tór-

品詞
動詞
意味
来る
辞書形
tóra
発音
[ˈtora]
読み
トーラ
分野
基本動作

意味

  1. 来る

    こちらへ来る、近づいてくる。

    toríro nébro es orénos, na senéimor ilánais.

    読み:トリーロ ネーブロ エス オレーノス、ナ セネーモル イラーナイス。

    tor-ír-onébroesorén-os,nasen-é-imorilán-ais
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格><〜ない>見る-<〜だろう>-<我々が>灯-<〜たちを>

    「縁から霧が上がってくれば、我々には星が見えなくなるだろう。」

    霧 nébro は重性o語幹なので、仮定法の動詞も重性の -o をとる。帰結の部分は推量法で、na で否定している。1人称の語尾の前では、推量法の -él- の l が落ちて -é- になる。

    pá éses? es pós tóres?

    読み:パー エーセス?エス ポース トーレス?

    páés-es?espóstór-es?
    誰<主格>いる-<あなたが>から何<属格>来る-<あなたが>

    「お前は誰だ。どこから来た?(なぜ来た?)」

    疑問詞は動詞の前に出る。es pós「何から」は「どこから」と「なぜ」の両方を表す。2人称を使っているので、下向きの話し方。崖道の番人が尋に最初に投げかけそうな問い。

    tóra senár él te lísim sáindaran élei.

    読み:トーラ セナール エール テ リーシン サインダラン エーレイ。

    tór-asen-áréltelís-imsáindar-anél-ei.
    来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人><3人称単数・軽性><関係節>書く-<私が>証文-<対格><3人称単数・軽性>-<与格>

    「私が証文を書いてやる、あの目付が来る。」

    与格にあたる部分は、関係節の中で代名詞 élei「その人に」で埋める(再述代名詞)。軽性の「あの」té は関係節の te の前に置けないので、代名詞 él を「あの・例の」の意味で置く。この él は名詞の格に一致する。tóra senár té, lísim sáindaran élei. と、強勢のある té の後ろで区切ると、「あの目付が来る。私はその人に証文を書く」という二つの文になる。書き言葉では te と té は同じ字だが、主節を二つ並べるときはかならず区切りの印を打つ。区切りがなければ関係節と読む。

    duliþíre kelár fáron es orénos, toriþéla dálor.

    読み:ドゥリシーレ ケラール ファーロン エス オレーノス、トリセーラ ダーロル。

    dul-iþ-ír-ekel-árfáronesorén-os,tor-iþ-él-adálor.
    下る-<〜させる>-<もし〜なら>-<(軽いものが)>伐る-<〜する人・主格>荷<対格>から縁-<属格>来る-<〜させる>-<〜だろう>-<(軽いものが)>下の国<対格>

    「樵が縁から荷を落とせば、下の国を呼び寄せることになろう。」

    条件の節は接続詞を使わず、動詞を仮定法にするだけで作り、主節の前に置く。帰結の節は推量法。後半では主語を言っていないが、動詞の語尾から、前半と同じ樵が主語だとわかる。崖から物を落としてはいけない、という禁忌の説明。

    tóra sélvan ráimaros es dáloros.

    読み:トーラ セルヴァン ライマロス エス ダーロロス。

    tór-asélvanráimar-osesdálor-os.
    来る-<(軽いものが)>セルヴァン<主格>ライマル-<属格>から下の国-<属格>

    「ライマル家のセルヴァンが下の国から来た。」

    名+家名の属格のフルネーム。名は人なので動詞は軽性の -a で受け、家名は源の名なので重性の属格 -os になる。

    na tóra unlóur senár.

    読み:ナ トーラ ウンロール セナール。

    natór-aunlóursen-ár.
    <〜ない>来る-<(軽いものが)>まだ見る-<〜する人>

    「目付はまだ来ない。」

    「まだ」unlóur は動詞の直後、主語の前に置く。否定の na は動詞の前。

    tóra éndra un kórvos.

    読み:トーラ エンドラ ウン コルヴォス。

    tór-aéndraunkórv-os.
    来る-<(軽いものが)>人<主格>内に倉-<属格>

    「人が倉の中から来る。」

    un+属格で「〜の中から」。

    an nébros, na tóra orenvandár.

    読み:アン ネーブロス、ナ トーラ オレンヴァンダール。

    annébr-os,natór-aorenvandár.
    上手霧-<属格><〜ない>来る-<(軽いものが)>縁商人<主格>

    「霧の季節が来て以来、縁商人は来ない。」

    an+属格「〜の上手から」は、時の名詞では「〜以来」。時の句は場面の枠に置く。

    fléira aulisár si tóra faronár.

    読み:フレーラ アウリサール シ トーラ ファロナール。

    fléir-aau-lis-ársitór-afaron-ár.
    お出ましになる-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-書く-<〜する人>と来る-<(軽いものが)>荷-<〜する人>

    「書記の方がお出ましになり、運び人も来る。」

    目上の人と目下の人は、一つの主語に並べずに二つの文に分けるのが改まった言い方。

    tóra éndra es sílaraun.

    読み:トーラ エンドラ エス シーララウン。

    tór-aéndraessílar-aun.
    来る-<(軽いものが)>人<主格>から月-<双数の〜の・〜に>

    「人が二つの月のほうから来る。」

    es は属格としか組まないので、双数の属格のままでよい。

    tóra lisár te séna néman.

    読み:トーラ リサール テ セーナ ネーマン。

    tór-alis-ártesén-aném-an.
    来る-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格><関係節>見る-<(軽いものが)><私>-<対格>

    「私を見る書記が来る。」

    関係節の中の代名詞の目的語は対格(néman)。

    ké tóra sélvan?

    読み:ケー トーラ セルヴァン?

    kétór-asélvan?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>セルヴァン<主格>

    「セルヴァンは来たか。」

    同じ段の者か目下の者のあいだの、くだけた問い。成名は、同じ段の者や目上の者が口にしてよい。目下の者が目上の人を指すときは、名ではなく役職で言う。人名は軽性なので、動詞は -a をとる。

    lúin tóro nébro, na þéla torár þelán.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーラ トラール セラーン。

    lúintór-onébro,naþél-ator-árþel-án.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>名乗る-<(軽いものが)>来る-<〜する人>名前-<対格>

    「霧が来ると、客は名を名乗らない。」

    霧の中で名前を声に出すと下の国に聞かれる、という禁忌を述べた文。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。直説法の否定には na を使う。

    auelénde autorár aldárei sé.

    読み:アウエレンデ アウトラール アルダーレイ セー。

    au-el-énd-eau-tor-áraldár-eisé.
    <お〜になる・御〜>-座る-<〜しますように>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-来る-<〜する人>座-<与格>この<軽性>

    「お客人には、この座にお座りいただきたく存じます。」

    客を上座へ招くときの改まった言い方。目の前の相手を2人称で呼ばず、au- をつけた名詞の3人称で言い、願望法で頼む。au- と h- がくっつくと h が落ちて auél- になる。指示詞 sé は格変化しない。

    lúin élþa ilána, tóra senár.

    読み:ルーイン エルサ イラーナ、トーラ セナール。

    lúinélþ-ailána,tór-asen-ár.
    とき燃える-<(軽いものが)>灯<主格>来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人>

    「灯がともると、目付がやって来る。」

    縁の市の夕方の言い方。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。ilána は軽性a語幹なので、動詞 élþa も tóra も軽性の -a をとる。主節も VSO の語順どおり、動詞 tóra が主語 senár の前に来る。

    toríro nébro, na elþéla ilána faronáres.

    読み:トリーロ ネーブロ、ナ エルセーラ イラーナ ファロナーレス。

    tor-ír-onébro,naelþ-él-ailánafaron-ár-es.
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>燃える-<〜だろう>-<(軽いものが)>灯<主格>荷-<〜する人>-<属格>

    「霧が上がってくれば、運び人の灯もともらなくなるだろう。」

    崖道でよく聞かれる嘆き。条件の節は動詞を仮定法にするだけで作る。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。帰結の節は推量法で、否定の na を動詞の直前に置く。ilána は「夜にともる明かり」の意味で、属格の faronáres「運び人の」が後ろからかかる。

    tóro nébro an orén.

    読み:トーロ ネーブロ アン オレーン。

    tór-onébroanorén.
    来る-<(重いものが)>霧<主格>上手縁<対格>

    「霧が縁へ這い上がってくる。」

    霧期の始まりを言う文。nébro「霧」は重性なので、動詞は重性の -o をとる。「an+対格」で「上手へ」。orén は重性子音語幹なので、対格は主格と同じ形になる。霧は下の国から崖を上ってくる「下の国の息」とされる。

    tóro sáko es dáloros.

    読み:トーロ サーコ エス ダーロロス。

    tór-osákoesdálor-os.
    来る-<(重いものが)>塩<主格>から下の国-<属格>

    「塩は下の国から来る。」

    日常の言い切りの文。塩は干潟から借りた語で、重性に入るので、動詞は重性の -o をとる。塩は「下からの恵み」と呼ばれ、ありがたさと少しの後ろめたさをもって語られる。

    toríro nébro, mé dúl es orénos!

    読み:トリーロ ネーブロ、メー ドゥール エス オレーノス!

    tor-ír-onébro,médúlesorén-os!
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>下る<命令法><あなたが>から縁-<属格>

    「霧が来たら、縁から下りるな!」

    崖道の上り口で目下の者に言う、下向きの禁止。前半は接続詞を使わず、動詞を仮定法にするだけの条件節で、霧 nébro は重性なので語尾は -o。後半は「mé+命令法の2人称単数(むき出しの語幹 dúl)」の形。霧期に崖道を下りるのは危ないうえ、霧は「下の国の息」として恐れられているので、よく聞く戒めである。

    lúin tóro nébro, dúlan orenvandárai du dálor.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ドゥーラン オレンヴァンダーライ ドゥ ダーロル。

    lúintór-onébro,dúl-anorenvandár-aidudálor.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>南へ行く-<彼らが>縁商人-<〜たちが>下手下の国<対格>

    「霧が来るころ、縁商人たちは下(干潟)へ帰っていく。」

    dúl- は、北が「上」の国では、そのまま「南へ行く・干潟へ行く」の意味になる。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。縁商人は軽性の人なので、複数主格は -ai になる。霧が崖を上りはじめると縁の市が閉じることを述べた文。

    toríro nébro, mé vír þelán! ésa þelá selvá, fíndo dálor.

    読み:トリーロ ネーブロ、メー ヴィール セラーン!エーサ セラー セルヴァー、フィンド ダーロル。

    tor-ír-onébro,mévírþel-án!és-aþeláselvá,fínd-odálor.
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>言う<命令法><あなたが>名前-<対格>いる-<(軽いものが)>名前<主格>息<主格>聞く-<(重いものが)>下の国<主格>

    「霧が来たら名を呼ぶな。名は息だ、下の国が聞きつける。」

    霧期の禁忌を子どもに教える言い方。口に出した名前を selvá「息」としてとらえている。条件の節は動詞を仮定法にするだけで作る。dálor は重性なので、動詞 fínd- は重性の -o をとる。

    áuran slúun sílarar, na tóra lisár.

    読み:アウラン スルーン シーララル、ナ トーラ リサール。

    áur-anslúunsílar-ar,natór-alis-ár.
    昇る-<彼らが>数えきれぬ月-<〜らの><〜ない>来る-<(軽いものが)>書く-<〜する人>

    「数えきれぬほど月が昇ったが、書記は来ない。」

    詩や改まった語りの言い方。slúun sílarar「千の月」は数えた結果ではなく、「数えきれないほど長い時が過ぎた」という意味の決まり文句。月は星ではないので、数の言い方をしても禁忌には当たらない。時制がないので、áuran は「昇った」とも訳せる。

    lúin tóro nébro, na sénimor sílaran.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーニモル シーララン。

    lúintór-onébro,nasén-imorsílar-an.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>月-<対格>

    「霧が来ると、月が見えなくなる。」

    霧期の不安を言う文。霧 nébro は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。主節は直説法なので、否定には na を使う。

    tóro nébro es orénos.

    読み:トーロ ネーブロ エス オレーノス。

    tór-onébroesorén-os.
    来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「縁から霧が来る。」

    霧期の始まりを告げる言い方。主語の nébro「霧」が重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。es は属格と組んで、方向を問わない「〜から」を表す。

    ké toréla faronár dórel?

