第6章 文の組み立て

6.1 概観

高原語の文は、まず動詞が来て、そのあとに「誰が」「何を」「誰に」「どこで」が続きます(VSO)。文の種類と身分の差は、最初の動詞と、その前に置かれる小辞でわかります。小辞は否定の na・mé、問いの ké、節の頭の lúin・te・ré などです。動詞の語形を見れば、その文が言い切りか、推し量りか、願いか、命令かがわかります。話し手と聞き手の身分の差も、そこで伝わります。日本語では文の終わりで敬語や文の種類が決まりますが、高原語では文の頭で決まります。

名詞句の中では、中心の名詞が先に来て、飾りの語はすべてその後ろに並びます。「高き座」は aldár áuren、つまり「座・高き」の順です。時間は「川の流れ」として言い表し、前は上手(an)、後は下手(du)です(→ 7.7)。比べるときは「〜より上(an)」「〜より下(du)」と言います(→ 6.9)。高原語の文法は、最後まで縦の軸でできています。

6.1.1 節の全体図

この章と次の章の規則をまとめると、一つの節は左から次の順に並びます。

[ké] [時] [場所] [完了の -in 句] [主題] [疑問詞・対比] [na・mé] 動詞 [相の副詞] 主語 目的語 [与格] [前置詞句・場所・時] [, 未完了の -in 句]

位置 入るもの 決まり 節
ké 問いの小辞 文のいちばん前 6.7.2
時・場所・-in 句(場面の枠) anórel、an kórvoi、léisin sáindaran 外から内へこの順。種類ごとに一つずつ、あわせて三つまで。それぞれ読点で区切る 6.3.4
主題 gandér te sénim, 読点で区切った名詞句。他動詞の文では既定で目的語、主語なら ó を残す。繋辞の文では主語 6.3.5
疑問詞・対比 pó・pón、強く対比する語句 一つだけ。他動詞の文で前に出した、主格と対格が同じ形の語は既定で目的語 6.3.3・6.7.3
na・mé 否定の小辞 動詞の直前 6.7.1
動詞 法・人称・性の語尾 6.5・第5章
相の副詞 dóulin「もう」、unlóur「まだ」 動詞のすぐ後ろ。主語・目的語の枠に数えない 7.7.3
主語の枠 空けてよい(動詞の語尾でわかる)。前に出した、主格と対格が同じ形の主語は ó を残す 6.2・6.3.2
目的語の枠 空けてはいけない(前置き・答えの形・並べた文・目の前の物の命令を除く。目的語を特定しない使い方には枠がない) 6.3.2
与格 受け手・持ち主 裸の与格は一つだけ 6.2.1・6.6.2
前置詞句・場所・時 an・du・or・vel・un・es・sal+格 述語の形容詞のすぐ後ろの an・du+与格は比較 6.6.1・6.9
未完了の -in 句 vándin fáron 読点で区切って文の後ろに。背景として場面の枠に置いてもよい 6.10.3
(関係節のついた名詞句) lisár te séna senár 節のいちばん最後に置く。閉じずに伸ばすものは一節に一つだけ。与格・前置詞句はその前に出る。読点は開いている関係節をすべて閉じる 7.4.5

6.1.2 この章と次の章の逐語訳

例文の逐語訳では、文をつなぐ次の二つの小辞を < > の呼び名で示します(略号の一覧 → 付録C)。

どちらも接辞ではなく、独立した小さな語です。

存在の「〜がある・いる」と、「AはBだ」の繋辞は同じ動詞 és- なので、逐語訳ではどちらも「いる」と書きます。直説法には法の印がないので、直説法の動詞には人称の語尾の呼び名だけがつきます。

6.2 基本語順

6.2.1 動詞–主語–目的語–与格–その他

ふつうの語順は V – S – O – 与格(受け手)– 前置詞句・場所・時です。

lísa lisár sáindaran senárei.

読み:リーサ リサール サインダラン セナーレイ。

lís-alis-ársáindar-ansen-ár-ei.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>証文-<対格>見る-<〜する人>-<与格>

「書記が目付に証文を書く。」

dúlo gandér du dálor

読み:ドゥーロ ガンデール ドゥ ダーロル

dúl-ogandérdudálor
下る-<(重いものが)>硬木<主格>下手下の国<対格>

「硬木が下の国へ下りていく。」

áura selvá an ilánais

読み:アウラ セルヴァー アン イラーナイス

áur-aselváanilán-ais
昇る-<(軽いものが)>息<主格>上手灯-<〜たちを>

「息は星々のもとへ昇る。」

lisár は動詞 lís-「書く」に -ár「〜する人」がついた語、senár は sén-「見る」に -ár がついた語です。

6.2.2 主語の省略と強調

6.2.3 双数の主語は省けない

双数の動詞(-au)は人称を区別しません。そのため、主語を言わないと誰のことかわかりません。双数では代名詞 dáun や名詞の主語を必ず言い、言っても強調にはなりません。人称をはっきりさせたいときは、複数の代名詞を dáun の前に添えます(némor dáun「我ら二人」、társ dáun「お前たち二人」、élai dáun「あの二人」)。

gélau némor dáun du orén.

読み:ゲーラウ ネーモル ダウン ドゥ オレーン。

gél-aunémordáunduorén.
行く-<双数><我々>二人下手縁<対格>

「我ら二人は縁へ行く。」

崖道の言葉では双数が衰えていて、双数の主語を人称つきの複数の動詞で受けます。動詞から人称がわかるので、dáun を省けます。都の言葉では、双数の主語には双数の動詞を使います。

áurau sílarau an ilánais.

読み:アウラウ シーララウ アン イラーナイス。

áur-ausílar-auanilán-ais.
昇る-<双数>月-<双数>上手灯-<〜たちを>

「二つの月が、星々のほうへ昇る。」

áuran sílarau an ilánais.

読み:アウラン シーララウ アン イラーナイス。

áur-ansílar-auanilán-ais.
昇る-<彼らが>月-<双数>上手灯-<〜たちを>

「二つの月が、星々のほうへ昇る。」

gélimor du orén.

読み:ゲーリモル ドゥ オレーン。

gél-imorduorén.
行く-<我々が>下手縁<対格>

「我ら(二人)は縁へ行く。」

一つめは都の言葉、二つめと三つめは崖道の言葉です。二つめでは名詞は双数のまま、動詞は複数で受けています。

6.2.4 重い成分は後ろへ

長くて重い成分は、文の後ろへ回します。 重い成分とは、関係節つきの名詞句や「〜と」の節のことです。関係節つきの主語なら、前置詞句を先に出して、主語を文末に置きます。

dúlo du dálor gandér te kéelan kelárai.

