na

品詞
小辞
意味
〜ない
発音
[na]
読み
ナ
分野
会話の定型・挨拶・応答

意味

  1. 〜ない

    直説法・推量法・仮定法の文を否定し、事柄が成り立たないことを表す。動詞の直前に置く。

    na þílim virán sé.

    読み:ナ シーリン ヴィラーン セー。

    naþíl-imvir-ánsé.
    <〜ない>分かる-<私が>言葉-<対格>この<軽性>

    「この言葉がわからない。」

    日常の言い切りの否定。na は直説法の動詞 þílim の直前に置く。主語は1人称単数の語尾 -im でわかるので、代名詞は言わない。指示詞 sé は名詞の後ろに置き、格では形が変わらない。

    na gloiréla aulisár sórel.

    読み:ナ グロイレーラ アウリサール ソーレル。

    nagloir-él-aau-lis-ársórel.
    <〜ない>お越しになる-<〜だろう>-<(軽いものが)><お〜になる・御〜>-書く-<〜する人>今日

    「書記の方は、今日はお越しにならないでしょう。」

    推量法の否定にも na を使う。強勢は推量法の -él- に移るので、語根 glóir- の ´ は消える。glóir- は「来る」の尊敬の補充形で、目上の人の動作を言うときに使う。時を表す sórel は文末に置く。

  2. いいえ(と答える)

    はい・いいえの問いに否定で答えるとき、問いの動詞に na をつけて繰り返す(na máinim「食べていない」)。

    ké éso fáron tásei? na éso.

    読み:ケー エーソ ファーロン ターセイ?ナ エーソ。

    kéés-ofárontás-ei?naés-o.
    <〜か>いる-<(重いものが)>荷<主格><あなた>-<与格><〜ない>いる-<(重いものが)>

    「「お前、荷はあるか?」「いや、ない。」」

    所有の問いと否定の答え。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持ち主ではなく、持たれている物 fáron(重性)に一致する。そのため答えでも人称は変わらず、na éiso となる。

    ké éso tambór tásei? na éso.

    読み:ケー エーソ タンボール ターセイ?ナ エーソ。

    kéés-otambórtás-ei?naés-o.
    <〜か>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><あなた>-<与格><〜ない>いる-<(重いものが)>

    「「お前、雑穀はあるか?」「ない。」」

    二人の発話。高原語には「はい」「いいえ」にあたる語がないので、問いの動詞を繰り返して答え、否定なら na をつける。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持たれている物 tambór(重性)に一致する。そのため答えでも人称は変わらず、「ある」なら éso、「ない」なら na éso となる。

解説

事柄が成り立たないことを言う否定の小辞。直説法・推量法・仮定法の動詞の直前に置く(疑問詞や対比の語句があればその後ろ、動詞の前)。無強勢で、次の動詞に寄りかかって発音される。高原語には「はい」にあたる語がないため、はい・いいえで答える問いには、問いの動詞をそのまま繰り返すか、na をつけて繰り返すことで答える。ただし打ち消すときだけは、動詞を省いて na だけで「いいえ」「違う」と言うこともできる。問いへのそっけない答えや、相手の言ったことへの言い返しに使い、くだけた響きがある(na. auríþim élan.「違う。俺がこいつを引き上げたんだ」)。人に働きかける法(願望・命令・当為)の否定には mé を使い、na は使わない。

そのほかの用例

toríro nébro es orénos, na senéimor ilánais.

読み:トリーロ ネーブロ エス オレーノス、ナ セネーモル イラーナイス。

tor-ír-onébroesorén-os,nasen-é-imorilán-ais
来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格><〜ない>見る-<〜だろう>-<我々が>灯-<〜たちを>

「縁から霧が上がってくれば、我々には星が見えなくなるだろう。」

霧 nébro は重性o語幹なので、仮定法の動詞も重性の -o をとる。帰結の部分は推量法で、na で否定している。1人称の語尾の前では、推量法の -él- の l が落ちて -é- になる。

ké éso tambór tásei? na éso tambór némei.

読み:ケー エーソ タンボール ターセイ?ナ エーソ タンボール ネーメイ。

kéés-otambórtás-ei?naés-otambórném-ei.
<〜か>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><あなた>-<与格><〜ない>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><私>-<与格>

「「お前、雑穀はあるか?」「私には雑穀はない。」」

二人の発話。所有は「持つ」という動詞ではなく、「ある+持ち主の与格」で言う。動詞は持ち主ではなく、持たれている物 tambór(重性)に一致する。はい・いいえで答える問いは、文のいちばん前の ké で作る。答えは動詞を繰り返すが、動詞が物に一致しているので人称は変わらず、「はい」なら éso、「いいえ」なら na éso となる。ké máines?「食べたか」→ máinim「食べた」のような、人称を変える答え方と比べてほしい。

na éso nébro fléura.

読み:ナ エーソ ネーブロ フレウラ。

naés-onébrofléura.
<〜ない>いる-<(重いものが)>霧<主格>雲

「霧は雲ではない。」

述語の名詞は自分の性・主格のまま置く。動詞は主語の霧に合わせて重性の -o。

na tóra unlóur senár.

読み:ナ トーラ ウンロール セナール。

natór-aunlóursen-ár.
<〜ない>来る-<(軽いものが)>まだ見る-<〜する人>

「目付はまだ来ない。」

「まだ」unlóur は動詞の直後、主語の前に置く。否定の na は動詞の前。

éso nébro an orénoi, esós na sénimor ilánais.

読み:エーソ ネーブロ アン オレーノイ、エソース ナ セーニモル イラーナイス。

és-onébroanorén-oi,esósnasén-imorilán-ais.
いる-<(重いものが)>霧<主格>上手縁-<与格>だから<〜ない>見る-<我々が>灯-<〜たちを>

「縁の上手に霧がある。だから、我々には星が見えない。」

esós「それから(それゆえ)」は理由と結果。es pós「なぜ」と対になる。

an nébros, na tóra orenvandár.

読み:アン ネーブロス、ナ トーラ オレンヴァンダール。

annébr-os,natór-aorenvandár.
上手霧-<属格><〜ない>来る-<(軽いものが)>縁商人<主格>

「霧の季節が来て以来、縁商人は来ない。」

an+属格「〜の上手から」は、時の名詞では「〜以来」。時の句は場面の枠に置く。

na léisim unlóur sáindaran.

読み:ナ レーシン ウンロール サインダラン。

naléis-imunlóursáindar-an.
<〜ない>書く<〜し終えた>-<私が>まだ証文-<対格>

「私はまだ証文を書き終えていない。」

否定+完了だけなら「書き終えなかった」。「まだ」をはっきり言うときは unlóur を添える。

na léisa unlóur lisár sáindaran.

読み:ナ レーサ ウンロール リサール サインダラン。

naléis-aunlóurlis-ársáindar-an.
<〜ない>書く<〜し終えた>-<(軽いものが)>まだ書く-<〜する人>証文-<対格>

「書記はまだ証文を書き終えていない。」

相の副詞 unlóur は動詞のすぐ後ろに置き、主語の枠・目的語の枠には数えない。

na gélim dóulin du orén.

読み:ナ ゲーリン ドーリン ドゥ オレーン。

nagél-imdóulinduorén.
<〜ない>行く-<私が>もう下手縁<対格>

「私はもう縁へは行かない。」

否定+dóulin で「もう〜しない」。

na lísim dóulin sáindarais.

読み:ナ リーシン ドーリン サインダライス。

nalís-imdóulinsáindar-ais.
<〜ない>書く-<私が>もう証文-<〜たちを>

「もう証文は書かない。」

否定+ふつうの形+dóulin で「もう〜しない」。

na vándin fáron, lísa lisár plánan.

読み:ナ ヴァンディン ファーロン、リーサ リサール プラーナン。

navánd-infáron,lís-alis-árplán-an.
<〜ない>量る-<〜して・〜く>荷<対格>書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人>帳簿-<対格>

「荷を量らずに、書記は帳簿を書く。」

「〜せずに」は -in の動詞の前に na を置く。量らないのも書くのも書記。

na éso ílmo nagléin.

読み:ナ エーソ イルモ ナグレーン。

naés-oílmona-gléin.
<〜ない>いる-<(重いものが)>水<主格><〜ない>-清い

「水は清からぬものではない(悪くない水だ)。」

二重否定。目上の人の持ち物や行いを、直接ほめずに控えめに評価する言い方。

na dulíþin vúuro fúnel gandér du dálor.

読み:ナ ドゥリーシン ヴーロ フーネル ガンデール ドゥ ダーロル。

nadul-íþ-invúur-ofúnelgandérdudálor.
<〜ない>下る-<〜させる>-<〜して・〜く>届く-<(重いものが)>綱<主格>硬木<対格>下手下の国<対格>

「綱は硬木を下の国まで下ろせない。」

否定の na は副動詞の前に置き、二つの動詞をまとめて打ち消す。綱の長さが届かない、という可能の否定。

rímbin þílim, salóur na rímbin vúurim sórel.

読み:リンビン シーリン、サロール ナ リンビン ヴーリン ソーレル。

rímb-inþíl-im,salóurnarímb-invúur-imsórel.
数える-<〜して・〜く>分かる-<私が>しかし<〜ない>数える-<〜して・〜く>届く-<私が>今日

「数え方は知っているが、今日は数えられない。」

能力の þíl- と、可能の vúur- を並べて使い分ける。

lúin tóro nébro, na þéla torár þelán.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーラ トラール セラーン。

lúintór-onébro,naþél-ator-árþel-án.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>名乗る-<(軽いものが)>来る-<〜する人>名前-<対格>

「霧が来ると、客は名を名乗らない。」

霧の中で名前を声に出すと下の国に聞かれる、という禁忌を述べた文。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。直説法の否定には na を使う。

toríro nébro, na elþéla ilána faronáres.

読み:トリーロ ネーブロ、ナ エルセーラ イラーナ ファロナーレス。

tor-ír-onébro,naelþ-él-ailánafaron-ár-es.
来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>燃える-<〜だろう>-<(軽いものが)>灯<主格>荷-<〜する人>-<属格>

「霧が上がってくれば、運び人の灯もともらなくなるだろう。」

崖道でよく聞かれる嘆き。条件の節は動詞を仮定法にするだけで作る。霧 nébro は重性なので、動詞は重性の -o をとる。帰結の節は推量法で、否定の na を動詞の直前に置く。ilána は「夜にともる明かり」の意味で、属格の faronáres「運び人の」が後ろからかかる。

ké dúles sórel? na dúlim, duléim dórel.

読み:ケー ドゥーレス ソーレル?ナ ドゥーリン、ドゥレーン ドーレル。

kédúl-essórel?nadúl-im,dul-é-imdórel.
<〜か>南へ行く-<あなたが>今日<〜ない>南へ行く-<私が>南へ行く-<〜だろう>-<私が>明日

「「今日は下へ行くのか?」「いや、行かない。明日行くだろう。」」

崖道の商人どうしの、くだけた問いと答え。はい・いいえの問いは文頭の ké で作り、答えは問いの動詞を自分の人称に変えてくり返す。確かでない未来のことは推量法で言う。1人称の語尾の前では推量の -él- の l が落ちて duléim になる。

na þílim virán dáloros.

読み:ナ シーリン ヴィラーン ダーロロス。

naþíl-imvir-ándálor-os.
<〜ない>分かる-<私が>言葉-<対格>下の国-<属格>

「下の国の言葉は分からん。」

都の人が干潟語について言う、くだけたひとこと。virán dáloros「下の国の言葉」は、「泥の言葉」ほどあからさまな蔑みではないが、距離を置いた言い方。属格は名詞の後ろに置く。

séir! na ésa selvá némei.

読み:セール!ナ エーサ セルヴァー ネーメイ。

séir!naés-aselváném-ei.
待つ<命令法><あなたが><〜ない>いる-<(軽いものが)>息<主格><私>-<与格>

「待ってくれ、息が切れた。」

坂道や崖道を上るときの、くだけた言い方。所有は「持つ」という動詞を使わず「ある+持ち主の与格」で言うので、「私には息がない」が「息が切れた」の意味になる。動詞は持たれている物 selvá(軽性)に一致する。

vírim slúun, na vírim sélu.

読み:ヴィーリン スルーン、ナ ヴィーリン セール。

vír-imslúun,navír-imsélu.
言う-<私が>千<〜ない>言う-<私が>泥の千

「陸の千と言っているのだ。泥の千とは言っていない。」

縁の市でよく起こる言い争いの決まった言い方。slúun(1000)と、干潟から借りた sélu(1728)を言い分けている。na は動詞の直前に置くので、後半では動詞 vírim を繰り返す。語をそのまま引いて言うときは、slúun も sélu も格の語尾をつけない。

áuran slúun sílarar, na tóra lisár.

読み:アウラン スルーン シーララル、ナ トーラ リサール。

áur-anslúunsílar-ar,natór-alis-ár.
昇る-<彼らが>数えきれぬ月-<〜らの><〜ない>来る-<(軽いものが)>書く-<〜する人>

「数えきれぬほど月が昇ったが、書記は来ない。」

詩や改まった語りの言い方。slúun sílarar「千の月」は数えた結果ではなく、「数えきれないほど長い時が過ぎた」という意味の決まり文句。月は星ではないので、数の言い方をしても禁忌には当たらない。時制がないので、áuran は「昇った」とも訳せる。

éso þrén nadúlen aldárei áurenei.

読み:エーソ スレーン ナドゥーレン アルダーレイ アウレネイ。

és-oþrénna-dúl-enaldár-eiáur-en-ei.
いる-<(重いものが)>段<主格><〜ない>-下る-<〜した・〜された>座-<与格>昇る-<〜した・〜された>-<与格>

「下りぬ段は高き座のものである。」

宮廷の語りや詩で、王の身分を言う改まった文。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持たれている物 þrén(重性)に一致して -o をとる。分詞 nadúlen「下りぬ」は、重性・単数・主格の þrén に一致しているので語尾がつかない。áurenei は、軽性の与格 aldárei に一致した形。王の段は数を使わず、「下りぬ段」とだけ言う。

lúin tóro nébro, na sénimor sílaran.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーニモル シーララン。

lúintór-onébro,nasén-imorsílar-an.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>月-<対格>

「霧が来ると、月が見えなくなる。」

霧期の不安を言う文。霧 nébro は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。主節は直説法なので、否定には na を使う。

éso nébro, na sénimor álmaran.

読み:エーソ ネーブロ、ナ セーニモル アルマラン。

és-onébro,nasén-imorálmar-an.
いる-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>白月-<対格>

「霧が出ていて、我々には白月が見えない。」

霧期の暮らしを語るときの言い方。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。霧が出ると、空と人とのあいだに下のものが割りこみ、祖先が下界を見守れなくなる。この文には、そうした不安がこもっている。

lúin na tóro nébro, méirim grúndo.

読み:ルーイン ナ トーロ ネーブロ、メーリン グルンド。

lúinnatór-onébro,méir-imgrúndo.
とき<〜ない>来る-<(重いものが)>霧期<主格>与える-<私が>掛け<対格>

「霧期が来ないうちに、掛けを払います。」

縁の市での、精算の約束の言葉。霧の中で結んだ約束は重んじられないので、精算はかならず霧期の前に済ませる。同じことを市では、決まり文句の an nébroi「霧の前に(期限までに)」で言うことが多い。

na vírimor þelán aldáres áurenes.

読み:ナ ヴィーリモル セラーン アルダーレス アウレネス。

navír-imorþel-ánaldár-esáur-en-es.
<〜ない>言う-<我々が>名前-<対格>座-<属格>昇る-<〜した・〜された>-<軽性・属格>

「我々は高き座の御名を口にしない。」

王の個人名は即位と崩御のときに一度ずつしか唱えないという決まりを述べた文。na は直説法の動詞の直前に置く。分詞 áuren は座 aldár に一致して、軽性の属格 -es をとる。書くことは息を使わないので、この禁忌には当たらない。

na gélimor an dún es fáronos.

