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第1課では、挨拶と名乗りを覚えました。この課では、身の回りの物の名前を覚えて、「この〜は…だ」という短い文を作れるようにします。
高原語の名詞は、どれも**「軽いもの」か「重いもの」**のどちらかに分かれています。この土地では、世界を「上へ昇るもの」と「下へ沈むもの」に分けて考えます。息、火、雲、雨、言葉は上へ昇るものです。石、水、霧、塩、硬木は下へ沈むものです。この見方が、そのまま文法になっています。
この課の目標は次の三つです。
ésa fléura fláin.「雲は軽い」、éso gandér só gróm.「この硬木は重い」のような文を作れるようになる見た目がよく似た雲と霧が、高原語ではまったく別の扱いを受けます。この課を終えるころには、その理由がわかるはずです。
| elþá | [elˈθa] | 火 | 火。軽性。燃えて煙と光が上へ昇るので、軽いものの代表です。 |
| fléura | [ˈfleura] | 雲 | 雲。軽性。空の高いところにあり、上に属するものです。 |
| réina | [ˈreina] | 雨 | 雨。軽性。上から降る清い水です。地上を流れる水(ílmo)とは別の語です。 |
| hílva | [ˈhilva] | 雪 | 雪。軽性。雨と同じく「上から来るもの」です。 |
| sílar | [ˈsilar] | 月 | 月。軽性。子音で終わるので、形だけでは性がわかりません。 |
| plána | [ˈplana] | 帳簿 | 帳簿。軽性。紙でできていて、言葉を載せて昇るものとされます。 |
| virá | [viˈra] | 言葉 | 言葉。軽性。言葉は息なので軽いものです。 |
| éndra | [ˈendra] | 人 | 人。軽性。人はいつも軽性です。 |
| nébro | [ˈnebro] | 霧 | 霧。重性。雲に似ていますが、地面から湧く「下のもの」です。 |
| ílmo | [ˈilmo] | 水 | 水。重性。地の上を流れる水、器に入った水を指します。 |
| sáko | [ˈsako] | 塩 | 塩。重性。崖の下から来る貴重品です。 |
| kumbór | [kumˈbor] | 青銅 | 青銅。重性。金属はすべて重いものです。子音で終わるので、性は覚えるしかありません。 |
| glünó | [glyˈno] | 氷 | 氷。重性。雪は軽性ですが、氷は重性です。地上の水が凍ったものだからです。 |
| fáron | [ˈfaron] | 荷 | 荷。重性。 |
| kéumo | [ˈkeumo] | 碑 | 碑。重性。石に刻んだ言葉は昇りも消えもせず、その場所にとどまります。 |
| gléin | [ˈglein] | 清い | 清い。主語のすぐ後ろに置きます。 |
| gróm | [ˈgrom] | 重い | 重い。 |
| fláin | [ˈflain] | 軽い | 軽い。 |
| klér | [ˈkler] | 冷たい | 冷たい。 |
| þáil | [ˈθail] | 澄んだ | 澄んだ。空や水、月によく使います。 |
| sé | [ˈse] | この | この(軽性の名詞につける)。 |
| só | [ˈso] | この(重) | この(重性の名詞につける)。 |
| tó | [ˈto] | あの(重) | あの(重性の名詞につける)。軽性の「あの」té は第1課で習いました。 |
規則:高原語の名詞は、すべて軽性か重性のどちらかに属します。「性」は、名詞が文法の上でどちらの仲間に入るかの区別です。高原語では、男か女かではなく、上へ行くものか下へ行くものかで分かれます。
| 軽性(上へ行くもの) | 重性(下へ行くもの) |
|---|---|
selvá 息、elþá 火、virá 言葉 |
gandér 硬木、kumbór 青銅、kéumo 碑 |
fléura 雲、réina 雨、hílva 雪 |
nébro 霧、ílmo 水、glünó 氷 |
ilána 灯、sílar 月 |
sáko 塩、fáron 荷 |
éndra 人、endríña 子ども |
|
plána 帳簿(紙) |
見分けの目安
| 語の終わり | たいてい | 例 |
|---|---|---|
| -a で終わる | 軽性 | fléura, réina, plána, virá |
| -o で終わる | 重性 | nébro, ílmo, sáko, glünó, kéumo |
| 子音で終わる | どちらもある | 軽性 sílar/重性 gandér, kumbór, fáron |
注意点
