶(þovríl) | 重 → 軽 |
| 話し手による | 伐っている最中の木(どこで切り替えるか)、森 dravéna(森の民は軽、都の人は重) | 人による |
| わざと | 人を重性で受ける侮辱、干潟の人を「泥の者」と呼ぶ陰口 | 軽 → 重 |
転用は、名詞から遠い語ほど起こりやすくなります。
形容詞・分詞 < 指示詞 < 動詞 < 代名詞
人を重性の一致で受けるのは強い侮辱です。 人は息(魂)をもち、上へ昇るものだからです。人を重性で受けると、「泥の者」「重い者」として扱うことになります。人を重性の語形・一致・代名詞で指すこの行いを、gromvír-「重と言い立てる」(gróm「重い」+vír-「言う」)と呼びます。宮廷の礼法では避けられ、仕返しや法的な非難の言葉として口にされます。
tóro dalorár tó es orénos.
読み:トーロ ダロラール トー エス オレーノス。
| tór-o | dalorár | tó | es | orén-os. |
| 来る-<(重いものが)> | 泥の者<主格> | あの<重性> | から | 縁-<属格> |
「あの泥の者が縁から上がってくるぞ。」
éso dalorár só gróm.
読み:エーソ ダロラール ソー グローン。
| és-o | dalorár | só | gróm. |
| いる-<(重いものが)> | 泥の者<主格> | この<重性> | 重い |
「この泥の者は重い(粗野な奴だ)。」
tóro ó es dáloros.
読み:トーロ オー エス ダーロロス。
| tór-o | ó | es | dálor-os. |
| 来る-<(重いものが)> | あいつ<主格> | から | 下の国-<属格> |
「あいつ、下の国から来やがった。」
「AとB」(A si B)のように性の違う名詞を並べたとき、動詞は双数・複数とも性を区別しないので問題になりません(→ 第6章)。形容詞・分詞・指示詞・代名詞は、次のように合わせます。
ésau éndra si fáron káilau.
読み:エーサウ エンドラ シ ファーロン カイラウ。
| és-au | éndra | si | fáron | káil-au. |
| いる-<双数> | 人<主格> | と | 荷<主格> | 乾いた-<双数> |
「人と荷は乾いている。」
人の死は、魂(息)が昇り、体が地に残ることとされます。そのため、同じ人の死でも、何を指すかで性が分かれます。
áursa ólmar némes sórel.
読み:アウルサ オルマル ネーメス ソーレル。
| áurs-a | ólmar | ném-es | sórel. |
| お昇りになる<〜し終えた>-<(軽いものが)> | 年長者<主格> | <私>-<属格> | 今日 |
「私どもの年長者が、今日お昇りになりました。」
wéinsa ólmar ilánan.
読み:ウェーンサ オルマル イラーナン。
| wéins-a | ólmar | ilán-an. |
| なる<〜し終えた>-<(軽いものが)> | 年長者<主格> | 灯-<対格> |
「年長の方は星になった。」
格は主格・対格・属格・与格の四つで、古い詩と系譜の唱えにだけ呼格が残ります。前置詞と組むと、同じ格が方向や位置の意味をもちます(→ 4.5)。
| 格 | 単独での働き | 前置詞と組んだとき |
|---|---|---|
| 主格 | 主語。述語の名詞 | — |
| 対格 | 直接目的語。道のりの対格(→ 3.3.3)。「〜になる」の行き着く先 | 〜へ(an ~「上手へ」、du ~「下手へ」) |
| 属格 | 〜の(名詞の後ろに置く)。分詞の後ろでは「〜によって」。百・千・量の名詞が数えるもの | 〜から(an ~「上手から」、es ~「方向を問わず〜から」) |
| 与格 | 〜に(受け手)、〜で(場所)、所有の文の持ち主 | 〜で(an ~「上手で」、or ~「日の出側で」) |
| 呼格 | 古い詩と系譜を唱えるときだけの呼びかけ | — |
lísa lisár sáindaran senárei.
読み:リーサ リサール サインダラン セナーレイ。
| lís-a | lis-ár | sáindar-an | sen-ár-ei. |
| 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> | 証文-<対格> | 見る-<〜する人>-<与格> |
「書記が目付に証文を書く。」
mé vír sélvanan nébroi!
読み:メー ヴィール セルヴァナン ネーブロイ!
| mé | vír | sélvan-an | nébr-oi! |
| <禁止・願いの打ち消し> | 言う<命令法><あなたが> | セルヴァン-<対格> | 霧-<与格> |
「霧の中で、セルヴァンの名を呼ぶな。」
ké éso tambór tásei? na éso tambór némei.
