小説
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間抜け
頭の働きが鈍い目下の者を罵って呼びかける「このぼんくら」。文末に読点で区切って添える。
mé þráun fáron es orénos, murár!
読み:メー スラウン ファーロン エス オレーノス、ムラール!
| mé | þráun | fáron | es | orén-os, | mur-ár! |
| <禁止・願いの打ち消し> | 投げる<命令法><あなたが> | 荷<対格> | から | 縁-<属格> | 濁った-<〜する人> |
「縁から荷を投げるな、このぼんくら!」
崖の上の降ろし場や崖道で、年長の者が目下の者をどなりつけるときの言い方。禁止は「mé+命令法」で言い、命令法の2人称単数は語幹のまま(þráun)。murár は呼びかけなので、文の終わりに読点で区切って主格のまま添える。崖から物を投げ落とすのは禁忌なので、ここではただの不注意ではなく、「下の国を呼び寄せかねない愚かさ」をとがめる響きがある。
ésa faronár té murár.
読み:エーサ ファロナール テー ムラール。
| és-a | faron-ár | té | mur-ár. |
| いる-<(軽いものが)> | 荷-<〜する人> | あの<軽性> | 濁った-<〜する人> |
「あの運び人は間抜けだ。」
本人のいない所での陰口。「és-+主語+述語の名詞」の文で、述語の murár は軽性の主格のまま置く。繋辞は主語の運び人(人なので軽性)に合わせて -a をとる。これを重性の éso で受けると、人を「泥の者」扱いすることになり、ずっと強い侮辱になる。指示詞 té の後ろに動詞が来ていないので、関係節の te とは紛れない。
酔っぱらい
崖道・縁のくだけた言葉で、濁り酒 muró にかけて、酔ってぼんやりした者を当てこする使い方。
anórel, níla faronár té muró bróus, esós ésa él murár sórel.
読み:アノーレル、ニーラ ファロナール テー ムロー ブロース、エソース エーサ エール ムラール ソーレル。
| anórel, | níl-a | faron-ár | té | muró | bróus, | esós | és-a | él | mur-ár | sórel. |
| 昨日 | 飲む-<(軽いものが)> | 荷-<〜する人> | あの<軽性> | 濁り酒<対格> | 多い | だから | いる-<(軽いものが)> | <3人称単数・軽性> | 濁った-<〜する人> | 今日 |
「昨日、あの運び人は濁り酒をしこたま飲んだ。だから今日のあいつは、まるで酔いどれだ。」
崖道の宿などで交わす、くだけた噂話。muró「濁り酒」と murár の音が近いことを使った当てこすりで、ここでは「酔ってぼんやりしている者」の意味になる。時の語 anórel は場面の枠に置いて読点で区切る。esós「だから」は二つめの文の頭に置く。主語の代名詞 él をわざわざ言っているので、「あいつときたら」という強調の響きがある。
mé níl dóulin muró, murár!
読み:メー ニール ドーリン ムロー、ムラール!
| mé | níl | dóulin | muró, | mur-ár! |
| <禁止・願いの打ち消し> | 飲む<命令法><あなたが> | もう | 濁り酒<対格> | 濁った-<〜する人> |
「もう濁り酒は飲むな、この酔っぱらいめ!」
縁や崖道の炉ばたで、家の者が酔った身内をたしなめる言い方。相の副詞 dóulin「もう」は動詞のすぐ後ろに置き、否定と組んで「もう〜しない」の意味になる。muró と murár を並べた語呂合わせが面白がられ、決まり文句のようにも使われる。都の改まった言葉では、この当てこすりの使い方はしない。
múr「濁った」から作った語で、字義は「濁った者」。頭の中が濁り水のようによどんで、ものが見通せない人をあざける呼びかけ「このぼんくら」「間抜け」。高原では澄んだ水が上・清さ・聡さを、濁った水が下・重さ・鈍さを表すので、この語には「下の方へ沈みかけた者」という世界観の含みがある。目下に向けるくだけた罵り言葉で、文の終わりに読点で区切って添える(naþíl ké, murár?「わからんのか、ぼんくら」)。軽性で受けるのが普通で、重性で受けると「泥の者」に近い強い侮辱になる。濁り酒 muró と音が近いので、崖道や縁では「濁り酒に浸かった奴」「酔っぱらい」の当てこすりとしても使われる。
軽性・子音語幹(-ár 派生名詞)。対格 muráran(lisáran と同じく新しい対格 -an をとる)、属格 muráres、複数 murárai。呼びかけでは主格のまま文末に置く。
múr「濁った」+ -ár「〜する人・〜の者」。形容詞に -ár をつけて人を表した、くだけた派生。
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