    読み:ケー トレーラ ファロナール ドーレル?

    kétor-él-afaron-árdórel?
    <〜か>来る-<〜だろう>-<(軽いものが)>荷-<〜する人>明日

    「運び人は明日来るだろうか。」

    同輩どうしの問い。時制の語形がないので、確かでない未来のことは推量法で言う。強勢は推量法の -él- に移り、語根の ´ は消える(tóra → toréla)。faronár は fáron「荷」に -ár「〜する人」がついた語。

    léunim ré tóro nébro es orénos, ausenár.

    読み:レウニン レー トーロ ネーブロ エス オレーノス、アウセナール。

    léun-imrétór-onébroesorén-os,au-sen-ár.
    申す-<私が><〜と(節)>来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>

    「目付殿、縁から霧が来ると申し上げます。」

    目下の者が目上の人に知らせを伝える改まった言い方。léun- は「言う」の謙譲の補充形で、du- をつけた規則形は使わない。ré の後ろの節は、元の文の法(ここでは直説法)を保つ。呼びかけは呼格を使わず、役職名に au- をつけて、読点で区切って文末に添える。

    lúin tóro nébro, mé hál þelán!

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、メー ハール セラーン!

    lúintór-onébro,méhálþel-án!
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>呼ぶ<命令法><あなたが>名前-<対格>

    「霧が来たら、名を呼ぶな。」

    親が子に言い聞かせる禁止の言い方。霧の中で名前を大声で呼ぶと、下の国にその名を聞かれ、名の主が下へ引かれるとされる。nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。禁止は「mé+命令法」で言う。霧の中で人を呼ぶときは、名前の代わりに té「そこの方」などを使う。

    lúin na tóro nébro, méirim grúndo.

    読み:ルーイン ナ トーロ ネーブロ、メーリン グルンド。

    lúinnatór-onébro,méir-imgrúndo.
    とき<〜ない>来る-<(重いものが)>霧期<主格>与える-<私が>掛け<対格>

    「霧期が来ないうちに、掛けを払います。」

    縁の市での、精算の約束の言葉。霧の中で結んだ約束は重んじられないので、精算はかならず霧期の前に済ませる。同じことを市では、決まり文句の an nébroi「霧の前に(期限までに)」で言うことが多い。

    ké tóra séulin táses?

    読み:ケー トーラ セウリン ターセス?

    kétór-aséulintás-es?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>友<主格><あなた>-<属格>

    「お前の友は来たか?」

    はい・いいえの問いは、文のいちばん前の ké で作る。tás の属格 táses は、所有者として名詞の後ろに置く。2人称と ké を使っているので、目上の人には使えない話し方。

    vírim ré torélo nébro dórel.

    読み:ヴィーリン レー トレーロ ネーブロ ドーレル。

    vír-imrétor-él-onébrodórel.
    言う-<私が><〜と(節)>来る-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>明日

    「明日は霧が来るだろう、と私は言っておく。」

    ré は「〜と」の節を導き、主節の後ろに置く。ré の後ろの節は推量法のまま保たれる。主語の霧 nébro が重性なので、動詞の語尾は -o。

    tóra orenvandár él te sénim anórel.

    読み:トーラ オレンヴァンダール エール テ セーニン アノーレル。

    tór-aorenvandáréltesén-imanórel.
    来る-<(軽いものが)>縁商人<主格>あの<関係節>見る-<私が>昨日

    「昨日見かけた、あの縁商人が来る。」

    縁の市での会話。主語の orenvandár が主格なので、él も主格の形(語尾なし)。anórel は関係節の中に入っている(関係節は文の終わりまで続く)。目的語が抜けた穴は空けたままにする。

    lúin tóra senár, sénim élan.

    読み:ルーイン トーラ セナール、セーニン エーラン。

    lúintór-asen-ár,sén-imél-an.
    とき来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人>見る-<私が>彼-<対格>

    「目付が来たとき、私は彼を見かけた。」

    日常の会話。主語の代名詞は動詞の語尾でわかるので言わない。目的語の代名詞は省けないので、対格の élan を置く。「〜とき」の節は lúin で始めて、主節の前に置く。時制はないので、文脈によって「見る」とも「見た」とも訳せる。

    méirim sáindaran lisárei élei te tóra.

    読み:メーリン サインダラン リサーレイ エーレイ テ トーラ。

    méir-imsáindar-anlis-ár-eiél-eitetór-a.
    与える-<私が>証文-<対格>書く-<〜する人>-<与格>あの-<与格><関係節>来る-<(軽いものが)>

    「やって来た例の書記に、証文を渡す。」

    軽性の指示詞 té は関係節の te の前に置けない。そのため、代わりに él を「あの・例の」の意味で名詞の後ろに置く。この él は指示詞と違って格変化し、ここでは lisárei に合わせて与格の élei になる。関係節の主語は抜けたまま空けておく。

    tóra senár té.

    読み:トーラ セナール テー。

    tór-asen-árté.
    来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人>あの<軽性>

    「あの目付が来る。」

    縁の市で、近づいてくる役人を指して言う日常の言い方。指示詞 té は名詞の後ろに置く。性によって形が変わるが、格では変わらない。後ろに動詞が続かないので、関係節の te ではない。

    lúin tóro nébro, mé hál þelán éndrar.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、メー ハール セラーン エンドラル。

    lúintór-onébro,méhálþel-ánéndr-ar.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>呼ぶ<命令法><あなたが>名前-<対格>人-<〜らの>

    「霧が来たら、人の名を呼ぶな。」

    子どもに霧期の禁忌を教えるときの言い方。lúin の節は主節の前に置き、読点で区切る。霧 nébro は重性なので、動詞は -o の形になる。禁止は mé と命令法で言う。

    ké tórau dáun es orénos?

    読み:ケー トーラウ ダウン エス オレーノス?

    kétór-audáunesorén-os?
    <〜か>来る-<双数>二人から縁-<属格>

    「お前たち二人は、縁から来たのか。」

    双数の動詞 tórau は人称を区別しないので、dáun を添えて「二人が」をはっきりさせている。dáun も人称を区別しないので、「われら二人」「お前たち二人」「あの二人」のどれにあたるかは場面で決まる。ké を使った問いなので、目下か同じ段の相手に向けた言い方になる。

    ké tóra senár? na tóra.

    読み:ケー トーラ セナール?ナ トーラ。

    kétór-asen-ár?natór-a.
    <〜か>来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人><〜ない>来る-<(軽いものが)>

    「「目付は来たか?」「まだ来ていない。」」

    市の店先で、仲間どうしが第三者について尋ねあう文。答えは動詞を繰り返すが、主語が3人称のままなので人称は変わらず、「いいえ」は na を前に置くだけで言う。目付本人に向かって尋ねるなら、ké は使わず推量法にする。

    tóro ó es dáloros.

    読み:トーロ オー エス ダーロロス。

    tór-oóesdálor-os.
    来る-<(重いものが)>あいつ<主格>から下の国-<属格>

    「あいつ、下の国から来やがった。」

    人を重性の代名詞 ó で指し、動詞も重性の -o で一致させた、強い侮蔑の言い方。崖道の運び人などが陰口で使う。主語の代名詞をわざわざ言うのも、相手を突き放す響きを強める。ふつうに言うなら tóra él… と軽性で受ける。

    ké tóres es orénos? tórim.

    読み:ケー トーレス エス オレーノス?トーリン。

    kétór-esesorén-os?tór-im.
    <〜か>来る-<あなたが>から縁-<属格>来る-<私が>

    「「縁から来たのか?」「来た。」」

    二人の発話。ké は文のいちばん前に置いて、はい・いいえで答える問いを作る。時制がないので、過去のことでも同じ形で言う。「はい」にあたる語がないので、答えるときは問いの動詞を自分の人称(1人称単数)に変えて繰り返す。目上の人には ké を使わず、推量法で尋ねる。

    ké tóro ó es dáloros?

    読み:ケー トーロ オー エス ダーロロス?

    kétór-oóesdálor-os?
    <〜か>来る-<(重いものが)>あいつ<主格>から下の国-<属格>

    「あいつ、下の国から来やがったのか?」

    人を重性の代名詞 ó で指し、動詞も重性の -o で受けた、さげすみの問い。ふつう人は軽性の él で受ける。人を重性で指すのは、相手を「下へ沈んだ者」として扱うことになるので、本人に聞こえれば争いのもとになる。陰口で干潟の人を指すときによく使われる。

    tóra faronár an séndo es orénos.

    読み:トーラ ファロナール アン センド エス オレーノス。

    tór-afaronáranséndoesorén-os.
    来る-<(軽いものが)>運び人<主格>上手ここ<対格>から縁-<属格>

    「運び人が縁からここへ上ってくる。」

    道筋を言う文。行き先は an+対格で「上手のここへ」と、高さを決めて言う。出どころは、方向を問わない es に属格を組み合わせて言う。時制がないので「上ってくる」とも「上ってきた」とも訳せる。

    na lúuman aursárai séndo, lúin tóro nébro es orénos.

    読み:ナ ルーマン アウルサーライ センド、ルーイン トーロ ネーブロ エス オレーノス。

    nalúum-anaursár-aiséndo,lúintór-onébroesorén-os.
    <〜ない>ご覧になる-<彼らが>祖先-<〜たちが>この世<対格>とき来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「縁から霧が上がってくるとき、祖先はこの世をご覧にならない。」

    霧期を恐れる理由を語る言い方。ここでの séndo は話し手のいる場所ではなく、上(天)と下(干潟・地の底)のあいだにある、人の生きる「中の世界」を指す。祖先には「見る」の尊敬の補充形 lúum- を使う。祖先は数えないので、複数はひとまとまりの「方々」の意味になる。

    tór an téndo, faronár.

    読み:トール アン テンド、ファロナール。

    tóranténdo,faronár.
    来る<命令法><あなたが>上手あそこ<対格>運び人

    「あそこへ上って来い、運び人。」

    下向きの命令。命令法2人称単数は、語幹をそのまま使う。行き先は an+対格で「上手のあそこへ」と言う。相手への呼びかけには呼格を使わず、役職名を文末に読点で区切って添える。

    ké tóra páin?

    読み:ケー トーラ パイン?

    kétór-apáin?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>誰か<主格>

    「誰か来たか。」

    家や番所で人の気配に気づいたときの、くだけた問い。páin は人を指すので軽性で、動詞は3人称単数・軽性の -a で受ける。時制がないので「来るか」「来たか」のどちらにもなり、場面で決まる。目上の人には ké を使わない。

    na tóra páin sórel.

    読み:ナ トーラ パイン ソーレル。

    natór-apáinsórel.
    <〜ない>来る-<(軽いものが)>誰も<主格>今日

    「今日は誰も来なかった。」

    市の帳場が静かだった日のことを言う文。動詞の直前に na を置き、páin と組み合わせると「誰も〜ない」という全否定になる。sórel「今日」のような時の語は文の後ろに置く。

    na tóran ómbra senárar.

    読み:ナ トーラン オンブラ セナーラル。

    natór-anómbrasen-ár-ar.
    <〜ない>来る-<彼らが>みな<主格>見る-<〜する人>-<〜らの>

    「目付たちがみな来たわけではない。」

    na で否定すると、「全員が〜したわけではない」という部分否定になる。ómbra は意味の上で複数を受けるので、動詞は3人称複数になる。

    tóra senár selúin.

    読み:トーラ セナール セルーイン。

    tór-asen-árselúin.
    来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人>今

    「目付が今来る。」

    市で、同じ段の者どうしが交わす日常の言葉。時を表す selúin は、ふつう文の終わり近くの「その他」の位置に置く。時制の語形がないので、「今」を添えると、目の前で起きていることだとはっきりする。仲間うちの話なので、senár に au- をつけていない。

    lúin tóro nébro, hóinimor telúin.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ホイニモル テルーイン。

    lúintór-onébro,hóin-imortelúin.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>帰る-<我々が>その時

    「霧が来たら、その時に我々は帰る。」

    市を閉じる時期を話す日常の会話。lúin の節で示した時を、主節の telúin がもう一度指している。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。telúin は、これから先の時にも過ぎた時にも使える。

    tóran faronárai es orénos telúin.

    読み:トーラン ファロナーライ エス オレーノス テルーイン。

    tór-anfaron-ár-aiesorén-ostelúin.
    来る-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>から縁-<属格>その時

    「その時、運び人たちが縁から上がってきた。」

    昔語りや出来事の報告で、すでに話に出た時を指す言い方。動詞には時制がないので、過去のことだとわかるのは telúin と文脈による。faronár は fáron「荷」に -ár「〜する人」がついた語。

    tóran sóur faronárai es orénos.