読み:ナ ゲーリモル アン ドゥーン エス ファーロノス。

nagél-imorandúnesfáron-os.
<〜ない>行く-<我々が>上手へ・上手で丘<対格>〜のゆえに荷-<属格>

「荷があるので、我々は丘へは上がらない。」

es+属格で理由を表す。高原語では理由を「出どころ」と考えるので、es+属格は「〜から」とも「〜のゆえに」とも読め、どちらの意味かは文脈で決まる。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。

na néulimor torárais grómais.

読み:ナ ネウリモル トラーライス グローマイス。

nanéul-imortorár-aisgróm-ais.
<〜ない>好む-<我々が>客-<〜たちを>粗野な-<軽性・〜ら(古い母音交替)・対格>

「我々は粗野な客を好まない。」

直説法の否定なので、na を動詞の直前に置く。形容詞は語根に強勢を残したまま、軽性・複数・対格の -ais で名詞に一致する。

ésa lóna nakélen.

読み:エーサ ローナ ナケーレン。

és-alónana-kél-en.
いる-<(軽いものが)>柱の木<主格><〜ない>-伐る-<〜した・〜された>

「その柱の木はまだ伐られていない。」

まだ伐られていない立ち木なので軽性で受け、繋辞は -a をとる。伐り倒したあとは、同じ語でも、受ける語が重性の形になる。

té, séir! na sénim nóumo táses.

読み:テー、セール!ナ セーニン ノーモ ターセス。

té,séir!nasén-imnóumotás-es.
そこの方待つ<命令法><あなたが><〜ない>見る-<私が>顔<対格><あなた>-<属格>

「そこの方、待て!顔が見えない。」

霧の濃い道で、正体のわからない相手を呼び止める言い方。呼びかけの té は文の頭に置くこともでき、そのときは読点で区切る。目上の人かもしれない相手には、命令法の séir ではなく、決まり文句の seirénde「しばしお待ちを」を使う。

na éso tambór némorei.

読み:ナ エーソ タンボール ネーモレイ。

naés-otambórnémor-ei.
<〜ない>いる-<(重いものが)>雑穀<主格>我々-<与格>

「我々には雑穀がない。」

所有の言い方。「持つ」という動詞はなく、持ち主を与格 némorei で表す。動詞は持ち主ではなく、持たれている物 tambór(重性)に一致するので、3人称単数・重性の éso になる。凶作の年や倉が空になったときに、村でふつうに聞かれる言い方。

ké tóra senár? na tóra.

読み:ケー トーラ セナール?ナ トーラ。

kétór-asen-ár?natór-a.
<〜か>来る-<(軽いものが)>見る-<〜する人><〜ない>来る-<(軽いものが)>

「「目付は来たか?」「まだ来ていない。」」

市の店先で、仲間どうしが第三者について尋ねあう文。答えは動詞を繰り返すが、主語が3人称のままなので人称は変わらず、「いいえ」は na を前に置くだけで言う。目付本人に向かって尋ねるなら、ké は使わず推量法にする。

na lúuman aursárai séndo, lúin tóro nébro es orénos.

読み:ナ ルーマン アウルサーライ センド、ルーイン トーロ ネーブロ エス オレーノス。

nalúum-anaursár-aiséndo,lúintór-onébroesorén-os.
<〜ない>ご覧になる-<彼らが>祖先-<〜たちが>この世<対格>とき来る-<(重いものが)>霧<主格>から縁-<属格>

「縁から霧が上がってくるとき、祖先はこの世をご覧にならない。」

霧期を恐れる理由を語る言い方。ここでの séndo は話し手のいる場所ではなく、上(天)と下(干潟・地の底)のあいだにある、人の生きる「中の世界」を指す。祖先には「見る」の尊敬の補充形 lúum- を使う。祖先は数えないので、複数はひとまとまりの「方々」の意味になる。

na ésa páin séndoi.

読み:ナ エーサ パイン センドイ。

naés-apáinsénd-oi.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>誰も<主格>ここ-<与格>

「「ここには誰もいない。」」

呼びかけに返事がないときなどの、日常の言い方。存在の és- が先頭に来て、主語 páin は軽性なので ésa になる。人が一人もいないことを言うのに数詞は使わず、na と páin だけで言う。

na tóra páin sórel.

読み:ナ トーラ パイン ソーレル。

natór-apáinsórel.
<〜ない>来る-<(軽いものが)>誰も<主格>今日

「今日は誰も来なかった。」

市の帳場が静かだった日のことを言う文。動詞の直前に na を置き、páin と組み合わせると「誰も〜ない」という全否定になる。sórel「今日」のような時の語は文の後ろに置く。

na mánim póin anórel.

読み:ナ マーニン ポイン アノーレル。

namán-impóinanórel.
<〜ない>食べる-<私が>何も<対格>昨日

「昨日は何も食べていない。」

日常会話の文。mán-「食べる」を na で否定し、póin と組み合わせて「何も〜ない」と言う。時制がないので、anórel「昨日」で過去のことだとわかる。

na lísa lisár póin sáindarei sórel.

読み:ナ リーサ リサール ポイン サインダレイ ソーレル。

nalís-alis-árpóinsáindar-eisórel.
<〜ない>書く-<(軽いものが)>書く-<〜する人>何も<対格>証文-<与格>今日

「書記は今日、証文に何も書かなかった。」

取引のなかった日の帳場の様子を言う文。語順は動詞–主語–目的語–与格–時で、na は動詞の直前に置く。sórel「今日」のような時の語は文の後ろに回す。

na tóran ómbra senárar.

読み:ナ トーラン オンブラ セナーラル。

natór-anómbrasen-ár-ar.
<〜ない>来る-<彼らが>みな<主格>見る-<〜する人>-<〜らの>

「目付たちがみな来たわけではない。」

na で否定すると、「全員が〜したわけではない」という部分否定になる。ómbra は意味の上で複数を受けるので、動詞は3人称複数になる。

vírim sélu lénar sáindarar, na vírim slúun.

読み:ヴィーリン セール レーナル サインダラル、ナ ヴィーリン スルーン。

vír-imsélulén-arsáindar-ar,navír-imslúun.
言う-<私が>泥の千枚-<〜らの>証文-<〜らの><〜ない>言う-<私が>千

「私が言っているのは泥の千枚の証文だ。陸の千ではない。」

縁の市で、数の取り違えを防ぐための念押し。sélu も slúun と同じく、量の名詞を複数属格でとる。干潟の数え方の1728枚なのか、高原の1000枚なのかを、二つの語を言い分けてはっきりさせている。

na ésa rimbá sáindares sé.

読み:ナ エーサ リンバー サインダレス セー。

naés-arimbásáindar-essé.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>数の欄<主格>証文-<属格>この<軽性>

「この証文には数の欄がない。」

荷の検めで、書式の不備を指摘する言い方。存在の動詞 és- を na で否定している。rimbá は軽性なので、動詞は -a をとる。

lúin tóro nébro, na séno senó dáu sílarau.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーノ セノー ダウ シーララウ。

lúintór-onébro,nasén-osenódáusílar-au.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<(重いものが)>目<主格>二月-<双数>

「霧が来れば、目には二つの月も見えない。」

霧期の不安を言う、言い習わしのような文。senó は sén-「見る」に重性のもの名詞の接辞 -ó がついた語で、重性なので動詞は -o をとる。月は星ではないので、dáu「二」で数えて双数にしてよい。

na sénim sáindaran sé, éso senó némes múr.

読み:ナ セーニン サインダラン セー、エーソ セノー ネーメス ムール。

nasén-imsáindar-ansé,és-osenóném-esmúr.
<〜ない>見る-<私が>証文-<対格>この<軽性>いる-<(重いものが)>目<主格><私>-<属格>濁った

「この証文は見えぬ。私の目はかすんでいる。」

年長の者が細かい字を読めないときの言い方。主節二つを接続詞なしで並べるので、あいだに区切りを入れる。senó は重性なので、繋辞は -o をとり、述語の múr「濁った」にも語尾がつかない。目がよく見えないことを、水と同じ「濁る」で言っている。

na ráumim sórel, éso tról némes gráis.

読み:ナ ラウミン ソーレル、エーソ トロール ネーメス グライス。

naráum-imsórel,és-otrólném-esgráis.
<〜ない>歩く-<私が>今日いる-<(重いものが)>足<主格><私>-<属格>悪い

「今日は歩けない。足が悪いんだ。」

日常会話の文。高原語には「〜できる」を表す専用の形がないので、直説法の否定で「歩かない・歩けない」の両方を表す。tról は重性の子音語幹名詞で、主格と対格が同じ形。

lúin na sénimor gromó éles, elþíþimor fáron éles.

読み:ルーイン ナ セーニモル グロモー エーレス、エルシーシモル ファーロン エーレス。

lúinnasén-imorgromóél-es,elþ-íþ-imorfáronél-es.
とき<〜ない>見る-<我々が>亡骸<対格><3人称単数・軽性>-<属格>燃える-<〜させる>-<我々が>荷<対格><3人称単数・軽性>-<属格>

「亡骸が見つからないときは、その人の荷を燃やして送る。」

崖から落ちた者や溺れた者を弔うときの習わしを説明する文。「〜とき」の節は lúin で始め、主節の前に置く。élþ-「燃える」に使役の -íþ- をつけて「燃やす」にしている。

lúin na glénim, dúlo nóumo némes.

読み:ルーイン ナ グレーニン、ドゥーロ ノーモ ネーメス。

lúinnaglén-im,dúl-onóumoném-es.
とき<〜ない>答える-<私が>下る-<(重いものが)>体面<主格><私>-<属格>

「答えられなければ、私の面目が潰れる。」

nóumo dúlo「顔が下りる」は面目を失うという慣用句。敬意や名誉を高さで表す考え方から来ている。詩合わせや問答で返しができないときなどに使う。

toríro nébro, na sénimor nóumo séulines.

読み:トリーロ ネーブロ、ナ セーニモル ノーモ セウリネス。

tor-ír-onébro,nasén-imornóumoséulin-es.
来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>顔<対格>友-<属格>

「霧が上がってくれば、友の顔も見えない。」

霧期の不安を語る言い方。霧の中では名前を呼べないうえに、顔も見分けられない。条件の節は接続詞を使わず、動詞を仮定法にするだけで作る。霧 nébro は重性なので、仮定法の動詞も重性の -o をとる。

na ésa sóila faronáres áuren.

読み:ナ エーサ ソイラ ファロナーレス アウレン。

naés-asóilafaronár-esáur-en.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>結い髪<主格>運び人-<属格>昇る-<〜した・〜された>

「運び人の結い髪は高くない。」

髪を高く結うほど身分が高いとされるので、九段下りの運び人の結い髪は低い。直説法の文なので na で否定する。述語の分詞 áuren(「高い」、もとは「昇った」)は、軽性の主語 sóila に一致している。

vrína endríña gandér, na vrína éndran.

読み:ヴリーナ エンドリーニャ ガンデール、ナ ヴリーナ エンドラン。

vrín-aendríñagandér,navrín-aéndr-an.
またぐ-<(軽いものが)>子ども<主格>硬木<対格><〜ない>またぐ-<(軽いものが)>人-<対格>

「子どもは硬木はまたいでも、人はまたがない。」

物をまたぐのはかまわないが、人をまたぐのは禁忌だという対比。動詞は主語の endríña(軽性)に一致して -a をとる。gandér は重性なので、対格に語尾がつかない。

ké ésa éndra téndoi? na ésa éndra, ésa hérvan.

読み:ケー エーサ エンドラ テンドイ?ナ エーサ エンドラ、エーサ ヘルヴァン。

kéés-aéndraténd-oi?naés-aéndra,és-ahérvan.
<〜か>いる-<(軽いものが)>人<主格>あそこ-<与格><〜ない>いる-<(軽いものが)>人<主格>いる-<(軽いものが)>大鹿<主格>

「「「あそこに人がいるか?」「いや、人じゃない。大鹿だ。」」」

二人の発話。「はい」「いいえ」にあたる語がないので、問いの動詞を繰り返し、na をつけて否定の答えにしている。éndra は、獣と区別した「人」を指す。人も大鹿も軽性なので、動詞はどちらも ésa になる。

na éso þrén naþrenárei.

読み:ナ エーソ スレーン ナスレナーレイ。

naés-oþrénnaþrenár-ei.
<〜ない>いる-<(重いものが)>段<主格>段の外の者-<与格>

「段の外の者には段がない。」

宮廷の礼法家がよく口にする言い方。「持つ」の動詞がないので、所有は「ある+持ち主の与格」で言う。動詞は持ち主ではなく、持たれている物 þrén(重性)に一致する。段の外の者をどう迎えるかが、いつも議論になることを踏まえた言い回し。

na vóila naþrenár té lisáis némores.

読み:ナ ヴォイラ ナスレナール テー リサイス ネーモレス。

navóil-anaþrenártélis-áisnémor-es.
<〜ない>読む-<(軽いものが)>異邦人<主格>あの<軽性>字-<〜たちを><我々>-<属格>

「あの異邦人は我々の字を読めない。」

日常の会話。時制も「できる」の語形もないので、「読まない」と「読めない」は文脈で決まる。na は動詞の直前に置く。名詞句は「名詞+指示詞」「名詞+属格」の順。

ésa sáindar sé tráumo, na ésa glüníño.

読み:エーサ サインダル セー トラウモ、ナ エーサ グリュニーニョ。

és-asáindarsétráumo,naés-aglüníño.
いる-<(軽いものが)>証文<主格>この<軽性>確かな足場<〜ない>いる-<(軽いものが)>危うい足場

「この証文は渡り氷だ、薄氷ではない。」

縁の市で、約束が確かなことを請け合う決まり文句。tráumo と glüníño を対にして言う。証文 sáindar は紙に書かれたものなので軽性で、繋辞は -a、指示詞は軽性の sé をとる。

na méirim fáron, ésa sáindar sé múrno.

読み:ナ メーリン ファーロン、エーサ サインダル セー ムルノ。

naméir-imfáron,és-asáindarsémúrno.
<〜ない>与える-<私が>荷<対格>いる-<(軽いものが)>証文<主格>この<軽性>当てにならぬもの

「荷は渡さない、この証文は腐り氷だ。」

縁の市で取引を断るときの言い方。na は直説法の動詞の直前に置く。証文を tráumo「渡り氷」と請け合われたのに対して、múrno と言い返すことが多い。

na dúlo séimo.

読み:ナ ドゥーロ セーモ。

nadúl-oséimo.
<〜ない>下る-<(重いものが)>静み水<主格>

「静み水は流れ下らない。」

湖の静かな水が、谷を走る水と違って流れ下らないことを言う。直説法の文なので、na で否定する。séimo は重性なので、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。

mé mán, endríña! na ésa hílva tambór.

読み:メー マーン、エンドリーニャ!ナ エーサ ヒルヴァ タンボール。

mémán,endríña!naés-ahílvatambór.
<禁止・願いの打ち消し>食べる<命令法><あなたが>子ども<〜ない>いる-<(軽いものが)>雪<主格>雑穀

「食べちゃだめよ、坊や。雪はごはんじゃないの。」

大人が子どもをたしなめる、ごく日常的な言い方。日常では呼格を使わず、呼びかけの語を読点で区切って添える。「AはBではない」は na+繋辞で言い、繋辞は主語の hílva(軽性)に一致する。

ésa él dulána, na áura selvá éles. elþíþimor fáron éles.

