誰? 何?――問いと答え

この課では、高原語で質問することと、質問に答えることを学びます。

初めて会った人とは、まず「あなたは誰?」「どこから来たの?」とたずね合いますね。高原語にも、もちろんそういう問いがあります。ただし、日本語とは大きく違う点が一つあります。高原語には、問いに「はい」と答える一語がありません。答えるときは、聞かれた動詞をそのまま繰り返します。打ち消すときも、動詞の前に na をつけて繰り返すのが基本です。

この課の目標は次の三つです。

  1. 文のいちばん前に ké を置いて、「はい・いいえ」で答える問いを作れる。
  2. 問いの動詞を繰り返して答えられる。
  3. 「誰」pá、「何」pó、「どこから(なぜ)」es pós を使ってたずねられる。

この言語が話されている高原の王国では、崖の麓の市や崖道の見張り台で、見知らぬ人にこうした短い問いが投げかけられます。この課の問いは、どれも同じ段か、目下の相手にたずねるときの言い方です。目上の人にたずねるときの言い方は、ずっと後の課で学びます。

新出語

ké[ˈke]〜かはい・いいえの問いを作る小辞。文のいちばん前に置きます。「ケー」と聞こえます。目上の人には使いません。
pó[ˈpo]何「何」。重性の語なので、「何が」の動詞は重性の語尾 -o をとります。「何を」だけは特別に pón という形になります。
es[es]から「〜から」。後ろの名詞は「〜の」の形(属格)になります。この課では es pós・es orénos・es dáloros をまとまりで覚えましょう。
orén[oˈren]縁崖の「縁」。重性。es orénos で「縁から」。
dálor[ˈdalor]下の国「下の国」(崖の下の干潟)。重性。es dáloros で「下の国から」。
dalorár[daloˈrar]下の国の者「下の国の者」。dálor に「〜する人・〜の人」の -ár がついた語で、人を指すので軽性です。
ráin-[ˈrain]知る「知る」。答えの練習によく使います(ráinim「知っている」/na ráinim「知らない」)。
níl-[ˈnil]飲む「飲む」。ílmo「水」と組み合わせて練習しましょう。
naþíl[naˈθil]わからん「わからん」。na+þíl-「分かる」が縮まった決まり文句。くだけた言い方です。
póso[ˈposo]これは何だ「これは何だ」。pó と動詞が一語に縮まった決まり文句。市で物を指してたずねるときに便利です。

1. はい・いいえの問い:文のいちばん前に ké

規則:ふつうの文のいちばん前に ké を置くと、「はい・いいえ」で答える問いになります。語順はそのまま(動詞・主語・目的語)です。

ふつうの文 問い
lísa lisár sáindaran.「書記は証文を書く」 ké lísa lisár sáindaran?「書記は証文を書くか」
mánes tambór.「お前は雑穀を食べる」 ké mánes tambór?「お前は雑穀を食べるか」
tóra senár.「目付が来る」 ké tóra senár?「目付は来るか」

注意

2. 問いに答える:動詞を繰り返す

規則:問いに答えるときは、問いの動詞を繰り返します。

問い 「はい」にあたる答え 「いいえ」にあたる答え
ké líses sáindaran?「証文を書くか」 lísim.「書く」 na lísim.「書かない」
ké mánes tambór?「雑穀を食べるか」 mánim.「食べる」 na mánim.「食べない」
ké tóra senár?「目付は来るか」 tóra.「来る」 na tóra.「来ない」

人称の変え方

問いの動詞 答えの動詞
「お前が」-es 「私が」-im
「お前たちが」-ers 「我々が」-imor
「彼が・それが」-a/-o そのまま -a/-o

注意

3. 「誰」pá と「何」pó:疑問詞は文の頭に

規則:「誰」「何」をたずねるときは、疑問詞を動詞の前に出します。疑問詞を使うときは ké はいりません。

「〜が」 「〜を」 性
誰 pá pán 軽性(人は軽いもの)
何 pó pón 重性(物は重いもの)

例

答え方:疑問詞のところに答えの語を入れて、文を言い直します。

注意

注意:重性の名詞は「〜が」と「〜を」が同じ形ですが、「何」だけは「何を」が pón になります。疑問詞は文の頭に出るので、語順では「何が」か「何を」かがわからないからです。pón dulíþo gandér? なら「硬木は何を下ろすのか」、pó dulíþo gandér? なら「何が硬木を下ろすのか」です(dulíþ-「下ろす」は後の課で学びます)。ただし、du pó「下手のどこへ」のように前置詞の後ろでは pó のままです。