読み:ドゥーロ ドゥ ダーロル ガンデール テ ケーラン ケラーライ。

dúl-odudálorgandértekéel-ankel-ár-ai.
下る-<(重いものが)>下手下の国<対格>硬木<主格><関係節>伐る<〜し終えた>-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>

「樵たちが伐り終えた硬木が、下の国へ下りていく。」

関係節は文の終わりか読点まで続くので、du dálor を後ろに置くと関係節の中に入ってしまいます(→ 7.4.7)。

6.2.5 詩の語順

詩では語順がかなり自由になり、主語が動詞の前に出たり、動詞が落ちたりします。会話の中に詩句を引くと、そこだけ語順が「ひっくり返って」聞こえるので、聞き手は引用だと気づきます(詩の韻律と語順 → 第10章)。

6.3 動詞の前に置くもの

6.3.1 動詞の前に出てよいもの

動詞の前に置けるのは、次のものだけです。

  1. 否定の小辞 na・mé
  2. 問いの小辞 ké
  3. 疑問詞(と、疑問詞を含む前置詞句)
  4. 節を導く小辞 lúin「〜とき」、te(関係節)、ré「〜と」
  5. 強く対比する語句:一つだけ、強勢を置いて前に出せます。「硬木を、だ(紙ではない)」のような言い方です。
  6. 場面の枠と主題の前置き:読点で区切って置きます(→ 6.3.4・6.3.5)。

na・mé は動詞の直前、ké は文のいちばん前に置きます。前に出る語句(疑問詞・対比の語句・節の小辞)がないときは、どちらも文頭に来ます。疑問詞・対比の語句と na・mé の順は 〔疑問詞・対比〕–〔na/mé〕–動詞 です。たとえば「何を量らないのか」は pón na vándes? になります。

動詞の前の並びをまとめると、次のとおりです。

[ké] [場面の枠] [主題] [疑問詞・対比] [na・mé] 動詞 主語 目的語 …

6.3.2 主語の枠と目的語の枠

他動詞の文では、動詞の後ろにいつも [主語の枠][目的語の枠] があると考えます。

dulíþo ó.

読み:ドゥリーソ オー。

dul-íþ-oó.
下る-<〜させる>-<(重いものが)><3人称単数・重性・対格>

「(それが)それを下ろす。」

他動詞の文では3人称の目的語を省かないので、単独の ó は目的語です。主語は動詞の語尾 -o でわかるので言いません。自動詞の後ろの ó は、目的語の枠がないので主語です(→ 4.2.4)。

目的語の枠を空けてよいのは、次の場合だけです。

  1. 前置きで埋まっている:目的語を動詞の前に出したとき(→ 6.3.3)と、関係節の要が目的語のとき(→ 7.4.2)。
  2. 答えの形:問いの動詞を繰り返して答えるときは、問いに出た目的語を言わなくてかまいません(→ 6.7.2)。
  3. 同じ目的語を受けて文を並べるとき:二つめの文では省けます(→ 6.10.2)。
  4. 目の前の物を指して言う命令:指さしや手渡しで物がはっきりしているときは省けます(lís!「書け」)。

ké líses sáindaran? lísim.

読み:ケー リーセス サインダラン?リーシン。

kélís-essáindar-an?lís-im.
<〜か>書く-<あなたが>証文-<対格>書く-<私が>

「「証文を書くか」「書く」」

lísa lisár sáindaran si lúuma ausenár.

読み:リーサ リサール サインダラン シ ルーマ アウセナール。

lís-alis-ársáindar-ansilúum-aau-sen-ár.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>証文-<対格>とご覧になる-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格>

「書記が証文を書き、目付殿がご覧になる。」

6.3.3 前に出した語の読み方

重性の名詞・代名詞・疑問詞のように主格と対格が同じ形の語は、動詞の前に出すと語順の手がかりがなくなります。枠の考え方で、次のように決まります。

  1. 他動詞の文で前に出した、主格と対格が同じ形の語は、既定で目的語として読みます。 前に出した語が目的語の枠を埋めるので、後ろに残った語は主語の枠に入ります。後ろに残ったのが ó でも同じで、このときの ó は主語です。
  2. 前に出した、主格と対格が同じ形の語が主語のときは、空いた主語の枠に再述の ó を残します。 ó が主語の枠を埋めるので、その次の語は目的語に決まります。
  3. 自動詞の文には目的語の枠がないので、前に出した語はそのまま主語です。

fáron dulíþo ílmo.

読み:ファーロン ドゥリーソ イルモ。

fárondul-íþ-oílmo.
荷<対格>下る-<〜させる>-<(重いものが)>水<主格>

「荷をこそ、水が下ろす。」

gandér dulíþo ó.

読み:ガンデール ドゥリーソ オー。

gandérdul-íþ-oó.
硬木<対格>下る-<〜させる>-<(重いものが)><3人称単数・重性・主格>

「硬木をこそ、それが下ろす。」

ílmo dulíþo ó fáron.

読み:イルモ ドゥリーソ オー ファーロン。

ílmodul-íþ-oófáron.
水<主格>下る-<〜させる>-<(重いものが)><3人称単数・重性・主格>荷<対格>

「水こそが、荷を下ろす。」

ó dúlo.

読み:オー ドゥーロ。

ódúl-o.
<3人称単数・重性・主格>下る-<(重いものが)>

「ほかでもなく、それが下りていく。」

ó が二つ続くとき。 重性の主語を前に出し、目的語も ó で受けると、主語の枠の ó と目的語の枠の ó が並びます(gandér dulíþo ó ó「硬木こそが、それを下ろす」)。文法上は正しい形ですが、都の人はとくに嫌い、目的語を名詞で言い直します。縁の言葉では一語に縮めて óo と言います。póso「これは何だ」と同じ種類の縮約です。

gandér dulíþo óo.

読み:ガンデール ドゥリーソ オー。

gandérdul-íþ-oóo.
硬木<主格>下る-<〜させる>-<(重いものが)><3人称単数・重性・NOM+ACC>

「硬木こそが、それを下ろす。」

疑問詞の既定の読みは方言によって違います。 疑問詞も同じ規則に従いますが、都の言葉では「何を」を pón で言い分けるので、pó は主格です。崖道や縁の言葉では pón を使わないので、pó は既定で目的語として読みます。そのため、pó dulíþo gandér? は、都では「何が硬木を下ろすのか」、崖道では「硬木は何を下ろすのか」と、逆の意味になります。崖道で主語を尋ねるときは、主語の枠に ó を残します(pó dulíþo ó gandér?)。都の役人と崖道の運び人の問答がすれ違う、よくある種です(→ 6.7.3)。

6.3.4 場面の枠

場面の枠には、文全体の場所や時を置きます(an kórvoi「倉の北側では」、anórel「昨日」)。対比ではなく、これから話す場面を示すだけです。後ろに短い切れ目(書き言葉では読点)を入れます。強勢を置いて切れ目なく続ける対比の語句とは、この切れ目で区別します。

an kórvoi, pó éso?