読み:エーサ エール ドゥラーナ、ナ アウラ セルヴァー エーレス。エルシーシモル ファーロン エーレス。

és-aéldulána,naáur-aselváél-es.elþ-íþ-imorfáronél-es.
いる-<(軽いものが)><3人称単数・軽性>落ちてきた者<主格><〜ない>昇る-<(軽いものが)>息<主格><3人称単数・軽性>-<属格>燃える-<〜させる>-<我々が>荷<対格><3人称単数・軽性>-<属格>

「その人は落ちた者だ。その息は昇らない。だから我々は、その人の荷を燃やす。」

弔いの場での言い方。崖から落ちて死んだ者は、魂が体と一緒に下へ引かれて昇れなくなるとされ、dulána と呼ばれる。遺体が見つからないときは、持ち物を燃やして魂を上へ送る。dulána は人を指すので、繋辞も代名詞も軽性の形(ésa、él)で受ける。elþ-íþ- は「燃える」の使役で「燃やす」の意味で、直説法では -íþ- に強勢が置かれる。

éso þúumo séndoi, na sénim tásan.

読み:エーソ スーモ センドイ、ナ セーニン ターサン。

és-oþúumosénd-oi,nasén-imtás-an.
いる-<(重いものが)>濃霧<主格>ここ-<与格><〜ない>見る-<私が><あなた>-<対格>

「「ここは濃霧だ。お前が見えない。」」

霧期に、すぐそばの相手に話しかける日常の言い方。þúumo は重性なので、存在の動詞は éso になる。読点で区切って主節を二つ並べている。後半は直説法なので na で否定する。2人称の tás を使っているので、同輩か目下の相手への話し方になる。

dúlo krámbo es orénos, na brúumo.

読み:ドゥーロ クランボ エス オレーノス、ナ ブルーモ。

dúl-okrámboesorén-os,nabrúum-o.
下る-<(重いものが)>崖山羊<主格>から縁-<属格><〜ない>落ちる-<(重いものが)>

「崖山羊は縁から下りても、落ちはしない。」

崖道でよく言われる言い回し。主語 krámbo が重性なので、二つの動詞はどちらも3人称単数・重性の -o をとる。後ろの節では主語を言わないが、動詞の語尾から同じ崖山羊が主語だとわかる。

lúin tóro nébro, na þónda fíñel.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ ソンダ フィーニェル。

lúintór-onébro,naþónd-afíñel.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>誓う-<(軽いものが)>用心深い者<主格>

「霧が来たら、用心深い者は誓わない。」

霧の中で結んだ約束は重んじられない、という考えを踏まえた諺。霧 nébro は重性なので、動詞は -o をとる。主語の fíñel は特定の人ではなく、「用心深い者は誰でも」という一般の人を指す。

lúin kéla kelár árnelan, na kéla búl.

読み:ルーイン ケーラ ケラール アルネラン、ナ ケーラ ブール。

lúinkél-akel-árárnel-an,nakél-abúl.
とき伐る-<(軽いものが)>伐る-<〜する人・主格>木-<対格><〜ない>伐る-<(軽いものが)>根<対格>

「樵は木を伐るとき、根は伐らない。」

búl は重性なので、主格と対格が同じ形になる。伐る前の木は立ち木なので、軽性の対格 árnelan をとる。後半の節は主語を言っていないが、動詞の語尾から、前半と同じ樵が主語だとわかる。

brúuma líndra, na hóina.

読み:ブルーマ リンドラ、ナ ホイナ。

brúum-alíndra,nahóin-a.
落ちる-<(軽いものが)>金の落葉樹<主格><〜ない>帰る-<(軽いものが)>

「金の葉は散り、もう戻らない。」

去りゆく美しさを詠む詩句。過ぎた若さや亡くなった人をしのぶときに、会話の中でも引かれる。二つの節が接続詞なしで並び、区切りの印で区切られている。

lúin na éso tambór némorei, éso bóula kúulen tambór némores.

読み:ルーイン ナ エーソ タンボール ネーモレイ、エーソ ボーラ クーレン タンボール ネーモレス。

lúinnaés-otambórnémor-ei,és-obóulakúul-entambórnémor-es.
とき<〜ない>いる-<(重いものが)>雑穀<主格><我々>-<与格>,いる-<(重いものが)>どんぐり<主格>煮る-<〜した・〜された>雑穀<主格><我々>-<属格>

「雑穀がないときには、煮たどんぐりが我々の雑穀になる。」

凶作の年の暮らしを語る文。どんぐりは飢えの年の食べ物でもある。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持たれている物の tambór(重性)に一致する。lúin の節の中では、na が動詞の直前に来る。落ちた実を煮たどんぐりは重性で扱うので、繋辞は éso、分詞 kúulen は重性・単数・主格の形(語尾なし)になる。

na dúmarim sóumbo só, ausenár.

読み:ナ ドゥーマリン ソーンボ ソー、アウセナール。

nadúmar-imsóumbosó,au-sen-ár.
<〜ない>いただく-<私が>きのこ<対格>この<重性><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>

「目付殿、このきのこはいただけません。」

目上の人に出された食べ物を、へりくだって断るときの言い方。na は直説法の動詞の直前に置く。日常では呼格を使わず、役職名に au- をつけて、文の終わりに読点で区切って添える。理由を言い添えない短い断り方なので、強く響くこともある。

na éso þérno. éso sóumbo, kuuléimor ó sórel.

読み:ナ エーソ セルノ。エーソ ソーンボ、クーレーモル オー ソーレル。

naés-oþérno.és-osóumbo,kuul-é-imorósórel.
<〜ない>いる-<(重いものが)>毒きのこ<主格>いる-<(重いものが)>食べられるきのこ<主格>煮る-<〜だろう>-<我々が><3人称単数・重性>今日

「毒きのこではない。食べられるきのこだ。今日煮よう。」

採ってきたきのこを確かめたときの答え。þérno「毒きのこ」と対比されると、sóumbo は「食べられるきのこ」を指す。主語は言わず、繋辞 és- の重性の語尾 -o で「それは」を表す。推量法の -él- は1人称の語尾の前で l が落ちる(kuuléimor)。

na ráinim ré éso sóumbo. mé mán ó!

読み:ナ ライニン レー エーソ ソーンボ。メー マーン オー!

naráin-imréés-osóumbo.mémánó!
<〜ない>知る-<私が><〜と(節)>いる-<(重いものが)>食べられるきのこ<主格><禁止・願いの打ち消し>食べる<命令法><あなたが><3人称単数・重性>

「食べられるきのこかどうか、わからない。食べるな!」

年長者が目下の者に注意するときの言い方。ré で「〜と」の節を導く。禁止は「mé+命令法」で言い、mán- の2人称単数命令形はむき出しの語幹 mán。重性の代名詞 ó は主格と対格が同じ形。

na ésa náuvra þérno, na ésa sóumbo.

読み:ナ エーサ ナウヴラ セルノ、ナ エーサ ソーンボ。

naés-anáuvraþérno,naés-asóumbo.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>酔いきのこ<主格>毒きのこ<〜ない>いる-<(軽いものが)>食べられるきのこ

「酔いきのこは毒きのこではないが、食べられるきのこでもない。」

きのこを、食べられるもの・毒・薬・酔うものに分ける考え方を示す説明の文。主語の náuvra が軽性なので、繋辞は軽性の ésa になる。重性の sóumbo・þérno と並べると、性の違いが動詞の形に表れる。

ké ésa orenvandár séndoi? na ésa, válsa.

読み:ケー エーサ オレンヴァンダール センドイ?ナ エーサ、ヴァルサ。

kéés-aorenvandársénd-oi?naés-a,váls-a.
<〜か>いる-<(軽いものが)>縁商人<主格>ここ-<与格><〜ない>いる-<(軽いものが)>行く<〜し終えた>-<(軽いものが)>

「「縁商人はここにいるか?」「いない。もう行ってしまった。」」

gél- を、行き先を言わずに使うと「立ち去る・いなくなる」の意味になる。時制の形がないので、géla だけで「行ってしまった」と訳せる。答えは問いの動詞を繰り返して na ésa とする。

ké brúumes? na brúumim.

読み:ケー ブルーメス?ナ ブルーミン。

kébrúum-es?nabrúum-im.
<〜か>転ぶ-<あなたが><〜ない>転ぶ-<私が>

「「転んだのか?」「いや、転んでない。」」

親しい者どうしのくだけたやりとり。2人称を使っているので、同じ段か下向きの話し方になる。答えは動詞を自分の人称に変えて繰り返し、否定なら na を前に置く。

na fíndan kelárai viráis ólmarar.

読み:ナ フィンダン ケラーライ ヴィライス オルマラル。

nafínd-ankel-ár-aivir-áisólmar-ar.
<〜ない>聞き入れる-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>言葉-<〜たちを>年長者-<〜らの>

「「樵たちは年長者の言うことを聞かない。」」

年長者がこぼすときによく使う言い方。直説法なので、否定は na を動詞の直前に置く。この意味の fínd- は、言葉を耳で聞くことではなく、言われたとおりにすることを表す。

hálim ólmaran, na tóra.

読み:ハーリン オルマラン、ナ トーラ。

hál-imólmar-an,natór-a.
呼ぶ-<私が>年長者-<対格><〜ない>来る-<(軽いものが)>

「年長者を呼んだのに、来ない。」

日常の言い方。時制がないので、hálim は「呼ぶ」とも「呼んだ」とも訳せる。後半では主語を言っていないが、動詞の軽性の語尾から、呼ばれた年長者が主語だとわかる。名前で呼ぶのではなく、ólmar「年長者」のような呼び名を使うのが礼にかなっている。

hálimor aursáran nadúlenan fóndar.

読み:ハーリモル アウルサーラン ナドゥーレナン フォンダル。

hál-imoraursár-anna-dúl-en-anfóndar.
呼ぶ-<我々が>祖先-<対格><〜ない>-下る-<〜した・〜された>-<軽性・対格>源<対格>

「我々は、下りぬ祖先を「源」と呼ぶ。」

二つの対格をとる用法。一つ目の対格が呼ばれるもの、二つ目の対格がその呼び名を表す。fóndar は重性なので、対格も主格と同じ形になる。分詞 nadúlenan は aursáran(軽性・単数・対格)に一致している。家系を川の流れとみる世界観で、始祖のことを説明するときの言い方。

na géla þelíña es hóumos.

読み:ナ ゲーラ セリーニャ エス ホーモス。

nagél-aþelíñaeshóum-os.
<〜ない>行く-<(軽いものが)>幼名<主格>から炉-<属格>

「幼名は炉の外へは出ない(家の外では使わない)。」

礼法を述べる言い方。幼名は家の中だけで使う名なので、家の外の者がそれを口にするのは無作法とされる。炉は家そのものを表す。目上の者が目下の者を幼名で呼ぶと、親しみにも見下しにもなる。

na duráinim, ausenár.

読み:ナ ドゥライニン、アウセナール。

nadu-ráin-im,au-sen-ár.
<〜ない><〜させていただく>-知る-<私が><お〜になる・御〜>-見る-<〜する人>

「存じません、目付殿。」

目上の人に問われて答える謙譲の言い方。du- は子音の前なので du のまま。「いいえ」にあたる語はないので、問いの動詞を自分の人称にして na で否定する。呼びかけは役職名を読点で区切り、文末に添える。

na ráinim éndran té. ké ráines élan?

読み:ナ ライニン エンドラン テー。ケー ライネス エーラン?

naráin-iméndr-anté.kéráin-esél-an?
<〜ない>面識がある-<私が>人-<対格>あの<軽性><〜か>面識がある-<あなたが><3人称単数・軽性>-<対格>

「あの人は知らない。お前は知っているか。」

日常の会話。二度目は代名詞の対格 élan で、前に出た人を受けている。目上の人を指すときは、代名詞を使わず役職名で言う。

glóumim, na ráinim du pó gélim.

読み:グローミン、ナ ライニン ドゥ ポー ゲーリン。

glóum-im,naráin-imdupógél-im.
惑う-<私が><〜ない>知る-<私が>下手何<対格>行く-<私が>

「迷ってしまった、下手のどこへ行けばいいのか分からない。」

道に迷ったときの言い方。「どこへ」は方向を決めて du pó のように言うしかない。

na þílim sáindaran sé.

読み:ナ シーリン サインダラン セー。

naþíl-imsáindar-ansé.
<〜ない>分かる-<私が>証文-<対格>この<軽性>

「この証文が分からない。」

書きものを読むときの言い方。くだけた話し方では、na þílim が縮んだ間投詞 naþíl「わからん」もよく使う。

ké na éso hémbro tásei?

読み:ケー ナ エーソ ヘンブロ ターセイ?

kénaés-ohémbrotás-ei?
<〜か><〜ない>いる-<(重いものが)>恥<主格><あなた>-<与格>

「お前には恥というものがないのか。」

たしなめる下向きの問い。ké は文のいちばん前、na は動詞の直前に置く。所有は「ある+持ち主の与格」で言い、動詞は持たれている物 hémbro(重性)に一致して éso になる。

þóndim aursárail ré na vírim lúdro.

読み:ソンディン アウルサーライル レー ナ ヴィーリン ルードロ。

þónd-imaursár-ailrénavír-imlúdro.
誓う-<私が>祖先-<〜らに><〜と(節)><〜ない>言う-<私が>嘘<対格>

「私は祖先に、嘘は言わないと誓う。」

星の見える晴れた夜に立てる誓いの基本の形。誓う相手は与格で示し(aursárail「祖先たちに」)、誓う中身は ré の節で後ろに置く。ré の節は元の文の法をそのまま保つので、ここでは直説法の否定 na vírim になる。時制はないので、「言わない」は文脈から未来のことと読む。

ké víres lúdro? na vírim lúdro.

読み:ケー ヴィーレス ルードロ?ナ ヴィーリン ルードロ。

kévír-eslúdro?navír-imlúdro.
<〜か>言う-<あなたが>嘘<対格><〜ない>言う-<私が>嘘<対格>

「「嘘をついているのか?」「嘘などついていない。」」

二人の発話。はい・いいえで答える問いは、文頭に ké を置いて作る。高原語には「いいえ」にあたる語がないので、問いの動詞を自分の人称に変えて na をつけ、繰り返して答える。2人称を使っているので、同じ段か下向きの話し方になる。

éso nébro só gráis, na lísimor sáindaran.

読み:エーソ ネーブロ ソー グライス、ナ リーシモル サインダラン。

és-onébrosógráis,nalís-imorsáindar-an.
いる-<(重いものが)>霧<主格>この<重性>不吉な<〜ない>書く-<我々が>証文-<対格>

「この霧は縁起が悪い。我々は証文を書かない。」

霧期には大事な契約を結ばないという習わしを、兆しの言い方で述べている。霧 nébro は重性なので、繋辞は -o をとり、指示詞は só になる。重性・単数・主格の形容詞には語尾がつかない。主節が二つ並ぶので、あいだを読点で区切る。

na ráinimor fóndar éles, ésa él ível.

読み:ナ ライニモル フォンダル エーレス、エーサ エール イーヴェル。

naráin-imorfóndarél-es,és-aélível.
<〜ない>知る-<我々が>源<対格><3人称単数・軽性>-<属格>いる-<(軽いものが)><3人称単数・軽性>成り上がりの

「あの者の源を我々は知らない。あの者は成り上がりだ。」

婚姻の取り決めで、系譜読みが相手の家を値踏みするときの言い方。重性の fóndar は、対格でも形が変わらない。所有者を表す属格 éles は名詞の後ろに置く。後半は「és-–主語–述語」の順。

ké véilses fáron? na véilsim.

読み:ケー ヴェールセス ファーロン?ナ ヴェールシン。

kévéils-esfáron?navéils-im.
<〜か>忘れる<〜し終えた>-<あなたが>荷<対格><〜ない>忘れる<〜し終えた>-<私が>

「「荷を忘れてきたのか?」「忘れてない。」」

二人の発話。語根 véil- は二重母音をもつので、完了相は -s- を足して véils- にする。はい・いいえで答える問いには、問いの動詞を自分の人称に変えて繰り返して答える。2人称を使っているので、くだけた話し方か下向きの話し方。

éira, na ansénim þelán éles.