読み:ケー エーソ タンボール ターセイ?ナ エーソ タンボール ネーメイ。
| ké | és-o | tambór | tás-ei? | na | és-o | tambór | ném-ei. |
| <〜か> | いる-<(重いものが)> | 雑穀<主格> | <あなた>-<与格> | <〜ない> | いる-<(重いものが)> | 雑穀<主格> | <私>-<与格> |
「「お前、雑穀はあるか?」「私には雑穀はない。」」
重性名詞は、主格と対格が同じ形です(gandér, fáron, dálor, nébro)。そのため、文の中での役割は語順で決まります。ふつうの文では、動詞のすぐ後ろが主語、その次が目的語です(→ 第6章)。
dulíþan kelárai slúun báronur gandérur
読み:ドゥリーサン ケラーライ スルーン バーロヌル ガンデールル
| dul-íþ-an | kel-ár-ai | slúun | báron-ur | gandér-ur |
| 下る-<〜させる>-<彼らが> | 伐る-<〜する人>-<〜たちが> | 千 | 本-<〜らの> | 硬木-<〜らの> |
「樵たちが硬木千本を下ろす。」
lúin áuran ombára ilánai, dulíþan kelárai gandér.
読み:ルーイン アウラン オンバーラ イラーナイ、ドゥリーサン ケラーライ ガンデール。
| lúin | áur-an | ombára | ilán-ai, | dul-íþ-an | kel-ár-ai | gandér. |
| とき | 昇る-<彼らが> | 十 | 灯-<〜たちが> | 下る-<〜させる>-<彼らが> | 伐る-<〜する人>-<〜たちが> | 硬木<対格> |
「十の灯が昇ると、樵たちは硬木を下ろす。」
重性名詞の目的語を動詞の前に出すときや、重性名詞どうしの文の読み方は、第6章で扱います。疑問詞 pó「何」だけは、目的語を尋ねるための対格 pón をもちます(→ 4.3)。
対格は、動きの動詞と組んで「どれだけの道のりを動いたか」を表します。これを道のりの対格と呼びます。dúl-「下る」は自動詞ですが、この対格はとれます(dúlen téir þrénul「三段下りた」)。身分の段や世代の瀬を言う決まった言い方は、この対格で作ります(→ 3.7.7)。
呼格は、古い詩と、系譜を唱えるときにしか残っていません。語尾は、軽性が -e、重性が -o です。
fóndaro ráimaros, léunim þeláis aursárar.
読み:フォンダロ ライマロス、レウニン セライス アウルサーラル。
| fóndar-o | ráimar-os, | léun-im | þel-áis | aursár-ar. |
| 源-<〜よ> | ライマル-<属格> | 申す-<私が> | 名前-<〜たちを> | 祖先-<〜らの> |
「ライマルの源よ、祖先たちの名を申し上げます。」
fóndaro ráimaros!「ライマルの源よ」は、源(重性)の呼格に、ライマル(重性)の属格を添えた形です。日常では呼格を使わず、役職名か指示詞を文頭か文末に読点で区切って添えます(→ 4.7.4)(…, ausenár.「…、目付殿」)。名を呼べない場面では、指示詞 té だけで「そこの方」と呼びかけます(→ 4.4.4)。
名詞は、語尾の形によって四つの型に分かれます。
| ①軽性a語幹 virá「言葉」 | ②軽性子音語幹 aldár「座」 | ③重性子音語幹 gandér「硬木」 | ④重性o語幹 nébro「霧」 | |
|---|---|---|---|---|
| 単 主 | virá | aldár | gandér | nébro |
| 単 対 | virán | aldáran | gandér | nébro |
| 単 属 | virés | aldáres | gandéros | nébros |
| 単 与 | viréi | aldárei | gandéroi | nébroi |
| 双 主対 | viráu | aldárau | gandérou | nébrou |
| 双 属与 | viráun | aldáraun | gandéroun | nébroun |
| 複 主 | virái | aldárai | gandérul | nébrul |
| 複 対 | viráis | aldárais | gandérul | nébrul |
| 複 属 | virár | aldárar | gandérur | nébrur |
| 複 与 | viráil | aldárail | gandéruls | nébruls |
呼格の語尾は、軽性が -e、重性が -o です(→ 3.3.4)。干潟から借りた sélu「泥の千」だけは、四つの型のどれにも入りません(→ 3.7.8)。
語尾だけを抜き出すと、次のようになります。①は語尾に強勢のある語(virá)の形で示しました。
| ①軽性a語幹 | ②軽性子音語幹 | ③重性子音語幹 | ④重性o語幹 | |
|---|---|---|---|---|
