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第9課では1から10まで、第16課では99までの数を習いました。この課では、その先の百と千に進みます。あわせて、「硬木三本」「手紙二枚」「毛山羊五頭」のように、物を数えるときに使う量の名詞(日本語の「本・枚・頭」にあたる語)の使い方を学びます。
この言語が話されている高原では、取引の約束はすべて帳簿と証文に書き残します。崖の麓の市では、帳簿や荷札に「硬木○本」「紙○枚」という書きつけがいくつも並びます。一方で、高原には数えてはいけないものもあります。目上の人と、空の星です。数えることは相手を物のように扱うことであり、相手を「下げる」ことだと考えられているからです。この課の後半では、そういうものを数えずに言い表す方法を見ていきます。
この課で学ぶこと:
sénþar・千 slúun を使って量を言うbáron(本)・lén(枚)・rólan(巻)・kéul(頭)・hóum(炉)を使う| sénþar | [ˈsenθar] | 百 | 百。名詞として働き、数えるものを複数の「〜の」の形でとる。日本語話者には「センサル」と聞こえやすい。þ は舌先を歯に当てて出す音。 |
| báron | [ˈbaron] | 本 | 本(重性)。木・丸太・杭など細長いものを数える。複数 báronul、複数の「〜の」は báronur。 |
| lén | [ˈlen] | 枚 | 枚(軽性)。紙・手紙など薄いものを数える。複数 lénai/lénais、双数 lénau、複数の「〜の」は lénar。 |
| rólan | [ˈrolan] | 巻 | 巻(軽性)。書物や巻物を数える。複数 rólanai/rólanais、複数の「〜の」は rólanar。 |
| kéul | [ˈkeul] | 頭 | 頭(軽性)。家畜を数える。複数 kéulai/kéulais、複数の「〜の」は kéular。 |
| hóum | [ˈhoum] | 炉 | 炉(重性)。世帯のこと。税や兵役の割り当てなど改まった場で人を数えるときは、人ではなくこの語を数える(日々の働き手は人で数えてよい)。複数 hóumul、複数の「〜の」は hóumur。 |
| fréim | [ˈfreim] | 〜度・回 | 〜度・〜回(軽性・子音語幹)。念押しの決まり文句「十を十度」の中で使う。数は掛ける数に合わせる(ombár fréimai「十度」、dáu fréimau「二度」)。 |
| freimvirá | [freimviˈra] | 念押し | 念押し。帳簿や荷札で、数字のあとに言葉で書き添える言い換え。 |
| rimblisá | [rimbliˈsa] | 数字 | 数字。帳簿の「数」の欄は、まず数字で書く。 |
| rimbá | [rimˈba] | 数 | 数。rímb-「数える」から。 |
| slúumbar | [ˈsluumbar] | 一万(千の十) | 一万(千の十)。帳簿で使う最も大きな位。 |
| sélu | [ˈselu] | 泥の千(1728) | 泥の千(1728)。干潟の千のこと。高原の千 slúun とは別の数。コラムを参照。 |
| fléila | [ˈfleila] | 手紙 | 手紙(軽性・a語幹)。紙に書くので軽性。lén「枚」で数える。 |
| sóndel | [ˈsondel] | 書物 | 書物(軽性・子音語幹)。rólan「巻」で数える。複数の「〜の」は sóndelar。 |
規則:九十九までの数詞は名詞の前に置き、後ろの名詞を複数にしました(téir gandérul「硬木三つ」)。ところが百 sénþar と千 slúun は名詞として働き、数えるものを**複数の「〜の」の形(複数属格)**でとります。日本語でいえば「千の星」「百の木」という言い方に近い形です。
| 数 | 形 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| 三つの硬木 | téir gandérul |
三・硬木〈複〉 |
| 百の硬木 | sénþar gandérur |
百・硬木〈複・の〉 |
| 千の星 | slúun ilánar |
千・灯〈複・の〉 |
複数の「〜の」の語尾(第7課の「〜の」の複数形です)
| 軽性 | 重性 | |
|---|---|---|
| 語尾 | -ar(語尾に強勢のある語では -ár) | -ur |
| 例 | ilánar「灯の」、virár「言葉の」 |