読み:エーラ、ナ アンセーニン セラーン エーレス。

éira,naansén-imþel-ánél-es.
ええと<〜ない>思い出す-<私が>名前-<対格><3人称単数・軽性>-<属格>

「ええと、あの人の名前が思い出せない。」

日常のくだけた独り言。否定の na は動詞のすぐ前に置く。「誰の名前か」は属格の代名詞 éles で、名詞の後ろに置く。

na néulim viráis trúumais.

読み:ナ ネウリン ヴィライス トルーマイス。

nanéul-imvir-áistrúum-ais.
<〜ない>好む-<私が>言葉-<〜たちを>陳腐な-<軽性・〜ら(古い母音交替)・対格>

「私は陳腐な言葉を好まない。」

詩合わせなどで、使い古された句を批判するときの言い方。言葉が使い古されていることも、物が古びているのと同じ trúum で表す。virá は軽性なので、形容詞も軽性・複数・対格の -ais になる。

lúin ésa sílar dréum, na sénim póin.

読み:ルーイン エーサ シーラル ドレウン、ナ セーニン ポイン。

lúinés-asílardréum,nasén-impóin.
ときいる-<(軽いものが)>月<主格>暗い<〜ない>見る-<私が>何か

「月が暗いときは、何も見えない。」

光がなくて暗いことを言う文。月は軽性なので、繋辞は -a をとり、形容詞は語尾なしで一致する。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。

na fíndan aursárai virán múran.

読み:ナ フィンダン アウルサーライ ヴィラーン ムーラン。

nafínd-anaursár-aivir-ánmúr-an.
<〜ない>聞く-<彼らが>祖先-<〜たちが>言葉-<対格>崩れた-<軽性・対格>

「祖先は崩れた言葉を聞き入れない。」

宮廷や家で、言葉づかいを戒めるときの言い方。virá「言葉」は軽性なので、形容詞は軽性・対格の -an をとって múran となる。崩れた言葉は重く、上へ昇らないという信仰が背景にある。

na pánda pandá rúgal lisáis séurilais.

読み:ナ パンダ パンダー ルーガル リサイス セウリライス。

napánd-apand-árúgallis-áisséuril-ais.
<〜ない>刷る-<(軽いものが)>刷る-<〜するもの(重)・主格>粗い字-<〜たちを>整った-<軽性・〜ら(古い母音交替)・対格>

「粗い版木では、整った字は刷れない。」

彫り師の仲間で言われる言い回しで、作りの雑な版木を戒める。pandá「版木」は版の木で作られ、伐ったあとも軽性なので、動詞は3人称単数・軽性の -a をとる。

ésa ambrél némes krán, na fínda viráis némes.

読み:エーサ アンブレール ネーメス クラーン、ナ フィンダ ヴィライス ネーメス。

és-aambrélném-eskrán,nafínd-avir-áisném-es.
いる-<(軽いものが)>兄姉<主格><私>-<属格>頑固な<〜ない>聞く-<(軽いものが)>言葉-<〜たちを><私>-<属格>

「兄は頑固で、私の言うことを聞かない。」

家族についての愚痴。人について言うときは軽性の一致になり、繋辞は éisa をとる。ambrél は年上のきょうだいを指し、性別は区別しない。属格 némes は名詞の後ろに置く。

ésa séulin némes náum, na grúuna.

読み:エーサ セウリン ネーメス ナウン、ナ グルーナ。

és-aséulinném-esnáum,nagrúun-a.
いる-<(軽いものが)>友<主格><私>-<属格>穏やかな<〜ない>怒る-<(軽いものが)>

「私の友は穏やかな人で、怒ることがない。」

人柄を言う日常の文。後半の主語は言っていないが、動詞の語尾 -a から、前半と同じ友が主語だとわかる。時制がないので、習慣としての「怒らない」の意味になる。

na esíro fáron, na eséla lúsa faronárei.

読み:ナ エシーロ ファーロン、ナ エセーラ ルーサ ファロナーレイ。

naes-ír-ofáron,naes-él-alúsafaronár-ei.
<〜ない>いる-<もし〜なら>-<(重いものが)>荷<主格><〜ない>いる-<〜だろう>-<(軽いものが)>日々の糧<主格>運び人-<与格>

「荷がなければ、運び人に日々の糧はなかろう。」

崖道の暮らしを言う、決まった言い方。条件の部分は、接続詞を使わずに仮定法だけで作る。荷 fáron が重性なので、動詞は -o をとる。帰結の部分は推量法で、lúsa(軽性)に一致して -a になる。lúsa は「食い扶持」の意味。

éso gandér krán an flaindélei, na tílim gandér.

読み:エーソ ガンデール クラーン アン フラインデーレイ、ナ ティーリン ガンデール。

és-ogandérkránanflaindél-ei,natíl-imgandér.
いる-<(重いものが)>硬木<主格>硬い上手版の木-<与格><〜ない>彫る-<私が>硬木<対格>

「硬木は版の木より硬い。硬木は彫らない。」

彫り師の言葉。性質の程度がまさることは「an+与格」(〜の上手に)で言う。主語の gandér は重性なので、繋辞は és-o になり、形容詞 krán も重性・主格の形(語尾なし)になる。後半の gandér は目的語で、重性なので主格と同じ形。硬木を彫らないのは、硬すぎるからでもあり、禁忌だからでもある。

ésa tendá kelárar kéum, na ésa rús.

読み:エーサ テンダー ケラーラル ケウン、ナ エーサ ルース。

és-atend-ákel-ár-arkéum,naés-arús.
いる-<(軽いものが)>織る-<〜するもの(重)>伐る-<〜する人>-<〜らの>生成りの<〜ない>いる-<(軽いものが)>茶色の

「樵たちの布は生成りで、茶色ではない。」

染めていない布や毛の色をいう kéum の用法。八段下りの森の民は染めない布を着る。後半は主語を言わず、動詞の語尾で前半と同じ布が主語だとわかる。na は動詞の直前に置く。

na ésa síndra némei.

読み:ナ エーサ シンドラ ネーメイ。

naés-asíndraném-ei.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>帯<主格><私>-<与格>

「私は帯を持っていない。」

所有は「ある+持ち主の与格」で言う。動詞は持たれている物の síndra(軽性)に一致する。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。

ésa snélo élvares dréum, na sénimor sílaran.

読み:エーサ スネーロ エルヴァレス ドレウン、ナ セーニモル シーララン。

és-asnéloélvar-esdréum,nasén-imorsílar-an.
いる-<(軽いものが)>天の屋根<主格>天-<属格>黒い<〜ない>見る-<我々が>月-<対格>

「天の屋根が黒く、月が見えない。」

snélo élvares「天の屋根」は高い雲を言う詩的な表現。名詞の形は重性の o語幹のままだが、雲は上に属するものなので一致は軽性になり、繋辞は ésa、述語の形容詞 dréum も軽性の形をとる。雨期の夜によく言う言い方。

éso kórvo némei, na éso tambór.

読み:エーソ コルヴォ ネーメイ、ナ エーソ タンボール。

és-okórvoném-ei,naés-otambór
いる-<(重いものが)>倉<主格><私>-<与格><〜ない>いる-<(重いものが)>雑穀<主格>

「倉はあるが、雑穀がない。」

凶作の年の嘆き。高原語には「持つ」という動詞がないので、所有は「és- + 物 + 持ち主の与格」で言う。kórvo は重性o語幹で、主格と対格が同じ形になる。動詞は持たれている物(倉、雑穀)に一致して -o をとる。

na néulan brándalai virán dalorárar.

読み:ナ ネウラン ブランダライ ヴィラーン ダロラーラル。

nanéul-anbrándal-aivir-ándalorár-ar.
<〜ない>好む-<彼らが>諸司-<〜たちが>言葉-<対格>下の国の者-<〜らの>

「宮廷のお役人たちは、下の国の者の言葉を好まない。」

運び人や崖道の商人の、くだけた陰口。au- をつけずに brándalai と言うのは、相手のいない場での遠慮のない言い方。否定の na は動詞の直前に置く。

na véilim grúndo, séulin.

読み:ナ ヴェーリン グルンド、セウリン。

navéil-imgrúndo,séulin.
<〜ない>忘れる-<私が>負い目<対格>友

「その恩義は忘れないよ、友よ。」

同じ段の親しい相手への言い方。呼格は日常では使わないので、呼びかけの名詞を文の終わりに読点で区切って添える。grúndo は金銭の掛けだけでなく、人に負っている恩義も指す。

na ráina faronár lisáis, ráina símbo.

読み:ナ ライナ ファロナール リサイス、ライナ シンボ。

naráin-afaronárlis-áis,ráin-asímbo.
<〜ない>知る-<(軽いものが)>運び人<主格>字-<〜たちを>知る-<(軽いものが)>焼印<対格>

「運び人は字を知らないが、焼印なら知っている。」

後半の文は、主語が前半と同じなので省いている。símbo は重性o語幹なので、対格も主格と同じ形になる。ここでは単数で「焼印というもの」を総称している。同じ形の焼印が何百本もの丸太に押されているので、字の読めない者もまず焼印の形を覚える。

toríro nébro, na eséla meirtaulá gléin.

読み:トリーロ ネーブロ、ナ エセーラ メイルタウラー グレーン。

tor-ír-onébro,naes-él-ameirtaulágléin.
来る-<もし〜なら>-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>いる-<〜だろう>-<(軽いものが)>取引<主格>清い

「霧が来てから結んだ取引は、清いものとはされまい。」

条件の節は接続詞を使わず、仮定法だけで作る。霧 nébro は重性なので -o をとる。帰結の節は推量法で、na で否定する。主語の meirtaulá は軽性なので -a をとる。霧の中で結んだ約束は重んじられないので、精算は霧の前に済ませる。

þundéla senár grúndo, na gruunéimor.

読み:スンデーラ セナール グルンド、ナ グルーネーモル。

þund-él-asen-árgrúndo,nagruun-é-imor.
決着をつける-<〜だろう>-<(軽いものが)>見る-<〜する人・主格>掛け<対格><〜ない>怒る-<〜だろう>-<我々が>

「目付が掛けの決着をつけてくれよう。そうなれば我々も腹を立てずにすむ。」

市で言い争う二人をなだめるときの、並びの話し方。senár は軽性なので、動詞は軽性の -a をとる。後半の推量法は na で否定し、1人称の語尾の前では -él- の l が落ちる。

na ráines tróvalan, endríña.

読み:ナ ライネス トローヴァラン、エンドリーニャ。

naráin-estróval-an,endríña.
<〜ない>知る-<あなたが>作法-<対格>子ども<主格>

「お前は作法を知らないね、坊や。」

年長者が子どもをたしなめる、下向きの話し方。2人称の動詞をそのまま使っている。tróval は軽性の子音語幹で、対格は -an。呼びかけには呼格を使わず、名詞を読点で区切って文末に添える。

lúin éso nébro, na áura þondá, na fíndan aursárai élan.

読み:ルーイン エーソ ネーブロ、ナ アウラ ソンダー、ナ フィンダン アウルサーライ エーラン。

lúinés-onébro,naáur-aþondá,nafínd-anaursár-aiél-an.
ときいる-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>昇る-<(軽いものが)>誓い<主格><〜ない>聞く-<彼らが>祖先-<〜たちが><3人称単数・軽性>-<対格>

「霧が出ているときには、誓いは昇らない。祖先にはそれが聞こえない。」

霧の夜に立てた誓いは無効だという教えを述べる文。霧 nébro は重性なので éso、þondá は軽性なので動詞は -a で一致する。後半では、その誓いを軽性の代名詞の対格 élan で受けている。

lúin éso nébro, na ésa þondá gléin.

読み:ルーイン エーソ ネーブロ、ナ エーサ ソンダー グレーン。

lúinés-onébro,naés-aþondágléin.
ときいる-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>いる-<(軽いものが)>約束<主格>清い

「霧の出ているときの約束は、清い約束ではない(当てにならない)。」

霧期に結んだ約束は重んじられないことを言う、日常の言い方。lúin の節は主節の前に置く。後半は繋辞の文で、na で否定する。þondá は軽性なので、繋辞は -a で一致する。

ké tóra ráuvan? na tóra. séiran kelárai.

読み:ケー トーラ ラウヴァン?ナ トーラ。セーラン ケラーライ。

kétór-aráuvan?natór-a.séir-ankel-ár-ai.
<〜か>来る-<(軽いものが)>森の巫<主格><〜ない>来る-<(軽いものが)>待つ-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>

「「巫は来たか?」「まだ来ていない。樵たちが待っている。」」

伐り出しの前の、森の村での日常のやりとり。二人の発話を一つにまとめている。儀式の詞を唱えずには硬木を伐れないので、樵たちは森の巫の到着を待つ。「はい/いいえ」にあたる語はなく、問いの動詞を繰り返して答える(否定なら na tóra)。時制がないので、tóra は「来た」とも「来ている」とも訳せる。

na vírimor sárvo, lísimor ó.

読み:ナ ヴィーリモル サルヴォ、リーシモル オー。

navír-imorsárvo,lís-imoró.
<〜ない>言う-<我々が>禁じられた名<対格>書く-<我々が><3人称単数・重性>

「禁じられた名は口にしない。書き記すだけだ。」

名前の禁忌について説明する文。名前は息の形そのものとされるので、口にしてはならないが、書くのは息を使わないので禁じられない。sárvo はここで、王の名や喪中の死者の名を遠回しに指している。sárvo が重性なので、受ける代名詞も重性の ó になる。

na ésa ilanrimbá ráinen éndrar, ráinan ilanárai.

読み:ナ エーサ イランリンバー ライネン エンドラル、ライナン イラナーライ。

naés-ailanrimbáráin-enéndr-ar,ráin-anilanár-ai.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>灯の数え<主格>知る-<〜した・〜された>人-<〜らの>知る-<彼らが>星読み-<〜たちが>

「灯の数えは世の人に知られていない。知っているのは星読みたちだ。」

灯の数えが秘儀であることを言う、一般向けの説明の文。分詞の後ろの属格 éndrar は「人々によって」の意味になる。接続詞を使わずに主節を二つ並べるので、あいだに区切りの印(読点)を打つ。ilanrimbá は ilána(灯)と rimbá(数)を合わせた複合語で、軽性である。

na ráina dalorár sárvo némores.

読み:ナ ライナ ダロラール サルヴォ ネーモレス。

naráin-adalorársárvonémor-es.
<〜ない>知る-<(軽いものが)>下の国の者<主格>禁忌<対格><我々>-<属格>

「下の国の者は、我々の禁忌を知らない。」

干潟の人について、高原の人が言う決まり文句。どこか見下す響きがある。sárvo は重性o語幹なので、主格と対格が同じ形になる。ここでは単数で「禁忌というもの」を総称している。「我々の」は代名詞 némor の属格 némores で表し、名詞の後ろに置く。

na ésa aldár áuren anlúinei.

読み:ナ エーサ アルダール アウレン アンルーイネイ。

naés-aaldáráur-enanlúin-ei.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>座<主格>昇る-<〜した・〜された>昔-<与格>

「昔は、高き座はなかった。」

統一より前の時代を語る、書物や語りの文。「昔に」のように時を言うときは与格 anlúinei を使う。否定の na は動詞の直前に置く。aldár áuren は「高き座」で、分詞 áuren は軽性・単数・主格に一致しているので語尾がつかない。

na lísim sáindaran selúin, lísim dulúin.

読み:ナ リーシン サインダラン セルーイン、リーシン ドゥルーイン。

nalís-imsáindar-anselúin,lís-imdulúin.
<〜ない>書く-<私が>証文-<対格>今書く-<私が>のち

「証文は今は書かない、のちに書く。」

市や帳場での、くだけたやりとり。selúin「今」と dulúin「のちに」を対にしている。どちらも格語尾をつけない副詞として、文の後ろに置く。du-「下手」を含む語で、時の流れの下手、つまり後の時を表す。

dúlan téir tráimelai, na tóra séulin némes.