読み:アン コルヴォイ、ポー エーソ?

ankórv-oi,póés-o?
上手倉-<与格>何<主格>いる-<(重いものが)>

「倉の北側には、何があるか。」

ké an kórvoi, éso ílmo klér?

読み:ケー アン コルヴォイ、エーソ イルモ クレール?

kéankórv-oi,és-oílmoklér?
<〜か>上手倉-<与格>いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい

「倉の北側では、水は冷たいか。」

anórel, léisa lisár plánan.

読み:アノーレル、レーサ リサール プラーナン。

anórel,léis-alis-árplán-an.
昨日書く<〜し終えた>-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>

「昨日、書記は帳簿を書き終えた。」

場面の枠に複数の要素を置くときは、外から内へ、時 → 場所 → -in の句の順に並べます。広い場面から始めて、直前の出来事を経て、動詞にたどり着く順です。それぞれ読点で区切ります。場面の枠に置けるのは、時・場所・-in の句を一つずつ、あわせて三つまでです。

anórel, an kórvoi, léisin sáindaran, méira lisár élan senárei.

読み:アノーレル、アン コルヴォイ、レーシン サインダラン、メーラ リサール エーラン セナーレイ。

anórel,ankórv-oi,léis-insáindar-an,méir-alis-árél-ansen-ár-ei.
昨日上手倉-<与格>書く<〜し終えた>-<〜して・〜く>証文-<対格>与える-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格><3人称単数・軽性>-<対格>見る-<〜する人>-<与格>

「昨日、倉の北側で、証文を書き終えて、書記はそれを目付に渡した。」

「それを」は軽性の証文を受けるので élan です。

6.3.5 主題の前置き

名詞句(とくに関係節のついた名詞句)を、読点で区切って前に出すことができます。これから話す「〜は」にあたり、場面の枠の後ろ、疑問詞・対比の前に置きます。

gandér te sénim, dulíþo ílmo.

読み:ガンデール テ セーニン、ドゥリーソ イルモ。

gandértesén-im,dul-íþ-oílmo.
硬木<対格><関係節>見る-<私が>下る-<〜させる>-<(重いものが)>水<主格>

「私が見た硬木を、水が下ろす。」

gandér te sénim, dulíþo ó ílmo.

読み:ガンデール テ セーニン、ドゥリーソ オー イルモ。

gandértesén-im,dul-íþ-oóílmo.
硬木<主格><関係節>見る-<私が>下る-<〜させる>-<(重いものが)><3人称単数・重性・主格>水<対格>

「私が見た硬木が、水を下ろす。」

ké gandér te sénim, dulíþo ílmo?

読み:ケー ガンデール テ セーニン、ドゥリーソ イルモ?

kégandértesén-im,dul-íþ-oílmo?
<〜か>硬木<対格><関係節>見る-<私が>下る-<〜させる>-<(重いものが)>水<主格>

「私が見た硬木を、水が下ろすのか。」

6.3.6 対比の語句

対比の語句は一つだけ置けます。場面の枠と対比の語句は、同じ文に両方置けます。対比の語句はふつう切れ目なく動詞に続けますが、前に出した名詞句が指示詞 té「あの」で終わるときだけは、té の後ろに区切りの印を打ちます。区切りがないと、関係節の te と読まれるからです(→ 7.4.8)。

lisáran té, séna senár.

読み:リサーラン テー、セーナ セナール。

lis-ár-anté,sén-asen-ár.
書く-<〜する人>-<対格>あの<軽性>見る-<(軽いものが)>見る-<〜する人・主格>

「あの書記をこそ、目付が見る。」

6.4 名詞句の並び

名詞句の内部の詳しい規則は第4章で扱います(→ 第4章)。ここでは、文の組み立てにかかわる並び順と、その読み分けをまとめます。

〔数詞・量の名詞〕+ 名詞 + 形容詞・分詞 + 属格 + 指示詞・不定の ín + 関係節

dúlo gandér kélen kelárar só du orén.

読み:ドゥーロ ガンデール ケーレン ケラーラル ソー ドゥ オレーン。

dúl-ogandérkél-enkel-ár-arsóduorén.
下る-<(重いものが)>硬木<主格>伐る-<〜した・〜された>伐る-<〜する人>-<〜らの>この<重性>下手縁<対格>

「樵たちが伐ったこの硬木が、縁へ下りていく。」

分詞は重性・単数・主格なので一致の語尾がありません。分詞の後ろの属格 kelárar は「樵たちによって」の意味です。関係節がないので、重性の指示詞 só が名詞句の終わりの目印になり、du orén は主節にかかります。

sénim plíndo lísen lisáres senáres só.

読み:セーニン プリンド リーセン リサーレス セナーレス ソー。

sén-implíndolís-enlis-ár-essen-ár-essó.
見る-<私が>荷札<対格>書く-<〜した・〜された>書く-<〜する人>-<属格>見る-<〜する人>-<属格>この<重性>

「私は、書記が書いた目付のこの荷札を見る。」

sénim lónan áurenan sélvanes.

読み:セーニン ローナン アウレナン セルヴァネス。

sén-imlón-anáur-en-ansélvan-es.
見る-<私が>柱の木-<対格>昇る-<〜した・〜された>-<対格>セルヴァン-<属格>

「私はセルヴァンの高い柱の木を見る。」

éso fáron némes gróm.

読み:エーソ ファーロン ネーメス グローン。

és-ofáronném-esgróm.
いる-<(重いものが)>荷<主格><私>-<属格>重い

「私の荷は重い。」

éso fáron gróm némes só.

読み:エーソ ファーロン グローン ネーメス ソー。

és-ofárongrómném-essó.
いる-<(重いものが)>荷<主格>重い<私>-<属格>この<重性>

「この、私の重い荷がある。」

éso ílmo klér ín an kórvoi.

読み:エーソ イルモ クレール イーン アン コルヴォイ。

és-oílmoklérínankórv-oi.
いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい一上手倉-<与格>

「倉の北側に、冷たい水がある。」

sán fáronul grómul ín an kórvoi.

読み:サーン ファーロヌル グロームル イーン アン コルヴォイ。

sánfáron-ulgróm-ulínankórv-oi.
いる<彼らが>荷-<〜たちが>重い-<〜たちが>一上手倉-<与格>

「倉の北側に、重い荷がいくつかある。」

éso ín fáron gróm ín an kórvoi.

