十の灯が昇ると――「〜とき」「もし〜なら」と関係節

この課では、文と文をつなぐ形を三つ学びます。

  1. 「〜するとき」:小辞 lúin を文の頭に置きます。
  2. 「もし〜なら」:動詞を「仮定の形」にするだけで作れます。接続詞は使いません。
  3. 関係節:「樵たちが伐った硬木」のように、名詞の後ろに文をつけて詳しく説明する形です。小辞 te を使います。

この言葉が話されている高原では、乾風期の初めの明け方に、東の空へ「十の灯」と呼ばれる星の群れが昇ると、新しい年が始まります。森では硬木の伐り出しが始まり、縁の降ろし場から崖の下へ硬木が下ろされます。この課の題 lúin áuran ombára ilánai…「十の灯が昇ると…」は、そうした季節の移り変わりを語る、高原らしい言い方です。

この課の最後では、詩の語順も見ます。改まった場では、季節を詠んだ短い詩句を交わして挨拶します。会話の中に詩句が混ざると、そこだけ語順がひっくり返って聞こえます。その「ずれ」で、引用だと気づけるようになりましょう。

新出語

lúin[ˈluin]〜とき「〜するとき」「〜すると」。文の頭に置き、後ろに動詞で始まる文を続けます。lúin の文はふつう主節の前に置きます。
te[te]〜する(関係節)関係節の小辞。強勢がないので ´ をつけません。指示詞の té「あの」とは、発音でも転写でも区別します。
dulána[duˈlana]流れ星流れ星。軽性 a語幹です。高原では、上から何かが下りてくるしるしとして恐れられています。dúl-「下る」と同じ音を含むので、「下りる灯」と覚えるとよいでしょう。
líndra[ˈlindra]金の落葉樹金の落葉樹。乾風期の初めに葉が金色に変わって散る針葉樹です。季節の移り変わりの象徴として、詩によく出てきます。生えている木なので軽性です。
mélna[ˈmelna]詩詩(一首の詩)。軽性 a語幹で、対格は mélnan です。
ombríl[omˈbril]句句(詩の一行)。重性です。宮廷の詩の基本は「十拍の句」です。
élvar[ˈelvar]天天。星と祖先のいる「上」の世界を指します。
aurselvá[aurselˈva]昇る息(高原語の詩語)「昇る息」。高原語の詩の言葉を指す雅な名です。
séuril[ˈseuril]美しい美しい。形容詞で、名詞の後ろに置き、名詞に一致させます。

1. 「〜するとき」:lúin + 動詞で始まる文

規則:「〜するとき」「〜すると」と言うときは、文の頭に lúin を置きます。その後ろは、ふつうの文と同じく動詞から始めます。lúin の文は、ふつう主節(中心になる文)の前に置き、読点で区切ります。

lúin の文 主節
lúin áuran ombára ilánai, 十の灯が昇ると dulíþan kelárai gandér. 樵たちは硬木を下ろす
lúin brúuma dulána, 流れ星が落ちると dróuman éndrai. 人々は嘆く

注意:高原語には時制がありません。そのため lúin の文は「〜したとき」とも「〜するときにはいつも」とも読めます。どちらの意味かは、時の語と前後の文脈で決まります。

2. 「もし〜なら」:仮定の形 -ír-

規則:「もし〜なら」には接続詞を使いません。動詞を仮定の形にするだけで条件の文になります。語根と人称の語尾のあいだに -ír- を入れます。条件の文は主節の前に置きます。

tór-「来る」の仮定の形:

単数 双数 複数
1人称 torírim torírau torírimor
2人称 toríres torírau torírers
3人称 toríre(軽)/toríro(重) torírau toríran

結果の文は推量の形で言うのがふつうです。

toríro nébro es orénos, na senéimor ilánais. 縁から霧が上がってくれば、我々には星が見えなくなるだろう。

注意:仮定の形を否定するときは、動詞の前に na を置きます(na toríro nébro…「霧が来なければ…」)。仮定の形は事柄の成り立ちを言う形なので、mé ではなく na を使います。

3. 関係節:名詞 + te + 動詞で始まる文

規則:名詞を文で詳しく説明するときは、名詞の後ろに te を置き、そのすぐ後ろに動詞で始まる文を続けます。te と動詞のあいだに入れてよいのは、na・mé だけです。