読み:ドゥーラン テール トライメライ、ナ トーラ セウリン ネーメス。

dúl-antéirtráimel-ai,natór-aséulinném-es.
下る-<彼らが>三年齢・年数-<〜たちが><〜ない>来る-<(軽いものが)>友<主格><私>-<属格>

「三年が過ぎたが、私の友は来ない。」

年月が経つことは、川の水が下るのにたとえて dúl-「下る」で言う。時制がないので、「過ぎた」ことは文脈から読みとる。三以上の数詞の後ろでは、名詞は複数になる(tráimelai)。動詞はこの複数の主語に一致して、3人称複数の -an をとる。

na tóro nébro es ánores.

読み:ナ トーロ ネーブロ エス アーノレス。

natór-onébroesánor-es.
<〜ない>来る-<(重いものが)>霧<主格>から上手・北-<属格>

「霧は北から来ることはない。」

ánor は軽性の子音語幹として変化する(属格 ánores)。霧は下の国の息で、崖の下(南)から這い上がってくるものとされるので、北(上手)から来ることはない。主語の nébro は重性なので、動詞は -o をとる。

lúin tóro nébro, na sénimor álmaran un élvarei.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ セーニモル アルマラン ウン エルヴァレイ。

lúintór-onébro,nasén-imorálmar-anunélvar-ei.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>見る-<我々が>白月-<対格>内に天-<与格>

「霧が来ると、天の内に白月が見えなくなる。」

霧期を言う文。un+与格で、天という広がりの内側にあることを表す。霧は下から割りこむ帳なので、天にあるものが見えなくなる。

ésa dalorár sal þrénuls, na ésa du þrénuls.

読み:エーサ ダロラール サル スレーヌルス、ナ エーサ ドゥ スレーヌルス。

és-adalorársalþrén-uls,naés-aduþrén-uls.
いる-<(軽いものが)>下の国の者<主格>〜の枠の外に段-<〜らに><〜ない>いる-<(軽いものが)>下手段-<〜らに>

「下の国の者は段の外にいるのであって、段の下にいるのではない。」

宮廷の礼法家がよく口にする言い方。干潟の人は身分が低いのではなく、「階段に乗っていない」と考えられていることを、sal「〜の外に」と du「〜の下手に」を並べて対比している。þrén「段」は重性なので、複数与格は -uls になる。人を指す dalorár は軽性で受ける。

na sénimor dálor, éso lóuvan.

読み:ナ セーニモル ダーロル、エーソ ローヴァン。

nasén-imordálor,és-olóuvan.
<〜ない>見る-<我々が>下の国<対格>いる-<(重いものが)>遠い

「下の国は我々には見えない。遠いのだ。」

縁の肩で崖下を見下ろしながら言う文。後半は主語を言っていないが、動詞の重性の語尾 -o から、主語は dálor だとわかる。重性の dálor は、主格も対格も同じ形になる。

na tóro nébro, éso nebrálvo lóuvan.

読み:ナ トーロ ネーブロ、エーソ ネブラルヴォ ローヴァン。

natór-onébro,és-onebrálvolóuvan.
<〜ない>来る-<(重いものが)>霧<主格>いる-<(重いものが)>霧期<主格>隔たった

「霧は来ない。霧期はまだ遠い。」

乾風期の縁の肩での会話。lóuvan は時間の隔たりを表す。nébro と nebrálvo は下から湧く霧にかかわる語なので重性で、動詞も重性の -o をとる。

na ésa álva sáindares selúin.

読み:ナ エーサ アルヴァ サインダレス セルーイン。

naés-aálvasáindar-esselúin
<〜ない>いる-<(軽いものが)>時節<主格>証文-<属格>今

「今は証文を交わす時節ではない。」

「〜の時節」は álva の後ろに属格を置いて言う。霧が近づいたころ、取引の約束を断るときに使う。霧の中で結んだ約束は重んじられないからである。存在の文なので és- が先頭に来て、否定の na はその直前に置く。

lúin ésa reinálva, na dúlan faronárai du dálor.

読み:ルーイン エーサ レイナルヴァ、ナ ドゥーラン ファロナーライ ドゥ ダーロル。

lúinés-areinálva,nadúl-anfaron-ár-aidudálor
ときいる-<(軽いものが)>雨期<主格><〜ない>下る-<彼らが>荷-<〜する人>-<〜たちが>下手下の国<対格>

「雨期のあいだは、運び人は下の国へ下りない。」

雨期には崖道が滑りやすく、閉じられることを述べた文。「雨期である間」は lúin+és- で言う。否定の na は動詞の直前に置く。faronár は「荷」に行為者の -ár をつけた語で、軽性なので複数主格は -ai になる。

aurénde, élaur! áura selvá, na dúla.

読み:アウレンデ、エーラウル!アウラ セルヴァー、ナ ドゥーラ。

aurénde,élaur!áur-aselvá,nadúl-a.
さようなら昇りゆく人昇る-<(軽いものが)>息<主格><〜ない>下る-<(軽いものが)>

「さようなら、昇りゆく人よ。息は昇り、下りはしない。」

火葬の場で死者に別れを告げる言い方。死後一年は生前の名前を口にできないので、名前を呼ばずに élaur「昇りゆく人」と呼びかける。後半の二つの動詞は、どちらも軽性の selvá を主語として受ける。aurénde がもとから持つ「息が上へ昇るように」という意味が、ここではそのまま生きている。

grómim! na sénim tásan.

読み:グローミン!ナ セーニン ターサン。

grómim!nasén-imtás-an.
すまない<〜ない>見る-<私が><あなた>-<対格>

「すまない!お前が見えなかった。」

人混みの市で人にぶつかったときの、とっさの謝罪。直説法の文は、動詞の直前に na を置いて否定する。2人称の tás を使っているので、目上の人には使えない。

grómim sórel. na gélim du orén.

読み:グローミン ソーレル。ナ ゲーリン ドゥ オレーン。

grómimsórel.nagél-imduorén.
体が重い今日<〜ない>行く-<私が>下手縁<対格>

「今日は体が重い。縁へは下りないよ。」

疲れやだるさを言う、文字どおりの言い方。時を表す sórel は文の後ろに置く。du+対格で「下手へ」となり、gél-「行く」に方向を決めた前置詞を添えている。

duhémbrim, ausenár. na dulísim fáron.

読み:ドゥヘンブリン、アウセナール。ナ ドゥリーシン ファーロン。

duhémbrim,au-sen-ár.nadu-lís-imfáron.
恥じ入ります<お〜になる・御〜>-見る-<〜する人><〜ない><〜させていただく>-書く-<私が>荷<対格>

「申し訳ございません、目付殿。荷を書き記しておりませんでした。」

市の目付への改まった謝罪。帳簿に荷を書き留めておくのが決まりなのに、それを怠ったことを詫びている。動詞に時制がないので、na dulísim は文脈によって「書いておりません」とも「書いておりませんでした」とも訳せる。直説法の文なので、否定には na を使う。くだけた grómim は目上の人には使わない。

póso? na vóilim lisáis.

読み:ポーソ?ナ ヴォイリン リサイス。

póso?navóil-imlis-áis.
これは何だ<〜ない>読む-<私が>字-<〜たちを>

「これは何だ? 字が読めないんだ。」

字の書かれた荷札や木札を示して尋ねる言い方。下向きかくだけた場で使う問いで、目上の人には使わない。高原語には「〜できる」を表す専用の形がないので、「字を読まない」で「読めない」の意味を表す。

póþul? na fíndim.

読み:ポースル?ナ フィンディン。

póþul?nafínd-im.
なんだって<〜ない>聞く-<私が>

「なんだって? 聞こえなかった。」

相手の言葉が聞き取れなかったときの聞き返し。風の強い縁の肩や、騒がしい市でよく使う。くだけた言い方なので、目上の人には使わない。目上の人に聞き返すときは、推量法を使った遠回しな言い方にする。

nés! na méirim gandér só.

読み:ネース!ナ メーリン ガンデール ソー。

nés!naméir-imgandérsó.
いや・だめだ<〜ない>与える-<私が>硬木<対格>この<重性>

「だめだ!この硬木はやれない。」

値の折り合いがつかないときに、売り手が申し出をはねつける言い方。nés を独立して先に叫び、そのあとに na で否定した文を続けて念を押す。na は動詞の直前に置く。市の外でこの語を使うと、ぶっきらぼうで下品に響く。

vérin na léunim lúdro.

読み:ヴェーリン ナ レウニン ルードロ。

vérinnaléun-imlúdro.
まことに<〜ない>申す-<私が>嘘<対格>

「まことに、嘘は申しません。」

目上の人に向けて、自分の言葉が偽りでないことを強く請け合う言い方。文頭の vérin は続く文全体を請け合う副詞で、否定の小辞 na より前に置く。léun- は「言う」の謙譲の補充形。lúdro は重性o語幹で、主格と対格が同じ形。

hóu! ké éses? na sénim tásan.

読み:ホー!ケー エーセス?ナ セーニン ターサン。

hóu!kéés-es?nasén-imtás-an.
おい<〜か>いる-<あなたが><〜ない>見る-<私が><あなた>-<対格>

「おい!いるのか?お前が見えない。」

霧期に、名前を呼ぶかわりに hóu で相手の注意を引く言い方。霧の中で名前を呼ぶと名前の主が下の国に引かれるとされるので、名前のかわりにこの声を使う。はい・いいえの問いは文のいちばん前の ké で作る。

vóila faronár símbo gandéros, na vóila lisáis.

読み:ヴォイラ ファロナール シンボ ガンデーロス、ナ ヴォイラ リサイス。

vóil-afaron-ársímbogandér-os,navóil-alis-áis.
見分ける-<(軽いものが)>荷-<〜する人>印<対格>硬木-<属格><〜ない>読む-<(軽いものが)>字-<〜たちを>

「運び人は硬木の焼印は見分けるが、字は読めない。」

同じ vóil- が、前半では焼印の形を見分ける意味で、後半では文字を読む意味で使われている。丸太の木口の焼印は何百本にも同じ形で押されているので、文字を知らない者もその形を覚える。

lúin tóro nébro, na trálan lisárai sóndelais.

読み:ルーイン トーロ ネーブロ、ナ トラーラン リサーライ ソンデライス。

lúintór-onébro,natrál-anlis-ár-aisóndel-ais.
とき来る-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>写す-<彼らが>書く-<〜する人>-<〜たちが>書物-<〜たちを>

「霧が来ると、書記たちは書物を写さない。」

霧の中で書いた字は下へ流れるとされるので、霧期には書物の書き写しを避ける(書物を写すのは雨期の仕事)。否定の小辞 na は動詞の直前に置く。sóndel は巻物も綴じ本も含めた書物全般を指す。

na ésa virnourá viréi sé.

読み:ナ エーサ ヴィルノウラー ヴィレー セー。

naés-avirnourávir-éisé
<〜ない>いる-<(軽いものが)>意味<主格>言葉-<与格>この<軽性>

「この言葉には意味がない。」

所有は「持つ」という動詞ではなく、「ある+持ち主の与格」で言う。動詞は持たれている物 virnourá(軽性)に一致する。否定の na は動詞の直前に置く。

na ésa aurlisím sáindarei sé, kloimár.

読み:ナ エーサ アウルリシーン サインダレイ セー、クロイマール。

naés-aaurlisímsáindar-eisé,kloim-ár.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>上げ書き<主格>証文-<与格>この<軽性>学ぶ-<〜する人>

「弟子よ、この証文には上げ書きがないぞ。」

学び舎で師が弟子の書いたものを直すときの言い方。存在文は「いる+主語+場所の与格」の形をとり、動詞は主語の aurlisím(軽性)に一致する。sáindar は軽性の子音語幹なので、与格は -ei になる。呼びかけの kloimár は呼格にしない。文末に読点で区切って添える。

na ésa fírna némei.

読み:ナ エーサ フィルナ ネーメイ。

naés-afírnaném-ei.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>筆<主格><私>-<与格>

「私には筆がない。」

所有の否定。「持つ」という動詞はなく、「ない」は na+存在の動詞+持ち主の与格で言う。動詞は持たれている物 fírna に一致して、軽性の -a をとる。

na ésa fírna dunémes séuril, mé augruunénde aurél.

読み:ナ エーサ フィルナ ドゥネーメス セウリル、メー アウグルーネンデ アウレール。

naés-afírnaduném-esséuril,méau-gruun-énd-eaurél.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>書きぶり<主格>手前-<属格>美しい<禁止・願いの打ち消し><お〜になる・御〜>-怒る-<〜しますように>-<(軽いものが)>あの方

「手前の書きぶりは拙うございますが、どうかお気を悪くなさいませぬよう。」

目上の人へ送る手紙の結びの決まり文句。前半では自分の書きぶりをへりくだる。後半は上向きの話し方なので2人称を使わず、相手を aurél「あの方」と3人称で言い、動詞に尊敬の au- をつける。禁止の mé は願望法と組み、強勢は願望法の -énd- に移る。

lúin éso nébro, na ésa lourlisá trálen.

読み:ルーイン エーソ ネーブロ、ナ エーサ ロウルリサー トラーレン。

lúinés-onébro,naés-alourlisátrál-en.
ときいる-<(重いものが)>霧<主格><〜ない>いる-<(軽いものが)>系譜の巻<主格>写す-<〜した・〜された>

「霧の出ているあいだは、系譜の巻を写さない。」

霧期の書きものの慣わしを言う文。霧の中で書いた字は、墨がにじんで下へ流れるとされる。lúin の節では、動詞が重性の霧 nébro に一致して -o をとる。主節は「éis-+主語+分詞」で結果の状態を言う、受け身にあたる形で、na で否定している。

na éso ó ombríl, ésa virá rúgal.

読み:ナ エーソ オー オンブリール、エーサ ヴィラー ルーガル。

naés-oóombríl,és-avirárúgal.
<〜ない>いる-<(重いものが)>それ<重性>十拍の句<主格>いる-<(軽いものが)>言葉<主格>粗い

「それは十拍の句ではない。粗い言葉だ。」

詩合わせで、拍の数や重さの並びが定型から外れた句を退けるときの言い方。読み上げられた句を重性の代名詞 ó で受け、繋辞も重性の éso にしている。後半の virá は軽性なので、繋辞は ésa になる。主節を二つ並べるので、あいだに区切りを入れる。

na ésa pandá brólen es gandéros.

読み:ナ エーサ パンダー ブローレン エス ガンデーロス。

naés-apandábról-enesgandér-os.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>版木<主格>作る-<〜した・〜された>から硬木-<属格>

「版木は硬木では作られない。」

硬木は「下へ行きたがる木」なので、上へ昇る言葉を刻む版には使わない、という禁忌を述べた文。受け身は「és-+主語+分詞」で言う。es+属格は、材料の出どころを表す。na は動詞の直前に置く。

na ésa rimblisá sáindarei.

読み:ナ エーサ リンブリサー サインダレイ。

naés-arimblisásáindar-ei.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>数字<主格>証文-<与格>

「証文には数字がない。」

存在の否定。言い切りの文なので na で否定する。動詞は存在するもの rimblisá(軽性)に一致する。

ké éso só fírna? na éso. na éso só póin sal árnelei.