読み:エーソ イーン ファーロン グローン イーン アン コルヴォイ。

és-oínfárongrómínankórv-oi.
いる-<(重いものが)>一荷<主格>重い一上手倉-<与格>

「倉の北側に、重い荷が一つある。」

6.5 述語の形

6.5.1 動詞が文の性格を決める

動詞は一つの語の中に、法(言い切り・推量・願望・命令・当為・仮定)と、人称・数・性をまとめて持っています。法を表す助動詞は使いません。法はすべて動詞の語形そのもので表します(法の形 → 第5章)。

時制を表す語形はないので、確かでない未来のことは推量法で言います。決まった予定や、必ず起こると話し手が請け合えることは、直説法のままで言います(dórel gélim du orén.「明日、縁へ行く」)。過ぎたことは直説法か完了相で言います(→ 5.1.2)。

6.5.2 「〜である」の文:繋辞 és-

「AはBだ」「Aは〜い」も動詞 és- で始めます。順序は és- + 主語 + 述語 です。述語の形容詞は主語に一致します。

ésa lisím sélvanes gléin.

読み:エーサ リシーン セルヴァネス グレーン。

és-alis-ímsélvan-esgléin.
いる-<(軽いものが)>書く-<〜の技・〜さ・主格>セルヴァン-<属格>清い

「セルヴァンの書法は清い。」

主語の lisím「書法」が軽性なので、繋辞は -a、述語の形容詞 gléin も軽性・主格の形(語尾なし)になります。

諺と詩では és- を落とし、述語を先に置きます:gléin selvá, áuren virá「清きは息、高きは言葉」。ふだんの名詞句は「名詞+形容詞」の順なので、形容詞が先頭に来ると、それだけで「これは格言だ」と伝わります。

述語が名詞のときは、その名詞を自分の性・主格のまま置きます。主語に一致させるのは形容詞だけで、名詞は形を変えません。動詞は主語に一致します。

na éso nébro fléura.

読み:ナ エーソ ネーブロ フレウラ。

naés-onébrofléura.
<〜ない>いる-<(重いものが)>霧<主格>雲

「霧は雲ではない。」

動詞は霧に合わせて重性の -o で、雲 fléura は軽性の名詞のままです。

「〜になる」 は wéin- で言い、なったものは対格に置きます。変化を「行き着く先への移動」と見るからです。また、és- の完了 wéir- は「〜であるようになった」で、なった結果の今の状態に重きがあります。

wéinsa ólmar ilánan.

読み:ウェーンサ オルマル イラーナン。

wéins-aólmarilán-an.
なる<〜し終えた>-<(軽いものが)>年長者<主格>灯-<対格>

「年長の方は星になった。」

wéira ólmar senár.

読み:ウェーラ オルマル セナール。

wéir-aólmarsen-ár.
いる<〜し終えた>-<(軽いものが)>年長者<主格>見る-<〜する人・主格>

「年長の方は目付になった(今は目付である)。」

一つめは、死後一年が過ぎて昇名が定まった死者について言う言い方です。二つめの述語 senár は主格のまま置かれています。

6.5.3 形容詞は名詞を飾るのか、述語なのか

主語が名詞一語だけだと、名詞を飾る形容詞と述語の形容詞が同じ並びになります。そこで、次の順に読み分けます。

  1. まず名詞句の境目を見ます。 属格の後ろの形容詞は名詞句の外にあるので述語です(éso fáron némes gróm.「私の荷は重い」)。指示詞・ín の前の形容詞は名詞句の中にあるので、名詞を飾るものです(→ 6.4)。境目がこれで決まれば、後ろに何が来ても読みは変わりません。
  2. 境目が決まらないとき(主語が「名詞+形容詞」だけのとき)は、その後ろにある節の与格(持ち主の裸の与格や、場所の前置詞+与格)を手がかりにします。és- の文で、名詞句の後ろに節の与格があれば、存在・所有の文として読み、形容詞は名詞を飾るものとします。
  3. ただし、述語の形容詞のすぐ後ろの an・du+与格 は比較として読み、2 より優先します(→ 6.9)。

与格を手がかりにするのは 2 の場合だけです。比較の基準や、名詞句の中の与格(ormároi némes「私の左に」の与格など)は、節の与格には数えません。

éso fáron gróm némei.

読み:エーソ ファーロン グローン ネーメイ。

és-ofárongrómném-ei.
いる-<(重いものが)>荷<主格>重い<私>-<与格>

「私には重い荷がある。」

éso fáron gróm só némei.

読み:エーソ ファーロン グローン ソー ネーメイ。

és-ofárongrómsóném-ei.
いる-<(重いものが)>荷<主格>重いこの<重性><私>-<与格>

「私には、この重い荷がある。」

éso ílmo klér un kórvoi.

読み:エーソ イルモ クレール ウン コルヴォイ。

és-oílmoklérunkórv-oi.
いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい内に倉-<与格>

「倉の中に冷たい水がある。」

un kórvoi, éso ílmo klér.

読み:ウン コルヴォイ、エーソ イルモ クレール。

unkórv-oi,és-oílmoklér.
内に倉-<与格>いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい

「倉の中では、水は冷たい。」

6.5.4 受け身にあたる言い方

受け身の専用の形はありません。「és- + 主語 + 分詞」で結果の状態を言います(éso gandér kélen「硬木は伐られている」)。誰がしたかを言いたいときは、属格を添えます(kélen kelárar「樵たちに伐られた」)。

6.5.5 「〜できる」:副動詞 + vúur-「届く」・þíl-「分かる」

「〜できる」を表す語尾はありません。する動詞を副動詞 -in にして、そのすぐ後ろに vúur-「届く」 か þíl-「分かる」 を置きます。

dulíþin vúurimor gandér.

読み:ドゥリーシン ヴーリモル ガンデール。

dul-íþ-invúur-imorgandér.
下る-<〜させる>-<〜して・〜く>届く-<我々が>硬木<対格>

「我々は硬木を下ろせる。」

二つの動詞は意味で使い分けます。

na dulíþin vúuro fúnel gandér du dálor.

読み:ナ ドゥリーシン ヴーロ フーネル ガンデール ドゥ ダーロル。

nadul-íþ-invúur-ofúnelgandérdudálor.
<〜ない>下る-<〜させる>-<〜して・〜く>届く-<(重いものが)>綱<主格>硬木<対格>下手下の国<対格>

「綱は硬木を下の国まで下ろせない。」

lísin þíla endríña lisáis.

読み:リーシン シーラ エンドリーニャ リサイス。

lís-inþíl-aendríñalis-áis.
書く-<〜して・〜く>分かる-<(軽いものが)>子ども<主格>字-<〜たちを>

「その子は字が書ける。」

ké rímbin þíles?

読み:ケー リンビン シーレス?

kérímb-inþíl-es?
<〜か>数える-<〜して・〜く>分かる-<あなたが>

「お前は数えられるのか。」

rímbin þílim, salóur na rímbin vúurim sórel.

