小説
左の目次から話を選んでください。
この課では、「〜だろう」と推し量って言う形を学びます。
この言語が話されている高原では、天気がそのまま暮らしの予定を左右します。乾風期の終わりに、崖の下から霧が這い上がってきそうになると、市の人々は「霧が来るだろう」と言い合い、それまでに精算を済ませようと急ぎます。湖が凍りそうな夜、霜が降りそうな朝、雨期の最初の雨。こうした「まだ確かではない先のこと」を言うときに使うのが、この課の推量の形です。
もう一つ大事なことがあります。高原語の動詞には、「過去」や「未来」を表す語形がありません。lísa は「書く」にも「書いた」にも「書いている」にもなります。では、いつのことかはどうやってわかるのでしょうか。この課では、「昨日」「今日」「明日」「夜」のような時を表す語と、推量の形を手がかりにして、時を読み取る練習をします。
あわせて、雨期・乾風期・霧期の季節の名前と、白月と十日を単位にした暦のことばも覚えましょう。
| reinálva | [reiˈnalva] | 雨期 | 雨期。réina「雨」+álva「季節」。軽性。雑穀を播き、書を写し詩を作る季節。 |
| kailálva | [kaiˈlalva] | 乾風期 | 乾風期。káil「乾いた」+álva。軽性。年はこの季節の初めに明ける。 |
| nebrálvo | [neˈbralvo] | 霧期 | 霧期。nébro「霧」から作った語で、三つの季節名の中でこれだけが重性(語末が -o)。動詞は -o で受けます(torélo nebrálvo)。 |
| álva | [ˈalva] | 季節 | 季節。高原の季節は三つだけで、「夏」「冬」にあたる語はありません。 |
| þailúin | [θaiˈluin] | 澄みの頃 | 澄みの頃(乾風期の前半)。星がいちばんよく見える時期。 |
| glünlúin | [glynˈluin] | 凍りの頃 | 凍りの頃(乾風期の後半)。湖が凍る、一年でいちばん寒い時期。 |
| sírna | [ˈsirna] | 霜 | 霜。雨や雪と同じく「上から来るもの」なので軽性。 |
| glǘn- | [ˈglyn] | 凍る | 凍る(自動詞)。既習の glünó「氷」と同じ語根。ü に強勢があるので ǘ と書きます(強勢が -él- に移ると ´ は消えます)。推量形は glünélo(湖・水のような重性の主語)。 |
| nóra | [ˈnora] | 夜 | 夜。軽性 a語幹。「夜に」は与格 nórei。 |
| órel | [ˈorel] | 日 | 日(一日)。sórel「今日」・anórel「昨日」・dórel「明日」はこの語から。 |
| sórel | [ˈsorel] | 今日 | 今日。 |
| anórel | [aˈnorel] | 昨日 | 昨日。字義は「上手の日」。時は川の流れで、早いほうが上手です。 |
| ombrén | [omˈbren] | 十日 | 十日(旬)。白月の一か月を三つの十日に分けます。 |
| tráimel | [ˈtraimel] | 年 | 年。十の灯が昇る日に新しい年が始まります。 |
| plúin | [ˈpluin] | いつ | いつ。疑問詞なので文の頭に置きます。 |
規則:「〜だろう」と推し量って言うときは、動詞の語根と人称の語尾のあいだに -él- を入れます。第11課の願いの形 -énd- と同じ場所です。
| 言い切り | 推量(〜だろう) | |
|---|---|---|
| 私が | lísim |
liséim |
| お前が | líses |
liséles |
| 彼・彼女が(軽性) | lísa |
liséla |
| それが(重性) | líso |
lisélo |
| 二人が | lísau |
lisélau |
| 我々が | lísimor |
liséimor |
| お前たちが | lísers |
lisélers |
| 彼らが | lísan |
lisélan |
例
liséla lisár plánan.「書記は帳簿を書くだろう。」torélo nébro.「霧が来るだろう。」(霧は重性なので -o)toréla réina.「雨が来る(降る)だろう。」(雨は軽性なので -a)注意:3人称単数の -a/-o は、言い切りのときと同じく主語の性で選びます。願いの形では軽性が -e になりましたが(lisénde)、推量の形ではふつうに -a です。
規則:「私が」の -im、「我々が」の -imor の前では、-él- の l が落ちて -é- だけになります。
| 動詞 | 私が〜だろう | 我々が〜だろう |
|---|---|---|
lís- 書く |
liséim |
liséimor |
sén- 見る |
senéim |
senéimor |
hóin- 帰る |
hoinéim |
hoinéimor |
tór- 来る |
toréim |
toréimor |
例
dórel, hoinéim du orén.「明日、私は縁へ帰るだろう。」na senéimor ilánais.「我々には星が見えないだろう。」注意:-éim の ei は二重母音で、日本語の耳には「エーム」と聞こえます。「*lisélim」のように l を残すと誤りです。