読み:ケー エーソ ソー フィルナ?ナ エーソ。ナ エーソ ソー ポイン サル アルネレイ。

kéés-osófírna?naés-o.naés-osópóinsalárnel-ei.
<〜か>いる-<(重いものが)>この<重性>筆<〜ない>いる-<(重いものが)><〜ない>いる-<(重いものが)>この<重性>何か外木-<与格>

「「これはペン(書く道具)ですか?」 「いいえ。これはただの木の棒です」」

直訳は「これは筆か?」「(筆では)ない。これは木の外の何ものでもない」。辞書の語だけで訳せたので、仮置きの語はありません。既存の用例と照らし合わせましたが、食い違いは見つからなかったので、元の訳のまま返します。 1. 「ペン」:辞書の fírna(筆)を使いました。「書く道具」の意味にちょうど合います。 2. 「これ」:指示詞 só を単独で「これ」として使いました(定型句 póso「これは何だ」と同じ使い方)。重性の só にしたのは、指している物が伐った木の切れ端だからです。伐った木は荷札と同じく重性で受けます(既存の sén gandér só と同じ)。繋辞も só に合わせて重性の éso にしました。述語の fírna は軽性の名詞ですが、述語の名詞は自分の性・主格のまま置くので、形は変えていません(既存の na éso nébro fléura と同じ組み立て)。 3. 問いの形:目上かどうか分からない相手へのふつうの問いとして、文頭に ké を置きました(既存の ké éso fóndar só gléin? と同じ形)。目上の人に聞くなら、ké を使わず推量法で尋ねます。 4. 「いいえ」:高原語には「はい」「いいえ」にあたる語がありません。そこで問いの動詞を繰り返して na をつけ、na éso としました。動詞は物に一致しているので、人称は変わりません(既存の「na éso tambór némei」と同じ)。 5. 「ただの木の棒」は言い換えました。「棒」にあたる語はないので、árnel(木・材木)で「木切れ」の意味にしました。「ただの」にあたる語もないので、na … póin sal árnelei「木の外の何ものでもない」と否定で言い換えました。前置詞 sal(〜の外に)がとる格は決まっていません。ほかの前置詞が「その場にあること」を与格で言うのにならって、与格にしました。 6. 性の決め方:árnel は生えている木と同じ軽性の子音語幹とみて、与格を -ei にしました。名詞の形は伐っても軽性のままで、一致だけが重性になります。póin(何か)は疑問詞 pó にならって重性とし、主語 só と同じく、繋辞は重性の éso にしました。

ké néules krévan? na néulim.

読み:ケー ネウレス クレーヴァン?ナ ネウリン。

kénéul-eskréva-n?nanéul-im.
<〜か>好む-<あなたが>練習-<対格><〜ない>好む-<私が>

「「練習は好きか?」「好きじゃない。」」

二人の会話で、家族や仲間どうしのくだけたやりとり。はい・いいえで答える問いなので、文頭に ké を置いている。答えでは、問いの動詞を自分の人称に変えて繰り返す。答えの形なので、問いに出た目的語 krévan は言わなくてよい。kréva は語根に強勢のある軽性a語幹で、対格は語尾 -n をつけて krévan になる。

toríþa ráuvan kelárais un krévan, salóur na kélan kelárai árnelan.

読み:トリーサ ラウヴァン ケラーライス ウン クレーヴァン、サロール ナ ケーラン ケラーライ アルネラン。

tor-íþ-aráuvankel-ár-aisunkréva-n,salóurnakél-ankel-ár-aiárnel-an.
来る-<〜させる>-<(軽いものが)>森の巫<主格>伐る-<〜する人>-<〜たちを>内に練習の場-<対格>しかし<〜ない>伐る-<彼らが>伐る-<〜する人>-<〜たちが>木-<対格>

「森の巫は樵たちを稽古の場へ呼び寄せるが、樵たちは木を伐らない。」

un と対格を組み合わせると「〜の中へ」の意味になり、un krévan は「稽古の場へ」となる。伐り出しの詞を稽古で唱えても本番の儀式にはならず、樵はそこでは斧を入れない。そのことを言った文である。使役の toríþ-「呼び寄せる」は、後ろに強勢のある接辞がないので、-íþ- が強勢をとる。逆接の salóur は二つめの文の頭に置く。立っている木 árnel は軽性なので、対格は -an になる。

drénan kloimárai un krévan, duói léunan mélnan rainiþárei, si na rímba rainiþár virán gráisan.

読み:ドレーナン クロイマーライ ウン クレーヴァン、ドゥオイ レウナン メルナン ライニサーレイ、シ ナ リンバ ライニサール ヴィラーン グライサン。

drén-ankloimár-aiunkréva-n,duóiléun-anméln-anrainiþár-ei,sinarímb-arainiþárvir-ángráis-an.
参る-<彼らが>弟子-<〜たちが>内に練習の場-<対格>それから申す-<彼らが>詩-<対格>師-<与格>と<〜ない>数える-<(軽いものが)>師<主格>言葉-<対格>悪い-<対格>

「弟子たちは稽古の場へ参り、それから師に詩を申し上げる。師は言い誤りを数えない。」

宮廷や学び舎での詩の稽古を言った文。弟子の行いは謙譲の補充形で表し、drén-「参る」と léun-「申す」を使っている。un krévan は「稽古の場へ」で、本番ではない場であることを示す。virán gráisan「悪い言葉」は、ここでは無礼な言葉ではなく、言い損なった語を指す。形容詞 gráis は名詞の後ろに置かれ、軽性・対格の -an で一致している。

na rainiþíre kréva ó, na ráina éndra ó sarénei.

読み:ナ ライニシーレ クレーヴァ オー、ナ ライナ エンドラ オー サレーネイ。

narainiþ-ír-ekrévaó,naráin-aéndraósarén-ei.
<〜ない>教える-<もし〜なら>-<(軽いものが)>練習<主格><3人称単数・重性・対格><〜ない>知る-<(軽いものが)>人<主格><3人称単数・重性・対格>本番-<与格>

「練習でできないことは、本番でもできない。」

【既存の用例との照合】既存の用例と比べて、次の点が一致していることを確かめました。 - kréva「練習」は語根に強勢のあるa語幹です(対格は kréva-n)。ここでは主格のまま主語に使っています。 - 「教える」は使役形 rainíþ- です(rainiþ-énd-e、rain-íþ-a と同じ語)。 - 否定の na は動詞の直前に置きます。 - 仮定法の節は主節の前に置き、接続詞は使いません(toríro nébro…, na senéimor… と同じ型)。 - 目的語の ó は 3SG.HV.ACC とグロスします。 直すべき食い違いはなかったので、訳は変えていません。 【言い換え】辞書には「できる」にあたる語がありません。そこで ráin-「知る・心得ている」で言い換えました。後半は「人は本番でそれを心得ていない」になります。前半は同じ動詞の使役形 rainíþ-「教える(=知らせる)」を使い、「練習が身につけさせないなら」としました。こうすると、「練習で身につかないものは、本番でも身につかない」という元の意味が保てます。 【構文】仮定法の3人称単数・軽性は -íre です。強勢が -ír- に移るので、-íþ- の強勢は消えます(rainiþíre)。 【一致】 - 前半の主語 kréva は軽性a語幹なので、語尾は -e(仮定法・軽性)になります。 - 後半の主語 éndra「人」は、一般の人を指します。前半とは主語が違うので、省かずに言いました。人なので軽性で、語尾は -a です。 【目的語】目的語の枠は空けられません。どちらの節にも、重性の代名詞 ó(対格)「それ(しなければならない事柄)」を置きました。受け手の「人に」は、言わなくても文が成り立つので省いています。 【法】帰結の節は格言で、一般に成り立つことを言っています。そのため推量法ではなく、直説法で言い切りました。 【「でも」】「も」にあたる小辞は辞書にありません。同じ動詞(ráin-/rainíþ-)と同じ代名詞 ó を前後に並べた対句にして、「同じく〜ない」の響きを出しました。

na kréla krélna.

読み:ナ クレーラ クレルナ。

nakrél-akrélna
<〜ない>足りる-<(軽いものが)>松明<主格>

「松明が足りない。」

否定の na は動詞の直前に置く。主語 krélna は軽性なので、動詞 krél- の三人称単数は軽性の -a になる。備えの不足を告げる、書き物や日常的な指示でも使える言い方。

na þréula unlóur sírna

読み:ナ スレウラ ウンロール シルナ

naþréul-aunlóursírna
<〜ない>積もる-<(軽いものが)>まだ霜<主格>

「まだ霜が積もっていない。」

くだけた会話向き。否定 na は動詞の前に置き、「まだ」 unlóur は動詞の直後、主語の前に置く。na+現在の形+unlóur で「まだ〜していない」。

na klonéra unlóur éndra.

読み:ナ クロネーラ ウンロール エンドラ。

naklonér-aunlóuréndra.
<〜ない>膝が抜けてよろける-<(軽いものが)>まだ人<主格>

「その人はまだよろけない。」

日常の否定文。否定の小辞 na は動詞の直前に置き、副詞 unlóur は動詞の直後に置く。未完了の動詞と組んで「まだ〜しない」を表す。

na þríla tíula.

読み:ナ スリーラ ティーウラ。

naþríl-atíula.
<〜ない>震える-<(軽いものが)>声<主格>

「声は震えない。」

声や息を主語に立てる形。声 tíula は軽性なので、動詞は3人称単数・軽性 -a をとる。直説法の否定は na を動詞の直前に置く。慰め・観察で使う。

na veunkrúnim, na éso fáron némei.

読み:ナ ヴェウンクルーニン、ナ エーソ ファーロン ネーメイ。

naveunkrún-im,naés-ofáronném-ei.
<〜ない>負担を負う-<私が><〜ない>いる-<(重いものが)>荷<主格><私>-<与格>

「私は背負わない。私には荷がない。」

改まった場での婉曲な断り。直説法の否定は動詞の直前に na を置く。すくめりの動作を伴い、「私には荷がない=背負うものではない」と距離を置く。

na mombrúumo unlóur brés toráres.

読み:ナ モンブルーモ ウンロール ブレース トラーレス。

namombrúum-ounlóurbréstorár-es.
<〜ない>石落ちる-<(重いものが)>まだ胸<主格>客-<属格>

「客の胸はまだすっとしない(心配が残り、ほっとしていない)。」

長い懸念がまだ解けていないことを言う、くだけた観察・愚痴。否定のnaは動詞の前に置き、unlóur「まだ」は動詞の直後に置く。主語「客の胸」が重性なので動詞は3人称単数・重性の-oで受ける。

na þálo síndo.

読み:ナ サーロ シンド。

naþál-osíndo
<〜ない>止まる-<(重いものが)>涙<主格>

「涙が止まらない。」

感情の高まりを述べる日常の文。þál-「止まる」は自動詞なので、主語síndoに語形を合わせる。síndoは重性主語なので、動詞は3人称単数・重性の-oとなる。事実の否定なので小辞naを使う。

na háulim.

読み:ナ ハウリン。

nahául-im.
<〜ない>笑う-<私が>

「私は笑わなかった。」

直説法の否定。時制語形はないが、前後の文脈から過去の出来事として読むことができる。主語の人称は語尾に現れる。

na vírin virán, senosálimor.

読み:ナ ヴィーリン ヴィラーン、セノサーリモル。

navír-invir-án,senosál-imor.
<〜ない>言う-<〜して・〜く>言葉-<対格>目合わせ-<我々が>

「私たちは、ひとことも言わず、目を合わせる(無言で合意する)。」

意味2。副動詞 -in に na をつけた否定形で「言わずに」と前置し、本句の「目合わせる」が無言の合意を示す。主語は本句の -imor が示す一人称複数。virán は virá「言葉」の単数対格。

na krélo tanó só.

読み:ナ クレーロ タノー ソー。

nakrél-otanósó
<〜ない>足りる-<(重いものが)>弦<主格>この<重性>

「この弦は張りが足りない。」

弓や楽器の点検で、張りが足りないと述べる言い方。主語tanóは重性o語幹なので、krél-「足りる」は3人称単数・重性の-oを用いる。tanóは弦そのものの張力・緊張に焦点を当てる語として使われる。

virsnáles tás si na víres virán

読み:ヴィルスナーレス タース シ ナ ヴィーレス ヴィラーン

virsnál-estássinavír-esvir-án
口をとがらせる-<あなたが><あなた・主格>CONN<〜ない>言う-<あなたが>言葉-<対格>

「あなたは口をとがらせ、ひとことも言わない。」

「言葉を閉じる」意を、物を言わない述語節で明示する文。主語を繰り返さず、同じ聞き手への否定節も人称語尾 -es を保つ。na は文ではなく動詞の直前に来る。

na buléro búl só.

読み:ナ ブレーロ ブール ソー。

nabulér-obúlsó.
<〜ない>絡まる-<(重いものが)>根<主格>この<重性>

「この根は、からみ合わない。」

否定小辞 na は動詞の直前に置く。主語 búl「根」は重性なので、動詞は3人称単数重性 -o を受ける。根・糸がからみ合う原義。

éso fáron só navánden

読み:エーソ ファーロン ソー ナヴァンデン

és-ofáronsóna-vánd-en
いる-<(重いものが)>荷<主格>この<重性><〜ない>-量る-<〜した・〜された>

「この荷は取るに足らぬ。」

縁の市で品物を値踏みする日常の場面。形容詞は主語の重性単数主格と一致し、語尾を添えない。実際の品物に直接向けると切り捨てが強い。

ésa virá némes navánden

読み:エーサ ヴィラー ネーメス ナヴァンデン

és-aviráném-esna-vánd-en
いる-<(軽いものが)>言葉<主格><私>-<属格><〜ない>-量る-<〜した・〜された>

「私の言葉は取るに足らぬ。」

礼の場や会釈の場で、自分の申し述べをへりくだる言い方。virá は軽性a語幹の単数主格。形容詞は主語に一致して無標識。

anórel, na snáulan lénþai.

読み:アノーレル、ナ スナウラン レンサイ。

anórel,nasnául-anlénþ-ai.
昨日<〜ない>生える-<彼らが>若菜-<〜たちが>

「昨日、若菜は伸びなかった。」

書物・記録。場面枠の anórel の後に否定 na を動詞の直前に置く。

na éso vrunó þúumo

読み:ナ エーソ ヴルノー スーモ

naés-ovrunóþúumo
<〜ない>いる-<(重いものが)>巻き胴<主格>車輪<主格>

「巻き胴は車輪ではない。」

作法書や技術書で、巻き胴と車輪の違いを区別する定義文。否定の繋辞文では否定の語 na を文頭に置き、動詞は語根 és と3人称単数重性の語尾 -o に分けて分析する。主語 vrunó と述語名詞 þúumo は主格で置く。

na eelþérim tásan.

読み:ナ エールセーリン ターサン。

naeelþér-imtás-an
<〜ない>からかう-<私が><あなた>-<対格>

「私はあなたをからかっていません。」

くだけた日常会話。否定小辞 na は動詞の直前に置く。二人称代名詞の直接目的語は対格 tásan をとる。

na kóundim unlóur þóuno.

読み:ナ コーンディン ウンロール ソーノ。

nakóund-imunlóurþóuno.
<〜ない>する<〜し終えた>-<私が>まだ夜用の用足し<対格>

「私はまだ夜用の用足しを済ませていない。」

寝床に就く前の常套句。na は直説法を否定する小辞。完了相の語根 kóund- と unlóur「まだ」が組んで、まだ終えていないことを表す。語順は否定小辞+動詞+相の副詞+目的語。

na ésa rundelvirá þailvirá.

読み:ナ エーサ ルンデルヴィラー サイルヴィラー。

naés-arundelviráþailvirá.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>早口<主格>改まり言葉<主格>

「早口は、都の改まった言葉ではない。」

宮廷語では早口は改まりに反するという評価。rundelviráとþailviráはいずれも軽性a語幹。繋辞és-は主語rundelviráに一致して3人称単数軽性のé-になる。名詞述語は主格のまま置く。

na snándim.