| 単 主 | -á | (なし) | (なし) | -o |
| 単 対 | -án | -an | (なし) | -o |
| 単 属 | -és | -es | -os | -os |
| 単 与 | -éi | -ei | -oi | -oi |
| 双 主対 | -áu | -au | -ou | -ou |
| 双 属与 | -áun | -aun | -oun | -oun |
| 複 主 | -ái | -ai | -ul | -ul |
| 複 対 | -áis | -ais | -ul | -ul |
| 複 属 | -ár | -ar | -ur | -ur |
| 複 与 | -áil | -ail | -uls | -uls |
語根(vir-)に、語尾 -á・-án・-és … がつく型です。言葉、息、灯(星)、紙、生えている木などがこの型に属します。
強勢が語尾にあるか、語根にあるかは語ごとに決まっています。
語根に強勢のある語では、語尾はすべて無強勢になります。
| 単数 | 双数 | 複数 | |
|---|---|---|---|
| 主 | ilána | ilánau(主対) | ilánai |
| 対 | ilánan | 〃 | ilánais |
| 属 | ilánes | ilánaun(属与) | ilánar |
| 与 | ilánei | 〃 | ilánail |
指小の -íña で作った語も、この型で変化します(viríña「小句」、双数 viríñau)。
léunim dáu viríñau.
読み:レウニン ダウ ヴィリーニャウ。
| léun-im | dáu | vir-íñ-au. |
| 申す-<私が> | 二 | 言葉-<小さな・拙い>-<双数> |
「拙い句を二つ、申し上げます。」
疑問代名詞 pá「誰」も、この型で変化します(pá/pán/pés/péi。→ 4.3)。
もともと母音の語尾をもたない軽性の語です(aldár「座」、sílar「月」、sáindar「証文」)。主格に語尾がなく、対格に -an がつきます。
この型には、次の語も入ります。
-ár・-ím の語が②型に入った経緯は、3.5.2 で述べます。
古い主格の語尾 *-a が落ちた重性の語です(*gandéra → gandér)。
mé duliþésa fáron es orénos.
読み:メー ドゥリセーサ ファーロン エス オレーノス。
| mé | dul-iþ-és-a | fáron | es | orén-os. |
| <禁止・願いの打ち消し> | 下る-<〜させる>-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 荷<対格> | から | 縁-<属格> |
「縁から荷を落とさぬこと。」
重性の古い接辞 *-o-(→ 3.5.1)が、語幹の末尾として残った語です。③型と同じ語尾をとり、違うのは主格と対格に -o が見えている点だけです。
語尾に強勢のある④型。 派生の -ó で作った語(duló「滝」、vandó「分銅」、leimó「遺体」)では、強勢がいつも語尾にあり、どの格でも語尾の母音に強勢を置きます(-ándo・-íño の語は強勢が á・í にあり、語末の o は無強勢なので、nébro と同じく senándul・moníñul となります)。複数は -úl・-úr・-úls です。
| 単数 | 双数 | 複数 | |
|---|---|---|---|
| 主 | duló | dulóu(主対) | dulúl |
| 対 | duló | 〃 | dulúl |
| 属 | dulós | dulóun(属与) | dulúr |
| 与 | dulói | 〃 | dulúls |
流音の前の o → u は、もとは強勢のない o にだけ起こった音の変化です(→ 1.8.1)。しかし、その結果できた -ul・-ur・-uls が重性の複数の語尾として固まったため、強勢のある語尾にも類推で広がりました。*dulól のような形は使われません。強勢は語尾に残るので、dulúl と書きます。
| 語根に強勢(nébro) | 語尾に強勢(duló) | |
|---|---|---|
| 単 属 | nébros | dulós |
| 単 与 | nébroi | dulói |
| 複 主対 | nébrul | dulúl |
| 複 属 | nébrur | dulúr |
| 複 与 | nébruls | dulúls |
toríro nébro es orénos, na senéimor ilánais.
読み:トリーロ ネーブロ エス オレーノス、ナ セネーモル イラーナイス。
| tor-ír-o | nébro | es | orén-os, | na | sen-é-imor | ilán-ais. |
| 来る-<もし〜なら>-<(重いものが)> | 霧<主格> | から | 縁-<属格> | <〜ない> | 見る-<〜だろう>-<我々が> | 灯-<〜たちを> |
「縁から霧が上がってくれば、我々には星が見えなくなるだろう。」
gélim un kórvo.