4. es pós:「どこから」と「なぜ」

規則:es「〜から」と、pó の「〜の」の形 pós を組み合わせた es pós は、「何から」という意味です。これは**「どこから」と「なぜ」の両方**を表します。

問い 意味
es pós tóres? 「どこから来た?」とも「なぜ来た?」とも取れる

答え方

es の後ろの名詞は「〜の」の形(属格)になります。重性の名詞では -os がつきます。

名詞 es + 名詞
orén「縁」 es orénos「縁から」
dálor「下の国」 es dáloros「下の国から」
pó「何」 es pós「何から」

注意

例文

ké líses sáindaran? lísim.

読み:ケー リーセス サインダラン?リーシン。

kélís-essáindar-an?lís-im.
<〜か>書く-<あなたが>証文-<対格>書く-<私が>

「「証文を書くか?」「書く。」」

二人のやりとり。「はい」にあたる答えは、動詞を1人称に変えて繰り返すだけです。

ké mánes tambór? na mánim.

読み:ケー マーネス タンボール?ナ マーニン。

kémán-estambór?namán-im.
<〜か>食べる-<あなたが>雑穀<対格><〜ない>食べる-<私が>

「「雑穀を食べるか?」「食べない。」」

「いいえ」にあたる答えは、動詞の前に na をつけます。

ké tóra senár? na tóra.

読み:ケー トーラ セナール?ナ トーラ。

kétór-asenár?natór-a.
<〜か>来る-<(軽いものが)>目付<主格><〜ない>来る-<(軽いものが)>

「「目付は来るか?」「来ない。」」

3人称についての問いには、3人称のまま答えます。

pá éses? ésim dalorár.

読み:パー エーセス?エーシン ダロラール。

páés-es?és-imdalorár.
誰<主格>いる-<あなたが>いる-<私が>下の国の者<主格>

「「お前は誰だ?」「下の国の者だ。」」

疑問詞 pá は動詞の前に出ます。崖道の見張りが、見知らぬ者にかける問いです。

pán sénes? sénim lisáran.

読み:パーン セーネス?セーニン リサーラン。

pánsén-es?sén-imlisár-an.
誰<対格>見る-<あなたが>見る-<私が>書記-<対格>

「「誰を見ているのか?」「書記を見ている。」」

「誰を」は対格の pán。答えでは、疑問詞のところに lisáran「書記を」が入ります。

pó dúlo? dúlo gandér.

読み:ポー ドゥーロ?ドゥーロ ガンデール。

pódúl-o?dúl-ogandér.
何<主格>下る-<(重いものが)>下る-<(重いものが)>硬木<主格>

「「何が下りていくのか?」「硬木が下りていく。」」

pó は重性なので、動詞は重性の語尾 -o をとります。

pó éso fáron só? naþíl.

読み:ポー エーソ ファーロン ソー?ナシール。

póés-ofáronsó?naþíl.
何<主格>いる-<(重いものが)>荷<主格>この<重性>わからない

「「この荷は何だ?」「わからん。」」

naþíl は「わからない」というくだけた決まり文句です。

es pós tóres? tórim es orénos.

読み:エス ポース トーレス?トーリン エス オレーノス。

espóstór-es?tór-imesorén-os.
から何<属格>来る-<あなたが>来る-<私が>から縁-<属格>

「「どこから来た?(なぜ来た?)」「縁から来た。」」

es pós は「どこから」とも「なぜ」とも取れます。ここでは場所で答えています。

ké ráines sélvanan? ráinim.

読み:ケー ライネス セルヴァナン?ライニン。

kéráin-essélvan-an?ráin-im.
<〜か>知る-<あなたが>セルヴァン-<対格>知る-<私が>

「「セルヴァンを知っているか?」「知っている。」」

名は軽性なので、目的語のときは -an がつきます。

ké níles ílmo? nílim.