読み:ナ スナンディン。

nasnánd-im.
<〜ない>負ける-<私が>

「私は負けない。」

事柄の否定はna。直説法用法で、自分の意地を宣言する日常語。

na éso þrón némei

読み:ナ エーソ スローン ネーメイ

naés-oþrónném-ei
<〜ない>いる-<(重いものが)>矢<主格>私-<与格>

「私には矢がない。」

日常会話。存在・所有は「存在動詞+主語+持ち主の与格」の形で言う。持たれている þrón が重性なので、存在動詞は3人称単数・重性の éso をとる。否定は直説法なので na を使う。

na houmsálo hóum só

読み:ナ ホウンサーロ ホーン ソー

nahoumsál-ohóumsó
<〜ない>炉が鳴る-<(重いものが)>炉<主格>この<重性>

「この炉は鳴らない」

炉そのものが低く鳴るという字義用法。houm「炉」を主語として明示している。指示詞 só は重性名詞 hóum に合わせる。

na selvatáulim viráis, salóur selvatáulim virnourán.

読み:ナ セルヴァタウリン ヴィライス、サロール セルヴァタウリン ヴィルノウラーン。

naselvatául-imvir-áis,salóurselvatául-imvirnour-án
<〜ない>聞き取る-<私が>言葉-<〜たちを>しかし聞き取る-<私が>意味-<対格>

「言葉そのものではなく、意味を聞き取っている。」

意味をくみ取る用法。na は直説法の否定。salóur は逆接の接続小辞で、二つめの文の頭に置かれる。

na sláuro vúumo.

読み:ナ スラウロ ヴーモ。

nasláur-ovúumo
<〜ない>残る-<(重いものが)>味<主格>

「味が残っていない。」

日常会話で、食事や飲み物の後に後味が残っていないことを言う。高原語には時制語形がないため、直説法で現在の事実として述べる。

na víro þurán lúdro

読み:ナ ヴィーロ スラーン ルードロ

navír-oþuránlúdro
<〜ない>言う-<(重いものが)>唇<主格>嘘<対格>

「唇は嘘を言わない。」

法や書物の文章に立てそうな、倫理的な格言。na による直説法の否定。þurán も lúdro も重性で、名詞の単数では主格と対格が同形なため、VSO語順が主語と目的語を分ける。

na ésa hílva glünáur sórel.

読み:ナ エーサ ヒルヴァ グリュナウル ソーレル。

naés-ahílvaglünáursórel.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>雪<主格>眩しい今日

「今日は雪が眩しくない。」

日常会話の否定文。上から来る雪hílvaは軽性なので繋辞は-a。否定naは動詞の前に置き、時間名詞sórelは文末に置く。意味1の否定。

na gélim du gólvo, salóur gélim du drúnor.

読み:ナ ゲーリン ドゥ ゴルヴォ、サロール ゲーリン ドゥ ドルーノル。

nagél-imdugólvosalóurgél-imdudrúnor
<〜ない>行く-<私が>下手旧道<対格>しかし行く-<私が>下手崖道<対格>

「旧道へは行かない、それではなく崖道へ行く。」

場面:道案内・日常会話。salóurは後続の文の頭に立つ逆接。同一主語は動詞の人称語尾が示すので二度目に主語代名詞を添えない。duと組む重性名詞は主格と対格が同形だが、前置詞句として旧道.ACC・崖道.ACCに読む。

na sénim tromándul.

読み:ナ セーニン トロマンドゥル。

nasén-imtrománd-ul.
<〜ない>見る-<私が>踏み場-<〜たちを>

「足元が見えない。」

重性名詞の複数主格・対格は -ul。tromándul は複数の踏み場、とくに足まわりの危険な区域をまとめて指す意味2の用法。霧や暗さで足元が見えない状況。

éso gandér só nalóun.

読み:エーソ ガンデール ソー ナローン。

és-ogandérsóna-lóun.
いる-<(重いものが)>硬木<主格>この<重性><〜ない>-長い

「この硬木は短い。」

木市や検めで、硬木の材木としての実長が長くないことを言う意味1。重性名詞 gandér に合わせ、繋辞 éso、指示詞 só。重性単数主格では形容詞に語尾がつかず nalóun のまま。

ésa virá sé nalóun.

読み:エーサ ヴィラー セー ナローン。

és-aviráséna-lóun.
いる-<(軽いものが)>言葉<主格>この<軽性><〜ない>-長い

「この言葉は短い。」

発話・言葉が長く続かず手短であることを言う意味2。軽性 virá に合わせる。直に「短い」と断定するより角が立たない、礼法的・事務的な響き。

éso lóur só nalóun.

読み:エーソ ロール ソー ナローン。

és-olóursóna-lóun.
いる-<(重いものが)>瀬<主格>この<重性><〜ない>-長い

「この瀬は短い。」

瀬は川が一段落ちてから次の落ちまでのひと続き。距離・行程が長くなく近接している意味3。重性名詞 lóur に合わせ éso・só。重性単数主格では nalóun のまま。

ké éso prúumo an orénoi? na éso.

読み:ケー エーソ プルーモ アン オレーノイ?ナ エーソ。

kéé-soprúumoanorén-oi?naé-so.
<〜か>存在-<(重いものが)>水たまり<主格>上手縁-<与格><〜ない>存在-<(重いものが)>

「「縁の上手に水たまりがあるか。」「ない。」」

日常会話。an と与格 orénoi が場所を示す。prúumo は重性o語幹で、単数主格は辞書形のままとする。存在文への否定応答は éso を繰り返す。

na sénim þoumsnúlvo só.

読み:ナ セーニン ソウンスヌルヴォ ソー。

nasén-imþoumsnúlvosó.
<〜ない>見る-<私が>煙穴<対格>この<重性>

「この煙穴が見えない。」

日常会話向けの文。þoumsnúlvo は重性 o 語幹とみなし、対格は主格と同形。否定小辞 na は動詞の前に置く。動詞 sénim が 1 人称単数を表すため、人称代名詞は置かない。指示詞 só は重性の名詞句に一致する。

na éso ombamór lóun

読み:ナ エーソ オンバモール ローン

naés-oombamórlóun
<〜ない>いる-<(重いものが)>中指<主格>長い

「中指は長くはない。」

na は動詞の直前に置き、重性主語 ombamór に応じて éso を使う。

na pláinim es nébros.

読み:ナ プライニン エス ネーブロス。

napláin-imesnébr-os
<〜ない>気づく-<私が>から霧-<属格>

「私は霧に気づかなかった。」

独立した完了相語尾 -s は立てない。時制を表す語形がないため、未完了の直説法の否定でも文脈によって過去の出来事を表す。pláin は es+属格を伴う。nébro の属格は nébros。

na wéro unlóur ílmo só.

読み:ナ ウェーロ ウンロール イルモ ソー。

nawér-ounlóurílmosó.
<〜ない>滴る-<(重いものが)>まだ水<主格>この<重性>

「この水はまだぽつぽつと落ちていない。」

状態確認での日常的な否定。否定小辞 na は直説法の前に置き、まだを表す unlóur は動詞の直後、主語の前に置く。

na ráinim kléiman sé

読み:ナ ライニン クレーマン セー

naráin-imkléim-ansé
<〜ない>知る-<私が>呼称-<対格>この<軽性>

「この呼称を知らない。」

日常・学び。否定の na は動詞の直前に置く。主語の代名詞は語尾に含まれる。目的語の呼称に軽性対格 -an、指示詞 sé を添える。

na wápim krǘmo, salóur wápim krumsámon.

読み:ナ ワーピン クリューモ、サロール ワーピン クルンサーモン。

nawáp-imkrǘmo,salóurwáp-imkrumsámon.
<〜ない>清める-<私が>歯<対格>しかし清める-<私が>歯の皮<対格>

「「歯をきれいにしているのではなく、歯の皮をきれいにしている。」」

歯そのものを指す krǘmo と、歯を包む柔らかい口内の皮帯を区別して言う字義どおりの言い方を対比する文。salóur が逆接で、動作の対象を対比している。

na éso báwal só sáindar.

読み:ナ エーソ バーワル ソー サインダル。

naés-obáwalsósáindar.
<〜ない>いる-<(重いものが)>身振り<主格>この<重性>証文<主格>

「この身振りは証文ではない。」

商いや契約の場面で、声に出した言葉や書きものではなく、作法語としての身振りに効力がないことを言う表現。主語 báwal が重性なので動詞 éso は重性の -o を受ける。述語名詞 sáindar は自身の性を保ち、主格のまま置く。

na sénim dóulin funelór.

読み:ナ セーニン ドーリン フネロール。

nasén-imdóulinfunelór.
<〜ない>見る-<私が>もうフネロール<対格>

「私はもうフネロールが見えない。」

日常会話。相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置かれる。目的語 funelór は地名として重性子音語幹名詞として扱い、対格は主格と同形。見出しの標準外称 funelór を用いた。

na gélim du fleuróra.

読み:ナ ゲーリン ドゥ フレウローラ。

nagél-imdufleuróra.
<〜ない>行く-<私が>下手フレウローラ<対格>

「私はフレウローラへ下りない。」

崩れた古い岩棚を指して、行き先を断るくだけた日常語。古地名 fleuróra は重性の固有名詞として扱い、du「下手へ」と組む対格は主格と同形。否定の na は直説法の動詞の前に置く。

éso glünóra, salóur na éso fleuróra.

読み:エーソ グリュノーラ、サロール ナ エーソ フレウローラ。

és-oglünóra,salóurnaés-ofleuróra.
いる-<(重いものが)>グリュノーラ<主格>しかし<〜ない>いる-<(重いものが)>フレウローラ<主格>

「グリュノーラはあるが、フレウローラはない。」

旧道の岩棚のうち、上部の glünóra は棚として残る一方、下部の fleuróra は崩落したことを、年代記・昔語りで対比する言い方。存在動詞 és- は主語の古地名に合わせ、重性の 3人称単数 -o をとる。逆接の salóur は「同じ瀬の外へ移る」ニュアンスを持つ。

na éso þíndel sárvo.

読み:ナ エーソ シンデル サルヴォ。

naés-oþíndelsárvo.
<〜ない>いる-<(重いものが)>星盤<主格>禁忌<主格>

「星盤は禁忌ではない。」

作法書や儀礼の説明で用いる名詞述語文。否定の直説法は na を動詞の前に置く。動詞 és- は主語 þíndel の重性単数に合わせて -o を取り、述語名詞 sárvo は主格のまま後に置く。

na þálo alfilrúndo némores.

読み:ナ サーロ アルフィルルンド ネーモレス。

naþál-oalfilrúndonémor-es.
<〜ない>止まる-<(重いものが)>細く絶えぬ流れ<主格><我々>-<属格>

「私たちの細く絶えぬ流れは止まらない。」

詩語としての alfilrúndo。河川名を「細く絶えぬ流れ」として、家系のように細く続くものを詠む用法。némores は1人称複数属格で「私たちの」。直説法否定。

na véilim lundán sé

読み:ナ ヴェーリン ルンダーン セー

navéil-imlundá-nsé
<〜ない>忘れる-<私が>節-<対格>この<軽性>

「私はこの節を忘れない。」

節・旋律という語義で、言葉を替えても歌えるものを指す。見出し語 lundá に単数対格が付いた lundán を使う。否定小辞 na は動詞の直前に置く。

na éso esfóndos vóor un análoroi.

読み:ナ エーソ エスフォンドス ヴォール ウン アナーロロイ。

naés-oesfóndosvóorunanálor-oi.
<〜ない>いる-<(重いものが)>そもそも紫<主格>中に上手の国-<与格>

「上手の国には、そもそも紫がない。」

書物・交易説明向きの存在否定文。vóorは干潟から来た語として重性扱いで、動詞はéso。un análor-oiは「上手の国の中に」。esfóndosは品切れではなく、この国では原理的に生じないという含みを与える。

na tóro unlóur nebroþaló.

読み:ナ トーロ ウンロール ネブロサロー。

natór-ounlóurnebroþaló.
<〜ない>来る-<(重いものが)>まだ霧明け<主格>

「霧明けは、まだ来ていない。」

日常の会話で、霧期を終わらせる区切りがまだ来ていないことを言う文。nebroþalóは重性名詞で、主語になると動詞は3人称単数重性の-oで受ける。unlóurは否定の直説法と組んで「まだ〜していない」を表す。nebroþalóは霧が少し晴れる一時的現象ではなく、霧が下から這い上がらなくなる季節の区切りを指す。

du nebroþaló, na rímba vándar grúndo.

読み:ドゥ ネブロサロー、ナ リンバ ヴァンダル グルンド。

dunebroþaló,narímb-avándargrúndo.
下手霧明け<対格><〜ない>数える-<(軽いものが)>商人<主格>掛け<対格>

「霧明けまでは、商人は掛け勘定を数えない。」

帳簿・市の記述で、霧明けを期限として、それまで掛け勘定を数えないことを言う文。du+対格は時間上の「〜まで」を表す。nebroþalóは重性名詞で、単数主格・対格は同形。主語のvándarは軽性なので動詞は3人称単数軽性の-aをとり、grúndoは重性名詞の単数対格で無標識。

na ésa þelafilá sáindarei.

読み:ナ エーサ セラフィラー サインダレイ。

naés-aþelafilásáindar-ei.
<〜ない>存在-<(軽いものが)>名の下線<主格>証文-<与格>

「証文には、名の下線がない。」

契約書・法文・帳簿で、確認線の有無を記す定型文に近い否定存在文。存在・繋辞 é- は主語 þelafilá が軽性なので ésa で受ける。sáindarei は sáindar-「証文」+与格 -ei で、存在文の場面・対象「証文には」を示す。名の下線がないことは、その記入によって名が確認されていないことを意味する。

salóur, na és-a torár.

読み:サロール、ナ エーサ トラール。

salóur,naés-atorár.
とはいえ<〜ない>いる-<(軽いものが)>客<主格>

「とはいえ、お客様はいません。」

相手の発言を受けて文頭に salóur を置き、留保・反論を切り出す用法。「とはいえ」を表す。torár は人を指す軽性なので存在動詞は és-a。na は直説法・推量法・仮定法を否定する小辞で、動詞の前に立つ。

éso fáron némei, salóur na ésa faronár.

読み:エーソ ファーロン ネーメイ、サロール ナ エーサ ファロナール。

és-ofáronném-ei,salóurnaés-afaron-ár.
いる-<(重いものが)>荷<主格><私>-<与格>ところが<〜ない>いる-<(軽いものが)>荷-<〜する人・主格>

「荷はある。ところが、運び人がいない。」

市でのやりとり。荷があるのに、それを担ぎ上げる運び人がいない、商いとして当然の取り合いが成り立たない展開を示す。「ところが」の用法。fáron は重性なので存在動詞 éso、faronár は人を指す軽性なので存在動詞 és-a。faron-ár は fáron「荷」+-ár「〜する人」。salóur は後文の頭、否定の na より前に置く。

éso sáko némei, salóur na éso vandó.

読み:エーソ サーコ ネーメイ、サロール ナ エーソ ヴァンドー。

és-osákoném-ei,salóurnaés-ovandó.
いる-<(重いものが)>塩<主格><私>-<与格>ところが<〜ない>いる-<(重いものが)>分銅<主格>

「塩はある。ところが、分銅がない。」

市や倉での計測・取引の場面。塩があるのに、重さを確かめる基準としての青銅の分銅がない。sáko, vandó は重性なので存在動詞 éso。salóur は後文の頭、na より前に置く。

na vándim tromsnórul faronárar, salóur vándim fáron.

読み:ナ ヴァンディン トロンスノールル ファロナーラル、サロール ヴァンディン ファーロン。

navánd-imtromsnór-ulfaronár-ar,salóurvánd-imfáron.
<〜ない>量る-<私が>歩幅-<〜たちを>運び人-<〜らの>,しかし量る-<私が>荷<対格>

「運び人たちの歩幅は量らず、荷を量る。」

帳場や書面の作法を示す文。人の歩みを直接量るのではなく、荷の重さを見積もる。salóurは流れを変える逆接。tromsnórulは重性子音語幹の複数対格で主格と同形、faronárarは運び人の複数属格。

lís plíndo, orvél na vandéla senár fáron.