(1) 主語や目的語が抜けた所は、空けたままにします。

高原語 抜けた所 意味
gandér te kéelan kelárai 「〜を」(硬木) 樵たちが伐り終えた硬木
plána te léisa lisár 「〜を」(帳簿) 書記が書き終えた帳簿

kéel- は kél-「伐る」の完了の形です(e が長くなります)。

(2) 「その人に」「その人の」にあたる部分は、代名詞で埋めます。

senár él te lísim sáindaran élei 私が証文を書いてやる、あの目付(直訳:あの目付・私がその人に証文を書く)

関係節の終わりの élei「その人に」が、目付を指しています。日本語では言わない「その人に」を、高原語では必ず言います。

注意

4. te と té の聞き分け、長い主語は文末へ

(1) te と té

関係節の te は、もとは指示詞 té「あの」が固まったものです。そのため、軽性の名詞の後ろでは同じ形に見えます。次の点で区別します。

関係節の te 指示詞の té「あの」
強勢 なし。弱く、次の動詞につなげて発音する[te-lísim] あり。強く発音する
後ろ 区切りなしで動詞が続く 短い区切り(書き言葉では読点)が入る
例 tóra senár te lísim sáindaran élei. 私が証文を書いてやる目付が来る tóra senár té, lísim sáindaran élei. あの目付が来る。私はその人に証文を書く

高原の文字は強勢を書かないので、te と té は同じ字です。書き言葉では、区切りの印がなければ関係節と読みます。

(2) 関係節は文の終わりまで続く

関係節は、文の終わりか読点まで続きます。そのため、関係節のついた主語の後ろに「縁へ」のような語を続けると、その語まで関係節の中に入ってしまいます。

語順 読み方
× dúlo gandér te kéelan kelárai du dálor. du dálor が関係節に入り、「樵たちが下の国へ向けて伐り終えた」という変な意味になる
○ dúlo du dálor gandér te kéelan kelárai. 樵たちが伐り終えた硬木が、下の国へ下りていく

関係節のついた長い主語は、文末に回します。 重いものを後ろへ回す、高原語の大事な原則です。

5. 詩の語順と、詩の挨拶

規則:ふつうの文は「動詞・主語・目的語」の順ですが、詩では語順がかなり自由になります。主語が動詞の前に出たり、動詞が落ちたりします。

du dálor gandér, sílarau áurau. 硬木は下の国へ、二つの月は昇る。

ふつうの文なら dúlo gandér du dálor.、áurau sílarau. と言うところです。会話の中でこの「ひっくり返った」語順が聞こえたら、詩句の引用だと考えてください。

形容詞が先頭に来る格言:諺や詩では、「〜だ」の és- を落として、形容詞を先に言うことがあります。ふつうは「名詞+形容詞」の順なので、形容詞が先に来るだけで「これは格言だ」と伝わります。

gléin selvá, áuren virá. 清きは息、高きは言葉。

詩の挨拶の前置き:改まった場では、目下の者が先に季節の句を詠みます。そのとき、次のように前置きします。

léunim dáu viríñau. 拙い句を二つ、申し上げます。

例文

lúin áuran ombára ilánai, dulíþan kelárai gandér.

読み:ルーイン アウラン オンバーラ イラーナイ、ドゥリーサン ケラーライ ガンデール。

lúináur-anombárailán-ai,dul-íþ-ankel-ár-aigandér.
とき昇る-<彼らが>十灯-<〜たちが>下る-<〜させる>-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>硬木<対格>

「十の灯が昇ると、樵たちは硬木を下ろす。」

lúin の文は主節の前に置きます。ombára ilánai は年の始まりを告げる星座の名前で、星を数えているのではありません。

lúin brúuma dulána, dróuman éndrai.

読み:ルーイン ブルーマ ドゥラーナ、ドローマン エンドライ。

lúinbrúum-adulána,dróum-anéndr-ai.
とき落ちる-<(軽いものが)>流れ星<主格>嘆く-<彼らが>人-<〜たちが>

「流れ星が落ちると、人々は嘆く。」

dulána は軽性なので、動詞は -a で受けます。流れ星は、上から何かが下りてくる不吉なしるしとされます。

lúin tóra kailálva, ésa líndra séuril.

読み:ルーイン トーラ カイラルヴァ、エーサ リンドラ セウリル。

lúintór-akailálva,és-alíndraséuril.
とき来る-<(軽いものが)>乾風期<主格>いる-<(軽いものが)>金の落葉樹<主格>美しい

「乾風期が来ると、金の落葉樹は美しい。」

líndra は生えている木なので軽性です。動詞も形容詞も軽性の形になります。

toríro nébro es orénos, na senéimor ilánais.

