小説
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白月
大きくゆっくり巡る月そのもの。sílar「月」の中でも、とくにこの月を指す名前。
lúin áura álmar, émbelimor fóndar némores.
読み:ルーイン アウラ アルマル、エンベリモル フォンダル ネーモレス。
| lúin | áur-a | álmar, | émbel-imor | fóndar | némor-es. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 祀る-<我々が> | 源<対格> | <我々>-<属格> |
「白月が昇ると、我々は我らの始祖を祀る。」
白月の満月の夜に祖先を祀る習わしを述べた文。fóndar は重性なので、目的語になっても主格と同じ形のまま。所有者を表す属格 némores は名詞の後ろに置く。lúin の節は主節の前に来る。
dúla ilána an álmarei!
読み:ドゥーラ イラーナ アン アルマレイ!
| dúl-a | ilána | an | álmar-ei! |
| 下る-<(軽いものが)> | 星<主格> | 上手 | 白月-<与格> |
「白月の上手で、星が流れた!」
流れ星は「星が下りる」と言う。上から何かが下りてくるしるしとして警戒される。星の位置は指さずに、「an+与格」で白月との位置関係として言う。時制がないので、「流れる」とも「流れた」とも訳せる。
áura ilána ráimaros an álmarei.
読み:アウラ イラーナ ライマロス アン アルマレイ。
| áur-a | ilána | ráimar-os | an | álmar-ei. |
| 昇る-<(軽いものが)> | 祖先の星<主格> | ライマル-<属格> | 上手 | 白月-<与格> |
「ライマルの星が、白月の上手に昇る。」
祖先の星は、単数の ilána の後ろに祖先の名を属格で添えて呼ぶ(名前のある一つの星なので、単数で指してよい)。星の位置は指さずに、「an+与格」で白月との位置関係として言う。系譜読みや星読みが、夜の時刻や祖先の祀りについて語るときの言い方。
lúin áura álmar, hóinimor.
読み:ルーイン アウラ アルマル、ホイニモル。
| lúin | áur-a | álmar, | hóin-imor. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 帰る-<我々が> |
「白月が昇ったら、帰ろう。」
日常の時の言い方。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。月は軽性なので、動詞は -a をとる。時刻を月や星の昇りで言うのは、高原ではごくふつうのこと。
éso nébro, na sénimor álmaran.
読み:エーソ ネーブロ、ナ セーニモル アルマラン。
| és-o | nébro, | na | sén-imor | álmar-an. |
| いる-<(重いものが)> | 霧<主格> | <〜ない> | 見る-<我々が> | 白月-<対格> |
「霧が出ていて、我々には白月が見えない。」
霧期の暮らしを語るときの言い方。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。霧が出ると、空と人とのあいだに下のものが割りこみ、祖先が下界を見守れなくなる。この文には、そうした不安がこもっている。
ké sénes álmaran? sénim.
読み:ケー セーネス アルマラン?セーニン。
| ké | sén-es | álmar-an? | sén-im. |
| <〜か> | 見る-<あなたが> | 白月-<対格> | 見る-<私が> |
「「白月が見えるか?」「見える。」」
二人の発話。雨期に、雲の切れ間から白月がのぞいているかを尋ねる、家族や同輩どうしの問い。答えは問いの動詞を自分の人称に変えて繰り返す。目上の人には ké を使わず、尊敬の補充形 lúum- を推量法にして尋ねる。
lúin áura ilána an álmarei, laméra ilanár.
読み:ルーイン アウラ イラーナ アン アルマレイ、ラメーラ イラナール。
| lúin | áur-a | ilána | an | álmar-ei, | lamér-a | ilanár. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 灯<主格> | 上手 | 白月-<与格> | 掌を差し上げる-<(軽いものが)> | 星読み<主格> |
「白月の上手に灯が昇ると、星読みは掌を差し上げる。」
星の司の記録の文体。星の位置は、an álmarei「白月の上手に」のように、ほかの天体との関係で言う。指さす代わりに掌を差し上げて示す。名前のある一つの星は、単数の ilána で指せる。
lúin áura álmar, émbelimor aursárais.
読み:ルーイン アウラ アルマル、エンベリモル アウルサーライス。
| lúin | áur-a | álmar, | émbel-imor | aursár-ais. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月 | 祀る-<我々が> | 祖先-<〜たちを> |
「白月が昇ると、私たちは祖先を祀る。」
白月の満月の夜に祖先を祀る習わしを言う文。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。aursár は人を指すので軽性の子音語幹で、複数対格は -ais。祖先は「数えない」ものなので、数詞をつけず複数でひとまとまりに言う。
lúin áura álmar, émbelimor aursárais.
読み:ルーイン アウラ アルマル、エンベリモル アウルサーライス。
| lúin | áur-a | álmar, | émbel-imor | aursár-ais. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 祀る-<我々が> | 祖先-<〜たちを> |
「白月が昇ると、我々は祖先を祀る。」
家々の祖先祀りを説明する文。白月は見守る祖先のまなざしの象徴とされ、満ちた夜に祖先を祀る。lúin の節は主節の前に置く。月は軽性なので、動詞は -a で受ける。
gléin álmar, rús rúsil.