    読み:トーラン ソール ファロナーライ エス オレーノス。

    tór-ansóurfaron-ár-aiesorén-os.
    来る-<彼らが>六荷-<〜する人>-<〜たちが>から縁-<属格>

    「運び人が六人、縁から上がってくる。」

    運び人のような目下の者や働き手は、数詞で数えてかまわない。目上の人は数えず、ひとまとまりの複数で言う。三以上の数詞の後ろでは、名詞は複数になる。

    tóran pómbarin faronárai es orénos.

    読み:トーラン ポンバリン ファロナーライ エス オレーノス。

    tór-anpómbarinfaronár-aiesorén-os.
    来る-<彼らが>いくつか運び人-<〜たちが>から縁-<属格>

    「縁から運び人が何人か上がってくる。」

    pómbarin は数詞と同じく名詞の前に置き、後ろの名詞は複数にする。運び人は働き手なので数えてよい。目上の人には、はっきりしない数であっても pómbarin は使えない。その場合は fléiran ausenárai「目付の方々がお出ましになる」のように、ひとまとまりの複数で言う。

    lúin glǘno véinor, tóran faronárai snírai séndo.

    読み:ルーイン グリューノ ヴェーノル、トーラン ファロナーライ スニーライ センド。

    lúinglǘn-ovéinor,tór-anfaronár-aisnír-aiséndo.
    とき凍る-<(重いものが)>湖<主格>来る-<彼らが>運び人-<〜たちが>少ない-<〜たちが>ここ

    「湖が凍るころには、ここへ来る運び人は少なくなる。」

    lúin の節は主節の前に置く。湖 véinor は地の上の水なので重性で、動詞は -o をとる。主節の主語 faronárai は軽性・複数・主格で、snírai はそれに一致する。運び人のような働き手は数えてよいので、snír で多い少ないを言ってもかまわない。凍りの頃の崖道を言う文。

    lúin tóro nébro, na séno senó dáu sílarau.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーノ セノー ダウ シーララウ。

    lúintór-onébro,nasén-osenódáusílar-au.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<(重いものが)>目<主格>二月-<双数>

    「霧が来れば、目には二つの月も見えない。」

    霧期の不安を言う、言い習わしのような文。senó は sén-「見る」に重性のもの名詞の接辞 -ó がついた語で、重性なので動詞は -o をとる。月は星ではないので、dáu「二」で数えて双数にしてよい。

    toríro nébro, na sénimor nóumo séulines.

    読み:トリーロ ネーブロ、ナ セーニモル ノーモ セウリネス。

    tor-ír-onébro,nasén-imornóumoséulin-es.
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>顔<対格>友-<属格>

    「霧が上がってくれば、友の顔も見えない。」

    霧期の不安を語る言い方。霧の中では名前を呼べないうえに、顔も見分けられない。条件の節は接続詞を使わず、動詞を仮定法にするだけで作る。霧 nébro は重性なので、仮定法の動詞も重性の -o をとる。

    toriþélo bélo gróm dálor.

    読み:トリセーロ ベーロ グローン ダーロル。

    tor-iþ-él-obélogrómdálor.
    来る-<〜させる>-<〜だろう>-<(重いものが)>欲<主格>重い下の国<対格>

    「重い腹は下の国を呼び寄せる。」

    欲深さを戒める諺。bélo gróm「重い腹」は食い意地や欲深さを表す決まった言い方で、重いものは下へ沈むという信仰にもとづく。gróm は重性・単数・主格に一致するので、語尾がつかない。

    lúin tóro nébro, éso brés némes gróm.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、エーソ ブレース ネーメス グローン。

    lúintór-onébro,és-obrésném-esgróm.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>いる-<(重いものが)>胸<主格><私>-<属格>重い

    「霧が来ると、胸が重くなる。」

    霧期の不調を語る文。lúin の節は主節の前に置く。霧 nébro も胸 brés も重性なので、どちらの動詞も -o をとる。述語の形容詞 gróm は重性・主格で語尾がつかない。霧は病を運ぶ「下の国の息」とされる。

    lúin tóra dulóur téir lóurul némes, sáilim.

    読み:ルーイン トーラ ドゥロール テール ロールル ネーメス、サイリン。

    lúintór-adulóurtéirlóur-ulném-es,sáil-im.
    とき来る-<(軽いものが)>下の世代の血族<主格>三瀬-<〜たちを><私>-<属格>喜ぶ-<私が>

    「曾孫が来ると、私はうれしい。」

    「三瀬下」で曾孫を言う。三の後ろなので、瀬は複数の lóurul になる。lúin の節は主節の前に置く。主節の主語は動詞の語尾 -im でわかるので、代名詞は言わない。

    tóra ambrél éul némes sórel.

    読み:トーラ アンブレール エウル ネーメス ソーレル。

    tór-aambréléulném-essórel.
    来る-<(軽いものが)>兄・姉別の流れの<私>-<属格>今日

    「今日、義理の兄(姉)が来る。」

    ambrél éul「別の流れの兄・姉」は、配偶者の兄・姉と、兄・姉の配偶者のどちらも指す。自分と同じ家系かどうかを重んじ、どういうつながりで別の流れになったのかは区別しない。名詞句は「名詞–形容詞–属格」の順で、éul は軽性・単数・主格なので語尾がつかない。

    tóra dórin té es orénos.

    読み:トーラ ドーリン テー エス オレーノス。

    tór-adórintéesorén-os.
    来る-<(軽いものが)>男<主格>あの<軽性>から縁-<属格>

    「あの男が縁のほうから来る。」

    dórin は軽性の子音語幹なので、指示詞は軽性の té になる。目下か同じ段の相手について言う、ふつうの言い方である。目上の人をこの語で指すと無礼になり、役職名に au- をつけて言う。

    toréndes an gráun dúnos, séirim tásan.

    読み:トレンデス アン グラウン ドゥーノス、セーリン ターサン。

    tor-énd-esangráundún-os,séir-imtás-an.
    来る-<〜しますように>-<あなたが>上手上端<対格>丘-<属格>待つ-<私が><あなた>-<対格>

    「丘のてっぺんまで来てくれないか。待っているから。」

    同じ段の者どうしの約束の言い方。同じ段の相手なので、命令法ではなく願望法の2人称を使う。gráun に丘 dún の属格を添えて、「丘のてっぺん」と言う。坂の多い都では、待ち合わせの場所によく使われる言い方である。

    víra éndra ré tóro nébro es dáloros.

    読み:ヴィーラ エンドラ レー トーロ ネーブロ エス ダーロロス。

    vír-aéndrarétór-onébroesdálor-os.
    言う-<(軽いものが)>世間の人<主格><〜と(節)>来る-<(重いものが)>霧<主格>から下の国-<属格>

    「世の人は、霧は下の国から来ると言う。」

    言い伝えを紹介するときの決まった言い方。éndra を、特定の誰かではない主語として使うと、「世の人」「人は」という意味になる。ré の後ろの節では、主語の霧 nébro が重性なので、動詞は -o をとる。

    selvána aurólmar ré torélo nébro.

    読み:セルヴァーナ アウロルマル レー トレーロ ネーブロ。

    selván-aaur-ólmarrétor-él-onébro.
    おっしゃる-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-長老<〜と(節)>来る-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>

    「長老の方は、霧が来るだろうとおっしゃる。」

    敬われる長老の言葉を人に伝える言い方。尊敬の接頭辞 au- は母音の前で aur- になる(au-+ólmar → aurólmar)。selván- は「言う」の尊敬の補充形。ré の後ろの節は元の法を保ち、ここでは推量法。霧 nébro は重性なので、動詞は -o をとる。

    ké tórau dáu torárau dórel? tórau.

    読み:ケー トーラウ ダウ トラーラウ ドーレル?トーラウ。

    kétór-audáutorár-audórel?tór-au.
    <〜か>来る-<双数>二客-<双数>明日来る-<双数>

    「「明日はお客が二人来るのか?」「来る。」」

    二人の発話。家の中での打ち合わせ。数詞 dáu「二」の後ろの名詞は双数になり、動詞も双数(人称・性の区別なし)。答えは問いの動詞を繰り返す。客が目上の人なら au- をつけた高め名詞にし、数えずに言う。

    tóro dalorár tó es orénos.

    読み:トーロ ダロラール トー エス オレーノス。

    tór-odalorártóesorén-os.
    来る-<(重いものが)>泥の者<主格>あの<重性>から縁-<属格>

    「あの泥の者が縁から上がってくるぞ。」

    陰口やからかいの言い方。dalorár そのものは軽性の語形のままだが、動詞を重性の -o(tóro)で、指示詞を重性の tó で受けている。人を重性で一致させることで、相手を石や泥のような「重いもの」として見下す。軽性で受ける tóra dalorár té なら、ただの「あの下の国の者が来る」になる。

    tóran téir faronárai es orénos.

    読み:トーラン テール ファロナーライ エス オレーノス。

    tór-antéirfaronár-aiesorén-os.
    来る-<彼らが>三運び人-<〜たちが>から縁-<属格>

    「縁から運び人が三人上がってくる。」

    運び人のような働き手は、数詞で人数を数えてよい。目上の人を数えるのは失礼なので、このような言い方はしない。三以上の数詞の後ろでは名詞が複数になる。es+属格で、方向を問わない「〜から」を表す。

    tóro fáron du dáu rúsilaun.

    読み:トーロ ファーロン ドゥ ダウ ルーシラウン。

    tór-ofárondudáurúsil-aun.
    来る-<(重いものが)>荷<主格>下手二赤月の巡り-<双数の〜の・〜に>

    「「荷は赤月ふた巡りのあとに上がってくる。」」

    崖道の商人や運び人が使う日数の言い方。干潟との取引のために、赤月の一巡り(約七日半)を単位にして日を数える。崖道の言葉では双数が衰えているので、dáu の後ろでも双数ではなく複数与格 -ail を使っている。都の言葉なら du dáu rúsilaun になる。くだけた発音では tóro は tór になる。

    lúin tóro nébro, éso glünó véinoros múrno.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、エーソ グリュノー ヴェーノロス ムルノ。

    lúintór-onébro,és-oglünóvéinor-osmúrno.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>いる-<(重いものが)>氷<主格>湖-<属格>腐り氷

    「霧が来ると、湖の氷は腐り氷になる。」

    季節の移り変わりを言う、教えさとすような文。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。霧 nébro は重性なので、動詞 tór- は -o をとる。名詞句は「名詞–属格」の順に並ぶ(glünó véinoros「湖の氷」)。

    tóra fléura dréum es orénos.

    読み:トーラ フレウラ ドレウン エス オレーノス。

    tór-afléuradréumesorén-os.
    来る-<(軽いものが)>雲<主格>黒いから縁-<属格>

    「縁のほうから黒い雲がやって来る。」

    雨期の初めに、雨が近いことを知らせる言い方。雲は上に属するものなので軽性で、動詞は -a をとる。形容詞 dréum は軽性・主格の形なので語尾がない。同じように下から来るものでも、霧 nébro は重性なので、動詞は tóro になる。

    tóro duléumo es orénos, esélo nébro dórel.

    読み:トーロ ドゥレウモ エス オレーノス、エセーロ ネーブロ ドーレル。

    tór-oduléumoesorén-os,es-él-onébrodórel.
    来る-<(重いものが)>下の風<主格>から縁-<属格>いる-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>明日

    「縁から下の風が来ている。明日は霧が出るだろう。」

    空模様を読む日常の文。duléumo は重性o語幹なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。後半は存在の文を推量法にしたもので、確かでない明日のことは推量法で言う。霧 nébro も重性なので、esélo の語尾は -o になる。下の風は崖下から這い上がる湿った風で、霧と病を運ぶものとされる。

    lúin tóro duléumo, mé gélir du orén.

    読み:ルーイン トーロ ドゥレウモ、メー ゲーリル ドゥ オレーン。

    lúintór-oduléumo,mégél-irduorén.
    とき来る-<(重いものが)>下の風<主格><禁止・願いの打ち消し>行く-<皆で〜せよ>下手縁<対格>

    「下の風が吹いてきたら、皆、縁のほうへ行ってはならん。」

    年長者が子どもたちに言い聞かせるような禁止の文。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。主節は「mé+命令法・2人称複数(-ir)」で、目下の者への下向きの話し方になる。du+対格で「下手へ」。下の風が来る方向へ行けば、湿った重い空気に引かれると考えられている。

    léunim ré tóro duléumo es faronárar, ausenár.