読み:リース プリンド、オルヴェール ナ ヴァンデーラ セナール ファーロン。

lísplíndo,orvélnavand-él-asen-árfáron.
書く<命令法><あなたが>荷札<対格>,OR<〜ない>量る-<〜だろう>-<(軽いものが)>見る-<〜する人・主格>荷<対格>

「荷札を書け、さもなくば目付は荷を量らないだろう。」

市や帳場でのくだけた命令。命令法は語幹のむき出しの形で、語尾標識がないため書く.IMP.2SGのようにドットで法・人称を示す。orvélが後節の頭に立ち、成り行きを推量法で示す。重性o語幹plíndoは主格と対格が同形なので、対格は無標示として.ACCで注記する。

na lúndim dóulin.

読み:ナ ルンディン ドーリン。

nalúnd-imdóulin
<〜ない>口ずさむ-<私が>もう

「もう口ずさんでいない。」

意味3は目的語を伴わない自動詞的にも使える。否定の na は動詞の直前に、相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。

na ésa hueníña loimá

読み:ナ エーサ フエニーニャ ロイマー

naés-ahueníñaloimá
<〜ない>いる-<(軽いものが)>つぶやき<主格>詞<主格>

「つぶやきは詞ではない。」

書物的・儀礼的な定義文。言葉として完全に成形された loimá と、hueníña を区別する。「〜ではない」は na + és- + 主語 + 述語名詞で言う。

éso eelþó só nagléin.

読み:エーソ エールソー ソー ナグレーン。

és-oeelþósóna-gléin.
いる-<(重いものが)>灰汁<単数><主格>この<重性><〜ない>-清い

「この灰汁は濁っている。」

日常会話で、洗い水としての灰汁の状態を述べる文。主語が重性なので、存在・繋辞の動詞は3単重性の-oで受ける。名詞の直後に重性指示詞sóを置く。nagléinはgléin「清い」に否定接頭辞na-を付けた形容詞で、ここでは灰汁が澄んでいないことを「清からぬ」と述べている。

flínim viráis te na lísa éndra.

読み:フリーニン ヴィライス テ ナ リーサ エンドラ。

flín-imvir-áistenalís-aéndra.
受け入れがたいと思う-<私が>言葉-<〜たちを><関係節><〜ない>書く-<(軽いものが)>人<主格>

「人々が書き残さない言葉は、受け入れがたい。」

帳場や書の文脈で、書き残されない言葉を不当・不自然とみなす言い方。主文の目的語は軽性複合語viráの複対形viráis。関係節はteで導かれ、te句では関係の要となる目的語の空白をそのまま空ける。不定の一般的主語としてéndraを主格に置き、関係節内の動詞lís-aはその軽性の主語に一致する。teは無強勢で、指示詞の強勢あるtéと転写上は区別される。

na ésa sóila vrúnen.

読み:ナ エーサ ソイラ ヴルーネン。

naés-asóilavrún-en.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>髪<主格>巻く-<〜した・〜された>

「髪は結い上げられていない。」

書き言葉・儀礼文。na + ésa + 名詞 + 分詞 vrún-en で「〜している状態にない」。髪 sóila は語彙上軽性なので存在動詞は軽性。

na éso dóulin fáron un kórvoi

読み:ナ エーソ ドーリン ファーロン ウン コルヴォイ

naés-odóulinfáronunkórv-oi
<〜ない>いる-<(重いものが)>もはや荷<主格>内に倉-<与格>

「倉の中にはもはや荷がない。」

na と dóulin が組む否定の存在文。na は動詞の前に置かれ、dóulin は「その事柄のところを時の流れが通り過ぎた」という取り返しのかからない含みを添える。un+与格 kórvoi で倉の中の場所を示す。帳場・倉の記録などで用いられる語調。

na éso dóulin múrno un méndalei

読み:ナ エーソ ドーリン ムルノ ウン メンダレイ

naés-odóulinmúrnounméndal-ei
<〜ない>いる-<(重いものが)>もはや腐り氷<主格>内に中-<与格>

「腐り氷はもはやこの世にない。」

場所を特定しない不在文には un méndalei を添える。重性の自然名詞 múrno を主語に取り、na+未完了の存在文+dóulin で「かつてあったが今はもうない」を表す。季節の終わりや消失を告げる、やや書面語的な語調。

na éso prámbo torárei sé.

読み:ナ エーソ プランボ トラーレイ セー。

naés-oprámbotorár-eisé
<〜ない>いる-<(重いものが)>値打ち<主格>客-<与格>この<軽性>

「この客には値打ちがない。」

torár の与格 torárei に指示詞 sé を添える。torár は軽性。人をこの形にすると「この人は値打ちがない」という当てこすりになる。

próum, na tóra orenvandár.

読み:プローン、ナ トーラ オレンヴァンダール。

próum,natór-aorenvandár.
今夜<〜ない>来る-<(軽いものが)>縁商人<主格>

「今夜、縁商人は来ない。」

記録・報告調の文。時名詞 próum を場面の枠として文頭に置き、読点で区切っている。主語 orenvandár は人を指すため軽性で、否定直説法の語尾は軽性の -a。

na ésa faronár sé próun.

読み:ナ エーサ ファロナール セー プローン。

naés-afaron-ársépróun.
<〜ない>いる-<(軽いものが)>荷-<〜する人・主格>この<軽性>正当な所有者<主格>

「この運び人は正当な所有者ではない。」

荷をめぐる日常的な紛争の場面。運び人は荷を担いでいるだけで、法的には正当な所有者ではないことを言い表す。否定は直説法の動詞の前に na を置く。

na véilimor seiraldáran.

読み:ナ ヴェーリモル セイラルダーラン。

navéil-imorseiraldár-an
<〜ない>忘れる-<我々が>待席-<対格>

「我らは、待席の作法を忘れない。」

共同体で作法を守る言い方。na は直説法の否定。動詞語尾 -imor により 1 人称複数主語を明示し、主語代名詞は必要ない。seiraldár は「作法」として抽象用法で、対格 seiraldáran を取る。

na mána unlóur brál tambór

読み:ナ マーナ ウンロール ブラール タンボール

namán-aunlóurbráltambór
<〜ない>食べる-<(軽いものが)>まだ父<主格>雑穀<対格>

「父はまだ雑穀を食べていない。」

日常の食事の場面。直説法の否定で、na は動詞の直前に置く。brál は人を指すので、動詞は軽性 3 単数 -a で受ける。unlóur は動詞の直後、主語の前に置く。tambór は重性の目的語で、主格と対格が同じ形になる。

na þrílo gromó némes.

読み:ナ スリーロ グロモー ネーメス。

naþríl-ogromóném-es.
<〜ない>震える-<(重いものが)>体<主格><私>-<属格>

「私(の体)は震えていない。」

日常の否定応答。主語は体全体を表す重性の gromó で、動詞は3人称単数・重性の -o をとる。身体部位の領有者は名詞の後ろに属格で置き、1人称単数属格は ném-es と分節される。na は否定・推量・仮定法の前。この語は内発的な震えで、外力で揺れる krúel- とは区別される。

wéiro dóulin nórlo éles véun, na hóina

読み:ウェーロ ドーリン ノルロ エーレス ヴェウン、ナ ホイナ

wéir-odóulinnórloél-esvéun,nahóin-a
いる<〜し終えた>-<(重いものが)>もう寝所<主格><3人称単数・軽性>-<属格>空,<〜ない>帰る-<(軽いものが)>

「彼の寝所はもう空だ。彼は帰らない。」

日常の会話で、人の帰る場所・安らぎの場として nórlo を比喩的に用いる。後節の主語は動詞の軽性語尾から推定される。

ké na þála unlóur tíula léumes?

読み:ケー ナ サーラ ウンロール ティーウラ レウメス?

kénaþál-aunlóurtíulaléum-es?
<〜か><〜ない>やむ-<(軽いものが)>まだ音<主格>風-<属格>

「風の音はまだやまないのか?」

否定の na と「まだ」unlóur を添えた疑問文。見出し語 þál- の基本語形 þál-a を使う。主語 tíula は軽性の単数で、動詞は3人称単数軽性の語尾 -a をとる。属格 léumes が名詞句の後ろに続く。

na bréunim grúndul

読み:ナ ブレウニン グルンドゥル

nabréun-imgrúnd-ul
<〜ない>積む-<私が>掛け-<〜たちを>

「私は借りを積まない。」

日常の会話で、自分の債務・負担を増やさない意思を述べる文。掛け(grúndo)の複数対格は grúndul。否定の na は動詞の直前に置く。比喩用法であり、物を物理的に重ねる意味ではない。

na ésa fénla sléimen fálno.

読み:ナ エーサ フェンラ スレーメン ファルノ。

naés-afénlasléim-enfálno
<〜ない>いる-<(軽いものが)>切り枝<主格>切る-<〜した・〜された>薪<主格>

「切り枝は薪ではない。」

教訓的な定義文。na ésa A B で「A は B ではない」。存在・繋辞の動詞は述語名詞 fálno ではなく、主語 fénla(軽性・単数)に一致して 3 人称単数・軽性の -a をとる。名詞 fénla と分詞 sléimen は軽性・単数・主格の形、述語名詞 fálno は重性・単数・主格のまま。

na þúla ólmar, kréula.

読み:ナ スーラ オルマル、クレウラ。

naþúl-aólmar,kréul-a.
<〜ない>従う-<(軽いものが)>年長者<主格>拒む-<(軽いものが)>

「年長者は従わず、首を振って拒んだ。」

比喩的な「拒む」。þúl-「従う」を否定して合意の流れに従わないことを示し、kréul-で拒否を表す。主語は前の節にのみ現れ、後節は動詞の一致だけ。

noumovíran aursárai, na víran aursárai

読み:ノウモヴィーラン アウルサーライ、ナ ヴィーラン アウルサーライ

noumo-vír-anaursár-ai,navír-anaursár-ai
顔-言う-<彼らが>祖先-<〜たちが><〜ない>言う-<彼らが>祖先-<〜たちが>

「祖先たちは顔で通じ合い、口には語らない。」

儀礼・系譜の読み上げなどで祖先どうしの通じを述べる、改まった定型句。主語 aursárai「祖先たち」が複数なので動詞は3複の -an をとる。第二節で vír-「言う」の否定を並べ、無言の合図が発語と同格に扱われることを示す。

na þrakim unlóur sórel.

読み:ナ スラキン ウンロール ソーレル。

naþrak-imunlóursórel.
<〜ない>呆れる-<私が>まだ今日

「私は今日、まだ呆れていない。」

くだけた日常会話での一人称の否定文。否定の na は動詞の直前に置き、相の副詞 unlóur は動詞の直後に置く。主語代名詞は人称語尾 -im で省略できる。呆れる義では、実際には舌打ちを出さないで、表情や態度だけを示すことも多い。

na ésa dralsnéla némes grémo

読み:ナ エーサ ドラルスネーラ ネーメス グレーモ

naés-adralsnélaném-esgrémo
<〜ない>いる-<(軽いものが)>首巻き<主格>私-<属格>帽子<主格>

「私の首巻きは帽子ではない。」

頭を覆う帽子 grémo と区別し、頭巾ではなく首巻きであることを明確にする否定の文。否定のコピュラ文では na を動詞前に置く。述語名詞 grémo は主格のまま置く。

na pléla sélvan þelasnélan sé.

読み:ナ プレーラ セルヴァン セラスネーラン セー。

naplél-asélvanþelasnél-ansé.
<〜ない>着る-<(軽いものが)>セルヴァン<主格>頭巾-<対格>この<軽性>

「セルヴァンはこの頭巾を身につけない。」

記録や叙述のような中立的な文。否定は動詞の直前に na を置く。plél- は自動詞なので、目的語を伴う他動詞用法は使役 -íþ- で作る。改まった婉曲語 þelasnéla は、礼装を記録する文脈でも用いられる。

na éso krén snélo.

読み:ナ エーソ クレーン スネーロ。

naés-okrénsnélo.
<〜ない>いる-<(重いものが)>天井<主格>屋根<主格>

「天井は屋根ではない。」

名詞述語文。述語名詞 snélo は主格のまま。家屋の構造を説明する場面で、外を覆う屋根と室内の天井を区別する言い方。

na éso aurselvándo krúl

読み:ナ エーソ アウルセルヴァンド クルール

naés-oaurselvándokrúl
<〜ない>いる-<(重いものが)>息の通路<主格>壁

「息の通路は壁ではない。」

信仰・詩文の比喩用法。壁 krúl や床 þúlno を「息を止めるもの」とする対比の中で、aurselvándo を「息を通すもの」として述べる。否定 copula は na + és-。主語が重性なので動詞は -o。述語名詞 krúl は名詞としての性を保ち、無標示で置く。

na dulilána lisár símbo sáindares

読み:ナ ドゥリラーナ リサール シンボ サインダレス

nadulilán-alis-ársímbosáindar-es
<〜ない>痕を消す-<(軽いものが)>書く-<〜する人・主格>印<対格>証文-<属格>

「書記は証文の印を消さない」

記録・書物の文。否定の na を動詞の前に置く。主語は書記で、主語が軽性なので動詞は3人称単数軽性の -a で一致する。目的語の印が証文に属することを後置の属格で示す。

na ráinim virán, esós drúnim.

読み:ナ ライニン ヴィラーン、エソース ドルーニン。

naráin-imvir-án,esósdrún-im.
<〜ない>知る-<私が>言葉-<対格>,だから首を傾ける-<私が>

「言葉がわからないので、首を傾ける。」

日常会話での一人称の発話。否定の na は直説法動詞の直前に置き、原因を表す接続 esós は後続節の頭に立つ。主語は動詞の人称接辞 -im から示され、名詞は置かない。drúnim は、一度だけ首を横に傾ける仕草を表す自動詞用法。

lúin na ráinan endríñai amvirán, drúnan.

読み:ルーイン ナ ライナン エンドリーニャイ アンヴィラーン、ドルーナン。

lúinnaráin-anendríñ-aiamvir-án,drún-an.
とき<〜ない>知る-<彼らが>子ども-<〜たちが>高地語-<対格>,首を傾ける-<彼らが>

「子どもたちは高地語がわからないと、首を傾ける。」

書物的な常態表現。lúin が「〜すると」と副節を導く。副節は否定の na、動詞、主語、目的語の順で、主節は人称接辞 -an が副節の主語 endríñai を受けて省略される。drúnan は、聞き手が相手の言葉を整理しようとするときに見られる自動詞用法。

lúin na vírim þelán, núnim

読み:ルーイン ナ ヴィーリン セラーン、ヌーニン

lúinnavír-imþel-án,nún-im
とき<〜ない>言う-<私が>名-<対格>目を閉じる-<私が>

「その名を口にしないとき、私は目を閉じる。」

弔いや深い悲しみの場面。亡き者の名を唱えない禁忌や、悼みの中で言葉を控える動作として núnim が用いられる。lúin は主節に先行する時の節を導く。

bríno térno, duói na snámim.

読み:ブリーノ テルノ、ドゥオイ ナ スナーミン。

brín-otérno,duóinasnám-im
ほつれる-<(重いものが)>弦<主格>それから<〜ない>射る-<私が>

「弦がほつれ、それからは射らない。」

普通文はVSOなので、動詞 brín- に -o がついた bríno を前に出し、主語 térno を後ろに置く。duói は継起の接続小辞で、二文目の頭に来る。na が否定小辞として動詞に前接し、主語の「私」は語尾 -im で示される。

áumel, na þrínim unlóur.

読み:アウメル、ナ スリーニン ウンロール。

áumel,naþrín-imunlóur.
早朝<〜ない>目を覚ます-<私が>まだ

「早朝、私はまだ目を覚まさない。」

作業前の静けさを含む早朝。直説法の否定は na、完了していない状態の「まだ」は unlóur。unlóur は動詞の直後に置く。

文法

否定の小辞(無強勢)。動詞の直前に置く。疑問詞や対比の語句はその前に出る(pó na vándes?)。

語源

分詞の否定の接頭辞 na- と同じ源。

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