規則:-él- は強勢をもちます。語根にあった強勢は消えて、é に移ります。一語に強勢は一つだけです。
| 言い切り | 推量 |
|---|---|
lísa(リーサ) |
liséla(リセーラ) |
tóro(トーロ) |
torélo(トレーロ) |
áura(アウラ) |
auréla(アウレーラ) |
注意:日本語話者には、強勢のある短い母音が長く聞こえます。「〜レーラ」「〜レーロ」と、後ろから二つめの音節が強く長く聞こえたら、推量の形だと見当をつけてください。
規則:高原語の動詞には、過去・現在・未来を分ける語形がありません。lísa は「書く」「書いた」「書いている」のどれにもなります。いつのことかは、文脈と、時を表す語で判断します。
| 時の語 | 例 | 訳 |
|---|---|---|
anórel 昨日 |
anórel, lísa lisár plánan. |
昨日、書記は帳簿を書いた。 |
sórel 今日 |
sórel, lísa lisár plánan. |
今日、書記は帳簿を書いている。 |
dórel 明日 |
dórel, liséla lisár plánan. |
明日、書記は帳簿を書くだろう。 |
lísa と「書き終えた」:anórel, lísa lisár plánan. の lísa は、「書くという行いがあった」と言うだけで、書き終えたかどうかは言いません。「書き終えた」とはっきり言いたいときは、第13課で学ぶ完了の形 léisa を使います。過去のことだから完了の形にする、というわけではありません。
| 形 | 意味 |
|---|---|
lísa |
書いた(書くという行いがあった。終えたかどうかは言わない) |
léisa |
書き終えた(第13課) |
時の語の置き場所:文のいちばん前に置いて読点で区切るか、文の後ろに置きます。前に置くと「昨日のことだが…」と場面を先に示す言い方になります。
注意:日本語の「た」に当たるものを動詞の中に探しても見つかりません。高原の帳簿や年代記は、何年も前のことでも lísa のような言い切りの形で書いてあります。日付の欄が「いつ」を担っているのです。
規則:これから先のことのうち、確かでないことは推量の形で言います。天気、人がいつ来るか、湖がいつ凍るか、といったことです。
| 言い方 | 意味の違い |
|---|---|
dórel, tóra senár. |
明日、目付は来る。(決まっている予定として言い切る) |
dórel, toréla senár. |
明日、目付は来るだろう。(推し量り) |
例
dórel, glünélo véinor.「明日、湖は凍るだろう。」nórei, toréla sírna.「夜には霜が降りるだろう。」先のことだけではない:推量の形は「未来の形」ではなく、確かさの形です。今のことや過去のことでも、自分の目で確かめていないことを推し量るときは推量の形で言います。日本語の「だろう」と同じです。
| 言い方 | 訳 |
|---|---|
anórel, liséla lisár plánan. |
昨日、書記は帳簿を書いた(の)だろう。 |
sórel, liséla lisár plánan. |
今日、書記は帳簿を書いているだろう。 |
dórel, liséla lisár plánan. |
明日、書記は帳簿を書くだろう。 |
動詞の形は三つとも同じ liséla です。いつのことかは時の語が決め、確かかどうかは動詞の形が決めます。
注意:高原の人は、とくに天気や季節の移り変わりを言い切りの形で言うのを避けます。霧や雨は人の思いどおりにならないもので、言い切るのは軽はずみだと感じられるからです。迷ったら推量の形を使いましょう。
規則:推量の文も、動詞の直前に na を置いて否定します(mé ではありません。mé は願い・命令の文のための否定です)。
| 肯定 | 否定 |
|---|---|
senéimor ilánais. 星が見えるだろう |
na senéimor ilánais. 星が見えないだろう |
toréla réina. 雨が降るだろう |
na toréla réina. 雨は降らないだろう |
問い:疑問詞と組み合わせると「〜だろうか」になります。
plúin torélo nébro?「霧はいつ来るだろうか。」ké +推量の形:ké に推量の形を組み合わせると、「〜だろうか」とやわらかく尋ねる言い方になります。同じ身分の相手や目下の相手に使います(ké toréla réina?「雨は降るだろうか」)。
推量の問いへの答え方:はい・いいえの問いには、第5課と同じく、動詞を繰り返して答えます。このとき、どちらの形で繰り返すかで答えの重みが変わります。
ké torélo nébro?霧は来るだろうか。 ―torélo.来るだろう。(推し量りのまま答える) ―tóro.来る。(言い切る=自信がある)
高原の人は天気を言い切るのを軽はずみだと感じるので、霧や雨のことを tóro と言い切る人は「星の司か、はったり屋だ」と言われます。ふつうは推量の形のまま返しましょう。
注意:推量の形は、目上の人にやわらかく尋ねるときにも使われます。この使い方は、敬語の課でくわしく学びます。
torélo nébro es orénos. na senéimor ilánais.