    読み:レウニン レー トーロ ドゥレウモ エス ファロナーラル、アウセナール。

    léun-imrétór-oduléumoesfaron-ár-ar,au-sen-ár.
    申す-<私が><〜と(節)>来る-<(重いものが)>不穏な気配<主格>から荷-<〜する人>-<〜らの><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>

    「目付殿、運び人たちのあいだから不穏な気配が立ちのぼっていると申し上げます。」

    役人に報告する改まった文。léun- は「言う」の謙譲の補充形。「〜と」の節は ré で導き、主節の後ろに置く。呼びかけは呼格を使わず、役職名を文の終わりに読点で区切って添える。ここでの duléumo は風そのものではなく、身分の低い者たちのあいだに広がる不満や噂を指す。下から上がってくる悪いものとして言い表す比喩である。

    es pós tóra léuma? es orénos tóra.

    読み:エス ポース トーラ レウマ?エス オレーノス トーラ。

    espóstór-aléuma?esorén-ostór-a.
    から何<属格>来る-<(軽いものが)>風<主格>から縁-<属格>来る-<(軽いものが)>

    「「風はどこから来ている?」「縁のほうから来ている。」」

    二人の発話(問いと答え)。疑問詞を含む前置詞句 es pós を動詞の前に出している。es pós は「どこから」と「なぜ」の両方を表すが、ここでは風の出どころを尋ねている。答えに「はい・いいえ」は使わず、動詞 tóra を繰り返す。縁から来る風は崖下からの風なので、答えを聞いた人は湿った下の風(duléumo)を思い浮かべる。

    lúin tóra aurléuma, auriþéla nébro.

    読み:ルーイン トーラ アウルレウマ、アウリセーラ ネーブロ。

    lúintór-aaurléuma,aur-iþ-él-anébro.
    とき来る-<(軽いものが)>昇る風<主格>昇る-<〜させる>-<〜だろう>-<(軽いものが)>霧<対格>

    「昇る風が吹いてくれば、霧を持ち上げるだろう。」

    霧期の終わりに、農村で雨期の訪れを読む文。霧が持ち上げられて雲に変わると、雨期が始まる。aurléuma は崖下から来るが、崖で押し上げられて雲をつくるので、重性の duléumo とは別の軽性の語になり、動詞も軽性の -a をとる。aur-íþ- は「昇る」の使役で「上げる」の意味。推量法の -él- が強勢を奪うので auriþéla となる。主語は前の節と同じなので、主節では言わない。nébro は重性なので、主格と対格が同じ形になる。

    toríro þúumo, mé hál þelán!

    読み:トリーロ スーモ、メー ハール セラーン!

    tor-ír-oþúumo,méhálþel-án!
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>濃霧<主格><禁止・願いの打ち消し>呼ぶ<命令法><あなたが>名前-<対格>

    「濃霧が来たら、名を呼ぶな。」

    霧の中で名前を大声で呼ぶと下の国に聞かれる、という禁忌を戒める言い方。条件の節は接続詞を使わず、動詞を仮定法にするだけで作る。þúumo は重性なので -o をとる。禁止は mé+命令法。þúumo は、ふつうの霧 nébro より濃く、隣の人も見えない霧を言う。

    tóra hervíña té, tául élan ré brolénde ráuvan gleinó.

    読み:トーラ ヘルヴィーニャ テー、タウル エーラン レー ブロレンデ ラウヴァン グレイノー。

    tór-ahervíñaté,táulél-anrébrol-énd-eráuvangleinó.
    来る-<(軽いものが)>麝香鹿<主格>あの<軽性>取る<命令法><あなたが><3人称単数・軽性>-<対格><〜と(節)>作る-<〜しますように>-<(軽いものが)>森の巫<主格>護符<対格>

    「あの麝香鹿が来る。森の巫が護符を作れるよう、あれを獲れ。」

    森の氏族の長が狩人に命じる、下向きの言い方。hervíña は軽性なので、指示詞は軽性の té になる。té には強勢を置き、読点で区切るので、関係節ではないとわかる。目的は「ré+願望法」で表す。この願望法は丁寧さではなく、「そうなってほしいこと」を表す。護符 gleinó は重性の o 語幹なので、対格も主格と同じ形になる。

    lúin glǘno véinor, tóran dráunai du véinor.

    読み:ルーイン グリューノ ヴェーノル、トーラン ドラウナイ ドゥ ヴェーノル。

    lúinglǘn-ovéinor,tór-andráun-aiduvéinor.
    とき凍る-<(重いものが)>湖<主格>来る-<彼らが>狼-<〜たちが>下手湖<対格>

    「湖が凍ると、狼たちが湖へ下りてくる。」

    湖畔の村で凍りの頃について言う文。lúin の節は主節の前に置く。dráun は軽性の子音語幹で、複数主格は dráunai。du+対格で「下手へ」。véinor は重性なので、主格と対格が同じ形になる。

    lúin tóro nébro, na þónda fíñel.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ ソンダ フィーニェル。

    lúintór-onébro,naþónd-afíñel.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>誓う-<(軽いものが)>用心深い者<主格>

    「霧が来たら、用心深い者は誓わない。」

    霧の中で結んだ約束は重んじられない、という考えを踏まえた諺。霧 nébro は重性なので、動詞は -o をとる。主語の fíñel は特定の人ではなく、「用心深い者は誰でも」という一般の人を指す。

    lúin tóro nébro, éso drúmo húmel.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、エーソ ドルーモ フーメル。

    lúintór-onébro,és-odrúmohúmel.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>,いる-<(重いものが)>苔<主格>湿った

    「霧が来ると、苔は湿る。」

    季節による苔の様子を述べる、説明の文。霧 nébro は重性なので、動詞は -o をとる。苔は地面や石を覆うもので重性に属するので、繋辞も重性の éso になる。述語の形容詞 húmel も、重性・単数・主格の形(語尾なし)で一致する。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。

    léimim sáko torárei.

    読み:レーミン サーコ トラーレイ。

    léim-imsákotor-ár-ei.
    置く-<私が>塩<対格>来る-<〜する人>-<与格>

    「客人に塩をお出しする。」

    受け手は与格 torárei で言う。小皿に塩をひとつまみ載せて客の前に置くのは最高のもてなしで、léim- がそのまま「(もてなしの品を)出す」の意味で使われる。重性の sáko は主格と対格が同じ形になる。

    lúin tóro nébro, ráuman faronárai du orén.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ラウマン ファロナーライ ドゥ オレーン。

    lúintór-onébro,ráum-anfaron-ár-aiduorén.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>歩く-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>下手縁<対格>

    「霧が来ると、運び人たちは縁のほうへ歩いていく。」

    lúin の節を主節の前に置いている。霧 nébro は重性o語幹なので、動詞は -o をとる。行き先は du+対格「下手へ」で言う。高原語の移動の言い方では、上るのか下るのかをかならず言い分ける。

    lúin tóro nébro, hóinan faronárai es orénos.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ホイナン ファロナーライ エス オレーノス。

    lúintór-onébro,hóin-anfaron-ár-aiesorén-os.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>帰る-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>から縁-<属格>

    「霧が来ると、運び人たちは縁から帰っていく。」

    縁の市の季節の終わりを言う文。nébro「霧」は重性なので、tóro は重性の -o をとる。市は霧の前に閉じるので、崖道の人々は霧を合図に故郷へ帰る。

    hálim ólmaran, na tóra.

    読み:ハーリン オルマラン、ナ トーラ。

    hál-imólmar-an,natór-a.
    呼ぶ-<私が>年長者-<対格><〜ない>来る-<(軽いものが)>

    「年長者を呼んだのに、来ない。」

    日常の言い方。時制がないので、hálim は「呼ぶ」とも「呼んだ」とも訳せる。後半では主語を言っていないが、動詞の軽性の語尾から、呼ばれた年長者が主語だとわかる。名前で呼ぶのではなく、ólmar「年長者」のような呼び名を使うのが礼にかなっている。

    nóurim ré torélo nébro dórel.

    読み:ノーリン レー トレーロ ネーブロ ドーレル。

    nóur-imrétor-él-onébrodórel.
    思う-<私が><〜と(節)>来る-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>明日

    「明日は霧が来ると思う。」

    ré の節で思う内容を示す。確かでない未来なので、節の中は推量法にしている。霧は重性なので -o。

    lúin véilso múrno, tóro nébro es orénos.

    読み:ルーイン ヴェールソ ムルノ、トーロ ネーブロ エス オレーノス。

    lúinvéils-omúrno,tór-onébroesorén-os.
    とき流れ去る<〜し終えた>-<(重いものが)>腐り氷<主格>来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「腐り氷が流れ去ってしまうと、縁から霧が上がってくる。」

    湖畔の村に伝わる季節の言い習わし。完了相の véils- で「すっかり流れ去った」ことを表す。múrno も nébro も重性なので、二つの動詞はどちらも -o をとる。lúin の節は主節の前に置く。

    povéra endríña ólmarei ré es pós tóro nébro.

    読み:ポヴェーラ エンドリーニャ オルマレイ レー エス ポース トーロ ネーブロ。

    povér-aendríñaólmar-eiréespóstór-onébro.
    問う-<(軽いものが)>子ども<主格>年長者-<与格><〜と(節)>から何<属格>来る-<(重いものが)>霧<主格>

    「子どもは年長者に、霧はなぜ来るのかと尋ねる。」

    尋ねる相手は与格で示し、尋ねる内容は ré の節で言う。es pós は「どこから」と「なぜ」の両方の意味になる。ré の節の中でも、疑問詞は動詞の前に出る。

    mé véil grúndo! torélo nébro.

    読み:メー ヴェール グルンド!トレーロ ネーブロ。

    mévéilgrúndo!tor-él-onébro.
    <禁止・願いの打ち消し>忘れる<命令法><あなたが>掛け<対格>来る-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>

    「掛けを忘れるなよ。もうすぐ霧が来るぞ。」

    縁の市で商人どうしが交わす念押し。禁止は「mé+命令法」で、命令法2単はむき出しの語幹 véil。grúndo は重性o語幹なので、対格も主格と同じ形。後半は推量法で、主語の霧 nébro が重性なので語尾は -o。霧が来る前に精算する、という市の習わしを踏まえている。

    tóro duléumo múr es orénos.

    読み:トーロ ドゥレウモ ムール エス オレーノス。

    tór-oduléumomúresorén-os.
    来る-<(重いものが)>下の風<主格>濁ったから縁-<属格>

    「縁から濁った下の風が上がってくる。」

    霧期の前に交わされる天気の話。duléumo「下の風」は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o、形容詞は語尾なしの形をとる。崖の下から来る湿った風は、病を運ぶ濁ったものとされる。

    tóro sáko es dáloros.

    読み:トーロ サーコ エス ダーロロス。

    tór-osákoesdálor-os.
    来る-<(重いものが)>塩<主格>から下の国-<属格>

    「塩は下の国から来る。」

    sáko は干潟から借りた語で、重性o語幹に属する。そのため動詞は3人称単数・重性の tóro になる。塩は「下からの恵み」と呼ばれ、ありがたさと少しの後ろめたさをもって語られる。

    lúin tóro nébro, élþa kéira.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、エルサ ケーラ。

    lúintór-onébro,élþ-akéira.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>燃える-<(軽いものが)>蝋燭<主格>

    「霧が来ると、蝋燭がともる。」

    霧期の暮らしを述べる文。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。蝋燭 kéira は軽性なので、動詞は軽性の -a をとる。lúin の節は主節の前に置く。

    méira houmár méldo ámbel torárei.

    読み:メーラ ホウマール メルド アンベル トラーレイ。

    méir-ahoum-árméldoámbeltor-ár-ei.
    与える-<(軽いものが)>炉-<〜する人>蜜<対格>黄色い来る-<〜する人>-<与格>

    「家の主が客に黄色い蜜を出す。」

    語順は動詞–主語–目的語–与格。蜜 méldo は重性o語幹なので、主格と対格が同じ形になり、形容詞にも語尾がつかない。もてなしの場面の文。

    tóro nébro kéum es orénos.