sílar 月・軽」「gandér 硬木・重」のように)。réina)と雪(hílva)は軽性、地上の水(ílmo)と氷(glünó)は重性です。「どこから来たか」で性が決まります。fléura)は軽性、霧(nébro)は重性です。見た目が似ていても、この土地の人は二つをまったく別のものと考えています。規則:「AはBだ」と言うときは、動詞 és-「〜である」を文の頭に置きます。順番は és- + 主語 + 形容詞 です。動詞の語尾は、主語の性に合わせて変わります。
| 主語の性 | 動詞の形 | 例 | 訳 |
|---|---|---|---|
| 軽性 | ésa |
ésa virá gléin. |
言葉は清い。 |
| 重性 | éso |
éso gandér gróm. |
硬木は重い。 |
語尾の -a は軽いもの、-o は重いもののしるしです。第1課で、動詞が文の頭に来ることを学びました。「〜である」の文も同じです。
例
ésa fléura fláin. 雲は軽い。éso nébro gróm. 霧は重い。ésa réina gléin. 雨は清い。注意点
gléin, gróm, fláin, klér, þáil)は、この課で使う形(主語が一つのときの「〜が」の形)では語尾がつきません。どちらの性の主語にも、そのままの形で使えます。形容詞も、主語が二つ・三つ以上になったり、「〜を」「〜に」の形になったりすると、名詞と同じ語尾がつきます(第8課・第9課)。ésa nébro … と言うと、「霧を上のものとして扱う」ことになり、とても奇妙に聞こえます。ésa も éso も és と聞こえることがあります。その場合は、主語の名詞から性を判断してください。規則:「この」「あの」は、名詞の後ろに置きます。形は、名詞の性によって変わります。
| この | あの | |
|---|---|---|
| 軽性の名詞 | sé |
té |
| 重性の名詞 | só |
tó |
軽性では -é、重性では -ó です。ここでも「o は重い」と覚えておくと便利です。
例
gandér só この硬木plána sé この帳簿ílmo tó あの水virá té あの言葉文の中では és- + 名詞 + 指示詞 + 形容詞 の順になります。
éso gandér só gróm. この硬木は重い。ésa plána sé fláin. この帳簿は軽い。注意点
gandér sé は誤りで、正しくは gandér só です。té!「そこの方」は、この軽性の「あの」を単独で使ったものです。人は軽性なので té になります。ésa fléura fláin.
読み:エーサ フレウラ フライン。
| és-a | fléura | fláin. |
| である-<(軽いものが)> | 雲<主格> | 軽い |
「雲は軽い。」
fléura は軽性なので、動詞は ésa です。
éso nébro gróm.
読み:エーソ ネーブロ グローン。
| és-o | nébro | gróm. |
| である-<(重いものが)> | 霧<主格> | 重い |
「霧は重い。」
霧は重性なので、éso になります。例文1と比べてください。
ésa réina gléin.
読み:エーサ レーナ グレーン。
| és-a | réina | gléin. |
| である-<(軽いものが)> | 雨<主格> | 清い |
「雨は清い。」
雨は上から降る水なので、軽性で清いものとされます。
éso gandér só gróm.
読み:エーソ ガンデール ソー グローン。
| és-o | gandér | só | gróm. |
| である-<(重いものが)> | 硬木<主格> | この<重性> | 重い |
「この硬木は重い。」
重性の名詞には só「この」を使います。
ésa plána sé fláin.
読み:エーサ プラーナ セー フライン。
| és-a | plána | sé | fláin. |
| である-<(軽いものが)> | 帳簿<主格> | この<軽性> | 軽い |
「この帳簿は軽い。」
紙の帳簿は軽性なので、sé を使います。
éso ílmo tó klér.
読み:エーソ イルモ トー クレール。
| és-o | ílmo | tó | klér. |
| である-<(重いものが)> | 水<主格> | あの<重性> | 冷たい |
「あの水は冷たい。」
重性の「あの」は tó です。
ésa sílar þáil.
読み:エーサ シーラル サイル。
| és-a | sílar | þáil. |
| である-<(軽いものが)> | 月<主格> | 澄んだ |
「月が澄んでいる。」
sílar は子音で終わりますが、軽性です。
éso glünó tó klér.
読み:エーソ グリュノー トー クレール。
| és-o | glünó | tó | klér. |
| である-<(重いものが)> | 氷<主格> | あの<重性> | 冷たい |
「あの氷は冷たい。」
雪(hílva)は軽性ですが、氷は重性です。
ésa endríña sé fláin.