読み:トレーロ ネーブロ エス オレーノス。ナ セネーモル イラーナイス。
| tor-él-o | nébro | es | orén-os. | na | sen-é-imor | ilán-ais. |
| 来る-<〜だろう>-<(重いものが)> | 霧<主格> | から | 縁-<属格> | <〜ない> | 見る-<〜だろう>-<我々が> | 灯-<〜たちを> |
「縁から霧が来るだろう。私たちには星が見えなくなるだろう。」
霧は重性なので -él-o。1人称複数の前では l が落ちて -é-imor。推量の文も na で否定する。
anórel, lísa lisár plánan.
読み:アノーレル、リーサ リサール プラーナン。
| anórel, | lís-a | lis-ár | plán-an. |
| 昨日 | 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人> | 帳簿-<対格> |
「昨日、書記は帳簿を書いた。」
動詞は言い切りの lísa のまま。「昨日」があるので過去のことだとわかる。
sórel, lísa lisár plánan.
読み:ソーレル、リーサ リサール プラーナン。
| sórel, | lís-a | lis-ár | plán-an. |
| 今日 | 書く-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人> | 帳簿-<対格> |
「今日、書記は帳簿を書いている。」
前の文と動詞の形はまったく同じ。違うのは時の語だけ。
dórel, liséla lisár plánan.
読み:ドーレル、リセーラ リサール プラーナン。
| dórel, | lis-él-a | lis-ár | plán-an. |
| 明日 | 書く-<〜だろう>-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人> | 帳簿-<対格> |
「明日、書記は帳簿を書くだろう。」
先のことなので推量の形。強勢は -él- に移る。
dórel, glünélo véinor.
読み:ドーレル、グリュネーロ ヴェーノル。
| dórel, | glün-él-o | véinor. |
| 明日 | 凍る-<〜だろう>-<(重いものが)> | 湖<主格> |
「明日には湖が凍るだろう。」
湖は地の上の水なので重性。凍りの頃によく聞く言い方。
nórei, toréla sírna.
読み:ノーレイ、トレーラ シルナ。
| nór-ei, | tor-él-a | sírna. |
| 夜-<与格> | 来る-<〜だろう>-<(軽いものが)> | 霜<主格> |
「夜には霜が降りるだろう。」
nóra「夜」の与格 nórei で「夜に」。霜は上から来るものなので軽性。
dórel, na toréla réina.
読み:ドーレル、ナ トレーラ レーナ。
| dórel, | na | tor-él-a | réina. |
| 明日 | <〜ない> | 来る-<〜だろう>-<(軽いものが)> | 雨<主格> |
「明日は雨は降らないだろう。」
高原語では、雨も「来る」tór- で言える。
toréla kailálva.
読み:トレーラ カイラルヴァ。
| tor-él-a | kailálva. |
| 来る-<〜だろう>-<(軽いものが)> | 乾風期<主格> |
「乾風期が来るだろう。」
kailálva は軽性なので -a。重性の nebrálvo「霧期」なら torélo nebrálvo になる。
dórel, hoinéim du orén.
読み:ドーレル、ホイネーン ドゥ オレーン。
| dórel, | hoin-é-im | du | orén. |
| 明日 | 帰る-<〜だろう>-<私が> | 下手 | 縁<対格> |
「明日、私は縁へ帰るだろう。」
1人称単数の前では l が落ちて -é-im。自分の予定でも、確かでなければ推量で言う。
plúin torélo nébro?