    読み:トーロ ネーブロ ケウン エス オレーノス。

    tór-onébrokéumesorén-os.
    来る-<(重いものが)>霧<主格>灰色のから縁-<属格>

    「縁から灰色の霧が上がってくる。」

    霧 nébro は下に属するものなので重性で、動詞は -o、形容詞は語尾なしになる。霧期の始まりを告げる言い方で、縁の市が閉じる合図にもなる。

    éso lóur só þáil, an þráinos tóro.

    読み:エーソ ロール ソー サイル、アン スライノス トーロ。

    és-olóursóþáil,anþráin-ostór-o.
    いる-<(重いものが)>瀬<主格>この<重性>澄んだ上手峰-<属格>来る-<(重いものが)>

    「この瀬は澄んでいる。峰の方から流れてくる水だ。」

    水の澄み方を言う用法。瀬 lóur は重性なので、繋辞は éiso、形容詞は重性の主格(語尾なし)。重性の指示詞 só が主語の名詞句の終わりを示す。後半は an+属格で「上手から」を表し、主語は前半と同じ瀬。北の高みから来る水ほど清いとされる。

    lúin tóro nébro, kúulan ólmarai.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、クーラン オルマライ。

    lúintór-onébro,kúul-anólmar-ai.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>煮出す-<彼らが>年長者-<〜たちが>

    「霧が来るころになると、年長者たちは(影の木の葉を)煮出す。」

    霧の季節に葉を煮出して茶にする習わしを述べた文。煮出す物は文脈でわかるので、言っていない。lúin の節は主節の前に置く。霧 nébro は重性なので、節の動詞は -o をとる。

    dukúulim autorárei.

    読み:ドゥクーリン アウトラーレイ。

    du-kúul-imau-tor-ár-ei.
    <〜させていただく>-煮出す-<私が><お〜になる・御〜>-来る-<〜する人>-<与格>

    「お客様に、お茶を煮出して差し上げます。」

    客をもてなすときの改まった言い方。謙譲の du- で自分の行いを低め、与格の受け手 torár「来る人」には au- をつけて高めている。煮出す物は場面でわかるので、言っていない。du- には強勢がないので、強勢は語根 kúul- に残る。

    ké tóres es kéndoros? tórim.

    読み:ケー トーレス エス ケンドロス?トーリン。

    kétór-eseskéndor-os?tór-im.
    <〜か>来る-<あなたが>から市-<属格>来る-<私が>

    「「市から来たのか?」「来た。」」

    二人の発話。同じ段どうしか、目上から目下へのくだけた問いで、はい・いいえを問う ké を文のいちばん前に置く。高原語には「はい」がないので、答えは動詞を自分の人称にして繰り返す。重性の kéndor の属格は -os になる。

    hóu, senár! tórau dáu faronárau.

    読み:ホー、セナール!トーラウ ダウ ファロナーラウ。

    hóu,senár!tór-audáufaronár-au.
    おーい番人来る-<双数>二運び人-<双数>

    「おーい、番人!運び人が二人来るぞ。」

    崖道の口でのくだけた呼びかけ。呼格は使わず、名詞をそのまま呼びかけに使う。dáu「二」の後ろの名詞は双数になり、動詞も双数で受ける。双数の動詞は人称と性を区別しない。

    lúin tóro nébro, mé leimésa símbo sáindarei.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、メー レイメーサ シンボ サインダレイ。

    lúintór-onébro,méleim-és-asímbosáindar-ei.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>置く-<〜すべし>-<(軽いものが)>印<対格>証文-<与格>

    「霧が来たら、証文に印を押さぬこと。」

    法典や碑文に見られる当為法の禁止。主語を言わないので一般の人が主語になり、軽性の -a をとる。強勢は -és- に移り、語根の ´ は消える。前半は lúin「〜とき」の節で、霧 nébro は重性なので動詞は -o をとる。霧の中で結んだ約束は「霧の約束」として重んじられない、という禁忌を表している。

    toríro nébro, na eséla meirtaulá gléin.

    読み:トリーロ ネーブロ、ナ エセーラ メイルタウラー グレーン。

    tor-ír-onébro,naes-él-ameirtaulágléin.
    来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>いる-<〜だろう>-<(軽いものが)>取引<主格>清い

    「霧が来てから結んだ取引は、清いものとはされまい。」

    条件の節は接続詞を使わず、仮定法だけで作る。霧 nébro は重性なので -o をとる。帰結の節は推量法で、na で否定する。主語の meirtaulá は軽性なので -a をとる。霧の中で結んだ約束は重んじられないので、精算は霧の前に済ませる。

    lúin tóro nébro es orénos, kráilim gleinó.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ エス オレーノス、クライリン グレイノー。

    lúintór-onébroesorén-os,kráil-imgleinó.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>手に持つ-<私が>護符<対格>

    「縁から霧が上がってくると、私は護符を握りしめる。」

    霧期の暮らしを語る文。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。gleinó は重性の o語幹で、主格と対格が同じ形になる。

    ké tóra ráuvan? na tóra. séiran kelárai.

    読み:ケー トーラ ラウヴァン?ナ トーラ。セーラン ケラーライ。

    kétór-aráuvan?natór-a.séir-ankel-ár-ai.
    <〜か>来る-<(軽いものが)>森の巫<主格><〜ない>来る-<(軽いものが)>待つ-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>

    「「巫は来たか?」「まだ来ていない。樵たちが待っている。」」

    伐り出しの前の、森の村での日常のやりとり。二人の発話を一つにまとめている。儀式の詞を唱えずには硬木を伐れないので、樵たちは森の巫の到着を待つ。「はい/いいえ」にあたる語はなく、問いの動詞を繰り返して答える(否定なら na tóra)。時制がないので、tóra は「来た」とも「来ている」とも訳せる。

    lúin tóro nébro, mé virésa éndran. éso sárvo.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、メー ヴィレーサ エンドラン。エーソ サルヴォ。

    lúintór-onébro,mévir-és-aéndr-an.és-osárvo.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><禁止・願いの打ち消し>言う-<〜すべし>-<(軽いものが)>人-<対格>いる-<(重いものが)>禁忌<主格>

    「霧が来たら、人の名を呼ばぬこと。これは禁忌である。」

    季節の言い習わし。霧の中で名前を呼ぶと、下の国にその名前を聞かれるとされる。霧 nébro は重性なので、動詞は -o をとる。当為法は mé で否定し、主語を言わないときは一般の人が主語になるので、軽性の形をとる。vír-「言う」は人の対格をとると「名を呼ぶ」の意味になる。最後の文は、存在の és- と重性の sárvo で「禁忌である」と言う。

    tóran ólmarai an aurándo, émbelan aursárais.

    読み:トーラン オルマライ アン アウランド、エンベラン アウルサーライス。

    tór-anólmar-aianaurándo,émbel-anaursár-ais.
    来る-<彼らが>年長者-<〜たちが>上手社<対格>祀る-<彼らが>祖先-<〜たちを>

    「年長者たちは上手の社へやって来て、祖先を祀る。」

    儀礼について述べる文。白月の満月の夜の祖先祀りなどで使う言い方。aurándo は áur-「昇る」+-ándo「〜する所」から来た語で、「昇る所」を表す。重性o語幹なので、対格は主格と同じ形になる。an+対格で「上手へ」を表す。後半の節は主語を言わず、動詞の語尾から前半と同じ年長者たちが主語だとわかる。

    tóro nébro or dún.

    読み:トーロ ネーブロ オル ドゥーン。

    tór-onébroordún.
    来る-<(重いものが)>霧<主格>日の出側丘<対格>

    「霧が丘の日の出側へやって来る。」

    ものの動きを方角で言う文。or+対格で、目印になるものの日の出側(東側)へ向かうことを表す。or は órun「日の出」から来た語で、強勢がなく、次の語に寄りかかって発音される。主語の nébro「霧」は重性なので、動詞は重性の -o をとる。

    tóran ólmarai vel kórvo.

    読み:トーラン オルマライ ヴェル コルヴォ。

    tór-anólmar-aivelkórvo.
    来る-<彼らが>年長者-<〜たちが>日の入り側倉<対格>

    「年長者たちは日の入り側の倉へやって来る。」

    行き先を方角で言う文。vel+対格で、日の入り側(西側)へ向かうことを表す。vel は vélun「日の入り」から来た語で、強勢がない。kórvo は重性なので、対格は主格と同じ形になる。日本語話者は v をバ行に聞くので、vel を「ベル」と聞き取ることが多い。

    toréla torár dórelei.

    読み:トレーラ トラール ドーレレイ。

    tor-él-ator-árdórel-ei.
    来る-<〜だろう>-<(軽いものが)>来る-<〜する人>明日-<与格>

    「客は明日来るだろう。」

    高原語には時制がないので、まだ起きていない明日のことは推量法(-él-)で言うのがふつう。強勢は -él- に移る。torár「客」は tór-「来る」に -ár「〜する人」がついた語。

    torélo nébro es orénos dulúin.

    読み:トレーロ ネーブロ エス オレーノス ドゥルーイン。

    tor-él-onébroesorén-osdulúin.
    来る-<〜だろう>-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>のち

    「のちに、縁から霧が上がってくるだろう。」

    乾風期の終わりの、季節の移り変わりを言う文。霧 nébro は重性なので、推量法の動詞も3人称単数・重性の -o をとる(torélo)。副詞の dulúin は動詞の前に出さず、文末に置く。

    tóra tráimel ível, dulíþan kelárai gandér.

    読み:トーラ トライメル イーヴェル、ドゥリーサン ケラーライ ガンデール。

    tór-atráimelível,dul-íþ-ankel-ár-aigandér.
    来る-<(軽いものが)>年<主格>新しい下る-<〜させる>-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>硬木<対格>

    「新しい年が来て、樵たちは硬木を下ろす。」

    暦と仕事の流れを説明する文。年は乾風期の初めに始まり、硬木の最初の下ろしもこの時期に行われる。tráimel は軽性の子音語幹で、形容詞 ível はその後ろに置いて一致させる。主節は二つ並んでいるので、あいだに読点を打つ。

    dúlan téir tráimelai, na tóra séulin némes.

    読み:ドゥーラン テール トライメライ、ナ トーラ セウリン ネーメス。

    dúl-antéirtráimel-ai,natór-aséulinném-es.
    下る-<彼らが>三年齢・年数-<〜たちが><〜ない>来る-<(軽いものが)>友<主格><私>-<属格>

    「三年が過ぎたが、私の友は来ない。」

    年月が経つことは、川の水が下るのにたとえて dúl-「下る」で言う。時制がないので、「過ぎた」ことは文脈から読みとる。三以上の数詞の後ろでは、名詞は複数になる(tráimelai)。動詞はこの複数の主語に一致して、3人称複数の -an をとる。

    lúin tóra vélun, hóinan kelárai an dún.

    読み:ルーイン トーラ ヴェールン、ホイナン ケラーライ アン ドゥーン。

    lúintór-avélun,hóin-ankel-ár-aiandún.
    とき来る-<(軽いものが)>日の入り<主格>帰る-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>上手丘<対格>

    「日が沈むと、樵たちは丘の上へ帰っていく。」

    vélun は軽性の子音語幹として変化する。lúin の節は主節の前に置く。「日の入りが来る」という言い方で「夕方になる」を表す。日常の語り口の文。

    tóro duléumo húmel es dúroros.

    読み:トーロ ドゥレウモ フーメル エス ドゥーロロス。

    tór-oduléumohúmelesdúror-os.
    来る-<(重いものが)>下の風<主格>湿ったから下手・南-<属格>

    「南から湿った下の風が這い上がってくる。」

    霧期の前ぶれを言う文。duléumo は重性o語幹なので、動詞は重性の -o をとり、形容詞 húmel も重性・主格の形(語尾なし)になる。下から来る風は病を運ぶ重いものとされる。

    tóra faronár es vélunes.

    読み:トーラ ファロナール エス ヴェールネス。

    tór-afaronáresvélun-es.
    来る-<(軽いものが)>運び人<主格>から西-<属格>

    「西から運び人がやって来る。」

    方角としての vélun。es+属格で、方向を問わない「〜から」を表す。前置詞 vel「日の入り側」はこの語から生まれたが、方角そのものを名詞として言うときは vélun を使う。

    na tóro nébro es ánores.