読み:リンビン シーリン、サロール ナ リンビン ヴーリン ソーレル。

rímb-inþíl-im,salóurnarímb-invúur-imsórel.
数える-<〜して・〜く>分かる-<私が>しかし<〜ない>数える-<〜して・〜く>届く-<私が>今日

「数え方は知っているが、今日は数えられない。」

形 完了を置く動詞 意味
dulíþin vúursimor 後ろ(vúur-) 下ろせた(実際に下ろすことができた。手が届いた)
dulíþin vúurimor dóulin なし(相の副詞) もう下ろせる(下ろせるようになった)
doulíþin vúurimor 前(dulíþ- の完了 doulíþ-) 下ろし終えることができる

6.6 存在と所有

6.6.1 存在:「〜がある・いる」

「és- + 主語 + 場所」で言います。場所は与格か、前置詞+与格で表します(éso nébro an orénoi.「縁の上手に霧がある」)。動詞の後ろに与格があるので、形容詞があってもそれは名詞を飾るものと読みます(→ 6.5.3)。

場所も持ち主も言わない存在文は、閉じの目印があればそのままで成り立ちます。éso fáron gróm némes só.「この、私の重い荷がある」では、só が名詞句を閉じているので、gróm は名詞を飾るものと決まり、文は存在の文になります(→ 6.5.3 の 1)。閉じの目印も場所もなく、述語の形容詞の文と紛れるときだけ、un méndalei「中の世界に(この世に)」を添えます。éso fáron gróm. のままでは「荷は重い」としか読めないからです。生きている人の住む世界を「中」と呼ぶ高原の世界観から来た言い方です。くだけた言葉では séndoi「ここに」で代えます。

éso fáron gróm un méndalei.

読み:エーソ ファーロン グローン ウン メンダレイ。

és-ofárongrómunméndal-ei.
いる-<(重いものが)>荷<主格>重い内に中-<与格>

「重い荷がある(この世にある)。」

新しいものを紹介する存在の文では、名詞句を不定の ín で閉じます(→ 6.4)。

前置詞は組む格で意味が変わります。 対格なら「〜へ」、与格なら「〜で」、属格なら「〜から」です(前置詞の一覧 → 第4章)。an(上手)・du(下手)・or(日の出側)・vel(日の入り側)と同じく、un「〜の中」も、対格なら「〜の中へ」、与格なら「〜の中で」(un kórvoi)、属格なら「〜の中から」になります。sal「〜の外に」も同じです。es「〜から」だけは属格としか組みません。

gélim un kórvo.

読み:ゲーリン ウン コルヴォ。

gél-imunkórvo.
行く-<私が>内に倉<対格>

「私は倉の中へ行く。」

tóra éndra un kórvos.

読み:トーラ エンドラ ウン コルヴォス。

tór-aéndraunkórv-os.
来る-<(軽いものが)>人<主格>内に倉-<属格>

「人が倉の中から来る。」

an は北か、高い方か。 高原はふつう北ほど高いので、二つは重なります。ずれるのは、北へ下る斜面のような場所です。

dúlim an dún.

読み:ドゥーリン アン ドゥーン。

dúl-imandún.
下る-<私が>上手丘<対格>

「私は丘の北側へ下る。」

方角と左右。 地形や道案内は絶対方位(an 上手・du 下手・or 日の出側・vel 日の入り側)で言います。いっぽう、体・家の中・宮廷の並び・書き物の上では、左右 ormár「左(日の出の手)」・velmár「右(日の入りの手)」を使います。北の上座から南を見下ろす姿勢を基準に生まれた語で、今はどちらを向いていても体の左右を指します。「〜の左に」は与格の後ろに持ち主の属格を置きます。左のほうが尊い側とされ、位の高い人を左に置きます。

ésa endríña ormároi némes.

読み:エーサ エンドリーニャ オルマーロイ ネーメス。

és-aendríñaormár-oiném-es.
いる-<(軽いものが)>子ども<主格>左-<与格><私>-<属格>

「子どもは私の左にいる。」

6.6.2 所有:「私には〜がある」

高原語には「持つ」という動詞がありません。持ち主は与格で言います。

éso fáron némei.「私には荷がある」(逐語訳:ある・荷が・私に)

éso sáko némei un kórvoi.

読み:エーソ サーコ ネーメイ ウン コルヴォイ。

és-osákoném-eiunkórv-oi.
いる-<(重いものが)>塩<主格><私>-<与格>内に倉-<与格>

「私には倉の中に塩がある。」

所有の問いと答えでは、動詞が物に一致しているので、答えの動詞は人称を変えません(→ 6.7.2)。

6.7 否定・疑問・答え方

6.7.1 否定

mé vír sélvanan nébroi!

読み:メー ヴィール セルヴァナン ネーブロイ!

mévírsélvan-annébr-oi!
<禁止・願いの打ち消し>言う<命令法><あなたが>セルヴァン-<対格>霧-<与格>

「霧の中で、セルヴァンの名を呼ぶな。」

名前を vír-「言う」の目的語にすると、「名を呼ぶ」の意味になります。霧の中で名前を呼んではいけない、という禁忌の言い方です。

éso dún náuren.

読み:エーソ ドゥーン ナウレン。

és-odúnn-áur-en.
いる-<(重いものが)>丘<主格><〜ない>-昇る-<〜した・〜された>

「丘は高からぬ(低い)。」

na éso ílmo nagléin.

読み:ナ エーソ イルモ ナグレーン。

naés-oílmona-gléin.
<〜ない>いる-<(重いものが)>水<主格><〜ない>-清い

「水は清からぬものではない(悪くない水だ)。」

6.7.2 はい・いいえの問いと答え方

ké éso tambór tásei? na éso tambór némei.

読み:ケー エーソ タンボール ターセイ?ナ エーソ タンボール ネーメイ。

kéés-otambórtás-ei?naés-otambórném-ei.
<〜か>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><あなた>-<与格><〜ない>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><私>-<与格>

「「お前、雑穀はあるか?」「私には雑穀はない。」」

ké gélau társ dáun du orén? gélau.

読み:ケー ゲーラウ タルス ダウン ドゥ オレーン?ゲーラウ。

kégél-autársdáunduorén?gél-au.
<〜か>行く-<双数><あなたがた>二人下手縁<対格>行く-<双数>

「「お前たち二人は縁へ行くのか」「行く」」

ké an kórvoi, éso ílmo klér? éso.

読み:ケー アン コルヴォイ、エーソ イルモ クレール?エーソ。

kéankórv-oi,és-oílmoklér?és-o.
<〜か>上手倉-<与格>いる-<(重いものが)>水<主格>冷たいいる-<(重いものが)>

「「倉の北側では、水は冷たいか」「冷たい」」

双数の動詞は人称で形が変わらないので、「お前たち二人」と聞かれて「我ら二人」と答えるときも gélau のままです。所有の問いの éso と同じく、動詞の形が変わらない答えの例です。

6.7.3 疑問詞

疑問詞も名詞と同じように格で形が変わり、文の先頭(場面の枠と主題の後ろ)に出ます。

主格 対格 属格 与格
pá「誰」(軽性) pá pán pés péi
pó「何」(重性) pó pón(前置詞の後ろでは pó) pós pói

pá éses? es pós tóres?