読み:グレーン アルマル、ルース ルーシル。
| gléin | álmar, | rús | rúsil. |
| 清い | 白月<主格> | 赤い | 赤月<主格> |
「清きは白月、赤きは赤月。」
二つの月を並べて対比する諺。諺では繋辞 és- を落とし、述語の形容詞を先に置くので、「名詞+形容詞」のふつうの語順とは逆になる。白月は秩序と祖先の象徴、赤月は落ち着きのない「下の国の月」とされ、その違いを含ませている。
áurau álmar si rúsil.
読み:アウラウ アルマル シ ルーシル。
| áur-au | álmar | si | rúsil. |
| 昇る-<双数> | 白月<主格> | と | 赤月<主格> |
「白月と赤月が昇る。」
単数の名詞を si で二つ並べると、動詞は双数になる。双数の動詞は人称も性も区別しない。月は星ではないので、二つ並べて双数で受けても禁忌にはならない。二つの月が重なって見える夜は秩序の乱れる夜とされ、人々は出歩かない。
áura álmar an dún.
読み:アウラ アルマル アン ドゥーン。
| áur-a | álmar | an | dún. |
| 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 上手 | 丘<対格> |
「白月が丘の上手へ昇る。」
年代記や暦の記事にあるような、直説法だけの簡潔な文。白月は軽性なので、動詞は軽性の -a をとる。an+対格で「上手へ」。重性の dún「丘」は、対格でも主格と同じ形になる。白月は暦の基準になる月で、祖先のまなざしの象徴とされる。
dúla dulána an álmarei, émbela aldár áuren.
読み:ドゥーラ ドゥラーナ アン アルマレイ、エンベラ アルダール アウレン。
| dúl-a | dulána | an | álmar-ei, | émbel-a | aldár | áur-en. |
| 下る-<(軽いものが)> | 流れ星<主格> | 上手 | 白月-<与格> | 祀る-<(軽いものが)> | 座<主格> | 昇る-<〜した・〜された> |
「白月の上手に流れ星が下る。高き座が祀りを行う。」
年代記の流れ星の項の書き方。年代記は直説法の短い文を並べ、主節のあいだには区切りの印を打つ。星の位置は指さしの代わりに、an álmarei「白月の上手に」のように月との位置関係で示す。時制の語形はないので、過去の出来事でも直説法の形のままで書く。王は総称の aldár áuren「高き座」で書く。
lúin áura álmar, ésa aurþelá aursáres lóimen.
読み:ルーイン アウラ アルマル、エーサ アウルセラー アウルサーレス ロイメン。
| lúin | áur-a | álmar, | és-a | aurþelá | aursár-es | lóim-en. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | いる-<(軽いものが)> | 昇名<主格> | 祖先-<属格> | 唱える-<〜した・〜された> |
「白月が昇ると、祖先の昇名が唱えられる。」
祖先祀りの場面。生前の名前は二度と声に出さないので、祖先を口にするときはかならず昇名を使う。時を表す lúin の節は、ふつう主節の前に置く。後半は「és-+主語+分詞」で、受け身にあたる意味を表している。
lúin sénim álmaran, nóurim tásan.
読み:ルーイン セーニン アルマラン、ノーリン ターサン。
| lúin | sén-im | álmar-an, | nóur-im | tás-an. |
| とき | 見る-<私が> | 白月-<対格> | 思い慕う-<私が> | <あなた>-<対格> |
「白月を見るたびに、あなたを想う。」
人を対格にとると「思い慕う」の意味になる。手紙や詩によく出る言い方。2人称の tás は、親しい間柄でだけ使う。
lúin áura álmar, embeléimor aursárais.
読み:ルーイン アウラ アルマル、エンベレーモル アウルサーライス。
| lúin | áur-a | álmar, | embel-é-imor | aursár-ais. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 祀る-<〜だろう>-<我々が> | 祖先-<〜たちを> |
「白月が昇ったら、我々は祖先を祀ろう。」
満月の夜に祖先を祀る習わしについての、家の中の会話。lúin の節は主節の前に置く。推量法の -él- は、1人称の語尾 -imor の前で l が落ちて -é- になる。強勢が接尾辞に移るので、語根の ´ は消える。
ésa rúsil vel álmarei.
読み:エーサ ルーシル ヴェル アルマレイ。
| és-a | rúsil | vel | álmar-ei. |
| いる-<(軽いものが)> | 赤月<主格> | 日の入り側 | 白月-<与格> |
「赤月は白月の日の入り側にある。」
夜空での月の位置関係を述べる文。月は星ではないので数えてもよいが、指ささずに方向語で言い表すのが礼儀とされる。rúsil は軽性なので、繋辞は és-a になる。
lúin áura álmar or dún, émbelan ólmarai aursárais.