読み:ゲーリン ウン コルヴォ。
| gél-im | un | kórvo. |
| 行く-<私が> | 内に | 倉<対格> |
「私は倉の中へ行く。」
tóra éndra un kórvos.
読み:トーラ エンドラ ウン コルヴォス。
| tór-a | éndra | un | kórv-os. |
| 来る-<(軽いものが)> | 人<主格> | 内に | 倉-<属格> |
「人が倉の中から来る。」
例文の逐語訳(語を形態素に切って、その下に意味を添えた段)では、語幹と語尾をハイフンで切ります。いちばん上に示す本文は切らずに書きます。①型と④型では、主格に見えている語末の母音(a・o)を語幹に含めず、格の語尾の側に入れて切ります。
| 型 | 主格(切らない) | ほかの格の切り方 | 語幹 |
|---|---|---|---|
| ①軽性a語幹 | virá、ilána、pélsa | vir-án、vir-és、ilán-es、ilán-ais、péls-ei | vir-、ilán-、péls- |
| ④重性o語幹 | nébro、kórvo、séndo | nébr-oi、nébr-os、kórv-oi、kórv-os、sénd-oi | nébr-、kórv-、sénd- |
| ②軽性子音語幹 | aldár、sélvan | aldár-an、sélvan-es | aldár-、sélvan- |
| ③重性子音語幹 | gandér、fáron | gandér-os、fáron-ul | gandér-、fáron- |
sán fáronul grómul ín an kórvoi.
読み:サーン ファーロヌル グロームル イーン アン コルヴォイ。
| sán | fáron-ul | gróm-ul | ín | an | kórv-oi. |
| いる<彼らが> | 荷-<〜たちが> | 重い-<〜たちが> | 一 | 上手 | 倉-<与格> |
「倉の北側に、重い荷がいくつかある。」
古高原語の重性名詞は、格や数の語尾の前に、性を示す接辞 *-o- を挟みました。この *-o- は、動詞の3人称単数・重性の語尾 -o(líso, dúlo)や、重性の代名詞 ó と同じ源です。もとは「あの重いもの」を指す古い指示語だったと考えられています。
主格の古い語末母音(*gandéra の -a)は語幹の飾りにすぎず、ほかの格では *-o- に置きかわっていました。
| 古い形 | 今の形 | 変化 |
|---|---|---|
| *gandéra(主・対) | gandér | 古い脱落で語末の a が落ちた(→ 3.5.2) |
| *gandér-o-s(属) | gandéros | そのまま |
| *gandér-o-au(双数) | gandérou | o と au が融け合った |
| *gandér-o-l(複数) | gandérul | 語末の流音の前で、強勢のない o が u に上がった |
④型の nébro は、この *-o- が主格にまで広がって、語幹の末尾として残った語です。
高原語には、語末の母音が落ちる変化が二度ありました(→ 1.9.2・1.10)。古いほうの脱落(約九百〜五百年前)の条件は、「強勢のある音節のすぐ後ろで、r・l・n・m のどれか一つに続く、強勢のない短い語末母音」です。
ilána・plána・lóna はこの条件に当てはまるのに母音が残り、*gandéra は gandér になりました。分かれ目は、その母音が同じ活用表のほかの形にも出てくるかどうかです。
| 型 | 古い形 | ほかの格での母音 | 結果 |
|---|---|---|---|
| ①a語幹 | *ilána | ilán-a-n、ilán-a-i、ilán-a-u、ilán-a-r …… と、ほぼすべての形に a がある | 主格の -a も同じ語幹の母音として、類推ですぐ復元された(動詞の語尾の復元と同じしくみ)→ ilána, plána, lóna |
| ③重性 | *gandéra | 主格・対格にしか -a がなく、ほかの格は *-o-(*gandér-o-s) | 支えがなく、消えた → gandér |
| ②軽性子音語幹 | *aldár | もともと母音語尾がない | 脱落とは関係がない → aldár |
| 派生語 -ár・-ím | *lisára、*lisíma | 古くは主格・対格だけに -a をもち、ほかの格では語尾を直接つけた(*lisár-es)。重性と同じ型 | 消えた → lisár, lisím |
| 数詞 | *lími、*ombára | 数詞は格変化しないので、支えがない | 消えた → lím「五」、ombár「十」 |
くだけた話し方(とくに崖道の言葉)では、強勢のない語末の母音が、屈折語尾でも落ちます。名詞では ilána → ilán、aldána(動詞)→ aldán のようになります。宮廷語では起こらず、綴りにも書きません。この本の見出しと例文は、都の改まった形で示します(→ 1.10)。
数は単数・双数・複数の三つです。
| 数 | 使う場面 |
|---|---|
| 単数 | 一つのもの。数えない水・塩・乳など |
| 双数 | 二つのもの、ひと組のもの(二つの月、両目、両手、夫婦、ひと組の綱) |
| 複数 | 三つ以上のもの。数を問わない総称(ilánai「星というもの」) |
áurau dáu sílarau
読み:アウラウ ダウ シーララウ
| áur-au | dáu | sílar-au |
| 昇る-<双数> | 二 | 月-<双数> |
「二つの月が昇る。」
dúlau dáu faronárau du orén.