読み:プルーイン トレーロ ネーブロ?
| plúin | tor-él-o | nébro? |
| いつ | 来る-<〜だろう>-<(重いものが)> | 霧<主格> |
「霧はいつ来るだろうか。」
疑問詞 plúin は動詞の前。推量の形の問いで「〜だろうか」。
次の動詞を、指示された主語の推量の形(〜だろう)にしてください。
sén-「見る」(私が)tór-「来る」(霧 nébro が)lís-「書く」(我々が)glǘn-「凍る」(水 ílmo が)senéim(1人称の前なので l が落ちる)torélo(霧は重性なので -o)liséimor(l が落ちる)glünélo(水は重性なので -o)*senélim *lisélimor のように l を残すのはよくある誤りです。
次の高原語を日本語に訳してください。時を表す語に注意しましょう。
anórel, tóra senár.dórel, toréla senár.na glünélo véinor.次の日本語を高原語にしてください。
tór- で)dórel, toréla réina.(雨は軽性なので -a)nórei, na senéimor ilánais.(「夜に」は与格 nórei。星は総称なので複数対格 ilánais)空欄に -a か -o を入れてください。季節の名前の性に注意しましょう。
torél__ reinálva.「雨期が来るだろう。」torél__ nebrálvo.「霧期が来るだろう。」torél__ kailálva.「乾風期が来るだろう。」toréla(雨期は軽性)torélo(霧期は重性。霧が「下から来るもの」だからです)toréla(乾風期は軽性)三つの季節名のうち、霧期だけが重性です。
発音の問題です。次の語で、強勢(強く、長めに聞こえるところ)はどの音節にありますか。また、1と2のどちらが「〜だろう」の形ですか。
lísalisélahoinéimlí-sa:最初の音節「リ」。li-sé-la:二つめの音節「セ」。こちらが推量の形です。hoi-néim:二つめの音節「ネイ」。日本語の耳には「ホイネーム」と聞こえます。推量の形では、強勢がいつも -é- に移ります。
lísa lisár plánan. という文だけを見せられました。この文は「書く」「書いた」「書いている」のどれの意味ですか。また、「昨日」の意味だとはっきりさせるには、どうすればよいですか。
どれの意味にもなります。高原語の動詞には時制の形がないからです。
「昨日」の意味にしたければ、時を表す語を添えます:anórel, lísa lisár plánan.(または lísa lisár plánan anórel.)「昨日、書記は帳簿を書いた。」
この言語が話されている高原では、暦は星と白月で数えます。崖の下の干潟では潮の満ち引きで暦を作りますが、高原の暦はそれとはまったく別のものです。暦を作って国じゅうに配るのは、星の司(ほしのつかさ)の役目です。
年の始まり
雨期の終わりに雑穀の刈り入れが済み、空気が乾いて澄んでくるころ、明け方の東の空に ombára ilánai「十の灯」と呼ばれる星の群れが初めて見えます。この日が新しい年 tráimel の始まりです。ここで言う「十」は星を数えた結果ではなく、「そろった、満ちた」という意味の古い形で、名前の一部にすぎません。「十の灯にはいくつ星があるのか」と尋ねても、高原の人は「十の灯は十の灯だ」と答えるだけです。星を数えることは禁じられているからです。
白月の一か月と三つの十日
月は白月 álmar の満ち欠けで数えます。一か月はおよそ二十九日です。これを ombrén「十日」で三つに分け、上の十日・中の十日・下の十日と呼びます。下の十日はふつう九日で終わります。役所の勤めや市の日は、この十日を単位に回っています。一年は白月が十二回か十三回巡る長さで、十の灯の昇る日がずれてくると、星の司が月を一つ足して調整します。
小さく速い赤月 rúsil は、潮を動かす「下の国の月」とされ、都の暦ではほとんど使われません。ただ、崖道の運び人や商人は、干潟の人との取引のために赤月の巡りも知っています。
季節と天気の言い方
季節 álva は三つです。雨期 reinálva、乾風期 kailálva、霧期 nebrálvo。乾風期だけは、前半の þailúin「澄みの頃」と後半の glünlúin「凍りの頃」に分けて呼びます。霧期の名だけが重性なのは、霧が崖の下から湧いてくる「下の国の息」だと考えられているからです。
雨も霜も霧も、人の思いどおりにはなりません。だから高原の人は、天気のことを言い切らず、toréla réina「雨が来るだろう」、torélo nébro「霧が来るだろう」と推し量って言います。この課で学んだ推量の形は、星と空を見上げて暮らす人々の、慎み深い話し方そのものなのです。
左の一覧から語を選ぶか、上の検索欄に日本語またはローマ字を入れてください。
左の目次から課を選んでください。
左の一覧から選んでください。
高原語で書かれた読み物です。左の一覧から選んでください。
左の目次から話を選んでください。
小説・世界設定・翻訳から見つけた「辞書にない語」の候補です(uv run conlang dict-grow 名前 で作られます)。登録する語を選んでください。同義語として複数選べます。