読み:パー エーセス?エス ポース トーレス?

páés-es?espóstór-es?
誰<述語><主格>いる-<あなたが>から何<属格>来る-<あなたが>

「お前は誰だ。どこから来た?(なぜ来た?)」

pán þéles? þélim sélvanan.

読み:パーン セーレス?セーリン セルヴァナン。

pánþél-es?þél-imsélvan-an.
誰<対格>名乗る-<あなたが>名乗る-<私が>セルヴァン-<対格>

「「何と名乗る?」「セルヴァンと名乗る。」」

どちらも2人称を使っているので、下向きの問いです。一つめの pá は、主語(2人称の「お前」。動詞の語尾 -es が示す)ではなく、「お前は誰だ」の「誰」にあたる述語の名詞です。述語の名詞は主格で置くので(→ 6.5.2)、逐語訳では <述語> を添えて主語と区別します。名は軽性なので、目的語では対格 -an がつきます。

「何が」と「何を」は pó と pón で言い分けます。 重性の名詞は主格と対格が同じ形なので、疑問詞が前に出ると、残った名詞が主語か目的語かを語順では決められません。そこで目的語を尋ねるときは対格 pón を使います。

pón dulíþo gandér?

読み:ポーン ドゥリーソ ガンデール?

póndul-íþ-ogandér?
何<対格>下る-<〜させる>-<(重いものが)>硬木<主格>

「硬木は何を下ろすのか。」

pó dulíþo gandér?

読み:ポー ドゥリーソ ガンデール?

pódul-íþ-ogandér?
何<主格>下る-<〜させる>-<(重いものが)>硬木<対格>

「何が硬木を下ろすのか。」

6.7.4 目上の人への問い

目上の人がからむ問いでは、話し手・聞き手・話題の人の三者の関係で言い方が決まります。

聞き手 話題の人 言い方
目上の人本人 聞き手その人 ké を使わず、推量法の動詞で事柄を推し量る。疑問詞は使わない
同輩・目下 目上の人 話題の人を au- の3人称で言い、推量法にする。疑問詞を使ってよい
目上の人 さらに別の目上の人 謙譲の dupovér-「お尋ねいたします」+ré で、問いを包んで差し出す

gloiréla aulisár es orénos

読み:グロイレーラ アウリサール エス オレーノス

gloir-él-aau-lis-áresorén-os
お越しになる-<〜だろう>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-書く-<〜する人・主格>から縁-<属格>

「書記の方は縁からお越しになったのでしょうか。」

du pó fleiréla ausenár?

読み:ドゥ ポー フレイレーラ アウセナール?

dupófleir-él-aau-sen-ár?
下手何<対格>お出ましになる-<〜だろう>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格>

「目付殿は、下手のどちらへお出ましになるのでしょうか。」

6.7.5 否定の範囲と取り立て:「だけ」「も」「さえ」

否定の範囲。 na は、原則として、その節の述語の内容を打ち消します。後ろにある時や場所の語句まで打ち消すわけではありません(na lísa lisár plánan anórel. は「書記は昨日、帳簿を書かなかった」で、「昨日ではない」ではありません)。数量の語と組み合わせたときは、語によって打ち消し方が決まります。

言いたいこと 言い方 例
人の全部の否定(誰も〜ない) na + 動詞 … páin「誰か」 na tóra páin kelárar.「樵は誰も来なかった」
物の全部の否定(何も〜ない) na + 動詞 … póin「何か」 na éso póin un kórvoi.「倉の中には何もない」
部分の否定(みなが〜したわけではない) na + 動詞 … ómbra「みな」 na tóran ómbra kelárar.「樵がみな来たわけではない」
全部の否定を強く言う 対比の位置に ómbra を出してから na ómbra kelárar na tóran.「樵はみな、来なかった」

na tóra páin kelárar.

読み:ナ トーラ パイン ケラーラル。

natór-apáinkel-ár-ar.
<〜ない>来る-<(軽いものが)>誰も<主格>伐る-<〜する人>-<〜らの>

「樵は誰も来なかった。」

na tóran ómbra kelárar.

読み:ナ トーラン オンブラ ケラーラル。

natór-anómbrakel-ár-ar.
<〜ない>来る-<彼らが>みな<主格>伐る-<〜する人>-<〜らの>

「樵がみな来たわけではない。」

páin・póin は na と組むと全部の否定に、ómbra は na と組むと部分の否定(「来なかった者もいる」)になります。ómbra を動詞の前の対比の位置に出すと、「みなについて、来なかった」という全部の否定を強く言う形になります。

取り立ての小辞。 「だけ」「も」は、名詞句のすぐ後ろに小辞を置いて言います。どちらも名詞句の格を変えません。主語を取り立てるときは、主語を必ず言います。

小辞 意味 例
inlóur 〜だけ(ほかを除く。字義「一つの瀬に」) tóra lisár inlóur.「書記だけが来た」
silóur 〜も(ほかと並べる。字義「同じ瀬に並んで」) tóra lisár silóur.「書記も来た」
対比の位置 + silóur 〜さえ(いちばんありそうにないものまで並べる) lisár silóur tóra.「書記さえ来た」

tóra lisár inlóur.

読み:トーラ リサール インロール。

tór-alis-árinlóur.
来る-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>だけ

「書記だけが来た。」

lísa lisár sáindaran inlóur.

読み:リーサ リサール サインダラン インロール。

lís-alis-ársáindar-aninlóur.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>証文-<対格>だけ

「書記は証文だけを書いた。」

lisár silóur tóra.

読み:リサール シロール トーラ。

lis-ársilóurtór-a.
書く-<〜する人・主格>も来る-<(軽いものが)>

「書記さえ来た。」

6.8 命令と依頼:四つの言い方

同じ「この帳簿を見て」という頼みでも、相手との段の差によって、言い方が四通りに分かれます。

場 形 例
下向き(相手が下) 命令法・2人称 sén plánan sé!
並び(同じ段) 願望法・2人称 senéndes plánan sé.「見てくれぬか」
上向き(相手が上) 願望法・3人称。相手は役職名+au-、動詞は補充形 luuménde ausenár plánan sé.
縁の市 むき出しの語幹+格語尾なし+ende sén plána, ende.

luuménde ausenár plánan sé.