読み:エーサ エンドリーニャ セー フライン。
| és-a | endríña | sé | fláin. |
| である-<(軽いものが)> | 子ども<主格> | この<軽性> | 軽い |
「この子は軽い。」
人はいつも軽性です。子どもを抱き上げたときなどに言います。
ésa elþá gléin, éso sáko gróm.
読み:エーサ エルサー グレーン、エーソ サーコ グローン。
| és-a | elþá | gléin, | és-o | sáko | gróm. |
| である-<(軽いものが)> | 火<主格> | 清い | である-<(重いものが)> | 塩<主格> | 重い |
「火は清く、塩は重い。」
軽性と重性の文を二つ並べました。動詞の語尾 -a と -o が対になっています。
次の名詞を、軽性と重性に分けてください。
fléura 雲/nébro 霧/kumbór 青銅/hílva 雪/glünó 氷/sílar 月/fáron 荷/virá 言葉/sáko 塩/éndra 人
fléura、hílva、sílar、virá、éndranébro、kumbór、glünó、fáron、sáko迷いやすいのは、子音で終わる sílar(軽)、kumbór・fáron(重)です。また、雪は上から来るので軽性、氷は地上の水が凍ったものなので重性です。
( )に ésa/éso、または sé/só/tó を入れてください。
éso(霧は重性)sé(帳簿は軽性)tó(青銅は重性。「あの」なので tó)ésa(雨は軽性)só(塩は重性。「この」なので só)次の日本語を高原語にしてください。
ésa fléura sé fláin.éso kéumo tó gróm.éso ílmo klér.ésa virá sé gléin.語順はいつも「és-・名詞・(指示詞)・形容詞」です。動詞の語尾と指示詞を、名詞の性に合わせることを忘れないでください。
次の高原語を日本語にしてください。
ésa hílva þáil.éso fáron tó gróm.ésa elþá té gléin.3の té は、第1課の呼びかけ「そこの方」と同じ語です。ここでは軽性の名詞 elþá について「あの」の意味で使っています。
発音の問題です。
ésa と éso は、くだけた話し方ではどちらも同じ形に聞こえることがあります。どんな形でしょうか。また、そのとき性は何で判断すればよいでしょうか。glünó「氷」で強く発音する音節はどこですか。最初の母音 ü は、日本語話者の耳にどう聞こえやすいでしょうか。gandér sé と言いました。どこが誤りでしょうか。és と聞こえます。性は、後ろに来る主語の名詞(fléura なら軽、nébro なら重)から判断します。-nó にあります(´ のついた音節です)。ü はイの舌の位置で唇を丸める音で、「グリュノー」「グリノー」のように聞こえやすい音です。gandér は重性なので、「この」は só にしなければなりません。正しくは gandér só です。この言語が話されている高原では、一年に二度、崖の下の湿った空気が上がってきます。けれども、その上がり方は季節によってまったく違います。
雨期には、南からの強い風が崖にぶつかり、湿り気を一気に空高く押し上げます。湿り気は高い雲になり、高原の空を屋根のように覆います。この土地の人々は、この雲を「天の屋根」と呼びます。下から昇った湿り気は、天に届いていったん清められ、祖先の手で雨として上から返されてくる、と考えられています。ですから、雲(fléura)も雨(réina)も雪(hílva)も、上に属する軽性の名詞です。軒で集めた雨水は、墨をするのにも祀りの器を清めるのにも使われます。
霧期には、湿った空気が崖を這い上がり、冷えきった地面に触れて、そのまま濃い霧になります。霧は天を通りません。地面から湧き、人の体にまとわりつき、空と人とのあいだに割りこみます。この土地では霧を「下の国の息」と呼び、病や嘘や争いを運ぶものとして恐れます。霧(nébro)が重性なのは、このためです。
崖の上から霧の海を見下ろすと、白く広がるその姿は、雲とほとんど見分けがつきません。それでも高原の人は、霧を決して fléura とは呼びません。「同じに見えるから同じもの」ではなく、「どこから来たかで、ものは別のものになる」のです。
同じ考え方は、身の回りのあちこちに見られます。上から降る雪は軽性ですが、地上の水が凍った氷(glünó)は重性です。崖の下から上がってくる塩(sáko)も重性で、「下からの恵み」と呼ばれます。ありがたいけれど、少し後ろめたいものとして扱われているのです。
名詞を覚えるとき、「これは上から来たのか、下から来たのか」と考えてみてください。性を覚える近道になるだけでなく、この土地の人々の目で世界を見る練習にもなります。
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