gandérur「硬木の」、báronur「本の」 |
例
sénþar gandérur「百本の硬木」slúun ilánar「千の星」=数えきれないほどの星注意
slúumbar(千の十)と言います。使い方は千と同じです。gandérul(〜が・〜を)と gandérur(〜の)の語末の一音だけが違います。日本語話者にはどちらも「ガンデルル」に聞こえるので、とくに気をつけてください。slúun ilánar「千の星」は、数えた結果を言っているのではなく「数えきれない」という意味の決まり文句です。そのため、星を数えてはいけないという禁忌には当たりません(5節)。規則:「本・枚・頭」のような量の名詞を使うときは、数詞が量の名詞にかかり、数えるもの自体は複数の「〜の」の形で後ろに置きます。直訳すると「三本の、硬木たちの」という形になります。
| 量の名詞 | 意味 | 性 | 数えるもの | 複数(〜が・〜を) | 複数(〜の) |
|---|---|---|---|---|---|
báron |
本 | 重 | 木・丸太・杭 | báronul |
báronur |
lén |
枚 | 軽 | 紙・手紙 | lénai/lénais |
lénar |
rólan |
巻 | 軽 | 書物・巻物 | rólanai/rólanais |
rólanar |
kéul |
頭 | 軽 | 家畜 | kéulai/kéulais |
kéular |
hóum |
炉 | 重 | 世帯 | hóumul |
hóumur |
例
téir báronul gandérur「硬木三本」(三・本〈複〉・硬木の〈複〉)dáu lénau fléilar「手紙二枚」(二・枚〈双〉・手紙の〈複〉)lím kéulai méular「毛山羊五頭」(五・頭〈複〉・毛山羊の〈複〉)注意
téir daumárul fúnelos「綱三腕」)。báronul(重性は「が」と「を」が同じ形)、「〜を三枚」なら lénais になります。téir gandérul)。けれども帳簿や荷札では、ほぼ必ず量の名詞を書きます。数え方があいまいだと揉め事のもとになるからです。規則:百・千と量の名詞を一緒に使うと、百・千が量の名詞を複数の「〜の」でとり、その量の名詞がさらに数えるものを複数の「〜の」でとります。そのため、「〜の」の形が二つ続きます。
| 言い方 | 形 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| 硬木三本 | téir báronul gandérur |
三・本〈複〉・硬木の |
| 硬木百本 | sénþar báronur gandérur |
百・本の・硬木の |
| 硬木千本 | slúun báronur gandérur |
千・本の・硬木の |
| 書物千巻 | slúun rólanar sóndelar |
千・巻の・書物の |
例
vánda senár sénþar báronur gandérur.「目付が硬木百本を量る。」注意
báronul、「百本」「千本」は báronur です。語末の l と r だけの違いですが、帳簿を読むときにはこれが「九十九以下か、百以上か」の手がかりになります。áuran slúun sílarar「千の月が昇る」)。規則:高原では、目上の人は数えません。目下の者や働き手なら人数で数えることもありますが、税や兵役のように改まった場で人を数えるときは、人ではなく hóum「炉」(世帯)を数えます。炉は家の中心であり、一つの炉を囲む人々が一つの世帯だからです。
例
sán dáumbar hóumul an dúnoi.「丘の上には二十の炉(世帯)がある。」pómbar hóumul「炉はいくつ」と世帯の数で尋ねます。人数を直接問うのは、税や兵役を割り当てる司の問いと同じで、禁忌とされるからです。注意
hóum は重性です。複数は hóumul、複数の「〜の」は hóumur です(sénþar hóumur「百の炉」)。sán は és-「いる・ある」の3人称複数の不規則な形です(第5課)。複数の主語には sán を使います。pómbar「いくつ」も、人に対しては使いません。規則:au- のついた目上の人を指す名詞と、星 ilána には、数詞も双数もつけません。
| 数えないもの | ×だめな言い方 | ○よい言い方 |
|---|---|---|
| 目付の方々 | ×dáu ausenárau「目付の方二人」 |
ausenárai(複数でひとまとまりに) |
| 星 | ×téir ilánai「星三つ」 |