読み:ルーメンデ アウセナール プラーナン セー。

luum-énd-eau-sen-árplán-ansé.
ご覧になる-<〜しますように>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格>帳簿-<対格>この<軽性>

「目付殿に、この帳簿をご覧いただきたく存じます。」

aulisénde aulisár sáindaran

読み:アウリセンデ アウリサール サインダラン

au-lis-énd-eau-lis-ársáindar-an
<お〜になる・御〜>-書く-<〜しますように>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-書く-<〜する人・主格>証文-<対格>

「書記の方に、証文をお書きいただきたく存じます。」

同じ用件を、縁の市の言葉と都の手代の改まった言葉で言い比べると、次のようになります。

ván fáron, ende

読み:ヴァーン ファーロン、エンデ

vánfáron,ende
量る<命令法><あなたが>荷<対格>どうぞ

「荷を量ってくれ、頼む。」

aubandénde ausenár fáron

読み:アウバンデンデ アウセナール ファーロン

au-band-énd-eau-sen-árfáron
<お〜になる・御〜>-量る-<〜しますように>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格>荷<対格>

「目付殿に、荷をお量りいただきたく存じます。」

vánd- をむき出しの語幹で言うと、語末の nd が n に削られて ván になります。au- と v- がくっつくと aub- になります(→ 第8章・第10章)。

sén, senéndes plánan sé.

読み:セーン、セネンデス プラーナン セー。

sén,sen-énd-esplán-ansé.
見る<命令法><あなたが>見る-<〜しますように>-<あなたが>帳簿-<対格>この<軽性>

「見ろ……いや、この帳簿を見てくれぬか。」

最初の sén は市のむき出しの語幹と同じ形ですが、格語尾つきの plánan と指示詞 sé が続き、ende がないので、市の言葉ではなく命令法だとわかります。

6.9 比較

比べるときも高さで言います。

ésa lóna áuren an pélsei.

読み:エーサ ローナ アウレン アン ペルセイ。

és-alónaáur-enanpéls-ei.
いる-<(軽いものが)>柱の木<主格>昇る-<〜した・〜された>上手脂の木-<与格>

「柱の木は脂の木より高い。」

立っている木なので、柱の木は軽性です。

6.9.1 比較と場所の見分け方

éso ílmo klér an kórvoi.

読み:エーソ イルモ クレール アン コルヴォイ。

és-oílmoklérankórv-oi.
いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい上手倉-<与格>

「水は倉より冷たい。」

an kórvoi, éso ílmo klér.

読み:アン コルヴォイ、エーソ イルモ クレール。

ankórv-oi,és-oílmoklér.
上手倉-<与格>いる-<(重いものが)>水<主格>冷たい

「倉の北側では、水は冷たい。」

名詞を飾る形容詞の比較。 比較の句は、それがかかる形容詞のすぐ後ろに置きます。名詞を飾る形容詞の比較なら、比較の句も名詞句の中に入り、その後ろで指示詞か ín が名詞句を閉じます。閉じの目印を越えて形容詞と結びつくことはできないので、閉じの後ろの an・du+与格は、もう比較ではありません(→ 4.6.3)。

並び 比較の句がかかるもの 例
名詞+形容詞+比較+閉じ 名詞を飾る形容詞 lónan áurenan an pélsei ín「脂の木より高い、ある柱の木を」
名詞+形容詞+閉じ+an・du+与格 (比較ではない)文の場所 ílmo klér ín an kórvoi「倉の北側に、冷たい水が」
名詞+述語の形容詞+比較 述語の形容詞 ésa lóna áuren an pélsei.「柱の木は脂の木より高い」

sénim lónan áurenan an pélsei ín.

読み:セーニン ローナン アウレナン アン ペルセイ イーン。

sén-imlón-anáur-en-ananpéls-eiín.
見る-<私が>柱の木-<対格>昇る-<〜した・〜された>-<対格>上手脂の木-<与格>一

「脂の木より高い柱の木が見える。」

時の句(an nébroi「霧の前に」)は場面の枠か文の後ろに置き、述語の形容詞のすぐ後ろには置かないので、比較の読みとはぶつかりません(→ 7.7)。

6.9.2 下向きの性質を比べるとき

文法の規則は一つです。その性質の程度がまさるなら an、劣るなら du です。「より重い」は、重さの程度がまさるので an で言います。

éso gandér gróm an lónei.「硬木は柱の木より重い」

ただし、an には「上へ」という、ほめる響きがつきまといます。そのため、「重い」「濁った」のような下向きの性質を an で比べると、「上手に重い」と、ちぐはぐで皮肉な響きになります。

6.10 並べる(等位)

6.10.1 名詞を並べる

「AとB」は A si B と言います。si には強勢がなく、後ろの語に寄りかかって発音されます。

動詞の数。

並べた主語の人称。 三つ以上を並べて複数で受けるとき(崖道では二つでも)、動詞の人称は 1人称>2人称>3人称 の順に優先します。

gélimor ném si sélvan si silára du orén.

読み:ゲーリモル ネーン シ セルヴァン シ シラーラ ドゥ オレーン。

gél-imornémsisélvansisiláraduorén.
行く-<我々が><私>とセルヴァン<主格>とシラーラ<主格>下手縁<対格>

「私とセルヴァンとシラーラは縁へ行く。」

gélers tás si sélvan si silára du orén.

読み:ゲーレルス タース シ セルヴァン シ シラーラ ドゥ オレーン。

gél-erstássisélvansisiláraduorén.
行く-<あなたがたが><あなた>とセルヴァン<主格>とシラーラ<主格>下手縁<対格>

「お前とセルヴァンとシラーラは縁へ行く。」

並べた主語の性。 形容詞・分詞・指示詞・代名詞は、人が一人でも含まれれば軽性、物どうしならいちばん近い語の性に合わせます(→ 第3章)。動詞は双数・複数とも性を区別しません。

ésau éndra si fáron káilau.

読み:エーサウ エンドラ シ ファーロン カイラウ。

és-auéndrasifáronkáil-au.
いる-<双数>人<主格>と荷<主格>乾いた-<双数>

「人と荷は乾いている。」

目上の人を並べるとき。

fléira aulisár si tóra faronár.

読み:フレーラ アウリサール シ トーラ ファロナール。

fléir-aau-lis-ársitór-afaron-ár.
お出ましになる-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-書く-<〜する人・主格>と来る-<(軽いものが)>荷-<〜する人・主格>

「書記の方がお出ましになり、運び人も来る。」

6.10.2 文をつなぐ小辞

文と文をつなぐ小辞は、二つめの文の頭に置きます(文1, 小辞 文2)。疑問の ké、疑問詞、前に出した対比の語句、na・mé は、すべてその後ろに来ます。

小辞 意味 字義・成り立ち 強勢
si そして(並列) 名詞の「と」と同じ語 なし
duói それから(継起) du「下手」+ ói「それに」:「それの下手で」 あり
salóur しかし(逆接) sal「〜の外に」+ lóur「瀬」:「瀬の外に」 あり
orvél または(選択) or「日の出側」+ vel「日の入り側」 あり
esós だから(理由・結果) es「から」+ ós「それの」:「それから」 あり

si は二つの出来事を同じ高さに並べます。強勢がなく、前に切れ目も入りません。同じ目的語を受ける二つめの文では、目的語の枠を空けてかまいません(→ 6.3.2)。

lísa lisár sáindaran si lúuma ausenár.