読み:トリーロ ネーブロ エス オレーノス、ナ セネーモル イラーナイス。

tor-ír-onébroesorén-os,nasen-é-imorilán-ais.
来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格><〜ない>見る-<〜だろう>-<我々が>灯-<〜たちを>

「縁から霧が上がってくれば、我々には星が見えなくなるだろう。」

霧は重性なので、仮定の形は -íro です。結果は推量の形で言います。

toríre senár, liséim sáindaran.

読み:トリーレ セナール、リセーン サインダラン。

tor-ír-esen-ár,lis-é-imsáindar-an.
来る-<もし〜なら>-<(軽いものが)>見る-<〜する人>書く-<〜だろう>-<私が>証文-<対格>

「目付が来れば、私は証文を書こう。」

目付は人なので軽性です。仮定の形の3人称単数・軽性は -e で終わります。

dúlo du dálor gandér te kéelan kelárai.

読み:ドゥーロ ドゥ ダーロル ガンデール テ ケーラン ケラーライ。

dúl-odudálorgandértekéel-ankel-ár-ai.
下る-<(重いものが)>下手下の国<対格>硬木<主格><関係節>伐る<〜し終えた>-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>

「樵たちが伐り終えた硬木が、下の国へ下りていく。」

関係節の中では「〜を」が抜けたまま空いています。関係節は文の終わりまで続くので、関係節つきの主語を文末に回しています。

tóra senár él te lísim sáindaran élei.

読み:トーラ セナール エール テ リーシン サインダラン エーレイ。

tór-asen-áréltelís-imsáindar-anél-ei.
来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人><3人称単数・軽性><関係節>書く-<私が>証文-<対格><3人称単数・軽性>-<与格>

「私が証文を書いてやる、あの目付が来る。」

「その人に」は代名詞 élei で埋めます。té te と続けられないので、「あの」の代わりに él を置いています。

tóra senár té, lísim sáindaran élei.

読み:トーラ セナール テー、リーシン サインダラン エーレイ。

tór-asen-árté,lís-imsáindar-anél-ei.
来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人>あの<軽性>書く-<私が>証文-<対格><3人称単数・軽性>-<与格>

「あの目付が来る。私はその人に証文を書く。」

強勢のある té の後ろに区切りが入るので、二つの文になります。前の例文と聞き比べてください。

léunim dáu viríñau.

読み:レウニン ダウ ヴィリーニャウ。

léun-imdáuvir-íñ-au.
申す-<私が>二言葉-<小さな・拙い>-<双数>

「拙い句を二つ、申し上げます。」

詩の挨拶で、目下の者が先に詠むときの前置きです。-íña はへりくだった「拙い」の意味になります。

du dálor gandér, sílarau áurau.

読み:ドゥ ダーロル ガンデール、シーララウ アウラウ。

dudálorgandér,sílar-auáur-au.
下手下の国<対格>硬木<主格>月-<双数>昇る-<双数>

「硬木は下の国へ、二つの月は昇る。」

十拍の詩句です。前半は動詞が落ち、後半は主語が動詞の前に出ています。この語順が聞こえたら、引用だとわかります。

練習問題

  1. 空欄に tór-「来る」の仮定の形を入れてください。

    1. tor____ nébro, na senéimor ilánais.(霧が来れば、星は見えないだろう)
    2. tor____ senár, liséim sáindaran.(目付が来れば、証文を書こう)
    3. tor____ társ, méirim nímbo társei.(お前たちが来れば、お前たちに乳をやろう)
    解答
    1. toríro:霧 nébro は重性なので -o です。
    2. toríre:目付は人なので軽性です。仮定の形の3人称単数・軽性は -a ではなく -e になります。
    3. torírers:2人称複数です。

    どの形も、強勢は -ír- に移ります。

  2. 日本語を高原語にしてください。

    「もし荷が重ければ、運び人は嘆くだろう。」

    (ヒント:「〜である」は és-、「嘆く」は dróum-)

    解答

    esíro fáron gróm, drouméla faronár.

    • 条件の文は、és- を仮定の形にするだけです。荷 fáron は重性なので esíro になります。
    • 結果の文は推量の形にします。主語の運び人は軽性なので drouméla です。強勢は -él- に移ります。
  3. 日本語を高原語にしてください。

    「樵たちが伐り終えた硬木が、縁へ下りていく。」

    解答

    dúlo du orén gandér te kéelan kelárai.