ilánai「星というもの」、slúun ilánar「千の星」 |
目上の人
fléiran ausenárai du orén.「目付の方々が縁へお出ましになる。」星
ilánai を使います(an ilánais「星々へ」)。ilána で指せます。名前は後ろに添えます。王家の始祖の星は ilána an-aldáres「北の座の灯」と呼ばれます。一つを名で指すのは数えることではないので、禁忌に当たりません。slúun ilánar も「数えきれない」という意味の言い方なので、使ってかまいません。星を本当に数えてよいのは星の司の星読みだけで、ふつうの数詞とは別の特別な数え方(ilanrimbá「灯の数え」)を使います。数えてよいもの
aumárou「御両手」(au- + már「手」+ 重性の双数 -ou)dáu sílarau)。規則:帳簿は横書きで、一つの取引を一行に書きます。欄の順番は決まっています。帳簿の行には動詞がなく、名詞句を並べるだけです。
| 欄 | 書くこと | 関係する語 |
|---|---|---|
| 日付 | 統一紀年・月の名・上中下の十日・日 | órel「日」、ombrén「十日」 |
| 相手 | 取引の相手の家の名など | |
| 品名 | gandér「硬木」など |
|
| 等級 | 品の等級 | |
| 数 | 量の名詞つきで、数字 rimblisá で書く |
rimbá「数」 |
| 念押し | 同じ数を言葉で言い換える | freimvirá「念押し」 |
| 対価 | 塩の量、紫の量、地金の重さなど | prámbo「値」 |
| 証人の印 | 目付などの印 | símbo「印」 |
念押しの決まり文句:書き換えを防ぐため、大きな数は数字のあとに「十を十度」式の言い換えを添えます。fréim「度」の数は、掛ける数に合わせます。ombár の後ろなので複数の fréimai です。
| 数 | 念押し | 逐語訳 |
|---|---|---|
| 百 | ombár ombár fréimai |
十・十・度〈複〉 |
| 千 | ombár ombár fréimai, ó ombár fréimai |
十を十度、それを十度 |
例(帳簿の一行の「品名・数・念押し」の部分)
gandér, slúun báronur gandérur, ombár ombár fréimai, ó ombár fréimai.
「硬木、硬木千本、十を十度、それを十度。」注意
rímbim téir báronul gandérur.
読み:リンビン テール バーロヌル ガンデールル。
| rímb-im | téir | báron-ul | gandér-ur. |
| 数える-<私が> | 三 | 本-<〜たちを> | 硬木-<〜らの> |
「私は硬木を三本数える。」
数詞 téir は量の名詞 báron にかかり、báron は複数の「〜を」báronul になる。数えるものの硬木は複数の「〜の」gandérur。
vánda senár sénþar báronur gandérur.
読み:ヴァンダ セナール センサル バーロヌル ガンデールル。
| vánd-a | sen-ár | sénþar | báron-ur | gandér-ur. |
| 量る-<(軽いものが)> | 見る-<〜する人> | 百 | 本-<〜らの> | 硬木-<〜らの> |
「目付が硬木百本を量る。」
sénþar は名詞として働くので、báron を複数の「〜の」báronur でとる。「〜の」が二つ続く。
lísim dáu lénau fléilar.
読み:リーシン ダウ レーナウ フレーラル。
| lís-im | dáu | lén-au | fléil-ar. |
| 書く-<私が> | 二 | 枚-<双数> | 手紙-<〜らの> |
「私は手紙を二枚書く。」
二のときは量の名詞が双数 lénau になる。数えるもの fléila は、それでも複数の「〜の」fléilar のまま。
sán lím kéulai méular némei.
読み:サーン リーン ケウライ メウラル ネーメイ。
| sán | lím | kéul-ai | méul-ar | ném-ei. |
| いる<彼らが> | 五 | 頭-<〜たちが> | 毛山羊-<〜らの> | <私>-<与格> |
「私には毛山羊が五頭いる。」
所有の文。動詞は量の名詞 kéulai(複数)に合わせて、és- の3人称複数 sán になる。
sán dáumbar hóumul an dúnoi.