読み:ルーイン アウラ アルマル オル ドゥーン、エンベラン オルマライ アウルサーライス。
| lúin | áur-a | álmar | or | dún, | émbel-an | ólmar-ai | aursár-ais. |
| とき | 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 日の出側 | 丘<対格> | 祀る-<彼らが> | 年長者-<〜たちが> | 祖先-<〜たちを> |
「白月が丘の日の出側に昇ると、年長者たちは祖先を祀る。」
天体の位置を言う決まった言い方。星や月は指さしてはいけないので、よく知られた目印と方向の前置詞で位置を示す。or+対格で「〜の日の出側へ」を表す。lúin で始まる時の節は主節の前に置く。
áura álmar es órunes.
読み:アウラ アルマル エス オールネス。
| áur-a | álmar | es | órun-es. |
| 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | から | 東-<属格> |
「白月は東から昇る。」
órun を方角そのものを表す名詞として使い、es+属格で「東から」を表している。前置詞の or は、この語から生まれた。álmar は軽性なので、動詞は軽性の -a をとる。
áura álmar an méndalan élvares.
読み:アウラ アルマル アン メンダラン エルヴァレス。
| áur-a | álmar | an | méndal-an | élvar-es. |
| 昇る-<(軽いものが)> | 白月<主格> | 上手 | まん中-<対格> | 天-<属格> |
「「白月が天のまん中へと昇っていく。」」
天体の位置を、まわりのものとの関係で言う言い方。月は星ではないので、こうして名指しして言ってよい。méndal は重性なので、対格は主格と同じ形になる。
lúin tóro nébro, na sénimor álmaran un élvarei.
読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーニモル アルマラン ウン エルヴァレイ。
| lúin | tór-o | nébro, | na | sén-imor | álmar-an | un | élvar-ei. |
| とき | 来る-<(重いものが)> | 霧<主格> | <〜ない> | 見る-<我々が> | 白月-<対格> | 内に | 天-<与格> |
「霧が来ると、天の内に白月が見えなくなる。」
霧期を言う文。un+与格で、天という広がりの内側にあることを表す。霧は下から割りこむ帳なので、天にあるものが見えなくなる。
káula álmar sé.
読み:カウラ アルマル セー。
| kául-a | álmar | sé. |
| 満ちる-<(軽いものが)> | 白月<主格> | この<軽性> |
「この白月が満ちる(満月となる)。」
暦や儀礼の読み上げ向き。月について kául- は輪の欠けがなくなることを表す。álmar は軽性子音語幹、指示詞 sé は軽性。
ひと月
白月の満ち欠けの一巡り。暦の月の単位で、上・中・下の三つの十日に分ける。
plúin hoinéles? du álmarei sé.
読み:プルーイン ホイネーレス?ドゥ アルマレイ セー。
| plúin | hoin-él-es? | du | álmar-ei | sé. |
| いつ | 帰る-<〜だろう>-<あなたが> | 下手 | ひと月-<与格> | この<軽性> |
「「いつ帰るつもりだ。」「この月が明けたら。」」
二人の発話。未来の予定は推量法で尋ねる。答えは動詞を省いた前置詞句だけで言う。時間は川の流れとみるので、du+与格「〜の下手で」は「〜の後に」の意味になる。du álmarei sé は「この月の後に」、つまり翌月のこと。
hoinéim un dáu álmaraun.
読み:ホイネーン ウン ダウ アルマラウン。
| hoin-é-im | un | dáu | álmar-aun. |
| 帰る-<〜だろう>-<私が> | 内 | 二 | ひと月-<双数の〜の・〜に> |
「ふた月のうちには帰るだろう。」
旅立つ者が日数の見込みを言う文。暦の月は白月の満ち欠けの一巡りで数える。dáu「二」の後ろの名詞は双数になり、un「〜の内に」と組むので双数の属格・与格 -aun をとる。推量法の -él- は、1人称の語尾の前で l が落ちて -é- になる。
mé rimbésa rúsilan, rimbésa álmaran.
読み:メー リンベーサ ルーシラン、リンベーサ アルマラン。
| mé | rimb-és-a | rúsil-an, | rimb-és-a | álmar-an. |
| <禁止・願いの打ち消し> | 数える-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 赤月の巡り-<対格> | 数える-<〜すべし>-<(軽いものが)> | ひと月-<対格> |
「赤月の巡りで日を数えぬこと、白月の月で数えること。」
都の年長者が、崖道帰りの若者などをたしなめるときに使う、戒めの決まった言い方。当為法で主語を言わないので「人は〜すべし」の意味になり、動詞は軽性の形をとる。禁止の前半は mé で否定する。赤月で日を数えるのは、都では田舎くさい、下の国に染まった習慣とされる。
二つの月のうち、大きくゆっくり巡る月(約二十九日)。暦の基準になる月で、変わらない秩序や法、祖先のまなざしの象徴とされる。満月の夜には祖先を祀る。星ではないので、数詞や双数をつけても禁忌にならない。星の位置を言うときの基準にもなる(an álmarei「白月の上手に」)。白月の一巡りは、そのまま暦の「ひと月」を指す。
軽性・子音語幹(②型)。対 álmaran、属 álmares、与 álmarei。
古高原語 *álmara「白く巡るもの」から。*-a は古い脱落で消えた。*ál-「白い」は、ほかに白い石英の古い呼び名に残るとされる。
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