    読み:ナ トーロ ネーブロ エス アーノレス。

    natór-onébroesánor-es.
    <〜ない>来る-<(重いものが)>霧<主格>から上手・北-<属格>

    「霧は北から来ることはない。」

    ánor は軽性の子音語幹として変化する(属格 ánores)。霧は下の国の息で、崖の下(南)から這い上がってくるものとされるので、北(上手)から来ることはない。主語の nébro は重性なので、動詞は -o をとる。

    lúin tóro nébro, na sénimor álmaran un élvarei.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーニモル アルマラン ウン エルヴァレイ。

    lúintór-onébro,nasén-imorálmar-anunélvar-ei.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>白月-<対格>内に天-<与格>

    「霧が来ると、天の内に白月が見えなくなる。」

    霧期を言う文。un+与格で、天という広がりの内側にあることを表す。霧は下から割りこむ帳なので、天にあるものが見えなくなる。

    tóra faronár un dáloros.

    読み:トーラ ファロナール ウン ダーロロス。

    tór-afaronárundálor-os.
    来る-<(軽いものが)>運び人<主格>中へ・中から下の国-<属格>

    「運び人が下の国の奥から上がってくる。」

    un+属格で「〜の中から」を表す。方向を問わない es+属格と違い、包まれた内側から出てくることを言う。

    tóra torár es dáloros lóuvanos.

    読み:トーラ トラール エス ダーロロス ローヴァノス。

    tór-atoráresdálor-oslóuvan-os.
    来る-<(軽いものが)>客<主格>から下の国-<属格>遠い-<重性・属格>

    「遠い下の国から客が来た。」

    日常の知らせ。es+属格で「〜から」を表す。形容詞 lóuvan は、名詞の後ろで dáloros(重性・単数・属格)に一致して lóuvanos になる。時制の語形がないので、「来た」とも「来る」とも訳せる。

    tórim es orénos anórelei.

    読み:トーリン エス オレーノス アノーレレイ。

    tór-imesorén-osanórel-ei.
    来る-<私が>から縁-<属格>昨日-<与格>

    「昨日、縁から来た。」

    自分のことを言う日常の文。anórel は an「上手」と órel「日」からできた語で、時の流れの上手にある日、つまり「前の日」を表す。時を表す与格 anórelei で「昨日に」となり、文の後ろのほうに置かれる。

    tóran kelárai sal hóum.

    読み:トーラン ケラーライ サル ホーン。

    tór-ankel-ár-aisalhóum.
    来る-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>〜の外に炉<対格>

    「樵たちが炉ばたの外へ出てくる。」

    日常の文。sal はほかの方向の前置詞と同じく強勢をもたず、組む格で意味が変わる。この文のように対格と組むと「〜の外へ」という向きを表し、与格と組むと「〜の外で」という場所を表す。hóum「炉」は重性なので、対格は主格と同じ形になる。

    na tóro nébro, éso nebrálvo lóuvan.

    読み:ナ トーロ ネーブロ、エーソ ネブラルヴォ ローヴァン。

    natór-onébro,és-onebrálvolóuvan.
    <〜ない>来る-<(重いものが)>霧<主格>いる-<(重いものが)>霧期<主格>隔たった

    「霧は来ない。霧期はまだ遠い。」

    乾風期の縁の肩での会話。lóuvan は時間の隔たりを表す。nébro と nebrálvo は下から湧く霧にかかわる語なので重性で、動詞も重性の -o をとる。

    lúin tóra nóra, sénimor dáu sílarau.

    読み:ルーイン トーラ ノーラ、セーニモル ダウ シーララウ。

    lúintór-anóra,sén-imordáusílar-au.
    とき来る-<(軽いものが)>夜<主格>見る-<我々が>二月-<双数>

    「夜が来れば、我々は二つの月を見る。」

    乾風期の澄んだ夜を言う日常の文。nóra は軽性a語幹で、強勢は語根にあり、動詞は軽性の -a をとる。月は星ではないので、dáu「二」と双数 sílarau で数えてよい。

    tór, lúin tóra nóra! séirim tásan.

    読み:トール、ルーイン トーラ ノーラ!セーリン ターサン。

    tór,lúintór-anóra!séir-imtás-an.
    来る<命令法><あなたが>とき来る-<(軽いものが)>夜分<主格>待つ-<私が><あなた>-<対格>

    「晩になったら来い。待っているぞ。」

    親しい目下の相手への、くだけた誘い。lúin tóra nóra「夜分が来るとき」で「晩になったら」を表す。命令法の2人称単数は語幹そのままの tór。

    tórim du ombrénei sé.

    読み:トーリン ドゥ オンブレーネイ セー。

    tór-imduombrén-eisé
    来る-<私が>下手十日-<与格>この<軽性>

    「この十日が過ぎてから来る。」

    市や役所で日取りを約束するときの言い方。時間を川の流れとみて、「du+与格」(〜の下手で)で「〜の後に」を表す。ombrén は軽性の子音語幹として変化する(与格 -ei)。指示詞 sé は格で形が変わらない。

    tóro nebrálvo. ké éso gleinó tásei?

    読み:トーロ ネブラルヴォ。ケー エーソ グレイノー ターセイ?

    tór-onebrálvo.kéés-ogleinótás-ei?
    来る-<(重いものが)>霧期<主格><〜か>いる-<(重いものが)>護符<主格><あなた>-<与格>

    「霧期が来る。お前、護符は持っているか?」

    家族や親しい者どうしの日常会話。nebrálvo は重性なので、動詞は重性の -o(tóro)で一致する。季節名のうち、重性の一致をとるのはこの語だけである。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持たれている物 gleinó(重性)に一致する。

    dúla álva: tóra reinálva, tóra kailálva, tóro nebrálvo.

    読み:ドゥーラ アルヴァ:トーラ レイナルヴァ、トーラ カイラルヴァ、トーロ ネブラルヴォ。

    dúl-aálva:tór-areinálva,tór-akailálva,tór-onebrálvo
    下る-<(軽いものが)>季節<主格>来る-<(軽いものが)>雨期<主格>来る-<(軽いものが)>乾風期<主格>来る-<(重いものが)>霧期<主格>

    「季節は流れ下る。雨期が来て、乾風期が来て、霧期が来る。」

    暦の書や子どもへの教えに出てくる文。時間を川の流れとみるので、季節がめぐることを dúl-「下る」で言う。雨期と乾風期は軽性なので動詞は -a をとるが、霧期 nebrálvo だけは霧と同じ重性なので、動詞が -o(tóro)になる。

    dúla álva, tóra kailálva.

    読み:ドゥーラ アルヴァ、トーラ カイラルヴァ。

    dúl-aálva,tór-akailálva
    下る-<(軽いものが)>季節<主格>来る-<(軽いものが)>乾風期<主格>

    「季節は移り、乾風期となりました。」

    手紙の書き出しによく使われる季節の決まり文句。時間を源から流れ下る川とみるので、季節が移ることを dúl-「下る」で言う。主語の álva と kailálva はどちらも軽性なので、動詞は -a で一致する。

    tóra álva kelárar.

    読み:トーラ アルヴァ ケラーラル。

    tór-aálvakel-ár-ar
    来る-<(軽いものが)>時節<主格>伐る-<〜する人>-<〜らの>

    「樵たちの時節が来た。」

    乾風期のはじめ、硬木の伐り出しが始まるころの村の言い方。kelár「樵」に複数属格の -ar をつけ、「樵たちの頃合い」と言う。álva は軽性なので、動詞は -a で一致する。

    lúin tóra reinálva, lísan éndrai.

    読み:ルーイン トーラ レイナルヴァ、リーサン エンドライ。

    lúintór-areinálva,lís-anéndr-ai
    とき来る-<(軽いものが)>雨期<主格>書く-<彼らが>人-<〜たちが>

    「雨期が来ると、人々は書きものをする。」

    雨期は家にこもって書を写し、詩を作る季節とされる。そのことを述べた一般的な文。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。reinálva は雨(上から来るもの)に属する季節なので軽性で、動詞は -a で一致する。

    lúin tóra kailálva, dúlan faronárai du dálor.

    読み:ルーイン トーラ カイラルヴァ、ドゥーラン ファロナーライ ドゥ ダーロル。

    lúintór-akailálva,dúl-anfaron-ár-aidudálor
    とき来る-<(軽いものが)>乾風期<主格>下る-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>下手下の国<対格>

    「乾風期が来ると、運び人たちは下の国へ下りていく。」

    乾風期に崖道が開き、縁の市へ荷が運ばれることを述べた文。前の雨期の例文とちょうど裏返しの内容になる。kailálva は軽性なので、動詞は -a で一致する。dálor は重性なので、対格も主格と同じ形になる。

    lúin tóra þailúin, dúlan faronárai du orén.

    読み:ルーイン トーラ サイルーイン、ドゥーラン ファロナーライ ドゥ オレーン。

    lúintór-aþailúin,dúl-anfaronár-aiduorén.
    とき来る-<(軽いものが)>澄みの頃<主格>下る-<彼らが>運び人-<〜たちが>下手縁<対格>

    「澄みの頃が来ると、運び人たちが縁へ下りていく。」

    「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。þailúin は節の主語で、動詞は軽性の tóra で受ける。崖道がいちばんにぎわい、縁の市が盛りを迎える時期を言う、決まった言い回し。

    lúin tóro nébro es orénos, grómim.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ エス オレーノス、グローミン。

    lúintór-onébroesorén-os,grómim.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>体が重い

    「縁から霧が上がってくると、体がだるくなる。」

    霧期には病が流行り、体が重くなると言われる。それを言うときの決まった言い方。霧 nébro は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。

    seirénde, ausenár. tóra lisár.

    読み:セイレンデ、アウセナール。トーラ リサール。

    seirénde,au-sen-ár.tór-alis-ár.
    しばしお待ちを<お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>来る-<(軽いものが)>書く-<〜する人>

    「しばしお待ちを、目付殿。書記が参りますので。」

    目上の人に待ってもらうときの丁寧な言い方。seirénde はもとは séir-「待つ」の願望法3人称単数・軽性(お待ちになりますように)で、相手を3人称で立てる上向きの話し方がそのまま固まった形。定型句なので一語として扱う。

    póþul? tóro nébro es orénos?

    読み:ポースル?トーロ ネーブロ エス オレーノス?

    póþul?tór-onébroesorén-os?
    なんだって(意外)来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「なんだって? 縁から霧が上がってくるだと?」

    思いがけない知らせに驚いて、相手の文をそのまま問いの調子で繰り返している。nébro「霧」は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。霧が来ると市は閉じ、精算は霧の前に済ませなければならないので、霧の知らせは商人にとって一大事である。

    ké tóres es orénos? éun, tórim.

    読み:ケー トーレス エス オレーノス?エウン、トーリン。

    kétór-esesorén-os?éun,tór-im.
    <〜か>来る-<あなたが>から縁-<属格>うん来る-<私が>

    「「縁から来たのか?」「うん、来た。」」

    森や崖道のくだけたやりとり。高原語には「はい」がなく、ふつうは動詞を自分の人称に変えて繰り返して答えるが、くだけた場では éun を先に言い、そのあとに動詞を添えることが多い。時制がないので tóres は「来る」とも「来た」とも訳せる。目上の人には使わない。

    ái, tóro nébro es orénos.

    読み:アイ、トーロ ネーブロ エス オレーノス。

    ái,tór-onébroesorén-os.
    おや来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「おや、縁から霧が上がってくる。」

    思いがけないことに気づいたときの軽い声。霧 nébro は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。霧期の初めによく聞かれる言い方。

    ái, tóra séulin némes.

    読み:アイ、トーラ セウリン ネーメス。

    ái,tór-aséulinném-es.
    おや来る-<(軽いものが)>友<主格><私>-<属格>

    「おや、友が来た。」

    ちょっとした驚きを表す日常の言い方。所有者は属格の代名詞 némes で、名詞の後ろに置く。人は軽性なので、動詞は -a をとる。

    aursáre! tóro nébro es orénos.