読み:サーン ダウンバル ホームル アン ドゥーノイ。
| sán | dáumbar | hóum-ul | an | dún-oi. |
| いる<彼らが> | 二十 | 炉-<〜たちが> | 上手 | 丘-<与格> |
「丘の上には二十の世帯がある。」
人の数は言わず、炉(世帯)を数える。hóum は重性なので複数は hóumul。
fléiran ausenárai du orén.
読み:フレーラン アウセナーライ ドゥ オレーン。
| fléir-an | au-sen-ár-ai | du | orén. |
| お出ましになる-<彼らが> | <お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>-<〜たちが> | 下手 | 縁<対格> |
「目付の方々が縁へお出ましになる。」
au- のついた目上の人には数詞も双数もつけない。何人いても複数でひとまとまりに言う。
sénimor slúun ilánar.
読み:セーニモル スルーン イラーナル。
| sén-imor | slúun | ilán-ar. |
| 見る-<我々が> | 千 | 灯-<〜らの> |
「我々には数えきれないほどの星が見える。」
slúun ilánar「千の星」は「数えきれない」という決まり文句なので、星を数える禁忌に当たらない。
ésau aumárou aulisáres klérou.
読み:エーサウ アウマーロウ アウリサーレス クレーロウ。
| és-au | au-már-ou | au-lis-ár-es | klér-ou. |
| いる-<双数> | <お〜になる・御〜>-手-<双数> | <お〜になる・御〜>-書く-<〜する人>-<属格> | 冷たい-<双数> |
「書記の方の御両手は冷たい。」
高めた持ち物は数えてよく、双数にできる。形容詞が属格の後ろにあるので、述語として読む。
pómbar báronul gandérur rímbes?
読み:ポンバル バーロヌル ガンデールル リンベス?
| pómbar | báron-ul | gandér-ur | rímb-es? |
| いくつ | 本-<〜たちを> | 硬木-<〜らの> | 数える-<あなたが> |
「お前は硬木を何本数えるのか。」
疑問詞を含む句は、句ごと動詞の前に出る。下向きの問い。
gandér, slúun báronur gandérur, ombár ombár fréimai, ó ombár fréimai.
読み:ガンデール、スルーン バーロヌル ガンデールル、オンバール オンバール フレーマイ、オー オンバール フレーマイ。
| gandér, | slúun | báron-ur | gandér-ur, | ombár | ombár | fréim-ai, | ó | ombár | fréim-ai. | |
| 硬木<主格> | 千 | 本-<〜らの> | 硬木-<〜らの> | 十 | 十 | 度-<〜たちを> | と | <3人称単数・重性・対格> | 十 | 度-<〜たちを> |
「硬木、硬木千本、十を十度、それを十度。」
帳簿の一行の「品名・数・念押し」の部分。帳簿には動詞がなく、名詞句を並べるだけ。fréim の数は掛ける数 ombár に合わせて複数の fréimai。
次の日本語を高原語にしてください。
(1) 私は硬木を五本数える。 (2) 私は手紙を三枚書く。
(1) rímbim lím báronul gandérur.
(2) lísim téir lénais fléilar.
「数+量の名詞+数えるものの複数の『〜の』」の形です。(2) の lén は軽性なので、複数の「〜を」は lénais になります。重性の báron は「〜が」と「〜を」が同じ形の báronul です。
次の高原語を日本語にしてください。
(1) sán sóur kéulai méular némei.
(2) sénim slúun rólanar sóndelar.