読み:ドゥーラウ ダウ ファロナーラウ ドゥ オレーン。
| dúl-au | dáu | faron-ár-au | du | orén. |
| 下る-<双数> | 二 | 荷-<〜する人>-<双数> | 下手 | 縁<対格> |
「二人の運び人が縁へ下りていく。」
lísa lisár sáindaran véiranaun.
読み:リーサ リサール サインダラン ヴェーラナウン。
| lís-a | lis-ár | sáindar-an | véiran-aun. |
| 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> | 証文-<対格> | 夫婦-<双数の〜の・〜に> |
「書記が、その夫婦に証文を書く。」
前置詞の後ろの双数。 双数の属格と与格は同じ形なので、前置詞の後ろでは「〜で」(与格)か「〜から」(属格)かが決まりません。そこで、an・du・or・vel・un・sal の後ろでは、都の言葉でも双数のかわりに複数の形を使います。
éso nébro an sílarail.
読み:エーソ ネーブロ アン シーラライル。
| és-o | nébro | an | sílar-ail. |
| いる-<(重いものが)> | 霧<主格> | 上手 | 月-<〜らに> |
「二つの月の上手(北側)に霧がある。」
tóra éndra es sílaraun.
読み:トーラ エンドラ エス シーララウン。
| tór-a | éndra | es | sílar-aun. |
| 来る-<(軽いものが)> | 人<主格> | から | 月-<双数の〜の・〜に> |
「人が二つの月のほうから来る。」
高めた持ち物の双数。 目上の人そのものは数えられませんが(→ 3.7.6)、高めた持ち物には双数を使えます(aumárou「御両手」)。数えられているのは人ではないうえ、双数は「そろったひと組」を表す美しい形とされるからです。
崖道や縁のくだけた言葉では、双数が衰え、半分だけ残っています。
áurau sílarau an ilánais.
読み:アウラウ シーララウ アン イラーナイス。
| áur-au | sílar-au | an | ilán-ais. |
| 昇る-<双数> | 月-<双数> | 上手 | 灯-<〜たちを> |
「二つの月が、星々のほうへ昇る。」
áuran sílarau an ilánais.
読み:アウラン シーララウ アン イラーナイス。
| áur-an | sílar-au | an | ilán-ais. |
| 昇る-<彼らが> | 月-<双数> | 上手 | 灯-<〜たちを> |
「二つの月が、星々のほうへ昇る。」
一つめが都の言葉、二つめが崖道の言葉です。崖道では動詞を人称ごとの複数形(-imor・-ers・-an)で受けるので、動詞から人称がわかり、双数の代名詞 dáun を省けます(gélimor du orén.「我ら(二人)は縁へ行く」)。都では双数の動詞が人称を区別しないので dáun を省けません。くだけた崖道の言葉のほうが動詞の情報が多い、という逆転が起きています(→ 4.2.3)。
一音節の重性名詞のうち、少数の古い語は、語根の母音を変えて複数の主格・対格を作ります(u・o → ü)。そのほかの複数の格は、母音を変えた語幹に規則どおりの語尾をつけます。
| 単数 | 複数 主・対 | 複数 属 | 複数 与 |
|---|---|---|---|
| dún「丘」 | dǘn | dǘnur | dǘnuls |
| món「石」 | mǘn | mǘnur | mǘnuls |
| kúr「谷」 | kǘr | kǘrur | kǘruls |
| búl「根」 | bǘl | bǘlur | bǘluls |
単数と双数は規則どおりです(dúnoi「丘に」、mónoun「二つの石に」)。この ü は、古い *u の前寄り化と、*o > ö の合流でできた母音です(→ 1.9.1)。
vóloi, dunþréman dǘn.