読み:リーサ リサール サインダラン シ ルーマ アウセナール。

lís-alis-ársáindar-ansilúum-aau-sen-ár.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>証文-<対格>とご覧になる-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格>

「書記が証文を書き、目付殿がご覧になる。」

duói は、前の出来事を上手、後の出来事を下手に置いて、順序をはっきりさせます。時の流れを重いものと見るので、前の文全体を重性の ó で受けています。年代記を読み上げるときや、系譜を唱えるときの改まった響きもあります。くだけた言葉では dói と縮みます。

léisa lisár plánan, duói dúlo fáron du orén.

読み:レーサ リサール プラーナン、ドゥオイ ドゥーロ ファーロン ドゥ オレーン。

léis-alis-árplán-an,duóidúl-ofáronduorén.
書く<〜し終えた>-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>それから下る-<(重いものが)>荷<主格>下手縁<対格>

「書記が帳簿を書き終え、それから荷が縁へ下りていく。」

salóur は、前の文と同じ流れの内にとどまらず、別の流れへ移ることを表します。「まだ」unlóur「同じ瀬の内に」と裏返しの作りです。強勢があり、後ろに短い切れ目が入ります。

áura selvá, salóur dúlo ílmo.

読み:アウラ セルヴァー、サロール ドゥーロ イルモ。

áur-aselvá,salóurdúl-oílmo.
昇る-<(軽いものが)>息<主格>しかし下る-<(重いものが)>水<主格>

「息は昇る。しかし、水は下る。」

orvél は、上下をつけずに二つを並べる選択です。上手・下手で言うと片方を低く見る響きになるので、東西の語で言います。

ké lísa lisár sáindaran, orvél lísa fléilan?

読み:ケー リーサ リサール サインダラン、オルヴェール リーサ フレーラン?

kélís-alis-ársáindar-an,orvéllís-afléil-an?
<〜か>書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>証文-<対格>または書く-<(軽いものが)>手紙-<対格>

「書記は証文を書くのか、それとも手紙を書くのか。」

esós は、前の文を源(理由)として、後ろの文が流れ下って出てくる結果を言います。問いの es pós「なぜ(何から)」と答えの esós が対になります。目上の人の行いの理由を esós で言い切るのは無礼なので、後ろの文を推量法にします。

éso nébro an orénoi, esós na sénimor ilánais.

読み:エーソ ネーブロ アン オレーノイ、エソース ナ セーニモル イラーナイス。

és-onébroanorén-oi,esósnasén-imorilán-ais.
いる-<(重いものが)>霧<主格>上手縁-<与格>だから<〜ない>見る-<我々が>灯-<〜たちを>

「縁の上手に霧がある。だから、我々には星が見えない。」

6.10.3 主語が同じなら副動詞 -in

二つの文の主語が同じときは、前の文の動詞を副動詞 -in にしてつなげます(副動詞の形 → 第5章)。

léisin sáindaran, méirim élan senárei.

読み:レーシン サインダラン、メーリン エーラン セナーレイ。

léis-insáindar-an,méir-imél-ansen-ár-ei.
書く<〜し終えた>-<〜して・〜く>証文-<対格>与える-<私が><3人称単数・軽性>-<対格>見る-<〜する人>-<与格>

「証文を書き終えて、それを目付に渡す。」

vándin fáron, lísa lisár plánan.

読み:ヴァンディン ファーロン、リーサ リサール プラーナン。

vánd-infáron,lís-alis-árplán-an.
量る-<〜して・〜く>荷<対格>書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>

「荷を量りながら、書記は帳簿を書く。」

置き場所。 完了の -in は場面の枠に置きます。先に起きたことを先に言う順です。未完了の -in は文の後ろに置くのが基本で、同時に起きていることの説明になります。背景として場面の枠に置いてもかまいません。どちらの場合も読点で区切り、-in の句の目的語はその句の中に置きます。そのため、-in の句は主語・目的語の枠には数えません。

lísa lisár plánan, vándin fáron.

読み:リーサ リサール プラーナン、ヴァンディン ファーロン。

lís-alis-árplán-an,vánd-infáron.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>量る-<〜して・〜く>荷<対格>

「書記は荷を量りながら、帳簿を書く。」

否定。 「〜せずに」は、-in の動詞の前に na を置きます。

na vándin fáron, lísa lisár plánan.

読み:ナ ヴァンディン ファーロン、リーサ リサール プラーナン。

navánd-infáron,lís-alis-árplán-an.
<〜ない>量る-<〜して・〜く>荷<対格>書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>

「荷を量らずに、書記は帳簿を書く。」

同じ主語は、文法上の主語で数えます。 所有の文の文法上の主語は持たれている物なので、その後に「私が〜する」を -in でつなぐことはできず、duói を使います。縁のくだけた言葉では、持ち主も主語として数えて -in でつなぐことがありますが、都では誤りとされます。

wéiro sáko némei, duói méirim ó endríñei.

読み:ウェーロ サーコ ネーメイ、ドゥオイ メーリン オー エンドリーニェイ。

wéir-osákoném-ei,duóiméir-imóendríñ-ei.
いる<〜し終えた>-<(重いものが)>塩<主格><私>-<与格>それから与える-<私が><3人称単数・重性・対格>子ども-<与格>

「私は塩を手に入れ、それから子どもにそれをやる。」

主語が違うときは、lúin「〜とき」(→ 7.5)や duói でつなぎます。

形容詞に -in をつけると、文を飾る副詞になります。

lísa lisár plánan gléinin.

読み:リーサ リサール プラーナン グレーニン。

lís-alis-árplán-angléin-in.
書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>帳簿-<対格>清い-<〜して・〜く>

「書記は帳簿を清く書く。」

高原語辞典

高原語辞典

左の一覧から語を選ぶか、上の検索欄に日本語またはローマ字を入れてください。

高原語入門

左の目次から課を選んでください。

高原語の文法書

左の一覧から選んでください。

資料集

高原語で書かれた読み物です。左の一覧から選んでください。

小説

左の目次から話を選んでください。

語彙の候補

小説・世界設定・翻訳から見つけた「辞書にない語」の候補です(uv run conlang dict-grow 名前 で作られます)。登録する語を選んでください。同義語として複数選べます。

作ってほしい語を依頼する