    関係節は文の終わりまで続きます。そのため、関係節のついた長い主語 gandér te kéelan kelárai を文末に回し、du orén「縁へ」を先に言います。dúlo gandér te kéelan kelárai du orén. と言うと、「縁へ」が関係節の中に入ってしまいます。

  4. 高原語を日本語にしてください。

    1. lúin áura álmar, émbelimor aursárais.
    2. sénim plánan te léisa lisár.
    解答
    1. 「白月が昇ると、我々は祖先を祀る。」:lúin の文が前、主節が後ろです。この土地では、白月の満月の夜に祖先を祀ります。
    2. 「私は、書記が書き終えた帳簿を見る。」:plánan は主節の「〜を」なので対格です。関係節の中では「〜を」が抜けて空いています。
  5. 発音の問題です。次の二つの文は、高原の文字で書くと「区切りの印」以外は同じです。話し言葉では、どこで聞き分けますか。それぞれの意味も答えてください。

    A tóra senár te lísim sáindaran élei. B tóra senár té, lísim sáindaran élei.

    解答
    • A の te は強勢がなく、次の lísim につなげて一続きに[te-lísim]と発音します。関係節で、「私が証文を書いてやる目付が来る」という意味です。
    • B の té は強く発音し、後ろに短い切れ目が入ります。指示詞「あの」で、「あの目付が来る。私はその人に証文を書く」という二つの文になります。

    日本語話者は強勢を音の高さとして聞きがちです。te が「弱く短く、次にくっつく」かどうかに注意して聞いてください。

  6. 次のうち、詩句の引用だと考えられるのはどれですか。理由も答えてください。

    A dúlo gandér du dálor. B du dálor gandér, sílarau áurau. C áura selvá an ilánais.

    解答

    B です。

    A と C は、ふつうの「動詞・主語・…」の語順です。B は、前半で動詞が落ち、後半では主語 sílarau が動詞 áurau の前に出ています。会話でこういう崩れた語順を聞いたら、詩句の引用だと考えられます。B は数えるとちょうど十拍(du-dá-lor-gan-dér-sí-la-rau-áu-rau)で、宮廷の「十拍の句」の形にもなっています。

コラム:詩の挨拶と十拍の句――言葉を美しく整えて天へ届ける

この言葉が話されている高原では、言葉は息だと考えられています。息は軽く、上へ昇るものです。韻律が正しく、語形が美しく整った言葉は、煙のように天 élvar へ昇り、祖先に届いて喜ばれるとされます。反対に、粗野な言葉や乱れた言葉は重く、下へ落ちていきます。都の人々が美しく話すことにこだわるのは、教養を見せるためだけではありません。それが祖先への捧げものだからです。

詩の挨拶

改まった場で人に会うと、季節を詠んだ短い詩句を交わします。まず目下の者が léunim dáu viríñau.「拙い句を二つ申し上げます」と前置きして詠み、目上の者が句を返します。返しの句がうまく続くと、その出会いは吉とされます。詠まれる題材は、乾風期の初めに金色に散る líndra(金の落葉樹)、年の始まりを告げる十の灯、凍った湖、二つの月などです。

十拍の句

宮廷の詩の基本は、十の拍でできた句 ombríl です。「十」はこの土地では両手の指がそろった数で、「欠けのない」という意味も持っています。詩人の腕が問われるのは、十拍の中に、重い音節(長母音・二重母音を含む音節や、子音で終わる音節)と軽い音節、強勢をどう並べるかです。

意外なことに、宮廷では韻を踏むこと(押韻)が重んじられません。高原語は語尾で性・数・格を表すので、同じ格の語を並べれば、行の終わりは自然にそろってしまいます。そのため韻を踏むのは簡単すぎて、技として認められないのです。行の終わりがそろいすぎた句は「語尾に頼った句」と呼ばれ、下手な詩の代名詞になっています。いっぽう、森の氏族は同じ子音で始まる語を並べる頭韻を、崖道の運び人は行の終わりをそろえる脚韻を好みます。どんな詩を作るかで、その人の出自がわかるのです。

詩句を引いて話す

身分の高い人ほど、ふだんの会話にも古い詩の一節を引いて、言いたいことをそれとなく伝えます。詩の語順は自由なので、引用の部分だけ語順がひっくり返って聞こえます。この課の du dálor gandér, sílarau áurau.「硬木は下の国へ、二つの月は昇る」は、重いものは下へ、軽いものは上へという高原の世界の見方を、一句に詠みこんだものです。雨期に家にこもって詩を作るのも、雨が上から来る清いもので、屋根の上の祖先に言葉が届くと信じられているからです。

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