読み:ヴォーロイ、ドゥンスレーマン デューン。
| vól-oi, | dunþrém-an | dǘn. |
| 地面-<与格> | 腫れる-<彼らが> | 丘<〜ら(古い母音交替)><主格> |
「地面に、丘々が盛り上がっている。」
数は十進法で数えます。
| 数 | 数詞 | 数 | 数詞 |
|---|---|---|---|
| 1 | ín | 10 | ombár |
| 2 | dáu | 11 | ombár ín |
| 3 | téir | 12 | ombár dáu |
| 4 | fáir | 19 | ombár réum |
| 5 | lím | 20 | dáumbar(不規則) |
| 6 | sóur | 23 | dáumbar téir |
| 7 | nél | 30 | téirombar |
| 8 | ánþa | 35 | téirombar lím |
| 9 | réum | 40 | fáirombar |
| 100 | sénþar | ||
| 300 | téir sénþarul | ||
| 1000 | slúun | ||
| 10000 | slúumbar |
| 数詞 | 名詞の数 | 例 |
|---|---|---|
| ín「一」 | 単数 | ín báron「一本」 |
| dáu「二」 | 双数 | dáu sílarau「二つの月」 |
| téir「三」〜九十九 | 複数 | téir gandérul「硬木三本」 |
kélan kelárai téir gandérul.
読み:ケーラン ケラーライ テール ガンデールル。
| kél-an | kel-ár-ai | téir | gandér-ul. |
| 伐る-<彼らが> | 伐る-<〜する人>-<〜たちが> | 三 | 硬木-<〜たちを> |
「樵たちが硬木を三本伐る。」
dúlan dáumbar fáronul du orén.
読み:ドゥーラン ダウンバル ファーロヌル ドゥ オレーン。
| dúl-an | dáumbar | fáron-ul | du | orén. |
| 下る-<彼らが> | 二十 | 荷-<〜たちが> | 下手 | 縁<対格> |
「二十の荷が縁へ下りていく。」
sénim fáir kelárais.
読み:セーニン ファイル ケラーライス。
| sén-im | fáir | kel-ár-ais. |
| 見る-<私が> | 四 | 伐る-<〜する人>-<〜たちを> |
「樵が四人見える。」
éso ín fáron gróm ín an kórvoi.
読み:エーソ イーン ファーロン グローン イーン アン コルヴォイ。
| és-o | ín | fáron | gróm | ín | an | kórv-oi. |
| いる-<(重いものが)> | 一 | 荷<主格> | 重い | 一 | 上手 | 倉-<与格> |
「倉の北側に、重い荷が一つある。」
sénþar「百」、slúun「千」、slúumbar「一万」は名詞として働き、数えるものを複数属格でとります。
lísan lisárai slúumbar lénar sáindarar.
読み:リーサン リサーライ スルーンバル レーナル サインダラル。
| lís-an | lis-ár-ai | slúumbar | lén-ar | sáindar-ar. |
| 書く-<彼らが> | 書く-<〜する人>-<〜たちが> | 一万 | 枚-<〜らの> | 証文-<〜らの> |
「書記たちは証文を一万枚書く。」
áuran slúun sílarar, na tóra lisár.
読み:アウラン スルーン シーララル、ナ トーラ リサール。
| áur-an | slúun | sílar-ar, | na | tór-a | lis-ár. |
| 昇る-<彼らが> | 数えきれぬ | 月-<〜らの> | <〜ない> | 来る-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> |
「数えきれぬほど月が昇ったが、書記は来ない。」
木・紙・巻物・家畜・世帯などを数えるときは、量の名詞を使います。
| 量の名詞 | 性 | 数えるもの |
|---|---|---|
| báron「本」 | 重 | 木、丸太、杭 |
| lén「枚」 | 軽 | 紙などの薄いもの(紙は言葉を載せて昇るので軽性) |
| rólan「巻」 | 軽 | 書物、巻物(年代記、王統の巻、詩集) |
| kéul「頭」 | 軽 | 家畜(毛山羊など)。人には決して使わない |
| hóum「炉」 | 重 | 世帯。人そのものを数えないために、炉を数える |
| 言い方 | 量の名詞なし | báron「本」あり |
|---|---|---|
| 硬木三本 | téir gandérul | téir báronul gandérur |
| 硬木百本 | sénþar gandérur | sénþar báronur gandérur |
| 硬木千本 | slúun gandérur | slúun báronur gandérur |
lísa lisár ánþa rólanais sóndelar.