(1) 私には毛山羊が六頭いる。 (2) 私は書物を千巻見る。(千巻もの書物を見る)
(2) は slúun が rólan を複数の「〜の」rólanar でとり、さらに rólanar が書物を sóndelar でとっています。「〜の」が二つ続く形です。
空欄に語尾を入れてください。
(1) téir báron___ gandér___「硬木三本」
(2) slúun báron___ gandér___「硬木千本」
(3) dáu lén___ fléil___「手紙二枚」
(1) téir báronul gandérur(-ul, -ur)
(2) slúun báronur gandérur(-ur, -ur)
(3) dáu lénau fléilar(-au, -ar)
量の名詞は数に合わせて形を変えます(三以上は複数、二は双数)。ただし百・千の後ろでは、量の名詞も複数の「〜の」になります。数えるもののほうは複数の「〜の」です(数えない物質は単数の「〜の」)。
次の言い方は、高原では失礼だとされます。どこがいけないのでしょうか。正しく言い直してください。
*fléirau dáu ausenárau du orén.「目付の方お二人が縁へお出ましになる」
au- のついた目上の人に、数詞 dáu と双数をつけているのが失礼です。目上の人を数えるのは、相手を物のように扱って「下げる」ことになります。
正しくは fléiran ausenárai du orén.「目付の方々が縁へお出ましになる」。何人いても、複数でひとまとまりに言います。
なお、高めた持ち物なら数えてかまいません(aumárou「御両手」)。
星についての次の言い方のうち、禁忌に当たらないものをすべて選んでください。
(a) slúun ilánar「千の星」
(b) téir ilánai「三つの星」
(c) ilána an-aldáres「北の座の灯」
(d) an ilánais「星々へ」
禁忌に当たらないのは (a)・(c)・(d) です。
【発音】次の二つの語は、日本語話者には同じ「ガンデルル」に聞こえやすい語です。それぞれの意味と、どこで聞き分けるかを答えてください。
gandérul / gandérur
また、高原の千 slúun と泥の千 sélu は、それぞれカタカナでどう聞こえやすいでしょうか。
gandérul:硬木〈複数〉「硬木たちが・硬木たちを」gandérur:硬木〈複数の「〜の」〉「硬木たちの」違いは語末の l と r だけです。l は舌先を歯ぐきにつけたまま、r は舌先で一度はじきます。帳簿では báronul(三〜九十九本)と báronur(百本・千本)の違いにもなるので、大事な聞き分けです。
slúun は「スルーン」、sélu は「セル」に聞こえやすいです。slúun は長い「ウー」に強勢があり、sélu は最初の「セ」に強勢があります。
高原の人々は昔から10進法を使ってきました。両手の指で十まで数え、十を一つのまとまりとします。十を十度で百、それを十度で千です。ところが崖の下の干潟の人々は12進法で数えます。干潟の「大きな位」は十二を三度かけた数、つまり1728です。
ややこしいのは、干潟の人がこの位を呼ぶ語 sëlu が、もともと高原語の slúun を借りた語だという点です。高原の王国が統一されたころ、取引を通じて「千」という語が崖の下へ伝わりました。干潟の人の口では、語の頭の sl のつながりがほどけて、あいまいな母音を挟んだ sëlu になりました。ところが干潟では、この語を自分たちの12進法の大きな位の名前として使うようになったのです。
そのため、崖の麓の縁の市では「千」の取り違えが揉め事の定番になっています。「杭千本」と約束したつもりが、片方は1000本、もう片方は1728本と思っていて、何百本も食い違ってしまうのです。市では二つの千を言い分けます。
| 呼び名 | 形 | 数 |
|---|---|---|
| 陸の千 | slúun |
1000 |
| 泥の千 | sélu |
1728 |
sélu は、干潟語の sëlu を高原の人が借り戻した形です。干潟語のあいまい母音 ë は、高原の口では e になります。「泥の千」という呼び名には、崖の下の国を少し見下すからかいがこもっています。
大きな取引のとき、高原の商人は証文に数を文字で書き、そのうえ「十を十度、それを十度」と念押しの言い換えを添えます。崖道の下の口に立つ灰色の石の度量衡の碑にも、「千とは、十を十度、それを十度」という一句が刻まれています。市の目付が揉め事を裁くのは、この碑の前です。帳簿で同じ数が二通りに書かれているのを見かけたら、それはこの長い揉め事の歴史が残したものなのです。
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