    読み:アウルサーレ!トーロ ネーブロ エス オレーノス。

    aursáre!tór-onébroesorén-os.
    ああ来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

    「ああ、ご先祖よ!縁から霧が上がってくる。」

    霧期の初めの不安の声。霧は「下の国の息」で、祖先と人とのあいだに割りこむものとされる。nébro は重性o語幹なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。

    lúin tóro nébro, dúla lisá du dálor.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ドゥーラ リサー ドゥ ダーロル。

    lúintór-onébro,dúl-alisádudálor.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>下る-<(軽いものが)>字<主格>下手下の国<対格>

    「「霧が来ると、字は下の国へ流れ落ちる。」」

    霧の中で書いた字は墨がにじんで下へ流れる、という言い伝えを述べた文。霧期に大事な書きものを避ける理由になる。霧 nébro は重性なので動詞は -o、字 lisá は軽性なので -a をとる。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。

    lúin tóro nébro, na trálan lisárai sóndelais.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ トラーラン リサーライ ソンデライス。

    lúintór-onébro,natrál-anlis-ár-aisóndel-ais.
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>写す-<彼らが>書く-<〜する人>-<〜たちが>書物-<〜たちを>

    「霧が来ると、書記たちは書物を写さない。」

    霧の中で書いた字は下へ流れるとされるので、霧期には書物の書き写しを避ける(書物を写すのは雨期の仕事)。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。sóndel は巻物も綴じ本も含めた書物全般を指す。

    tóran kloimárai an kloimándo lisárar.

    読み:トーラン クロイマーライ アン クロイマンド リサーラル。

    tór-ankloim-ár-aiankloimándolis-ár-ar.
    来る-<彼らが>学ぶ-<〜する人>-<〜たちが>上手学び舎<対格>書く-<〜する人>-<〜らの>

    「弟子たちが、上手にある書記たちの学び舎へ上ってくる。」

    都の様子を記した書物の文。学び舎は場所名詞 -ándo の語で重性なので、対格は主格と同じ形になる。an+対格で「上手へ」。属格 lisárar「書記たちの」は名詞の後ろに置く。

    tóra fléila es orénos.

    読み:トーラ フレーラ エス オレーノス。

    tór-afléilaesorén-os.
    来る-<(軽いものが)>手紙<主格>から縁-<属格>

    「縁から手紙が届いた。」

    ふだんの報せの言い方。手紙は紙に書かれ、言葉を載せて昇るものなので軽性で、動詞は -a をとる。時制がないので、「届く」とも「届いた」とも訳せる。es+属格は、方向を問わない「〜から」。

    tóra fléila sé es aulisáres.

    読み:トーラ フレーラ セー エス アウリサーレス。

    tór-afléilaséesau-lis-ár-es.
    来る-<(軽いものが)>手紙<主格>この<軽性>から<お〜になる・御〜>-書く-<〜する人>-<属格>

    「この手紙は、書記の方から届いたものでございます。」

    目上の人から来た手紙を取り次いで差し出すときの言い方。差出人を役職名に au- をつけた形で言い、es+属格で「〜から」を表す。指示詞 sé は軽性で格変化せず、名詞句の終わりの目印になる。

    tóra es orénos faronár te faronéra fáron.

    読み:トーラ エス オレーノス ファロナール テ ファロネーラ ファーロン。

    tór-aesorén-osfaron-ártefaron-ér-afáron.
    来る-<(軽いものが)>から縁-<属格>荷-<〜する人><関係節>荷-<〜でする>-<(軽いものが)>荷<対格>

    「荷を担いだ運び人が、縁から上がってくる。」

    崖道や縁の市でよく聞く、見たままを言う文。関係節の主語にあたる部分(運び人)は空けておく。関係節は文の終わりか読点まで続く。そのため、関係節のついた重い主語を文末に回し、前置詞句 es orénos を主語より前に出している。主語の後ろに es orénos を置くと、関係節の中の語と受けとられてしまう。

    selvéna aurél ré tóro nébro.

    読み:セルヴェーナ アウレール レー トーロ ネーブロ。

    selvén-aaurélrétór-onébro.
    おっしゃる-<(軽いものが)>あの方<〜と(節)>来る-<(重いものが)>霧<主格>

    「あの方は、霧が来るとおっしゃる。」

    selvén- は「言う」の尊敬の補充形。言った内容は ré の節で主節の後ろに置き、その節も動詞で始める。節の中の動詞は、霧 nébro に合わせて重性の -o になる。

    toríþa ráuvan kelárais un krévan, salóur na kélan kelárai árnelan.

    読み:トリーサ ラウヴァン ケラーライス ウン クレーヴァン、サロール ナ ケーラン ケラーライ アルネラン。

    tor-íþ-aráuvankel-ár-aisunkréva-n,salóurnakél-ankel-ár-aiárnel-an.
    来る-<〜させる>-<(軽いものが)>森の巫<主格>伐る-<〜する人>-<〜たちを>内に練習の場-<対格>しかし<〜ない>伐る-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>木-<対格>

    「森の巫は樵たちを稽古の場へ呼び寄せるが、樵たちは木を伐らない。」

    un と対格を組み合わせると「〜の中へ」の意味になり、un krévan は「稽古の場へ」となる。伐り出しの詞を稽古で唱えても本番の儀式にはならず、樵はそこでは斧を入れない。そのことを言った文である。使役の toríþ-「呼び寄せる」は、後ろに強勢のある接辞がないので、-íþ- が強勢をとる。逆接の salóur は二つめの文の頭に置く。立っている木 árnel は軽性なので、対格は -an になる。

    lúin tóra saréna mélnes, mé véil virán!

    読み:ルーイン トーラ サレーナ メルネス、メー ヴェール ヴィラーン!

    lúintór-asarénaméln-es,mévéilvir-án!
    とき来る-<(軽いものが)>本番<主格>詩-<属格><禁止・願いの打ち消し>忘れる<命令法><あなたが>言葉-<対格>

    「詩合わせで正式の詠みの番が来たら、句を忘れるなよ。」

    詩合わせの前に、目上の者が目下の者に言う励ましの言葉。saréna mélnes「詩の本番」は、勝ち負けの判定にかかる正式の詠みを指し、その前の下詠みと区別する。lúin 節では saréna が主語になり、軽性なので動詞は -a で受ける。禁止は mé +命令法の言い方で、2人称単数なので下向きの話し方になる。

    tóro dulilmó klér an fóndaros.

    読み:トーロ ドゥリルモー クレール アン フォンダロス。

    tór-odulilmókléranfóndar-os.
    来る-<(重いものが)>水汲み桶<主格>冷たい上手源-GEN.

    「冷たい汲み桶が源から(戻って)来る。」

    名詞句 dulilmó klér(冷たい汲み桶)が主語。an+属格(「上手から・上流から」)で出どころを表す。tór-「来る」は自動詞なので目的語の枠がない。凍りの頃に、源のそばに置いていた汲み桶が冷たいまま持ち帰ってくる様子。

    sénan torárai bormúndo.

    読み:セーナン トラーライ ボルムンド。

    sén-antor-ár-aibormúndo.
    見る-<彼らが>来る-<〜する人>-<〜たちが>出入口<対格>

    「客たちが出入口を見る。」

    見出し語 bormúndo は重性o語幹の単数主格・対格と同一形なので、ここでは与格や属格を作らず、そのまま対格として用いる。

    tóra faronár, martórin.

    読み:トーラ ファロナール、マルトーリン。

    tór-afaron-ár,martór-in.
    来る-<(軽いものが)>荷-<〜する人>手招き-<〜して・〜く>

    「「運び人が、手招きしながら来る。」」

    場面の描写に使う。未完了の副動詞 -in は主文と同じ主語の同時動作を表し、読点で区けて文末に置く。faronár は fáron「荷」+ -ár による人・軽性の名詞で、動詞 tóra は軽性の 3 人称単数で受ける。

    lúin martórim, tóra endríña.

    読み:ルーイン マルトーリン、トーラ エンドリーニャ。

    lúinmartór-im,tór-aendríña.
    とき手招き-<私が>来る-<(軽いものが)>子ども<主格>

    「「私が手招きすると、子どもが来る。」」

    身振りの約束を説明する日常文。lúin の時節は主節の前に置ける。節内は VSO で、主語代名詞は語尾で示す。主節の主語 endríña は軽性の人を指す。

    tóra þúmva es orénos.

    読み:トーラ スンヴァ エス オレーノス。

    tór-aþúmvaesorén-os.
    来る-<(軽いものが)>口笛<主格>から縁-<属格>

    「「縁から口笛が聞こえてきた。」」

    主語を音として軽性とみなし、動詞は tór-a をとる。es は出所を表し、後ろに属格を伴う。

    tóra faronár es drúnoros.

    読み:トーラ ファロナール エス ドルーノロス。

    tór-afaron-áresdrúnor-os.
    来る-<(軽いものが)>荷-<〜する人>から崖道-<属格>

    「運び人が崖道から来る。」

    縁の市へ荷を上げる場面。esは方向を問わない「〜から」で、重性名詞drúnorの属格drúnorosと組む。faronárは人なので動詞は軽性3単-a。

    tóro brinó fúnelos.

    読み:トーロ ブリノー フーネロス。

    tór-obrinófúnel-os.
    来る-<(重いものが)>ほつれ<主格>綱-<属格>

    「綱のほつれが生じる。」

    作業場や崖道で、綱の端からほつれが出ることを言う日常会話。動詞 tóro は主語 brinó が重性なので 3 単重性 -o になる。

    kráilin kailíñan, tóra endríña.

    読み:クライリン カイリーニャン、トーラ エンドリーニャ。

    kráil-inkailíñ-an,tór-aendríña.
    手に持つ-<〜して・〜く>藁-<対格>来る-<(軽いものが)>子<主格>

    「藁を持って、子どもが来る。」

    同一主語を続ける副動詞 -in の構文。「持ってくる」を「持つ-CVB」と「来る」の二語で表す。主語 endríña は軽性。

    tóra þálva hóumoi.

    読み:トーラ サルヴァ ホーモイ。

    tór-aþálvahóum-oi
    来る-<(軽いものが)>冗談<主格>炉-<与格>

    「炉ばたでは、軽口が出る。」

    hóumoi は裸の与格で「炉ばたで」を表す。炉ばたでの軽口という用法。

    tóro tauló

    読み:トーロ タウロー

    tór-otauló
    来る-<(重いものが)>獲物<主格>

    「獲物が入ってくる。」

    主語が重性の tauló なので、動詞は3人称単数・重性の語尾 -o をとる。時制の語形はなく、直説法で単に出来事を言い切る。市や宿の帳場では、獲物が持ち込まれた事実を短く言う定型として使える。

    ké tóra oráur?

    読み:ケー トーラ オラウル?

    kétór-aoráur?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>夜明け<主格>

    「夜明けが近づいたのか。」

    日常の問い。oráur は東の空から上る光をさす語として軽性とみなし、動詞は3単軽性語尾 -a をとる。ké は文頭に置く。

    lúin tóra oráur, lisan lisárai plánan.

    読み:ルーイン トーラ オラウル、リサン リサーライ プラーナン。

    lúintór-aoráur,lís-anlis-ár-aiplán-an.
    とき来る-<(軽いものが)>夜明け<主格>書く-<彼らが>書く-<〜する人>-<〜たちが>帳簿-<対格>

    「夜明けが来ると、書記たちは帳簿を書く。」

    帳場・書記の場面。lisár は lís「書く」+ -ár「〜する人」。目的語 planned は軽性a語幹の対格。

    lúin tóra oráur, gélan faronárai du orén.

    読み:ルーイン トーラ オラウル、ゲーラン ファロナーライ ドゥ オレーン。

    lúintór-aoráur,gél-anfaron-ár-aiduorén.
    とき来る-<(軽いものが)>夜明け<主格>行く-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>下手縁<対格>

    「夜明けが来ると、運び人たちは縁へ下る。」

    運搬作業の場面。lúin 節は主節の前に置く。gélan は gél-「行く」+3複数 -an。faronárai は faron「荷」+ -ár「〜する人」+軽性複数主格 -ai。

    ké sórel, tóra vríma?

    読み:ケー ソーレル、トーラ ヴリーマ?

    késórel,tór-avríma?
    <〜か>今日来る-<(軽いものが)>仲間<主格>

    「仲間(一同)は今日来るのか。」

    くだけた日常会話での問い。ké が文頭、時間の句 sórel を場面の枠に置く。vríma は同じ場や作業で集う者たちをひとまとまりの集団として指す総称名詞で、文中では単数扱いになる。

    lúin tóra loimá, þalfínda ólmar loimán.