読み:リーサ リサール アンサ ローラナイス ソンデラル。
| lís-a | lis-ár | ánþa | rólan-ais | sóndel-ar. |
| 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> | 八 | 巻-<〜たちを> | 書物-<〜らの> |
「書記は書物を八巻書き写す。」
lísim dáu lénau sáindarar.
読み:リーシン ダウ レーナウ サインダラル。
| lís-im | dáu | lén-au | sáindar-ar. |
| 書く-<私が> | 二 | 枚-<双数> | 証文-<〜らの> |
「証文を二枚書く。」
rímba brándal réum hóumul.
読み:リンバ ブランダル レウン ホームル。
| rímb-a | brándal | réum | hóum-ul. |
| 数える-<(軽いものが)> | 司<主格> | 九 | 炉-<〜たちを> |
「司は九つの炉を数える。」
このほか、次のような語も、数詞を受けて数えるものを複数属格でとります。
度量衡の体系については第10章で扱います。
pómbar báronul dulíþan kelárai du dálor?
読み:ポンバル バーロヌル ドゥリーサン ケラーライ ドゥ ダーロル?
| pómbar | báron-ul | dul-íþ-an | kel-ár-ai | du | dálor? |
| いくつ | 本-<〜たちを> | 下る-<〜させる>-<彼らが> | 伐る-<〜する人>-<〜たちが> | 下手 | 下の国<対格> |
「樵たちは下の国へ何本下ろすのか。」
vándim pómbarin fáronul.
読み:ヴァンディン ポンバリン ファーロヌル。
| vánd-im | pómbarin | fáron-ul. |
| 量る-<私が> | いくつか | 荷-<〜たちを> |
「荷をいくつか量る。」
数詞と双数をつけられないものが二つあります。目上の人を数えること、星を数えることは禁忌とされ、それが文法にも入りこんでいます。
(1) 目上の人を指す高め名詞
(2) 星(ilána)
序数はほとんど発達していません。身分の段も世代の瀬も、分詞 dúlen「下りた」+数詞+名詞の複数対格で言います。この対格は道のりの対格(→ 3.3.3)です。
dúlen téir þrénul「三段下り」:下りた/三つの/段を
dúlen dáumbar téir lóurul「二十三瀬下りた」
一つ下りは、数詞 ín と単数の対格で言います(dúlen ín þrén「一段下り」、dúlen ín lóur「一瀬下り」)。þrén・lóur は重性なので、対格は主格と同じ形です。
二つ下りは、ふつうの数詞の決まり(dáu の後ろは双数)と違い、複数の対格で言います(dúlen dáu þrénul「二段下り」、dulóur dáu lóurul「孫(二瀬の瀬下)」)。双数は「そろったひと組」を表す形ですが、段や瀬は一段ずつ続いていく道のりで、二つが組になっているわけではないからです。三つ以上と同じく、下りた道のりの長さとして複数で言います。
分詞 dúlen は、その人を指す名詞の性・数・格に一致します(→ 4.1)。
ésa lisár sé dúlen fáir þrénul.
読み:エーサ リサール セー ドゥーレン ファイル スレーヌル。
| és-a | lis-ár | sé | dúl-en | fáir | þrén-ul. |
| いる-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人・主格> | この<軽性> | 下る-<〜した・〜された> | 四 | 段-<〜たちを> |
「この書記は四段下りの者だ。」
pómbar þrénul dúles?
読み:ポンバル スレーヌル ドゥーレス?
| pómbar | þrén-ul | dúl-es? |
| いくつ | 段-<〜たちを> | 下る-<あなたが> |
「お前は何段下りの者だ。」
段と瀬は語が違うので(þrén「段」、lóur「瀬」)、どちらが身分でどちらが世代かがすぐにわかります。
vírim sélu lénar sáindarar, na vírim slúun.
読み:ヴィーリン セール レーナル サインダラル、ナ ヴィーリン スルーン。
| vír-im | sélu | lén-ar | sáindar-ar, | na | vír-im | slúun. |
| 言う-<私が> | 泥の千 | 枚-<〜らの> | 証文-<〜らの> | <〜ない> | 言う-<私が> | 千 |
「私が言っているのは泥の千枚の証文だ。陸の千ではない。」
sélu の曲用。 sélu は子音語幹でも o語幹でもない、無強勢の -u で終わる語です。借用語なので高原の型には入りませんが、次のように変化します。
ふだん人を言い表すのは、**名(成名)と家名(流名)**の二つです。
| 名(成名) | 家名(流名) | |
|---|---|---|
| 何の名か | 成人の儀でつける、おとなの名 | 家系の源(始祖)の名 |
| 性 | 軽性(名はその人の息の形とされる) | 重性(源は泉で、重性) |
| 例 | sélvan, sílan, viréla, silára | ráimar, gléinar |
「人は昇り、家は流れ下る」と言われます。
ふつうのフルネームは、名のあとに家名を属格で置きます。sélvan ráimaros は「ライマル(の流れ)のセルヴァン」です。名は軽性、家名は重性の属格 -os になります。
tóra sélvan ráimaros es dáloros.