読み:ケー ニーレス イルモ?ニーリン。

kéníl-esílmo?níl-im.
<〜か>飲む-<あなたが>水<対格>飲む-<私が>

「「水を飲むか?」「飲む。」」

ílmo は重性なので、「水を」も ílmo のままです。

練習問題

  1. 次の日本語を高原語にしてください。

    1. お前は雑穀を食べるか。
    2. 誰が来るか。
    3. お前は何を量るのか。
    解答
    1. ké mánes tambór?
    2. pá tóra?(pá は軽性なので、動詞は -a)
    3. pón vándes?(「何を」なので pón。主語は「お前」なので、動詞は -es)

    ké も疑問詞も、動詞の前に置きます。疑問詞を使う問いには ké はいりません。

  2. ké líses plánan?「帳簿を書くか」と聞かれました。

    1. 「はい」にあたる答えを書いてください。
    2. 「いいえ」にあたる答えを書いてください。
    解答
    1. lísim.
    2. na lísim.

    問いの -es(お前が)を、答えでは -im(私が)に変えます。高原語では、問いに一語で「はい」と答えることはできず、動詞を繰り返して答えます。

  3. 空欄に入る語を pá・pán・pó・pón から選んでください。

    1. ___ sénes?「誰を見ているのか」
    2. ___ dúlo?「何が下りていくのか」
    3. ___ éses?「お前は誰だ」
    4. ___ vándes?「何を量るのか」
    解答
    1. pán(「誰を」なので対格)
    2. pó(動詞の -o は重性。「何が」)
    3. pá
    4. pón(「何を」なので対格)

    人をたずねる pá は軽性で、「誰を」は pán になります。物をたずねる pó は重性ですが、「何を」だけは pón になります。

  4. 次の高原語を日本語にしてください。訳は二通り考えられます。

    es pós tóra aurá?

    解答

    「縁鷲はどこから来るのか」、または「縁鷲はなぜ来るのか」。

    es pós は「何から」という意味で、場所の出どころ(どこから)と、理由(なぜ)の両方を表します。どちらの意味かは、話の流れで判断します。

  5. 次の問いに、それぞれ答えてください。

    1. ké tóra senár?(「来ない」と答える)
    2. ké ráines sélvanan?(「知っている」と答える)
    解答
    1. na tóra.(3人称の問いなので、答えも3人称のまま。na tórim だと「私は来ない」になってしまいます)
    2. ráinim.
  6. 発音の問題です。

    1. pá と pó は、日本語の耳にはどう聞こえますか。強勢の位置にも注意してください。
    2. 答えの lísim「書く」の語末の -m は、どう発音すればよいでしょう。
    解答
    1. pá は「パー」、pó は「ポー」と聞こえます。どちらも強勢のある短い母音なので、長く聞こえやすいのです。本当は短い母音を強く言うだけです。
    2. 日本語の耳には「リシン」と聞こえますが、最後に唇をきちんと閉じて m と言いましょう。語末の -n と -m は別の語尾です(-im は「私が」を表します)。

コラム:「なぜ」と聞かない礼儀――目上の人には理由をたずねない

高原の王国では、目上の人にじかに「なぜ」とたずねるのは、子どもっぽく失礼なこととされています。

この課で学んだ es pós は、子どもがよく口にする問いです。「なぜ霧は下から来るの?」「なぜ星を数えちゃいけないの?」――幼い子が年長者にこうたずねるのは、ほほえましいことです。けれども、おとなが目上の人に es pós と言えば、相手の行いの「出どころ」を問いただすことになります。高原の人々の感覚では、これは下の者が上の者を下から見上げて、その理由を説明させようとするふるまいです。敬意をすべて「高さ」で表すこの土地では、それは相手を自分の高さまで引き下ろすことになるのです。

では、目上の人の考えを知りたいときはどうするのでしょう。この土地の人は、理由を問うかわりに事柄そのものを、推し量る形でたずねます。「目付殿は、明日は縁へお出ましになるのでしょうか」のように聞いて、相手が自分から理由を語ってくれるのを待つのです。この推し量る言い方(推量法)は、後の課で学びます。ké を使った問いも、目上の人には使いません。

身分の高い人は、問いにまっすぐ答えるかわりに、古い詩の一節を引いて答えることもよくあります。答えを詩句の中から読みとることも、教養のうちとされているのです。

まとめると、この課で学んだ問いの形は、同じ段の人どうしか、目上の人が目下の人に使うものです。崖道の見張りが見知らぬ者に pá éses? es pós tóres? と投げかけるのは、相手を「階段の下にいる者」として扱っているからこそです。問いの形そのものが、話し手と聞き手の高さの差を表しているのです。

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