    読み:ルーイン トーラ ロイマー、サルフィンダ オルマル ロイマーン。

    lúintór-aloim-á,þalfínd-aólmarloim-án
    とき来る-<(軽いものが)>詞-<主格>耳を澄ます-<(軽いものが)>年長者<主格>詞-<対格>

    「詞が来るとき、年長者は詞に耳を澄ます。」

    祀りの詞の場面。時節はlúinで導き、主節に先立つ。主節動詞は年長者に一致して軽性3単。語り詞の継ぎ目で、次の音を受けるために静止して聞く意。

    tóra sílan gléinaros

    読み:トーラ シーラン グレーナロス

    tór-asílangléinar-os
    来る-<(軽いものが)>シラン<主格>グレイナル-<属格>

    「グレイナル家のシランが来る。」

    日常の来訪・用件の報告。「名+家名の属格」のフルネーム表現。家名 gléinar は源の名として重性名詞として変化し、単数属格 gléinaros を取る。主語は人名 sílan であるため、動詞 tór- は軽性の -a を受ける。

    tóra ólmar es amfóndaros

    読み:トーラ オルマル エス アンフォンダロス

    tór-aólmaresamfóndar-os
    来る-<(軽いものが)>年長者<主格>から上手の源-<属格>

    「年長者がアンフォンダルから来た。」

    国名が属格 amfóndaros をとる例。es+属格で「〜から」を示し、国を出自・源として述べる。年長者をさす ólmar は軽性の人名詞なので、動詞は軽性一致 tóra を受ける。系譜や由緒を述べる改まった場向き。

    tóro louvrúndo es amfóndaros

    読み:トーロ ロウヴルンド エス アンフォンダロス

    tór-olouvrúndoesamfóndar-os
    来る-<(重いものが)>長川<主格>から上手の源-<属格>

    「長川はアンフォンダルから流れてくる。」

    地理的な「上手の源」の北の高み・湖盆一帯を指す例。固有名詞 louvrúndo を主語に取り、重性一致 tóro。es+属格が水源を表す。詩や帳簿で、川を源から述べる定型。

    tóra faronár es funelóros.

    読み:トーラ ファロナール エス フネローロス。

    tór-afaronáresfunelór-os.
    来る-<(軽いものが)>運び人<主格>からフネロール-<属格>

    「フネロールから運び人が来る。」

    記録・帳簿的な文。出どころを示す前置句 es 属格。地名 funelór は重性子音語幹として扱い、属格語尾 -os を付ける。主語 faronár は人を指すため軽性で、動詞は軽性の 3人称単数語尾 -a を取る。

    anórel, tóro fáron du meulvéinor.

    読み:アノーレル、トーロ ファーロン ドゥ メウルヴェーノル。

    anórel,tór-ofárondumeulvéinor.
    昨日来る-<(重いものが)>荷<主格>下手メウルヴェイノル<対格>

    「昨日、荷がメウルヴェイノルへ来た。」

    年代記や帳簿のような記録文。時節語 anórel を場面の枠に置いている。主語 fáron が重性なので、動詞は3人称単数・重性の語尾 -o を取る。

    ké tóra faronár sé es dulóros?

    読み:ケー トーラ ファロナール セー エス ドゥローロス?

    kétór-afaron-árséesdulór-os?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>荷-<〜する人・主格>この<軽性>からドゥローラ-<属格>

    「この運び人は、ドゥローラから来たのか。」

    道場や宿での確認の文。疑問小辞 ké は文頭に置く。faron-ár は「荷に携わる人」の意。固有名詞 dulóra は重性o語幹の名詞として扱い、es の後に属格 dulóros をとる。指示詞 sé は faronár を修飾する軽性形。

    tóra sélvan silóur.

    読み:トーラ セルヴァン シロール。

    tór-asélvansilóur
    来る-<(軽いものが)>セルヴァン<主格>も

    「セルヴァンも来る。」

    動詞に後続する主語名詞句の末尾に置く基本形。動詞は軽性三人称単数の -a で受ける。silóur は強勢をもち、名詞句の格を変えない。

    tór, híro

    読み:トール、ヒーロ

    tór,híro
    来る<命令法><あなたが>ヒロ<〜よ>

    「来い、ヒロ。」

    日常の呼びかけ。同輩・目下への命令として使う。呼格語尾はつけず、名は文末に読点で区切って置く。語末が -o でも重性の呼格 -o を付けた形にはしない。

    tóra fleuréla gléinaros.

    読み:トーラ フレウレーラ グレーナロス。

    tór-afleurélagléinar-os
    来る-<(軽いものが)>フレウレラ<主格>グレイナル-<属格>

    「グレイナル家のフレウレラが来る。」

    記録・系譜的な文。フルネームは名の後に家名の属格を置く。家名 gléinar は重性で、属格は -os となる。動詞は中心となる人名 fleuréla に一致して、軽性の -a をとる。

    lúin tóra reinálva, snáula lénþa.

    読み:ルーイン トーラ レイナルヴァ、スナウラ レンサ。

    lúintór-areinálva,snául-alénþa.
    とき来る-<(軽いものが)>雨期<主格>生える-<(軽いものが)>若菜<主格>

    「雨期が来ると、若菜が生える。」

    暦や書物の記述向きの文。lúin で「〜すると」と時節の到来を導く。reinálva「雨期」を主語に置き、雨を「上から来るもの」として軽性の形 tór-a で受ける。若菜 lénþa は単数の総称として扱う。自動詞 snául-「生える」は主語 lénþa に一致し、3人称単数・軽性の snául-a となる。

    wálan torárai sórel

    読み:ワーラン トラーライ ソーレル

    wál-antor-ár-aisórel
    変わる-<彼らが>来る-<〜する人>-<〜たちが>今日

    「今日、客たちが替わる。」

    話相手が次々と交代する「替わる」の用法。torár は tor-(来る) + -ár の派生語で、複数主格は tor-ár-ai。主語が複数なので、動詞は3人称複数 -an をとる。

    na tóro unlóur nebroþaló.

    読み:ナ トーロ ウンロール ネブロサロー。

    natór-ounlóurnebroþaló.
    <〜ない>来る-<(重いものが)>まだ霧明け<主格>

    「霧明けは、まだ来ていない。」

    日常の会話で、霧期を終わらせる区切りがまだ来ていないことを言う文。nebroþalóは重性名詞で、主語になると動詞は3人称単数重性の-oで受ける。unlóurは否定の直説法と組んで「まだ〜していない」を表す。nebroþalóは霧が少し晴れる一時的現象ではなく、霧が下から這い上がらなくなる季節の区切りを指す。

    sórel, táiso nebroauró.

    読み:ソーレル、タイソ ネブロアウロー。

    sórel,táis-onebroauró
    今日来る<〜し終えた>-<(重いものが)>霧上げ<主格>

    「今日、霧上げがやってきた(霧の季節が終わった)。」

    日常の報告。tór- の完了語根 táis- で、現在に影響のある出来事を表す。季節語としての第二義。

    lúin méirim, tóra páil pír.

    読み:ルーイン メーリン、トーラ パイル ピール。

    lúinméir-im,tór-apáilpír
    とき与える-<私が>,来る-<(軽いものが)>間違い<主格>小さい<主格>

    「私が差し出すときに、小さなうっかりが起こる。」

    受け渡しの場面の定型。時を表す lúin 節が主節の前に来る。主節の主語が軽性の páil なので、動詞は軽性の 3人称単数 tóra を取る。主語に後置する形容詞 pír は主格のまま。

    ké tóres es dáloros, orvél tóres es orénos?

    読み:ケー トーレス エス ダーロロス、オルヴェール トーレス エス オレーノス?

    kétór-esesdálor-os,orvéltór-esesorén-os?
    <〜か>来る-<あなたが>から下国-<属格>,OR来る-<あなたが>から縁-<属格>?

    「下の国から来たのか、それとも縁から来たのか。」

    道中や再会で相手の出所を二者択一で問う日常句。kéは最初の節にのみ置き、orvélは二つ目の節の頭に置く。2人称は動詞語尾に現れるため、主語代名詞は繰り返さない。

    ké tóra berunvríma némes?

    読み:ケー トーラ ベルンヴリーマ ネーメス?

    kétór-aberunvrímaném-es?
    <〜か>来る-<(軽いものが)>道連れ<主格><私>-<属格>

    「私の道連れが来たのか。」

    日常会話でのはい/いいえの問い。所有は「持つ」動詞を使わず、被所有名詞の後ろに属格を置く。答えでは肯定なら tóra、否定なら na tóra のように動詞を繰り返す。

    lúin tór-o nébro es orénos, gúma tíula.

    読み:ルーイン トーロ ネーブロ エス オレーノス、グーマ ティーウラ。

    lúintór-onébroesorén-os,gúm-atíula
    とき来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>くぐもる-<(軽いものが)>音<主格>

    「縁から霧が上がってくると、音がくぐもる。」

    縁や崖道の日常語としての場面。主節・従属節ともに動詞を先頭にする。霧 nébro は重性なので、来るの動詞は3人称単数・重性の -o になる。es は属格と組んで「〜から」。

    tóro gandér es ráuvos.

    読み:トーロ ガンデール エス ラウヴォス。

    tór-ogandéresráuv-os.
    来る-<(重いものが)>硬木<主格>から森の帯-<属格>

    「硬木は森の帯から出てくる。」

    交易・帳簿の場面。es+属格で「〜から」。地域としての森の帯を、硬木の供給元として指す。

    séira unlóur toráran.

    読み:セーラ ウンロール トラーラン。

    séir-aunlóurtor-ár-an.
    待つ-<(軽いものが)>まだ来る-<〜する人>-ACC.

    「客をまだ待っている。」

    séir- は他動詞で目的語を要するため、torár は主語ではなく目的語にする。軽性の -ár 名詞の単数対格は -an を取る。動詞 séira の -a は省略された三人称軽性主語の一致である。

    próum, na tóra orenvandár.

    読み:プローン、ナ トーラ オレンヴァンダール。

    próum,natór-aorenvandár.
    今夜<〜ない>来る-<(軽いものが)>縁商人<主格>

    「今夜、縁商人は来ない。」

    記録・報告調の文。時名詞 próum を場面の枠として文頭に置き、読点で区切っている。主語 orenvandár は人を指すため軽性で、否定直説法の語尾は軽性の -a。

    lúin tóra léuma, kréla dralsnéla

    読み:ルーイン トーラ レウマ、クレーラ ドラルスネーラ

    lúintór-aléuma,krél-adralsnéla
    とき来る-<(軽いものが)>風<主格>足りる-<(軽いものが)>首巻き<主格>

    「風が吹くと、首巻きで足りる。」

    凍りの頃でなく、風の強い日に、首のあたりだけ巻く装いで間に合うという用例。lúin が導く節は「lúin 動詞 主語」の順で、tóra léuma のように動詞が主語に先行する。主節では kréla の主語が dralsnéla。krél- は「足りる」を表す自動詞。

    lúin tóra torár, houmníla sélvan viráis.

    読み:ルーイン トーラ トラール、ホウンニーラ セルヴァン ヴィライス。

    lúintór-atorár,houmníl-asélvanvir-áis.
    とき来る-<(軽いものが)>客<主格>炉ばたの話を盛り上げる-<(軽いものが)>セルヴァン<主格>言葉-<〜たちを>

    「客が来ると、セルヴァンは炉ばたの話を盛り上げる。」

    lúin の従属節で、客の来訪という炉ばたの場面を置く。torár が加わることで、人との距離を縮める比喩用法が立つ。sélvan は軽性の名として動詞 -a を受ける。

    un funelándo tóran fáronul.

    読み:ウン フネランド トーラン ファーロヌル。

    unfunelándotór-anfáron-ul.
    中に綱場<対格>来る-<彼らが>荷-<〜たちが>

    「荷が綱場へ入ってくる。」

    在庫・入荷の記録。un+対格で「〜の中へ」。見出し語 funelando がそのまま形態素として現れる。

    sórel, tóra funelár un funelándo.

    読み:ソーレル、トーラ フネラール ウン フネランド。

    sórel,tór-afunel-árunfunelándo.
    今日来る-<(軽いものが)>綱-<〜する人・主格>中に綱場<対格>

    「今日、綱番が綱場へ来る。」

    到着連絡。funel-ár は「綱-AG」。主語が軽性なので tóra。見出し語 funelando は un funelando として現れる。

解説

話し手の方へ来る自動詞。人が来るだけでなく、霧が縁から上がってくるような自然の動きにも使う。目上の人には glóir-「お越しになる」、自分には dunér-「参上する」を使う。

文法

自動詞。直説法3単 tóra/tóro、仮定 toríre/toríro。完了語根 táis-(補充形)。使役 toríþ-「呼び寄せる」。

語源

古高原語 *tór- から

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