読み:トーラ セルヴァン ライマロス エス ダーロロス。
| tór-a | sélvan | ráimar-os | es | dálor-os. |
| 来る-<(軽いものが)> | セルヴァン<主格> | ライマル-<属格> | から | 下の国-<属格> |
「ライマル家のセルヴァンが下の国から来た。」
名は人なので動詞は軽性の -a で受けます。名を目的語にすると、軽性の対格 -an がつきます。
pán þéles? þélim sélvanan.
読み:パーン セーレス?セーリン セルヴァナン。
| pán | þél-es? | þél-im | sélvan-an. |
| 誰<対格> | 名乗る-<あなたが> | 名乗る-<私が> | セルヴァン-<対格> |
「「何と名乗る?」「セルヴァンと名乗る。」」
改まった場では、名を対格にして、謙譲の duþél-「名乗らせていただく」で受けます。そのあとに、家名(源)・源からの世代の数(瀬)・身分(段)を一息に添えます。添えるものが長いほど誇らしい名乗りになります。
duþélim sélvanan, an fóndaros ráimaros dúlenan dáumbar téir lóurul, dúlenan fáir þrénul
読み:ドゥセーリン セルヴァナン、アン フォンダロス ライマロス ドゥーレナン ダウンバル テール ロールル、ドゥーレナン ファイル スレーヌル
| du-þél-im | sélvan-an, | an | fóndar-os | ráimar-os | dúl-en-an | dáumbar | téir | lóur-ul, | dúl-en-an | fáir | þrén-ul |
| <〜させていただく>-名乗る-<私が> | セルヴァン-<対格> | 上手 | 源-<属格> | ライマル-<属格> | 下る-<〜した・〜された>-<軽性・対格> | 二十 | 三 | 瀬-<〜たちを> | 下る-<〜した・〜された>-<軽性・対格> | 四 | 段-<〜たちを> |
「ライマルの源から二十三瀬下りた、四段下りの者、セルヴァンと名乗らせていただきます。」
幼名は、名の語根に指小の -íña をつけた形が多いです(silíña「月っこ」、selvíña ← selvá「息」)。家族と、ごく親しい者だけが使います。目上の人が目下の人を幼名で呼ぶと、親しみにも、見下しにもなります。
人は一生のうちに何度か名前を変えます。
| 名 | つける時 | 使い方 |
|---|---|---|
| 幼名 | 生まれたとき、家で | 家族とごく親しい者だけ |
| 成名(名) | 成人の儀 | おとなの名 |
| 流名(家名) | 家系の名 | 改まった場で成名に添える |
| 官名・座名 | 役職や宮廷の位につくとき | 改まった場ではこれで呼ぶ(→ 4.7) |
| 昇名 | 亡くなって一年が過ぎ、系譜に書き入れるとき | 高める語形を添えて口にする |
次の名は口にしません。かわりに、座名・役職・住む場所・昇名・指示の言い方を使います。書くことは息を使わないので、禁じられていません。
lúin éso nébro, mé vírir þeláis.
読み:ルーイン エーソ ネーブロ、メー ヴィーリル セライス。
| lúin | és-o | nébro, | mé | vír-ir | þel-áis. |
| とき | いる-<(重いものが)> | 霧<主格> | <禁止・願いの打ち消し> | 言う-<皆で〜せよ> | 名前-<〜たちを> |
「霧が出ているときは、名を呼んではならぬ。」
高原語の語根から説明できない外来の名も、成名として扱います(híro「ヒロ」)。語の形が重性に見える名でも、人を指す限り、動詞は軽性で受けます。 人を重性で受けるのは侮辱になるからです(→ 3.2.6)。家名をもたない外の者は、フルネームの属格を添えられません。
名詞そのものの語尾は、語の形に従います(→ 3.2.3)。híro は語末が -o なので、④型(重性o語幹)として変化します。
| 格 | 形 |
|---|---|
| 主格・対格 | híro |
| 属格 | híros |
| 与格 | híroi |
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